準備
王達は、最初は席と畳の上とを行ったり来たりしていたのだが、そのうちに全員が畳の上へと座り、楽し気に談笑しながら酒を飲みつつ、楽器を弾いて楽しんでいた。
王が畳の上へ移って戻って来ないので、妃達も安心してこちらのテーブルの前で寄り集まって、楽しく王達の様子を眺めながらお喋りに花を咲かせていた。
王達は、全く妃には構わずひたすら変わった曲などを弾き散らしては笑い合っていたので、その方が妃達にとっては楽だった。
妃達は妃達で、漸が変わった曲を演奏するのを珍しく聞きながら、その感想などを言い合って楽しんでいた。
綾が、言った。
「維月様、あの曲ならば我らにもできそうですわ。少し速弾きになるので疲れますけれど、興が乗ったら大変に盛況な様になるのではないかと思いますわ。」
維月は、微笑んで頷いた。
「誠に。聞いたこともない曲が多くて、しかも漸様には楽器を何でも弾きこなされるのですわね。意外でありますこと。」
天音が、頷いた。
「あのような弾き方は初めて見ましたわ。誠に合わせ甲斐のありそうな演奏でありますこと。」
まるでお祭りですものね。
維月は思って頷く。
そこへ、義心が来て維月の側に膝をついて頭を下げた。
維月は、そちらを振り返った。
「…義心。持って参った?」
義心は、頷く。
「は、維月様。仰せの通りに揃えましてございます。」
義心の手には、多くの小さめの巻物があった。
綾が、興味深げに言った。
「まあ維月様、それは何でございますか?」
維月は、綾を見て答えた。
「はい、これは明日からの犯人捜しの遊びの、登場神物の巻物ですわ。一人一人、これを渡されまして、その登場神物の役をして頂きますの。もちろん、この中には犯人の巻物もございます。」
椿が、ワクワクした顔で言った。
「まあ!ということは、その詳細が書かれておるという事ですわね。」
維月は答える。
「その人物に対しての詳細ですわね。他の人物については全く分かりませぬの。それを当てるという遊びですので。」
妃達が、うんうんと頷く。
すると、維心が義心に気付いて振り返った。
「義心?なんぞ。」
義心は、言った。
「は。維月様にご指示頂きました、明日の犯人捜しの登場神物の詳細を記した巻物をお持ち致しました。」
焔が、目を輝かせた。
「おお!してどうするのだ?」
義心は、維月を見る。
維月は、自分が説明するのも面倒なので、この際義心にしてもらおう、と言った。
「…これより義心がご説明を致します。」
と、義心に頷き掛けた。義心は、頷いて畳の方へと巻物を手に向かった。
皆が、まるで幼稚園の園児のようにキラキラとした目で義心を見上げている。
義心は、そんな様子に躊躇ったが、言った。
「では、お時間を戴きましてご説明を致します。」
と、維心を見る。
維心は、頷いて続けろと促した。
義心は、続けた。
「…まず、こちらに登場神物一人一人の、身分、他の登場神物との関係性、事件当日の動きなどが記された、巻物があります。これを、皆様に選んで頂いて、手にした巻物の登場神物になったつもりで、犯人捜しをして頂きます。それぞれの当日の様子は、犯人でなくとも怪しまれるような動きをしている者も居ります状態で。簡単には、真犯人を見つけられない仕様となっております。そしてこの中には、真犯人である登場神物や、それを補佐して庇っている登場神物も混じっております。上手く真犯人を見付けられれば犯人側の負けとなり、見つけられなければ犯人側の勝ちとなります。」
ほほう、と全員が興味を持って義心の手にある巻物を注視した。
炎嘉が、言った。
「…それは今から我らに配るのか?」
義心は、頷いた。
「はい。そのように指示されましてお持ち致しました。と申しますのも、明日までにご自分のなり切る神の詳しい行動などを覚えておいていただきたいからです。」
翠明が、言った。
「…どうするのだ。誰から選ぶ?」
炎嘉が、言った。
「ここは序列順であろうが。中を透視するのは無しぞ。維心、主からさっさと選べ。」
維心は、特に何も構える事無く端の一つをスッと手に取った。
「別に何でも良いわ。我は誰になっても上手くやる。」
炎嘉は、むっつりとそんな維心を恨めし気に見て、自分もその隣りの巻物を手にした。
「まあ、確かにそうだが。」
次は普通なら志心なのだが、志心は漸に言った。
「主、取ってはどうか?序列はまだ決まっておらぬが、恐らく主は炎嘉の次ぐらいぞ。」
漸は、驚いた顔をした。
「良いのか?」
志心は、苦笑して頷いた。
「良い。早う選べ。」
