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維心は、炎嘉に言った。

「…主、やっておらぬのだな?それともやったのか。」

炎嘉は、単刀直入に言う維心に、顔をしかめた。

「だからそれではい、やりましたと言うと思うか。だが、我はやっておらぬ。主こそやっておらぬのだな?」

維心は、首を振った。

「我には動機がない。加賀のことにしても、欲しければ刀ではなく皇女をもらっておったろうし、巽に恨みなどないわ。分からぬのは、巽がどうやら加賀絡みで殺されたのだとして、刀を持っていたのは何故かということぞ。我に罪を擦り付けるにしてはあまりにも浅はか。殺した後に、我がそれを回収するという頭が働かぬと思うか。筆頭軍神なのに?」

確かにそうだ。

ならば誰なのだ。

「…分からぬ。秋津が心に闇を抱えていそうだとは思う。何しろ同じ王の娘でありながら、己は公表もされずに侍女として姉妹に仕えさせられ、文遣いまでやらされていた。王にバレたら罰せられる事ぞ。進んでやっておったとは思えぬ。仕方なくやっておったと考えられる。秋津が巽を殺したとしたら、なので合点は行くが、女にあんな殺し方はできぬ。」

維心は、頷いた。

「考えられるのは、軍神の中に巽に恨みのある奴、恐らくは加賀を望んでおる奴が居て、そやつと秋津が組んでやったということぞ。だが、分からぬ。主は秋津と良い仲になろうとして飲んでおったぐらいだからないだろうとここへ呼んだのだ。もちろん、秋津を使って加賀に近付こうとしておったらこの限りではないがな。」

炎嘉は、手を振った。

「あり得ぬ。というのも、描写があったが秋津はかなり美しい女でな。それこそ、姉妹である加賀より遥かに美しく、それは加賀の乳母譲りであるそうな。母はかなり低い身分の女らしいが、なので秋津の母を見過ごせなかった王が、無理やりに自分の側に置くために、乳母として宮へと入れたと聞いている。加賀の母は、なので面白うないようで、秋津は幼い頃から王妃に辛く当たられる、母を見て育っておるそうな。秋津が王の子であるだろうことは、なので主だけでなく、なんとなく我にも回りにも分かっておったと思われる。」

それは重要な情報だ。

秋津や加賀の関係性が、乳姉妹以外で分かって来るからだ。

「…困ったものだの、ここの王とやらは。後宮の中も把握しておらぬのか。己の情婦を他の妃の乳母にして宮へ入れるなど、妃達の感情を考えたらまずい事になると分かるだろうが。我ならそんな王には仕えぬな。とっとと宮を出て他に仕える王が居ないか探すか、それとも王族を殺して己が王になるわ。後宮も統制できぬ王など、他の能力もたかが知れておる。」

炎嘉は、苦笑した。

「それは我もそう思う。実際に、実月と瀬那は王の事で真剣に話す事があったようだったの。」

維心は、ピクリと眉を上げる。

「…そうか、主の方にも書いてあるわな。その通りよ、我は王に不満を持っておった。主も同じく、もしかしたら秋津のことがあるからやも知れぬが、王のやり方が気に入らぬと言うておった。そんな我が、その皇女である加賀など望む事などあり得ぬのだ。」

炎嘉は、頷く。

「では、主も犯人捜しの他にやることは同じか。」

維心は、フッと不敵に笑った。

「そうか、主もか。ならば同じぞ。」

炎嘉は、ホッとしたように頷いた。

「ならばお互いに、王の体たらくを戻って話そうぞ。この後宮の乱れのこと、話してあれらが我らと同じように王に不満を持つように仕向けるのだ。そして、然る後に王を倒す。まだ皇子が居ない。王は主がなれば良いわ。とにかく、共闘しようぞ。」

維心は、頷いた。

「ならばそのように。最後の投票時に、過半数の口から王への不満を引き出さねばそれが成せぬという決まりぞ。せいぜい、作り話でもしてあれらを誘導してくれ。主ならできようが。」

炎嘉は、にんまりと笑った。

「任せておけ。次の個別の会合の時に、誰か呼び出してこの話をするわ。というて、我らが王を倒そうとして居る事は言わぬ。事実だけを誇大して言う。一人ずつ崩して行こうぞ。」

ふと、維心が頷いてから、言った。

「…そうよ、焔…、」

《お時間です。個別の部屋に入っていらっしゃる方々は、ホールでお出ましください。》

そこで、義心の念の声が割り込む。

維心は、言葉を止めて炎嘉と頷き合って、部屋の扉へと向かった。

筆頭と次席が反乱を企てている宮など、自分の宮なら考えたくもない状況だったが、何やら面白くなって来たのだった。


ホールでは、残った数人が何やら深刻な顔をしていた。

そういえば、残ったもの達も話しているだろうし、何か新たな情報が出たのかもしれない。

他の部屋から志心と高彰、焔と英も出て来て、義心が言った。

「では、ここからまた全員での話し合いになりますが、宿舎を調べに参りますか?」

維心が、言った。

「しばし待て。」と、皆を見回した。「何か新たな情報があれば聞こう。我と炎嘉…瀬那は、お互いにその時は関わる事ができなかったこと、動機がないことを確認して参った。高彰、どうよ?」

