個別の話
ホールへ戻ると、ちょうど漸達筆頭から4位までの調査をしていた組が戻って来た。
維心が声を掛けようとすると、先に漸が言った。
「維心。」と、ズイと寄って来た。「ちょっと部屋へ来い。話がある。」
我の部屋に何かあったか?
維心は思ったが、特に変わったものはなかったはずだ。
何しろ自分は、殺していないはずなのだ。
「…良いだろう。参れ。」
漸と同じ組の、公明、駿、焔がそれを黙って見ていた。
樹伊が、維心の背に言った。
「我らは調べた事をここで話しておって良いか?」
維心は、振り返って答えた。
「良い。話しておけ。」
そうして、維心は漸と共に防音結界の部屋へと入った。
漸が、急いで言った。
「誰も気取れておらんなんだが、奈綱の部屋で焦げた臭いが残っておった。消しておったが我には分かる。あやつは何かを焼いて消しておる。」
維心は、目を丸くした。
「臭い?その灰は。」
漸は、ため息をついた。
「恐らく窓の外。さりげなく窓を開いて見てみたが、跡形もなかった。しかし臭いはそこへ続いておったから、外へ撒いたのだろうの。外へ行けば雪が積もっておるゆえ、少しは欠片でも見つかるやもだが、全ては無理やも。何しろあの高さから撒かれておるから、四方へ散っておるようよ。」
維心は、舌打ちをした。
1ヵ所にまとまっていないと、いくら維心でも復元はできない。
「…あやつは何か知っておるな。おかしいと思うたのだ、あれだけこれを楽しみにしておってうるさい焔が、あれだけ静かなのだからの。それにしても、蒼があれだけ騒いで時が削られたのに…ようそんな時があったの。」
漸は、頷く。
「あやつはあるのを知っておったのだろうの。真っ先に何かの証拠を隠滅して処分したのだろう。能力が高い神を相手にすると、ゆえに面倒だからそこでは何もいわなんだ。どうする?」
維心は、眉を寄せて考えた。
確かに面と向かって問い詰めても、焔なら上手く言い逃れてしまうだろう。
何しろ、漸以外に気取れない臭いが証拠なのだ。
「…仕方がない。しばらく泳がせよう。こちらは、怪しい奴は居らぬ。が、真須が気になる…厨子に収められた予備の刀に、根付けがついておらなんだ。それがなぜかを問うたが、知らぬで通された。誠に知らぬのやも知れぬし、知っておるのに言わぬのやも知れぬ。本来なら記憶の玉でも取るところだが、これは遊びだしの。一介の軍神にできることではないゆえ、できぬわ。」
漸は、頷いた。
「ならば、我もこれは言わずでおく。後は主に任せる。」
維心は、片方の眉を上げた。
「主、我を信じるのか?」
漸は、頷いた。
「主の部屋も調べたが何の細工もしておらなんだ。文は斗起からの刀に関する質問が山ほどあった。どうやら斗起は、刀に興味があるようで、その事ばかりを問い合わせて来ておったな。しかし、昨夜訪ねるとは知らせて来てはおらぬようよ。」
維心は、頷いた。
「刀を集めるのが趣味のようで、他の軍神ともそれで交流があったらしいのは巻物を読んで知っておる。刀を盗んだのは斗起か。」
漸は、ため息をついた。
「分からぬが、状況はそう思わせる方向に流れておるな。だが、斗起には巽を殺す動機があるのか。そも、そこまでして手に入れた刀を、何故に置いて参った。あれで殺したわけでもなかろうに。」
維心は、ため息をついた。
「分からぬ。箔炎が調べておるのではないか?あやつの報告を聞こう。」
維心は、頷いた。
「この際だから、あの王から賜ったとかいう刀も調べておこう。行くぞ。」
そうして二人は、部屋を出てホールへ戻った。
ホールには、もう全員が揃っていた。
維心が漸と共に出て行くと、炎嘉が寄って来て言った。
「今、おかしなところはなかったかと話していたのだ。主らは何を話しておった?情報は皆で共有するべきぞ。」
維心は言った。
「誰が犯人であるか分からぬのに、そう簡単に言うても良い事と、悪い事がある。まあ、主にはまた後で申すわ。ところで、何か怪しい事はあったか。」
炎嘉は、ため息をついて言った。
