入れ替え
維心は、部屋へと入って、炎嘉を振り返った。
「…何か引っかかる。主は何も思わぬか。」
炎嘉は、顔をしかめた。
「何がぞ?本神がやったと言うておるし、その理由も我が秋津に足止めされておったのも、道理が通る。他に何か?」
維心は、ため息をついた。
「分からぬ。だが、何かが引っ掛かるのよ。会議は、休憩を挟んで後一度ずつ。全体の会議が14:30から15:30まで、個別が15:30から16:30まで。」
炎嘉は、頷いた。
「秋津の部屋へ行くのは、15:00から16:00までが茶の時間ゆえ、その間なら行けるのだから当初の予定通り15:30からで良いのではないか?」
維心は、じっと考えていたが、言った。
「…それでは、戻って内容を確認して時が終わる。もし、新たな何かが見つかった時、皆に説明する時間が欲しい。何とか入れ替えはできぬか。個別を先に、全体を後に。そうしたら、ゆっくり確認ができるし、皆と話しができるであろう。」と、維心は宙に言った。「義心、できるか。」
義心の念の声が、答えた。
《入れ替えはできますが、全員の合意が要ります。》
炎嘉は、渋い顔をしたが、言った。
「主がどうしてもと申すのならそれでも良いが…恐らくは、裏付けて行くだけだとは思うがの。後、秋津の本心も分かるやもしれぬ。」
維心は、頷いた
「では、戻ろう。渋るヤツがおったら休憩の間に説得せよ。」
炎嘉は、ブスッとして言った。
「何でも我に丸投げするでないわ。」
維心は、扉へと向かいながら、炎嘉を振り返った。
「そうよ、この事はまだ皆に言うでないぞ。」
炎嘉は、眉を寄せた。
「この事とはどの事ぞ。」
「だから秋津の所へ調べに行くことぞ。」と、扉に手を掛けた。「まだ知られとうないからの。」
炎嘉は、ため息をついて頷いた。
「しようがない。聞いてやるわ。」
そうして、二人は皆が待つホールへと出て行った。
ホールでは、皆が英と穏やかに話していた。
そもそもが、実際に巽という神を殺したわけでもないし、もうゲームが終わったような雰囲気になっている。
炎嘉が、言った。
「…もう、解決したと言うても良いが、実際にはまだ一回、全体会議と個別会議がある。そこで、維心と話し合ったのだがの、残りの一回は先に個別の会議にして、後で皆で話し合って最終的に答えを出そうかと思うておるのだ。確かに、刀を盗んだのは斗起と佐津間、巽を殺したのは真須と解決はしておるが、まだ話したい事がある者も居るだろう。何しろ、全員が犯人捜しの他に、自分が成すべきことを与えられておるのではないか?」
箔炎は、それを聞いて頷いた。
「その通りよ。その事について話しておった。それを成したければ個別にしっかり話して協力してもらわねばならぬよの。皆いろいろあるのであろうが、公に言うのも、であるから。」
志心が、頷いた。
「言うたらそれが己の成すべきことの障りになるヤツも必ず居るだろうから、軋轢が生じようしな。確かに根回しの時が要る。」
炎嘉は、頷いた。
「ゆえ、順を入れ替えたらどうかと思うておるのだ。事件が解決したのなら、そちらが重要になって参る。皆が犯人を突き止めて、全員が横並びであるのなら尚の事、そういったことで点数を稼がねば他より上に行けぬからな。解決に時間を使い過ぎて、そちらに尽力する間もなかったし。ただ、皆の同意が必要という決まりらしい。主らはこの入れ替えについてどう思うか。」
「良いと思う。」漸が言う。「我も、もう一つの成すべきことを、今の今まで失念しておっての。皆がその話をし始めて、まずいなと思うておったのだ。良いのではないか?個別の時間の時は、どこへ調べに参っても良いのだろう?」
義心が、それには答えた。
「はい。皆に声が聴こえぬ距離に行っても大丈夫なのは、個別の会議が許される時間だけでありますので。」
漸は、頷いた。
「ならば我は入れ替えた方が良い。他のもの達もそうではないか?」
皆が、ウンウンと頷く。