高彰は頷いた。

「斗起のその夜の行動について話して参った。実月の屋敷を出てから、どう行動したのか気になるからだ。斗起はその後宿舎へ向かい、部屋に入ったとのこと。その際、誰にも会っていないので、それを証明できる術がない。疑惑は晴れぬままぞ。」

維心は、頷く。

「ならば斗起の宿舎の部屋も調べれば良かろう。それで、焔の奈綱は?英の真須と何を話しておったのよ。主らは確か、共に屋敷で飲んでいたのでお互いの事は分かっておるはずよな。改めて何を話す事があった。」

焔が、答えた。

「我らが夜遅くまで飲んでいたのは確かだが、その後部屋に帰ってからは認識がない。なので、どうしておったのか話していたのだ。真須は、そのまま朝まで寝ていたと申すので、それを信じようと思う。友であるしの。」

炎嘉が、眉を寄せた。

「…つまりは、朝まで主の屋敷の客間で寝ておったかは証明できぬのだの。主自身はどうよ?」

焔は炎嘉を睨んだ。

「我は侍女が外で待機しておったろうし、それらが中に居たと証明してくれよう。主らとは違い、宿舎ではなく屋敷に居たからの。己の侍女が控えておるのだ。」

だが、それらは焔に準じているので、証言は当てにならない。

維心は、蒼達居残り組の方へと目を向けた。

「主らは?残って何を話しておった。」

皆が顔を見合わせる。

誰も言いにくそうにするので、蒼が口を開いた。

「ええっと、漸…じゃなかった古都にも王から加賀の降嫁の話があったのはご存知ですか?」

維心と炎嘉は眉を上げた。

焔も、目を丸くした。

「漸にもそのような?」

蒼は、頷く。

「はい。翠明が友なので知っていてその話を出して、漸がその通りだと認めました。ただ、漸は断ったんだそうです。漸本神が興味もなかったのは当然のことながら、使用人達が嫌がったのもあります。その理由が…ええっと、宮での加賀に対する噂とか聞いたことあります?」

炎嘉は、首を振った。

「どうもそういうことには疎かったようで、噂に関しては何も。」

維心も答えた。

「我も同じ。噂は噂に過ぎぬと思うからの。」

蒼は、頷く。

噂を吹聴するのは品がないと言われる世なので、高位になるほど口にするのも嫌がるし、そんな話は聞かないものなのだ。

蒼は、続けた。

「公明の…摂津の妹が宮仕えの侍女なので、そこからいろいろ聞けて。漸の屋敷のもの達も、そこから聞いていたようです。というのも、加賀はどうやら複数の男を通わせていたという噂がまことしやかに流れていたそうで…実際加賀の侍女から漏れたことらしく、かなり信憑性があると思われていて。王が降嫁を急いてあちこち声を掛けるのも、その噂のせいではないかと。なので、古都は縁談を断ったとのことです。」

そんな噂が。

「…加賀の侍女からなら、かなりの確率でそれは誠であろうな。というか、加賀の侍女…?」と、炎嘉は、維心を見た。「…秋津か…?」

皆が、頷く。

「あり得るの。皇女の評判を落とそうと、噂を流した可能性はある。」

志心が言うと、翠明が言った。

「…だが、そこまで皆が知っておる噂なら、加賀の耳にも入るだろうに。放置しておったということか?…解せぬな。どういうことぞ。そも、乳姉妹なのだろう、秋津と加賀は。しかも母親の違う姉妹ぞ。何故に秋津はそこまで加賀を追い落とす真似を?」

皆が顔を見合わせる。

炎嘉は、言った。

「…王ぞ。」皆が驚いた顔をする。炎嘉は続けた。「我は秋津から事情を聞いておる。王はかなり身分が低いが美しい秋津の母を、何としても宮に入れて側に置きたいばかりに乳母にしたので、もちろんのこと秋津の母にも通っておった。秋津は、そんな母が王妃に虐げられるのを見て育った。そして同じ父を持つのに方や皇女、方や侍女と己も虐げられていた。王は己の欲で後宮を乱れるがままにしたのだ。我は話を聞いて知っておる。なので、もし秋津が加賀を恨むとしたら、王のことも恨んでおるだろうしそれが原因であろうとは思う。だが、その噂が出回っておるのに、なぜに加賀が何の対処も指示しておらぬで流れるがままにしておるのはなぜか分からぬ。それとも、対処をしておったのにそうだったのか?」

維心は、首を傾げた。

「…笙に聞いて来るべきだったか。宿舎を調べに参る前に、笙にその噂について聞きに参るか?」

義心が、え、と慌てて言った。

「笙は只今宮の会合に出ておる時間でありますので、先に宿舎に調査に向かって頂きたいのですが。」

段々にこの遊びに慣れて来た皆は、恐らく段取りが出来ていないのだろうな、とその義心の様子に気取った。

笙役の慎吾が休憩でもしているのかもしれない。

「では仕方がない。先に宿舎へ参るか。」

維心が言うと、皆が頷く。

義心は、ホッとしたように言った。

「では、こちらへ。ご案内致します。」

いったいどれほど調べる場所を準備したのだろう。

皆がそう思いながらも、義心の後について、旭の離宮の中をぞろぞろと歩いて行ったのだった。

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