「我らは、佐津間と、毅沙、澄嘉、摂津の部屋を調べて参った。佐津間は刀を集めるのが趣味なようで、部屋にはたくさんの刀が飾られていたが何の怪しいところもなかった。同じ刀を趣味にしておるもの達からの文は多く、その中には斗起の物もあった。斗起はあの日、実月の屋敷に刀を見せてもらいに行く、と連絡して、佐津間も誘っているが、佐津間は非番ではない故断ったようぞ。斗起からならば一人で行く、という文が来ていた。」
志心は、頷く。
「我も刀を集めておるからな。同じ趣味を持つもの同士、交流があるのよ。」
炎嘉は頷いた。
「次に毅沙の部屋へ参った。毅沙は自他共に認める女好きだが、誰にも通っておらぬで、文ばかりで通わぬので恨みの文が大量にあったが、加賀からの文はなかった。毅沙曰く、そんな感じなので面倒な皇女になど興味はないということらしかった。」
翠明が、言った。
「誠にどうしようもない奴なのよ。責任を持つのが嫌な奴で、なので皇女など関係ない。」
皆が、そんなキャラだったのかとドン引きしていたが、炎嘉は続けた。
「澄嘉は特に何もない。特別に親しい奴もいないし、妙な趣味もない無難な奴だ。摂津は佐津間と友のようだが、刀を集める趣味はないようぞ。事件当日も特にやり取りはなく、共に何かを謀った痕跡はなかった。」
と言っても表面上はないだけで、何かをあの10分で隠していたならこの限りではない。
とはいえ今のところ、おかしな点はなかった。
箔炎が、言った。
「では我ぞ。我は5位からだから、玄師、つまり我、と、斗起、松吏、永久の部屋を見て来た。我の部屋には当然ながら何もない。皆も確認しておるし、女の件も巽の妹の世羅と婚姻が決まっておって世羅からの文しかなかった。つまりは、加賀とは関わりはない。」
それには、同じ組の覚が頷いた。
「その通りよ。玄師はどうも世羅に執心のようで、文が山ほどあった。他の女に現を抜かすことはなかろうな。」
箔炎は、続けた。
「次に斗起の部屋だが、山ほど刀を飾ってあったが怪しい痕跡はなかった。佐津間からその日は夜番があって無理だという文はあった。炎嘉が言うのを聞いて、それは実月の屋敷に誘ったからなのだと繋がった。だが、肝心の実月からの返事がないゆえ、実月には知らせておらぬのだなと思ったがどうよ?」
漸が、答えた。
「我が実月の部屋を調べたが、斗起からの文はなかった。そもそも実月には、業務連絡以外の文がない。斗起から山ほど刀に関する問い合わせが来ておったが、それに対して返事をしておらぬのか、やたらと返事を催促する文があったな。」
維心が、頷いた。
「どうやら実月は、間に合うなら口頭でいいという考えの持ち主らしい。友に文を書くなど滅多にないようよ。なので、斗起がいきなり押し掛けたのも分かる気がする。」
志心は、頷いた。
「実月は友というても非番の日にまで共に行動する仲ではなかったようだ。実月自体がそんな性格ではないのよ。」
箔炎は、続けた。
「次に松吏だが、女からの文はたくさんあった。だが、加賀からはなかった。そもそも松吏は女に興味がないので、もっぱら同じ趣味の軍神、つまりは男からであるな。その文は多かった。どうやらそちらには返事を頻繁にしているようで、なので巽に恨みなど持ちようがないのだと分かった。」
松吏役の、駿がむっつりと言った。
「まあ、我は知っておったがいわなんだ。何しろ我自身はそっちの趣味はないからの。ちなみに来務に、やたらと文を送っておった。」
旭が、頷いた。
「我は別にどっちでもいけるが、主のようにがっつりしたタイプは好みではないのだがの。部屋の文を見て、やたらと文が来ておるなと知ったがそう思った。」
駿は、慌てて言った。
「だから、我はそっちの趣味はないと言うに!」
箔炎が、苦笑して続けた。
「そして永久の部屋だが、誠に何もない。永久は誰にでも愛想の良いタイプなので、さぞや友も多いだろうと思うたのに、全くぞ。文も業務連絡ぐらい、どうやら個人的に付き合うのは避けている奴のようだ。部屋も他の奴らと比べてあっさりしておってすぐに調べ終わった。遺留品などなかったがの。」
つまりは、あの刀を持って入った奴の遺留品ということだ。
維心が、ため息をついて言った。
「…では、我から申そう。結論から言うと、13位から16位までに、目だって気になる奴は居なかった。一人ずつ説明しよう。」
そうして、維心は話し始めた。




