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文2

「どんな術ぞ。」

志心が言う。

維心は、じっと探りながら言った。

「…これは、時限式のものだ。時が経ったら燃えてなくなるというアレ。証拠を消したい時の常套手段ぞ。」

アレか。

皆が、納得した。

ということは、誰かが巽に文を送って内容を知られたくなかったということだ。

「…復元できるか?」

炎嘉が言った。

皆が、驚いた顔をする。

いくらか形が残っていたらいざ知らず、炭になって完全に燃えたものを、元に戻すのは普通はできないからだ。

だが、維心は頷いた。

「できる。」ええ?!と皆が驚く中、維心はそのまま眉根を寄せた。「術で焼かれたものは術で元に戻せるのよ。ただ、集中する必要があるだけ。」

言ったかと思うと、維心はじっと目を凝らして炭を見て、そうして手から術を放った。

皆が呆然と見守る中、それは1ヵ所に集まり始めて形を成して来た。

「…お見事ですわ。」綾が、呟くように言った。「誠に龍王様とは…能力に果てのないかたであられるのですわ。」

他の妃達も、言葉も出せないでその様子を見つめていた。

維月は、維心がそれを復元できることを知っていた。

それを見つけ出して復元しようと思うかどうかが問題だったが、維心はやはり見つけ出し、術を気取って復元しようとしている。

信じて良かった、と維月は思っていた。

そうして、見る間にそれは一枚の紙となって他の文の上に落ちた。

「…見事ぞ維心。」炎嘉は、言った。「やるとは思うたがあっさりとやりおったの。我にはできぬ。できて紙に戻すだけ。だが、きちんと文字が残っておるわ。」

全員が身を乗り出してその文を見ているので、妃達からは王の背中しか見えない。

椿が、イライラと言った。

「何が書いてありますのかしら。気になりますこと。」

「残っていた墨の後まで復元できるとはの。」志心が、ため息をついた。「何が書いてあるのだ。」

皆の予想を覆し、それは女の文字だった。

そこに、「取り急ぎお話ししたい事がございます。密かに離宮へいらしてくださいませ」とだけ書いてあり、名は記されていなかった。

「…加賀の文字ではない。」炎嘉が言った。「他にも女が?」

駿が言った。

「放蕩息子だったと言うし、昔の女か何かなのかもしれぬ。もしかしたら愛憎の絡みでその女に殺されたのではないのか。」

翠明が顔をしかめた。

「いくら文官でも女にか?だとしても、刀を持っていた説明にはならぬぞ。」

維心は、義心を振り返った。

「この宮には女の軍神が居るか?」

義心は、首を振った。

「一般的な宮で女の軍神は居りませぬ。」

漸が、ため息をついた。

「うちは居るし、しょっちゅうこんなことがあるからいまいち分からぬが、つまりはその女は実行犯ではないということか?」

維心は、頷く。

「いくら文官でも、翠明が言うように女に胸を一突きにして殺されるなど考えられぬ。手に防いだ時の傷もなく、あっさりと一突きの傷だけだった。あんなことができるのは、軍神しか居らぬ。気の残照がないということは、気を放ってもおらぬのだぞ。」

言われてみたらそうだ。

皆が黙り込む中、高彰が言った。

「この女が巽を離宮へ誘きだしたのは間違いない。しかも巽は、名がなくとも誰だが分かったほどこの女と親交があった。」と、他の文を見た。「他にあるのではないのか。どこかに同じ文字の文が。」

全員で、おびただしい数の文を手分けして見た。

加賀の文、友からの文、父親からの指示の文など、振り分けて行くといろいろ分かる事があった。

巽は、案外に友が多い。

しかも、かなり世話好きなのか、皆を補佐してやっているようだった。

そしてその中に、同じ女からの文があったが、それはいつも名が記しておらず、そして誰かの遣いのような形で代筆で書いているような感じだった。

「…加賀の侍女ぞ。」維心が、言った。「間違いない。これが文遣いをしておるようぞ。加賀の乳姉妹で、名は秋津(あきつ)。加賀がまた秋津よりご連絡を差し上げます、と書いている。加賀の文を総合して考えると、これが文遣いや密かに会う段取りを付けておったようだ。ゆえに巽は、何の疑いもなく離宮へ向かった。秋津が誰かと組んで巽を誘きだしたと考えるのが妥当ぞ。なぜなら最後の文に、証拠隠滅のための術を掛けておったからだ。殺されると知っていて、秋津は巽を呼び出したのだ。」

