怪しいのは
維心の話を聞き終わり、炎嘉が言った。
「…ならば、多知はないな。玄師と同じく婚約者が居て、加賀とは関わりが無さそうぞ。その婚約者から加賀の評判を聞いておるならなおのこと。」
維心は、頷く。
「多知はその女と根付け以外に興味は無さそうだったしの。」
炎嘉は頷いて、漸を見た。
「して。主よ漸。筆頭から4位までで何かあったか。」
漸は、首を振った。
「何も。何も無さすぎて逆に疑わしいわ。実月の部屋のことは先に話したが、主の瀬那にしても、序列にしか興味はないのだな。重臣筆頭の笙や、皇女の侍女達など王に近い位置のもの達とばかり交流しておる。主が言うておった通り、昨夜秋津からの文が来ておったのは分かった。何やら色好い文面であったし、主が騙されるのも分かる。」
炎嘉は、怒ったように言った。
「だからそれは我ではないというに!とはいえ、その通りよ。実月といつも競り合っておって、根回しなどなく実力で筆頭に座っておる実月に競争意識を持っておった。とはいえ、最近では王にも不満があってそれもあまりなくなって来ておったがの。」
漸は、頷く。
「何やら我にもキナ臭い文を送り付けておったものな。我の返信…つまりは古都の返信も、王に対する不満で溢れておったし、確かに面倒な王らしからぬ王なのだとは思う。まあ、王に不満があるのに、我と同じく加賀になど興味はないわな。」
炎嘉は、頷く。
漸は続けた。
「我の部屋には、もちろんのこと王からの文もあった。前に話した加賀を降嫁させるというやつぞ。我は断ったがな。王から、ならば我の弟はどうかと言うてきておる文もあったわ。まあ、断ったのだと思う。」
焔が、そこでやっと口を開いた。
「我も共に確認したので知っておる。古都は間違いなく縁談を断っておる。」
志心が、言った。
「ならば主はどうか?その話は来ておらぬのか。」
焔は、首を振った。
「来ておらぬ。古都の弟はまだ20位らしいのに、我にはまだぞ。とはいえ、そこでこの事件が起こっているのだと我は判断しておる。」
それには、漸は慎重に頷いた。
「確かにその時系列であっておる。なので、もし奈綱が加賀を望んでおるのなら、後数日待てば王から話が降りたはず。巽を殺さずとも、王命で娶ることができたので、奈綱の地位で今、殺すのは間違いで、奈綱には動機がないとも言える。」
炎嘉は、怪訝な顔をした。
「…文箱は?加賀からの文はなかったか。」
漸は、首を振った。
「なかった。そもそも奈綱の文箱には、真須からの文と業務連絡しかなかった。予備の刀も怪しいところはないし、真須の刀のように根付けがないということもなかった。」
維心は、言った。
「そういえば、筆頭、三位と縁談を持って行っておるのに、次席の瀬那には?」
炎嘉は、言った。
「我はこれ見よがしに王が居る時に秋津に言い寄ったりして、牽制しておったからの。加賀の婿になどして、その侍女にまで手を付けたら己の娘を両方共良いようにされると思うたのではないか。話は来なかった。わざとそうしたのだ。」
なるほど、瀬那は策士なのだ。
だが、そうなると誰も怪しくなくなってしまう。
これまで、全ての部屋の報告を聞いて来たが、何もなかった。
そこで、義心が言った。
「個別の話ができるのは、後10分です。その後、また全体の話し合いの時間が参りますが。」
維心が、それを聞いて言った。
「…もう三回目の全体会議ぞ。それが終われば後一回で終い。」と、急いで炎嘉を見た。「炎嘉、話がある。個別の部屋へ参れ。」
炎嘉は、維心が慌て出したので、何やら焦って頷いた。
「え、え、今っ?分かった。」
維心は、戸惑う炎嘉を後ろに歩きながら、漸に言った。
「漸、我らが話しておる間に、その王からもらった刀とやらを調べておいてくれ。主らならば、皆が分からぬ事も分かるだろうて。」
漸は、頷いた。
「任せておくがよい。」
そうして、維心と炎嘉は隣りの部屋へと引っ込んだ。
維心は、部屋へと入ってすぐに言った。
「炎嘉、漸が焔の…奈綱の部屋で焦げ臭い匂いを気取ったのだ。」
炎嘉は、え、と目を丸くした。
