刀を盗ったのは
「…最初から話そう。巻物に書いてあったままを申すと、我は佐津間と友で刀の収集を趣味にしていた。刀への執心はかなりの物で、実は王の宝剣も秘かに狙っている。だが、宮の宝物庫に収められているので見ることもできないのが歯がゆかった。そこへ、その宝物と同じ者がうったという刀を、実月が下賜された。見たくて仕方がないが、実月は刀に興味もないのか屋敷に放置していて使いもしない。見せてくれと頼んでも、王の事を不審に思っているらしい実月は、それすら面倒なようで返事も来なかった。なので、佐津間と話した。あの刀を、盗んで来ても実月は気付かないのではないかと。」
高彰は、頷いた。
「佐津間は、己の物にしなくても見るだけでも見てみたいと、斗起と考えたのだ。実月が非番で見回りに出ていない時、実月が宿舎に籠ることは知っていた。屋敷に訪ねておかしくないのは、友である斗起のみ。なので、昨夜をその日と決めて、斗起は実月の屋敷に向かった。我も共にと誘われたが、我はあいにく任務があった。斗起は気付かれぬ間に戻すというし、どうしても見たくて口頭で連絡したのだ。その日は離宮の当番なので、四番目の休憩終わりに少しだけ離宮に来い、と。」
志心は、頷いた。
「臣下ばかりの屋敷から、気付かれずに刀を奪うのは簡単だった。さっさと帰るふりをして、我は刀を収めてある蔵からあの刀を奪い、そのまま一旦屋敷に戻った。そして、一人で存分に刀を眺めて型を取ったりした後、それを持って離宮へ向かったのだ。」
高彰は、後を続けた。
「我は、休憩終わりに離宮の中へと入った。斗起が居て刀を手にしていたのを見て、さあ愛でようと思うた時、気配を感じた。離宮の中には誰も居ないはず。刀を手にしている現場を見られたのではと急いで気配の主を探したが、相手はこちらに気付いていないようだった。その時、僅かな呻き声がして、ホールへ駆け込むと、巽が息耐えていた。既に誰も居なかった。」
志心は、言った。
「我らはこれでは己らが犯人になると、慌てた。佐津間には、早く任務に戻れと言い、その間数分ぞ。我は、困ってこうなると刀を返しに行くのも難しくなると思い、刀に残る気の残照を消して巽に握らせた。そして、急いで屋敷に戻った。これが我らが見た真実ぞ。」
刀を盗ったのは、斗起。
そして共犯は、知っていて止めなかった佐津間だった。
だが、その刀が犯行道具でないのは、皆が確認したことだった。
つまりは、斗起と佐津間は刀を盗ったが、巽は殺していない。
巽は、刀関連ではなく間違いなく加賀関連で殺されている。
この二人は、そもそも刀以外に興味はないのだ。
維心が、ため息をついた。
「…刀を盗ったのは分かった。だが、肝心の巽殺しぞ。実月は刀を盗られたからと、特に気にはしない。捜しに出たのも、屋敷のもの達が王からの賜り物なのにとうるさいからだ。後先考えず女に手を付け、それを己の欲で無理やり後宮に入れて混乱させた上、皇女がふしだらと見たら臣下に厄介払いに降嫁させようとするような、そんな王からの賜り物が何ぞ。恐らく欲しいと言えば、実月は簡単に手離しただろうぞ。斗起は早まったのだ。」
志心は、頷いた。
「我もそのように。だが、ならば欲しいならやるとでも返信してやれば良かったと思うぞ。ま、今さら仕方のないことであるが。」
炎嘉が言った。
「また振り出しぞ。要は刀の盗難と巽殺しは別物なのだ。こやつらが嘘を吐いているとは思えない。巽はやはり、恨みで殺されたのだろう。加賀の噂が気になるの。誠にあちこちに文を出しておったのか。それは誰ぞ?…やはり秋津が鍵か。」
維心は、頷いた。
「そうなろうの。とはいえ、今一度永久の部屋を見て来て良いか。犯行に使われた刀があそこから出たのだから、そこへ必ず犯人は入ったのだ。何か残っておるやも知れぬ。テーブルや椅子の下などしっかり調べたのか。」