漸が、眉を寄せた。

「それはなぜに?秋津が殺したのではないのは理解したが、文遣いをしておったということは加賀に信頼されておったのだろうが。」

維心は、首を振った。

「それは知らぬ。これからぞ。」

炎嘉が、言いたく無さげに言った。

「…秋津はな、昨夜我と会っておった。」え、と皆が驚いた顔をする。炎嘉は続けた。「その、美しいと思っていたという女。それが秋津ぞ。ゆえ、あれは殺せぬだろう。文を出しただろう時間も共に居たはずだが。何しろ夕刻から藤棚で共に居たからの。」

駿が、言った。

「…それは、主、うまいこと使われたのではないのか。本来この文は復元できておらなんだ。秋津にはそれでアリバイができる。文など誰かに託しておけば、その時刻に送ることも可能だし秋津が関わっておらぬという証拠にはならぬ。巽が見つかったら、主が捜査に加わるのが分かっておるから主を呼び出してわざわざ深夜まで飲ませて共に居ったのでは。…主が共犯者でなければだがの。」

炎嘉は、頷いた。

「…だろうの。なんとのうそうではないかと今繋がったわ。我が共犯者なら、わざわざ秋津と会っておったなど今ここで明かさぬわ。別に秋津を使った奴が居る。」

蒼が、言った。

「ですが、まだ秋津がその時に巽を呼び出そうとしたのかは分かりませんよね。誰かに書いて放置していたものを、誰かに盗まれて出されたのかも知れません。」

「だが、炎嘉…瀬那が秋津と別れたのは、二回目の休憩後。その後ならあれは離宮へ行くことも文を出すこともできたはず。」維心は、義心を振り返った。

「秋津を尋問できるか?」

義心は、首を振った。

「皇女の侍女でありますので、王のご許可が必要になりまする。というのも、秋津は庶出の女と王が密かに通じて生まれた子で、その女を公に宮に入れるために乳母として取り立て、娘の秋津を加賀の侍女として側に置いておりました。本来皇女であったはずの女でございます。これは筆頭軍神しか知らぬ事実であります。」

維心は、ため息をついた。

「…ということらしい。我は知っておったようよ。」

皆は、顔を見合わせた。

では、秋津を尋問することは今はできない。

「…そうか、そうだの。我は酔っておって時間が曖昧だが、多知に見られておるのだ。その時ならば、まだ巽は執務室に居たはず。」

「それが狙いだったのかもの。」志心が言う。「飲ませて酔わせ、時の感覚を麻痺させたら秋津と共に居たと勘違いするだろうから。今の主のように。」

それが答えのような気がした。

とはいえ、呼び出したのは秋津だと分かったものの、ここから進まない。

秋津を尋問したいがそれが出来ないのだ。

「…この中に秋津と関係がある男は居るかと聞いても、誰も己がそうだとは言わぬわな。だが、後で分かったら一気に疑われるゆえ、今申しておいた方が良いぞ。」

維心の圧に、皆がぐ、と黙ったが、当然のことながら誰も名乗り出なかった。

炎嘉が、ため息をついた。

「…言わぬわな。調べる場所が他にもあれば、そこを調べて出て参ることもあるだろうに。」

現場はここ。執務室は調べた。となると、次はどこだ?

