宿舎3
一方、維心は英、加栄、樹伊を連れて13位の来務の部屋へと入って行き、調べて何も無いと出て来て、14位の翠の部屋も、特に目立った収穫もなく廊下へと出て、目に見えてイライラして15位の真須の部屋へと入ったところだった。
真須は英なので、英は緊張気味にしている。
とはいえ、ここまで旭と覚の担当キャラの部屋を見て来たが、衣装用厨子と、文箱ぐらいしか調べる場所はなく、この二人の交友関係が分かったぐらいで、何も分からなかった。
ちなみにこの二人は、皆と満遍なく仲良くしているようで、特に特別に仲が良い神は、居ないようだった。
少し気になったのが、どうやら旭の来務に駿の松吏が恋文のような物を大量に送りつけているぐらいだった。
つまりは、そういう事なのだろうとその事には何も言わなかった。
そんなわけで、また交友関係でも見るかと真須の部屋でも真っ直ぐに奥の寝室へと入って行った。
英は、自分のキャラの部屋だと分かっているのに一番後ろからやって来るだけで、特に何も言わなかった。
そんな英に構わず、維心は慣れたように文箱を探し当てて、それを開いた。
中には、思った通り文があった。
これで、交友関係を調べるのだ。
とはいえ、目の前に本神が居るのだから、聞けば良いことなのだが、聞いて言わない事もあるだろうというのが維心の考えだった。
文箱の中には、同僚からの連絡事項やら、友だと聞いている奈綱からの文やらと入っていた。
だが、こうして見ると、奈綱以外からは全部業務連絡などだ。
つまりは、真須には奈綱以外に親密に友達付き合いしている神が居ないという事なのだろう。
「…そうか、奈綱とだけ友なのだの。」維心は言う。「事件の夜も、奈綱から屋敷で飲もうと言っている。証言通りだ。」
英は、頷いた。
「それ以上の事はありませぬから。こんなに面倒な事になるのなら、いっそ飲みになど行かねば良かったのではないかとこの真須という男にイライラするぐらいで。」
だろうの。
維心は思った。
だが、それを引いてしまったのだから仕方がないではないか。
「我だって、同じ軍神なら筆頭など嫌だったわ。一番面倒な位置であるからの。だが、己で選んだのだから仕方がない。そうやって、皆がそこはかとなく怪しくなるのがこの遊びの仕様らしいからの。」と、ため息をついた。「…とはいえ、変わった事もないな。そちらの厨子はどうか?」
樹伊が、中を開いて見て言った。
「うーん、特に怪しい物はないの。」と、予備の刀を出して、それを引き抜いた。「別に蒼の所にあった物のように、血がこびりついている様子もないし。」
加栄が頷いて、ため息をついた。
「…やはり何もないか。次は我の、多知の部屋だが、本当に何も無かった。特に仲が良さそうな神も居ないし、趣味は刀の根付けをちまちま作ることらしくて、部屋に山ほどあった。何に使うのかと思うわ。」
根付けを作るのが趣味なのか。
維心が、それを聞いて頷いていて、ふと自分の腰に挿している、刀を見た。
当然だが、刀の柄には根付けがぶら下がっている。
これは、自分の刀を見分けるための印のようなもので、一つとして同じ物はない。
それぞれの家に伝わる印のようなものを代々彫り込む軍神家系もあるほど、華美な事をしない軍神にとっては、結構重要なアイテムだった。
樹伊が、予備の刀を鞘に収めて厨子に戻そうとしていると、維心は言った。
「待て。」樹伊が、何事かと振り返ると、維心は言った。「…根付けは?」
樹伊は、え、とそれを見た。
「…言われてみたらないようですな。珍しい、刀を手にした時から己の物だと分かるように、必ず根付けは付けるのだがの。」
維心は、英を見た。
「これはどういうことだ?」
英は、首を振った。
「そんな細かい所まで、我は知らぬ。小道具の準備をしている龍に聞いた方が良いのでは?」
維心は、眉を寄せた。
確かにこれは全て作り物なのだから、根付け一つ付け忘れてもおかしくはない。
蒼が持っていた、刀には根付けはついていなかった。
あれは、誰が所持していたのか分からなくするためだろうと思われた。
皆が似たり寄ったりの刀を腰に挿しているのだから、根付けは名札のようなものなのだ。
「…それは分からぬが、後で義心に聞いてみるとするか。」と、樹伊に合図して、厨子の蓋を閉めさせた。そして、足を外へと向けた。「では、多知の部屋へと参る。」