漸は、うーんと少し悩んだ顔をしたが、結局炎嘉の隣りの物を取った。
「これにする。」
志心は、頷いて自分もその隣りの物を手にした。
「じゃあ我もこれで。」
箔炎が、言った。
「では次は我だな。そうであるな…ま、これでいいか。犯人だけは勘弁だが、分かるものでもないし。」
しかし、次の焔は、そうは行かなかった。
じーっと必死に巻物を見ている。
義心が、言った。
「透視はできませんが。」
焔は、煩そうに答えた。
「分かっておる!」と、それでも巻物を見つめ続けた。「…これ!」
並ぶ巻物の、真ん中辺りを引っ張って取った。
蒼が、苦笑して言った。
「じゃ、オレはこれで。」
駿が、高彰に言う。
「残りが少なくなって来たぞ。主は我の後だが、どれがいいとかあるか。」
高彰は、首を振った。
「別にどれでも。犯人さえ引かねば良いなと思うておるだけ。」
みんなそうだろう。
駿は、仕方なく適当に一本を手にした。
高彰は、その次にその隣りの物をサッサと選んだ。
翠明が、言った。
「慣れぬ事で大層な役割など無かったら良いが。」と、傍の一本を手にした。「我はこれで。」
残りは、6本。
樹伊が、公明を見た。
「次は我だが、何やら不穏な様子ぞ。犯人役が残っておると思うか。」
公明は、真剣な顔で首を振った。
「分からぬがの。もう無いと思いたい。」
旭が言う。
「主らが取ったら我だが、正直もう犯人などないと思うておるぞ?16本もあったのだろうが。さっさと取らぬか、中身が見てみたい。」
樹伊は、渋い顔をしながら適当に一本取った。
公明も、あまりにも必死になっても恥ずかしい気がしたので、その隣りの奴をさり気なく取った。
旭は、残った4本のうち一本を掴み、覚、加栄、英を振り返った。
「ささ、主らの分ぞ。主らでどれを選ぶか決めるが良いぞ。」
三人は、顔を見合わせた。
この中では覚が一番序列が高く、次に加栄、英だった。
英が、言った。
「我は人が申す残り福で。どうぞ選んでくれ。」
覚が、頷いて一本取った。
「じゃあ我はこれ。」
加栄は、二択だったが諦めてどっちでも一緒だと巻物を手にした。
「我はこれ。英は、最後の一本であるな。」
英は、頷いてそれを手に取った。
何があっても、とりあえず自分が選んだわけでもないので、責められることはないだろう、と英は思っていた。
義心は、皆の手に巻物が渡ったのを見て、説明を続けた。
「今、こちらでは開かないでください。なぜなら、犯人には犯人と書いてあり、その犯行の過程も全て書いてあります。その他の方々も、ご自分の役のその日の行動をしっかり覚えて、ご自分の友や、上司などを把握してください。ある宮の、軍神達の役をやって頂くことになっております。」
軍神か。
ということは、序列があるのではないか?
皆が思っていると、焔が言った。
「序列があるのではないのか。」
義心は、答えた。
「はい。今、選ばれた軍神の序列が、明日そのまま皆様の序列となりますのでご注意を。ちなみに筆頭から16位までとなっております。」
誠か。
皆は、まさか自分が軍神をやるとは思っていなかったようで、困惑した顔をしていた。
炎嘉が、言った。
「…維心が己より序列が下の軍神だったら何とする。面倒くさい事になりそうで今から気が重いのだが。」
維心は、巻物の紐をほどいた。
「今見るか?」
義心が、慌てて言った。
「お待ちを!でしたら、最初の方だけ開くようになさってくださいませ、王。そこに名と身分が書いてございます。」
維心は、徹底しているなと巻物をスルスルと端の方だけ引いて、見た。
「…我の名は実月。どこの宮か知らぬが筆頭軍神と書いてあるわ。」
引きがいい。
皆は、一番端の一本を掴んだだけの維心に、筆頭軍神が振り分けられていたのに驚いた。
炎嘉は、言った。
「おお、隣りの物を取ったからかの。我は次席軍神ぞ。名は瀬那。」
漸が言った。
「我も隣りの物だったからか、三位ぞ。名は古都。」
焔が、義心を見た。
「主、少しは混ぜておかぬか。とはいえ、我は4位だがの。名は奈綱。」
義心は、言った。
「本当は明日、確認するはずでありましたが、皆様が誰に振り分けられておるのかお教え頂けますか。確認して、こちらで補佐することがありましたら補佐するように致しますので。王は実月、炎嘉様は瀬那、漸様は古都。」
義心は、せっせと胸から出した懐紙に書き付けて行く。
皆が皆、義心に向かって自分の序列と名を告げていた。
維月は、それを見て明日からのゲームが、上手く行くようにと願ってならなかった。