義心が、言った。
「では、もう休憩のお時間に入っておりますが、最後の一度は個別の会議を先に。全体の会議を後に致します。それでは、隣りのお部屋を旭様からお借りしており、茶が準備されておりますので、どうぞごゆっくりなさってくださいませ。」
義心が頭を下げる。
維心は、ため息をついて立ち上がった。
「…休みたくない心地であるが、確かに少し、冷静に考えをまとめねばな。参るか。」
皆が、頷いた。
「参ろうぞ。」志心が答える。「ちょっと頭をすっきりさせたいものよ。」
そうして、皆はぞろぞろと隣りの部屋へと歩いて向かったのだった。
茶を飲みながら、翠明がつくづく言った。
「こうなって来ると、普段どれだけ軍神達があちこちして調べて来るのかと思うの。」皆が、翠明を見る。翠明は続けた。「何しろ、全てを居間で待っておるだけで手にできるわけであるから、ここまでウロウロあちこち探したり考えたりせぬで良いではないか。王は楽であるなと思うたわ。」
高彰が、苦笑した。
「我は、犯罪者の心地が分かったものよ。別に我がやったのではないが、どうやったら隠せるかとハラハラしたわ。何しろ、維心はかなり優秀で、何でも見通して来るのを知っておったし疑われたらどう返そうかと悩んだもの。早う真犯人を捜して皆の前に出さねば、我らが冤罪を掛けられると慌てたものよ。」
志心が言った。
「主は同席しておっただけゆえ、逃れられるが、我など窃盗犯ぞ。もう、いつバレるかとハラハラし通しであった。だが、全部言うてしもうたらスッキリしたわ。」
加栄が、言った。
「それにしても英よ、主は初めて参加した正月の遊びで、このような大役を当ててしもうて災難であったな。荷が重かったであろう。」
英は、困ったように笑った。
「しようがないわ。己で巻物を掴んでしもうたのだからの。とはいえ、ここではゲームの事は話してはならぬと義心が言うておらなんだか?」
そうだった、と皆が口をつぐむ。
維心が、言った。
「内容や議論を進めるような事でないなら良いと申しておったわ。我も、軍神など苦労ばかりだなと思うた。情報を集めるばかりで、何を調べて参っても結局王の判断にゆだねるしかないのだからの。余程信頼できる王でなければ、仕える価値もないと思うたことよ。王としてもっと精進せねばの。」
箔炎が言った。
「主はそれ以上頑張れらぬで良い。主があまりに出来るゆえ、我らの敷居が上がるのだ。王座の敷居を上げるでないわ。」
炎嘉が言った。
「こんなのと並べられたら堪らぬわ。我が民は、我にここまで求めてはおらぬから今で良いのよ。こやつは知識が無駄に多い上、天性の勘を持っておるし、何より能力が高い。此度の犯人役には同情するものよ。これを騙して逃げおおせるのは難しい。全く。」
志心が、言った。
「…そういえば、であるが、妃はどこへ行ったのよ。居らぬな。」
旭が、ああ、と茶を置いて言った。
「英の妃が具合を悪うしたゆえ、隣りの寝椅子がある広間に案内させておる。先ほど侍女が報告に参ったが、もう顔色も良いようよ。どうやら、驚いただけのようであるな。」
英が、ため息をついた。
「後で見舞うわ。あれも、これは遊びだというに。我が誠に巽とかいう神を殺したと思うたのかの。宮でも罪人を処刑したりあるのに、あれは奥に居るから知らぬのだの。」
翠明が、頷いた。
「妃とはそういうものよ。維月のように共に戦うような妃なら別であるが、普通は何も知らぬもの。労ってやるが良いわ。」
漸が、首をかしげる。
炎嘉が、漸を小突いた。
「なんぞ。また主の宮の女の軍神のことか。」
漸は、頷く。
「うちは通って来る男が犯罪者であったら腕を切り落として我の所へ持って来るからの。留目を刺して良いかと訊くために。」
女がか。
それはそれで、退くかもしれない。
王達は、神妙な顔で頷くしか出来なかった。
そんなこんなで、休憩の時間はサッサと過ぎて行ったのだった。




