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宿舎

宿舎は、客間の部屋を改造して準備したらしかった。

端から順に筆頭、次席、と並び8位まで、下の階には9位から16位までの部屋が再現されてあるのだという。

義心は、言った。

「では、まず最初に10分間、自分の宿舎の部屋へと入って中を確認することができます。その間に、犯人であってもなくても疑われるような要素が見つかった時には、それを隠すことも可能であるという事です。今通って参りました下の階には、9位から16位までの部屋がございますので、どうぞいらしてくださいませ。お時間になりましたら、我が念でお呼び致しますので、こちらへお戻りを。それでは、どうぞ。」

蒼は、8位の永久なのでギリギリこの階だった。

維心は反対側の端なのであちらへと歩いて行き、蒼は急いで端へと歩いた。

隣りは、7位の松吏なので駿だった。

「何かあったらとハラハラするわ。」

駿はそう言い残して、さっさと部屋へと入って行った。

蒼は、確かに自分の部屋に何かあったら大変だと、急いで中へと入って行った。


そこは、感心するほど軍神の宿舎そっくりに設え直してあった。

一般的な上位の軍神の宿舎に違わず、入ってすぐは居間、寝室が隣りにくっついているタイプだ。

これが筆頭や次席になると、寝室が二つになって、もっと広くなるものだった。

居間をざっと見回したが、がらんとしていて何かあるようには見えない。

テーブルとソファが置いてあって寛げそうだが、装飾品などはない。

そこに、この永久という軍神の、内の空虚さを見るような気がした。

ゆっくり見ている暇はない。

蒼は、寝室の方へも足を向けた。

寝室には大きな衣装用の厨子がドンと置いてあって、それだけだ。

永久の荷物はそこに集約されていそうだった。

厨子を開いて中を見ると、予備の甲冑と着物の数々、そして予備の刀がある。

その刀を引き抜いて見ると、なんとそれは、血にまみれていた。

「げ…!!」

蒼は、赤黒くこびりついた血に、思わず声を上げた。

そして、うっすらと巽の…忠幸の気がする。

…もしや、これは犯行に使われたやつなんじゃ…!!

蒼は、混乱した。

そもそも自分は、犯人ではない。

なのに何でこんなものがここにあるんだろう。

「ど…どうしよう!」蒼は、思わず叫んだ。「こんなの知らないぞ!」

隠し通すべきなのか。

ここまで全く疑われて来なかったが、これで一気に容疑者位置に入るのことになるではないか。

だが、自分は外回りの任務についていたし。

いや、途中で抜けたとか誰かに言われたら…?

蒼は、どうしたら良いのか分からず、思わず刀を抜き身で握りしめたまま、廊下へ飛び出した。

「維心様!」蒼の叫びに、何事かと同じ階の扉が次々に開いて神達が顔を覗かせる。蒼は続けた。「維心様、オレの部屋にこんな刀があります!」

蒼の悲痛な叫びに維心が急いで部屋を出て、蒼の元へと飛んで来た。

「落ち着け、蒼。」と、その手に握られている刀と、鞘を見た。「これは犯行に使われた刀か…?」

忠幸の気がする。

ということは、わざと忠幸が気を放ってつけているということで、これは巽を殺した刀に違いなかった。

「…そういえば、我の刀を鞘に収めたまま握って死んでおったから、あれではないと思うて見ておらなんだの。刀はまだ調べておらぬわ。だからホールに残してあったのか。」維心は、言って蒼の手から刀を受け取った。「これが何に使われたかと言えば、巽の気がするゆえ恐らく巽殺しに使われた。それが蒼の…永久の部屋から出たのか。」

蒼は、何度も頷いた。

「寝室の厨子に入ってました。何も思わずに引き抜いたら…こんな感じで…!」

炎嘉が、後ろから来て言った。

「蒼は容疑者ではないわ。外回りの任務でその時間は皆と共に居たのだろう。何より時があるのに寝室の風呂で洗うこともせずに、それを握って飛び出して来るのだから永久がやったのではない。こやつは昔から何かあったらまず維心、であるから、見つけて驚いて飛んで出て維心を呼んだのだろう。これはやっていない。」

