表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/159

維心が、一人後ろを見て何かをガン見しているのにふと気付いた志心が、振り返った。

「維心?いや間違えた、実月?何か見つけたか。」

維心は、振り返った。

「…加賀と巽は、文を取り交わす仲であったわ。」

え、と皆が一斉に振り返る。

炎嘉が、鼻息荒く皆を描き分けて維心の隣りへと来た。

「なんぞ、何かあるか。」と、維心の手にある文を見た。「維月の手?」

維心は、首を振った。

「だからこれは加賀の文、という事になっておる。」と、炎嘉にそれを渡した。「父王に内緒で何度も文を行き来しておったようぞ。巽はどうやら達筆で、その文字に惹かれたようであるな。」

慎吾が、後ろから言った。

「確かに巽は我が幼い頃から教えておったので、字は達者でありました。最初から放蕩息子であったのではないので。最近は、真面目に励んでおったのです。しかしながら…王の許可なく皇女と文を取り交わすなど。許されることではありませぬ。」

それはそうだ。

だが、実際にこうして加賀の返信らしい文が何枚か出て来たということは、加賀へ巽が文を密かに遣わせていたとしか考えられない。

加賀からは、巽が早く重臣としての地位を確立するのをじっと待つ、という健気な文面が書いてあった。

ということは、巽が死んだと聞かされたら、どうなるのだろう。

架空の神だと分かっていても、何やら心が痛んだ。

そこで、義心が言った。

「制限時間が参りました。一旦場所を先ほどのホールへと変えて、そこからは個々にお話ができる時間が参ります。」

維心が、言った。

「これを持って帰って良いか。まだ気になる点があるのだ。」

義心は、頷いた。

「よろしいですよ。他に何か持って帰りたい物がありましたら、どうぞお持ちください。」

炎嘉が、言った。

「分からぬが、関わっておった案件が分かる書類はあるか。」

維心が、頷いた。

「恐らくそっちの箱ではないか?」

志心が、中を覗いてみて、頷いた。

「そのようよ。ではこれも持って参るか。」

翠明が、歩いて義心について行きながら言った。

「個々で話す時間でも、残った者は話せるのか?」

義心は、頷く。

「はい。他の部屋へ入っている神以外の神は、ホールで話して頂けます。」

炎嘉が、言った。

「ならばこれについて話を続けられるの。単独で話したい者は話して来たら良いが、もしやその中に犯人が居て画策とか?」

義心は、言った。

「どうでございましょうか。皆様、犯人捜しの他に、成さねばならぬ事があるかと思うのですが、そのために単独で話して根回しをしておかねばならぬ事もあるかもしれませぬ。それによって、疑われる可能性もありますがね。」

そう言う事か。

全員が、犯人捜しの他に単独で任務を持っているので、義心の言う事は分かった。

それを成そうと思ったら、確かに他の助けや根回しがなければ無理なのだ。

維心は、ため息をついた。

「とにかく、一旦戻ろう。何やら疲れたわ。」

そう言って歩き出したが、ふと、思った。

…そう言えば、あれだけ常煩い焔が一言も話していない。

維心は、密かに焔の様子をじっと見つめた。


ホールへ帰ると、もう巽の遺体、つまりは忠幸はもう居なかった。

例の刀だけが傍のテーブルの上に置かれてあって、調べたければそれも調べられるという事だろう。

そして、きちんとソファが円形に並べてあり、皆がそこへ座って話しができるように設え直されてあった。

「…妃が居らぬな。やはり侍女の控えの辺りに気配があると思うたのは間違いではなかったか。あれらも、あの様子を見ておったのだの。」

翠明が言う。

維心が、頷く。

「維月が来たなと思うておった。邪魔をせぬように狭い侍女の控えに皆で入って見ておったのだろう。ま、あれらは仲が良いから少々袖が触れておっても良いのだろうて。我らも好きにやっておるだから、妃も好きにして良いかと思うておる。」

翠明が、ため息をついた。

「綾は犯人を考えるのだと昨夜もなかなか寝付かぬで大変であったわ。あれらも楽しいのなら良い。じっとしておれとか言うたら後で怖いわ。」

確かにそうなので、維心も頷いた。

思った通り、維月達は脇の侍女用通用口から出て来て、王達に頭を下げると、ササと元居た隅のソファへと黙って座った。

全部見られておると思うと落ち着かぬな。

炎嘉は思ったが、仕方がない。

義心が、皆の前のテーブルの上に、運んで来た塗りの箱を二つ並べて置いた。

「では、今から一時間ですので、あちらの時計で8時30分まで個別に隣り部屋へと移ってお話頂いてよろしいです。では、どうぞ。」

ちなみに、時計も持って来たものだ。

神世には、時計など無いからだ。

維月が、月の宮からわざわざ取り寄せて持って来たものだった。

旭が、それを見上げて言った。

「あれは便利だの。一々日の高さを見る必要もないし。」

蒼が、頷いた。

「何なら送っても良いがの。月の宮ではどこでもあれを使っておるから。」

旭が、驚いたように蒼を見た。

「あれは月の宮の物か。一つあっても面白いかもしれぬ。飾りにもなりそうだし頼もうかの。」

高彰が、割り込んだ。

「そんな事より、事件の真相を探らねば。」と、箱を開いた。「このままだと、いつまでも我と摂津が容疑者とか言われるのだろうが。ただ休憩が四回目だっただけで。容疑を晴らしたいのよ。」