永久は8位なので、そこを調べた箔炎が言った。
「言われてみたら床に這いつくばってまでは探しておらぬな。では参るか?」
義心が割り込んだ。
「今は全体の話し合い中なので、全員でそちらへ移動して頂きますが、よろしいですか?」
炎嘉は、頷いた。
「それで良い。そうか、声が届かぬ所へ行ってはならぬのだの。」
義心は、頷く。
「はい。それは個別の会話を許された時に、防音のお部屋に入る時のみになります。」
時々忘れそうになるが、これは遊びなのだ。
結構頭を使っているので、疲れて来て遊びの認識が薄れてしまう。
隠すことが失くなったのが良かったのか、志心と高彰は幾分明るい顔になっている気がする。
蒼は、この中で一番皆と関わりがなく、あっさりした自分の部屋へと、皆と一緒に向かったのだった。
部屋に着くと、維心は言った。
「この際であるから全部ひっくり返して床を探せ。寝室の厨子も中身を全て放り出すのだ。徹底的にやるぞ。」
皆が頷いて、あちこちに散る。
維心は寝室の方へと向かい、炎嘉と厨子を気で持ち上げて、逆さにして中身を床にぶちまけた。
その物を、皆がとっかえひっかえ着物すら一枚ずつ、何か無いかと探して行く。
すると、床に座り込んで物色していた焔が、ふと言った。
「…あれは?」
皆が、顔を上げる。
焔は、頬が床につくのではないかと言うほど頭を下げて、横向きに寝台の下を見ていた。
「何ぞ。何かあるか?」
焔は、頷いた。
「何か小さな物が落ちておるような。」と、床にうつ伏せになって手を突っ込んだ。「…届かぬのだが…」
維心が、言った。
「どけ。」と、下を覗き込んで、見た。「む。確かに小さな物が。」
維心は、ちょいちょいと指を上向きにこいこいというように動かした。
すると、何かが寝台の下から滑り出て来て、床に転がった。
「!!」
皆が、絶句した。
それは、刀の根付けだった。
「真須!いや、英!」炎嘉が、居間へと飛んで出て来て言った。「ちょっと来い!」
英は、箔炎達と椅子をひっくり返していたが、こちらへ来た。
「何事ぞ?」
炎嘉は、ガシッと英の腰の刀を掴んで、それを引き抜いた。
英は、仰天して思わず後ろへ下がる。
そして、その刀の柄についている根付けと、自分の握り締めている根付けを見比べた。
「…同じ型。」と、英に言った。「永久の寝台の下からこれが出たぞ。何故にここにあるのよ。犯行に使われた刀にも、主の予備の刀にも根付けはなかった。落としたのではないのか。」
英が、絶句する。
蒼は、英だったのか、と思わず庇うように言った。
「あの、でも永久は誰とも深くは接していませんが、誰とも浅く広く仲が良かったので。だからここへ来た時に落としたのかもしれませぬ。」
炎嘉は、蒼を睨んだ。
「…まさか、主が協力者か?最初は知らぬで犯行に使われた刀を持って飛び出して来てしもうたのでは。そも、居間ならそれもあり得るが、寝室へなど、いくら仲が良くとも我でも入らぬ。我が維心の寝室に足を踏み入れたら、その気があるのだと思うたら良いわ。それぐらい、あり得ぬのだぞ。」
蒼は、黙り込んだ。
確かに寝室にあったのなら、そうなるかもしれない。
箔炎が言った。
「おかしいの。寝室に?永久は誠に何も持たない奴だったので、そんなものが落ちておったら気取るはずだがの。」
炎嘉は、首を振った。
「焔が床に座り込んで厨子の中を改めておったゆえ、寝台の下から見つけたのだ。普通では見つからぬ。」
寝台の下。
ならば見ていないかもしれない。
箔炎が黙ると、炎嘉は英を睨んだ。
「主なのか?!奈綱とは友であるし…もしや奈綱は何か知っておって主を庇おうと隠しておるのでは。」
寝室から出て来た、焔がむっつりとこちらを見ている。
だとしたら、焔が焼いたのは真須からの文なのか…?
維心は、眉を寄せてそんな様子を見ながら考えていた。