維心は、頷いた。

「であろうな。ということは、これが留守の間に犯行に使った刀をこれの部屋の厨子に放り込んだ奴が居る。この刀は、どこにでもあるようなものだが…?」

義心が、頷いて答えた。

「はい。一般的に軍神に支給されるもので、軍神控えの蔵に同じものがたくさんあります。」

ということは、刀の持ち主の特定は無理。

義心は、言った。

「…お時間です。皆様、お部屋から出てください。ここからは、自由にお調べくださって結構です。」

と言っても、今の騒ぎで犯人がこの中に居たとして、隠蔽工作ができたかどうか分からない。

蒼は、それに気付いてハッとした。

自分は、これを見つけてパニックになって、維心を呼んで廊下へ飛び出して来たが、他は何かを見つけたとして、それを隠そうとしていたところに、蒼が叫び出して外へ出て来たのではないだろうか。

犯人の、妨害になったような気がして、蒼は自分の役目を思い出した。

…犯人が、特定できないようにしなきゃらならなかったのに。

蒼は、後悔した。

そのためには、自分が容疑者位置に入るのもやぶさかではないのに。

何でも維心に言わないとと、思う自分が不甲斐ない。

だが、あの時は本当に、自分が犯人になってしまうと慌てたのだ。

そうそうたるメンバーに囲まれて、皆で責められたら犯人でもないのに犯人だと言ってしまいそうだからだ。

維心は、言った。

「…そうだの、蒼は違うだろう。入ってしばらくして、飛び出して来て隠蔽の暇もなかった。他が隠蔽する暇も与えない行動で、犯人と協力関係でもないだろう。ここは、任務に就いていて犯行予想時刻に誰かと共に居た者達は避け、4番目の休憩で犯行時刻近くに一人になる機会のあった高彰…佐津間と、摂津の二人の部屋と、非番で宿舎に戻っていなかったと主張している者の部屋も見て参ろう。つまりは、炎嘉は良いわ、調べるにしても後。口数が少ない、焔、奈綱の部屋から行こうぞ。」

焔が、維心を睨んだ。

「考えておるからぞ。真剣に犯人を見つけようと思うたら、情報が多く要る。だからこそ、黙って皆に話させておるのだ。」と、蒼を見た。「確かに永久は犯人ではなかろうが、そこへ侵入した賊が何か残しておるのではないのか。蒼は何か見つけなかったのか?」

蒼は、言われてみたらそんな風に思って見ていなかったので、遺留品など確認していない。

「…確かに、真っ直ぐ寝室へ行って、とにかく何もない部屋だから、厨子を開いて中を見ただけだから、遺留品なんか見てないな。」

炎嘉が、言った。

「ならば、先にその刀が見付かった永久の部屋から調べるか。それとも手分けするか、維心?」

維心は、顔をしかめた。

「…普通ならそうしたいところだが、誰が犯人でその協力者なのか分からぬしの。隠蔽されたら厄介ぞ。」

漸が言った。

「ならば、バラバラにしたら良いのよ。」と、皆を見た。「外回りは前列、内回りは後列、離宮はその後ろに休憩に行った順に横並びに並べ。」

軍神が軍神に指示するような光景だ。

皆が、元々が優秀な神達なので、あっさりそれに従って素早く並んだ。

漸は、頷いた。

「よし。その上で休憩の時に会わなんだもの達で分かれてみよ。」

皆が、躊躇っている。

駿が、言った。

「えーっと、ずれたら良いのだ。」と、まるで乳母のように皆の腕を引いていちいち言った。「外回りはそのまま。内回りは一つ横にずれて端の余った奴は前に。離宮は二つずれて余りは前に。そら、これで4組ぞ。」

維心が感心して言った。

「主は軍神もできるの。まるで乳母が子を動かすようよ。」

炎嘉は、頷いた。

「誠にな。」と、4つに分かれた組を見回した。「そこに非番の5人を振り分ける。そうよな、ならば漸…古都、摂津、松吏の組に奈綱。玄師、翠、佐津間の組に斗起。永久、毅沙、来務の組に瀬那。澄嘉、多知の組に我と真須。これで4者4組ぞ。さっさと調べよう。漸、主は筆頭から4位までの部屋、箔炎、主は5位から8位までの部屋、炎嘉、主は9位から12位まで、我らは13位から16位までを見て参る。行け。」

残り時間はどれぐらいだろう。

蒼は、言った。

「義心、残り時間は?」

義心が答えた。

「はい、30分ですが…次の個別の会話の時間も、調査に使って頂いて大丈夫です。が、個別に話にホール横の部屋に戻ることも可能ですので。」

維心は、頷いた。

「時間を無駄にできぬ。行くぞ。」

維心は、さっさと自分の組のもの達を連れて、階下へと向かった。

蒼も、急いで翠明、焔、炎嘉と共にそれを追って階下へ降りて行ったのだった。

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