「焦げ臭いだと?証拠の文を始末したのではないのか。」
維心は、頷く。
「そうなのだ。他の神は気付いていなかったらしいし、消した後もあったらしいが、漸の鼻は誤魔化せぬ。あれは気取って、その匂いが窓の外へと続いておるのを知った。窓を開いて外も確認したが、四散しておって分からなかったらしい。いくら我でも、撒き散らされた炭を復元することはできぬ。」
炎嘉は、爪を噛んだ。
「歯がゆいの。これが誠のことであったら記憶の玉でも取るところが、それができぬ。こうなったら、秋津の部屋にでも忍び込んであれの文を奪って参るぐらいしかできぬが…。」
維心は、目を細めた。
「…それができぬのだろうかの。」
炎嘉は、面倒そうに維心を見てから、ハッとした顔をした。
「…できるやもしれぬ。」維心が怪訝な顔をすると、炎嘉は続けた。「なぜなら、我は秋津の輪番を知っておる。なぜに女の予定などと、巻物を読んだ時には思うたものだが、恐らくそれを思い付いた時のために書かれてあったものなのだ。そうか、あの巻物に書いてあることには、意味があるのだ。」
維心は、頷いた。
「恐らくそうよ。だが、我らが行こうとしたら、焔が妨害するやもしれぬぞ。」と、その場で、宙に言った。「義心、秋津の部屋へ忍べるか。変な意味ではないぞ。」
義心の念の声が、答えた。
《はい。できます。時は現実の時間と同じように過ぎておると設定されておりますので、秋津が部屋に居らぬ時間になら、密かに入ることは可能です。ちなみにこの後全体会議、個別会議で休憩を一時間。そして、また全体会議、個別会議で投票となります。》
維心は、炎嘉を見た。
「炎嘉、次の個別の会話の時、二人でここへ入ろうぞ。そして裏から抜けて行くのだ。皆は我らがここに居ると思うだろう。今は11:26。11:30から全体の話し合いが始まり、次の個別の会話は12:30からぞ。その後14:30まで休憩、15:30まで全体、そこから16:30まで個別で終いぞ。」
炎嘉は、ぽんと手を叩いた。
「よし!秋津は12:00から13:00まで、加賀の昼の茶の世話に出ておって部屋には戻れぬ。最悪また15:00から16:00まで八の茶の時間であるしな。どちらでも良い、それで行こう!」
《時間が来ました。》義心の念の声が言う。《全員、お部屋を出てホールへと集まってください。》
維心と炎嘉は、頷き合ってホールへと出て来た。
すると、漸を中心に、全員があの、巽が握っていた実月の報酬の刀を調べていた。
「お、維心、炎嘉。」漸が、振り返って言った。「我がこれを見て知った事を言うて良いか。」
維心は、頷く。
「良い。申せ。」
漸は、言った。
「まず、何の気も残ってはいない。僅かに握って死んだ巽の気の気配だけが薄っすらと残っている。刀身には汚れ一つない。血の匂いもない。」と、志心を見た。「斗起の匂いがする。」
志心は、え、と首を振った。
「我は巽を殺してはおらぬぞ。」
漸は、頷いた。
「だろうな。我は、刀から匂いがすると言うておる。これを盗んだのは、主なのではないのか。」
志心は、言葉に詰まった。
匂い…という事は、志心の匂いをきちんとつけてあるということか。
漸は、黙った志心を後目に、高彰を見た。
「ちなみに佐津間の匂いもする。この二人の匂いの他には、巽の匂いしかしない。つまり、この三人がこの刀に直近で触れておるということぞ。主らがこの刀に、話し合いが始まってから触れているところは見ておらぬからの。」
高彰と志心は、顔を見合わせた。
神の考えに、匂いという概念があまりないので、戸惑っているようだった。
炎嘉が、言った。
「…漸の鼻は誤魔化せぬぞ。」と、二人に詰め寄った。「正直に申した方が良い。主らが殺したのではないのなら良いではないか。この遊びでは、巽を殺した犯人を捜しておるのであって、刀を奪った犯人を捜しておるのではないのだ。もし盗って参ったのなら、ここで申しておかねば最終巽殺しの罪を擦り付けられるぞ。」
志心と高彰は視線を合わせて頷いた。
そして、志心が言った。
「…ならば話そうぞ。」
そうして、志心は語り始めた。