高彰の姿勢が、白く見える。

維心は、頷いた。

「良い心掛けぞ。」と、皆を見た。「箱の中を見る前に、非番であった者達の動きを知りたいのだ。非番だったのは、瀬那、斗起、奈綱、真須、我ぞ。我は宿舎で休んでおったら夜明け前に屋敷の者が血相変えてやって来て、賊が入った、刀が無くなったと騒いだので、探し始めた。刀の気配は覚えておるから、それを追って離宮へと参って刀と巽を見つけた。我が宿舎の部屋から出る時、夜勤を終えて戻って来る古都とすれ違っておる。」

古都である、漸は頷いた。

「見ておる。我らは序列が近いので、部屋へと帰って来た時に宿舎の部屋の扉を開いて出て来た実月を見た。と書いてあった。」

だから古都になり切って話して良いんだって。

蒼は思ったが、黙っていた。

炎嘉が言った。

「だが、主がずっとそこに居たと証明する者は居るまい?それとも女でも居たのか。」

維心は、ムッとしたように炎嘉を見た。

「寝ておったわ。主は隣りの部屋に居たはずだが、気取れなんだのか?そうか、夜中に帰って来たものな。」

炎嘉は、黙り込んだ。

そもそも、筆頭と次席、三位の軍神の宿舎の部屋は並んでいる仕様なのだ。

「そう考えると、瀬那が怪しいの。見たのは多知であったか?主は二回目の休憩であったな。その折に瀬那を見たというが、その後は確かに宮へ入ったのを見たのか。」

高彰が言うのに、多知役の加栄が首を振った。

「いや、そこまでは。夜中に宮へ向かうのかと思っただけで、散策をしておる神も見かけることがあるし、それほど気を入れて見ておったわけではないから。」

炎嘉は、言った。

「我は、深く考える事もなくそのまま宿舎の部屋へと帰って寝たわ。実月が部屋に居ったかは分からぬ。何しろ、我は酔っておって、どのようにして部屋へと戻ったのかはっきり覚えておらぬのだ。」

維心は、眉を上げた。

「覚えておらぬと?この際であるから、なぜにそんなに飲んだのか言わぬか。」

炎嘉は、ため息をついて頷いた。

「…女ぞ。侍女の中で美しいと常思っていた女が、外の藤棚の所で話でもというから、ついフラフラと出て行ったらしい。そこへ酒を持って来ておって、しこたま飲まされた。期待しておったような事はなく、酒に酔って気が付いたら女は居らぬし、そんな時間に屋敷へ帰ったら侍従の奴が煩いしで、宿舎へ帰って寝たのだ。誠に間抜けなことよ。」

だからそれ、自分の事だからね。

蒼は思いながらも、言った。

「…という事は、それを多知が目撃したという事ですね。」

炎嘉は、頷いた。

「そう言う事ぞ。なので我は、何が起こっておっても分からぬのよ。人事不省で寝ておったからの。隣りの実月の所在すら気取れぬほどであるから。」

維心は、ため息をついた。

「その女の証言も欲しい所であるが、とりあえずは信じておこう。それで、奈綱は?主はどうしておった。」

焔は、言った。

「…我は、非番で屋敷に居ったわ。同じ非番の真須が訪ねて来ておって、酒を飲んでおった。屋敷の者に聞いたら分かるわ。」

真須役の、英が何度も頷いた。

「その通りでありまする。我はその夜、奈綱と奈綱の屋敷で飲んでおりました。そのままそこに泊まったので、この朝はそちらからこちらへ参った次第です。」

堅苦しい口調になるのは、緊張しているからのようだ。

こんな遊びは初めてなのだから、皆に見られて緊張もするだろう。

維心は、またため息をついた。

「…仕方のない。では、とりあえず皆、アリバイはあるという事ぞ。斗起は我の屋敷に行って、帰ったと主張するのだろう。それは、三回目の休憩の松吏に目撃されておる。とはいえ、二人で証言しあっているところは、お互いに庇い合っておったら分からぬがの。今のところ、庇っておるとしたら焔…奈綱と真須、摂津と佐津間であるな。」

「そうやって疑われるのが嫌なのだ。」高彰が言った。「さあ、巽の文を調べよう。何か分かるやもしれぬではないか。」

皆は頷いて、そうして文箱の中を確認し始めた。


綾が、声を潜めて言った。

「…誠にどなたにも怪しい所がございますこと。斗起様にしても、お屋敷から真っ直ぐに帰ったのか気になる所でありますし。」

維月は、微笑んで頷く。

「そのようにしましたから。」

箱を開いて中身を全部出そうとする王達に向かって、義心が言った。

「あ、ここで補足を致します。」皆が振り返る。義心は続けた。「必ずしも犯人がこの中に居るとは限りませぬ。最後の投票の際、この中には居ない、という選択肢もある事をお留め置きください。」

「え、居らぬやもなのか?」炎嘉が、面倒そうに顔をしかめた。「誠か。それは面倒だの。」

綾も目を丸くする。

維月は、フフフと笑った。

「これでこそマーダーミステリーというものですわ。」

選択肢が多くて間違いやすい。

皆が顔をしかめていると、維心が言った。

「とにかくは、これを調べよう。」と、そっと全てを取り出した。「なぜか一番上に消し炭が乗っておってな。落としてはならぬし。」

志心が言う。

「それは一番下の皇女の文を見つけられなくするためなのか?乗っておるだけならさっさと横から手を突っ込んで出せるのにな。」

「中を、見たと知られずに漁る事は防いでおるがの。」炎嘉は言う。「とはいえこんなもの、何の防御にもなっておらぬがな。」

維心は、それを聞いてその上に手を翳した。

「…む。術を感じる。術で焼いておるぞ。」

皆が、固唾を飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