「…それぞれの宿舎の部屋ぞ。」維心が言う。「あるか?」

義心は、何度も頷いた。

「はい、あります。ですが今は本来個別に話す時間でありますので、後30分は無理ですな。」

そうだった、個別に話すのだった。

維心は、炎嘉を見た。

「…炎嘉。」炎嘉が、顔を上げる。維心は続けた。「話そうぞ。あちらの部屋へ。」

炎嘉は、驚いた顔をしたが、頷いた。

「わかった。我は怪しくはないぞ。」

そうして、二人は防音の結界の張ってある部屋へと入って行った。

佐津間役の、高彰が言った。

「…そうだの、では非番であった志心…斗起。話そうぞ。」

志心は、頷く。

「良いだろう。参れ。」

二人は、また別の部屋へと扉を抜けて行く。

焔が、言った。

「ならば我は英。」英が、驚いた顔をする。「参れ。」

そうして、二人は部屋を出て行く。

蒼は、取り残されて顔をしかめた。

「別に…個別に話すほど情報を持ってないんだよね。任務についてただけだもの。」

翠明が、頷いた。

「我もぞ。特に特別な情報など…」と、ふと首を傾げた。「いや。だが、よう考えたらいろいろ繋がって参るな。我の行動自体は一貫しておって怪しくないと皆に申しておくが、知っておる情報ぞ。」

皆が、え、と翠明を見る。

翠明は、漸を見た。

「漸。話すか。」

漸は、頷いた。

「良いが、ここでも良いぞ?主は我の友という設定であるから、知っておる事があるのだろうが。縁談の件であろう?」

翠明は、顔をしかめた。

「己から明かすか。つまりは主、関係ないの?」

漸は、頷いた。

「ない。王から実月が否と言うから我ではどうかと加賀の降嫁先にと言われておったが、我は断った。そも、他の男と噂のある女などに興味はない、と書いてあった。」

だからそれは自分の事だってば。

蒼は思ったが、そう書いてあったのだろう。

駿が言った。

「他の男と噂とな?それは、主は巽のことを知っておったと?」

漸は、うーんと眉根を寄せた。

「どうだったか。そう、巽とは知らぬ。何やら我の屋敷の侍従から又聞きしたのだ。第一皇女は臣下の誰かを密かに通わせているらしい、とな。いくら皇女でも、そんな噂のある女は迎えるべきではない、と言うて反対しておった。」

そんな噂に?

「…知らなんだ。そんな噂があったのか。」

漸は、頷いた。

「なんでも最近になって宮の侍女からそのような噂があるらしくて。皇女の侍女が噂の出所であるから、間違いないとか書いてあった。」

公明が、言った。

「その話が出るなら言うても良いの。我も妹が宮仕えの侍女なので、そこから話は聞いておる。ここ最近になって急に広まった噂らしくて、なので王は皇女の降嫁を急がれているらしい、とのことだった。通じているのが誰なのかは分からぬ。巽だったのかと今知ったがの。」

結構な情報が、あちこちの巻物には書いてあったらしい。

蒼は、いくら皆とそんなに深く接してない設定だからって、自分には情報が少な過ぎるじゃないかと内心ふて腐れた。

覚が言う。

「ならば、その妹伝いに聞いておる噂は他にも無いか。」

公明は、顔をしかめた。

「…噂の話など我には興味も無いが、必要なら申す。妹が言うには、それが一人ではないのだとかなんとか。どうやら複数が加賀と文を取り交わしておったとか聞いておる。誠かどうかは分からぬがな。」

蒼は、身を乗り出した。

「それは、相手の事は何か言うておったのか。」

公明は、首を振った。

「具体的に名が出ることはない。噂であるからな。だが、そのうちの一人は上位の軍神らしいとかかしましく言うておった。と書いてあった。」

だから全部書いてあったことを言ってくれってば。

蒼は思ったが、そうなって来るとここに居るのは一位から十六位までの軍神なので、全員上位だ。

実月は縁談を断っている。二位の瀬那は秋津と夜過ごすぐらいだからない、三位の漸…古都は同じく断っている。

だから三位まではない。

公明は今この情報を出したし翠明も一瞬漸かと疑ったぐらいだから知らなかっただろうし、無さそうだ。

駿も知らなかったようだし、となると誰だ。

自分は違う、残りは…まだ、結構居る。

「…情報共有しておいた方が良いのではないか。皆が戻って来たら、話した方がいい。」

蒼が言うと、公明が顔をしかめた。

「ただの噂なのに?」

だから、書いてあるって事は何か意味がある情報なんだって。

蒼は、どう説明したら良いのかと顔をしかめていた。

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