そして、隣りの部屋へと移動した。
多知の部屋には、言っていた通り居間にも棚がずらりと並び、そこに平たい厨子が所せましと並んでいた。
そして、その厨子には綺麗に並べられた色とりどりの玉がついた、根付けが並んでいた。
「これは凄いの。」樹伊が言った。「実際に加栄が作ったのでも、多知という軍神が作ったのでもないのは分かっておるが、この数は凄い。」
維心は、じっとその根付けを見た。
…維月が作った物も混じっておるな。
恐らくは、細工の龍が作ったものだとあまりにもプロの腕になってしまうので、そうは見えないようにと皆で幾つか持ち回って作ったのだろう。なぜなら、様々な軍神達や臣下達の気が、その根付けからするからだ。
全員で、一生懸命準備をした、と維月は言っていたが、本当にそうだったのだ。
維心は、そんなにも自分達を楽しませるために励んだのだと思うと、精一杯楽しまねばと思った。
「…ここまで準備ができるのに、やはり根付け一つを付け忘れるなど考えられぬわ。」維心は、英を見た。「主はあの刀に根付けを付けておらなんだのだ。それが何故なのか、本当に知らぬのか?」
英は、首を振った。
「知らぬ。知っておったら言うておる。怪しまれるからの。」
どうも、英はいつまでも緊張しているように感じる。
最初に比べたらかなりマシになった方だったが、それでもここまで慣れないのはおかしな話だった。
とはいえ、怪しいと思うとどんどん怪しくなるので、思い込みは厳禁だ。
維心は、言った。
「では、寝室を見て来ようぞ。多知は誰と友なのかの。」
多知役の、加栄は答えた。
「我は玄師と奈綱。玄師は我の趣味を面白がってくれて、あちこちに我の根付けを宣伝してくれての。奈綱は最近になって、我の根付けを見たいと言って、玄師が連れて参って友になったらしい。昨夜の飲み会も、誘ってもろうたが我も玄師も任務だったから断ったようだ。文も残っておった。」
ウンウンと維心は頷いて、寝室へと入って、寝台の上にきっちり置かれてある文箱をひっくり返して中身をぶちまけた。
そして、一枚一枚を見ながら、言った。
「…そうか、主が言うた通りよな。玄師との文が一番多く、新しい文が奈綱からのもの。…お。主、決めた女が居るではないか。」
加栄は、その文を見て苦笑した。
「そのようよ。お互いの親にも話して、もう婚姻の日取りも決まっておるのだ。なので、加賀がどうのと言うておるのを聞いた時、我はないなとホッとした。だが、多知は己の妻になる女が宮の侍女なので、宮の噂は聞いて知っておる。つまりは、加賀の例の男を複数通わせておるというアレぞ。先に公明殿が言うておったし、我は敢えて言わなんだがの。」
樹伊は、目を丸くした。
「何と申した?ならば主、他に何か知らぬか。」
多知は、首を傾げた。
「…そうであるなあ…巻物に書いてあったが、我の女が言うには、加賀はあれであちこちの男に色目を使い、あちこちに文を出しては反応を見て楽しんでおるのだとか。だが、通わせるまでになっておるのかは分からぬそうだ。文は、確かにあちこちでその文遣いの秋津が目撃されておる事から、間違いないという事らしい。とんだふしだらな皇女だと、陰口を叩かれておるそうな。」
秋津があちこちで見かけられているからそんな噂が立ったのか。
だが、それが加賀の文を持って行っていたとは限らないだろう。
秋津自身が、その男に会いに行っていたかもしれないのだ。
何しろ、秋津は美しくて瀬那ですら己のものにしたいと考えていたらしいほどのようだからだ。
「…分からぬな。秋津が目撃されていただけならば、文遣いであったかどうかなど分からぬではないか。」維心は言った。「ま、ここはもう良い。とはいえ、この根付けの数は凄いの。多知は職人にでもなるつもりか。婚姻するのに、これでは屋敷が根付けだらけになるぞ。」
加栄は、肩をすくめた。
「別に我ではないから。だが、多知という男は恐らく、婚姻してもこれをやめるつもりはないと思うぞ。」
これだけ好きならそうだろうな。
皆が思いながら、割り当てられた部屋は調べ終わったので、ホールへと戻ることにした。
他のもの達が、何か重要なものを見つけていたらいいのだが、と維心は思っていた。




