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師走の会合

師走は、例によって締めなので龍の宮での会合だ。

何しろどこの宮も正月準備と年末の締めに忙しく、会合など引き受ける余裕がない。

龍の宮には臣下が唸るほど居るので、毎回当然のように年末と年始は龍の宮と決まっていた。

皆が次々に到着して、今回の会合も滞りなく終わった。

序列が上がった宮々では、案じていた混乱もなく順調に回っているようだ。

その中でも思った通り塔矢の宮はかなり綺麗に治めていて、他の宮の手本になっているほどだった。

何しろ臣下が優秀で、王の塔矢と王妃の恵麻がまた、博識で賢いので、もう上から二番目に上げても良いぐらいの勢いだった。

陸の宮でも、昌士が立派に育って来て、迅がそれを補佐して争いも影もなく、定弥の宮でも定成は記憶を失くしているところはあったが、定弥がそれを労ってそれは穏やかに回っていた。

詠み人が見ていた、未来はその部分では変わったのだろうと思えた。

久しぶりに穏やかな年末を迎えて、宴の席では焔がそれは上機嫌だった。

「今年こそは旭の離宮に行けるぞ!」焔は、喜んで言った。「旭!参れ。」

少し離れた段の下に、他の上から二番目の王達と居た旭が、言われてこちらを振り返った。

そして、急いで上がって来た。

「何ぞ?正月のことか。」

焔は、頷く。

「今年こそは行くぞ。もう二年も保留にしておって行きたくてウズウズしておったのだからの!準備はどうか。」

旭は、苦笑した。

「こっちは離宮に手を入れ過ぎて大変な事になっておるわ。二年越しであるからの。今年こそは待っておる。蒼殿から人世の酒も送られて来ておるし、問題ない。」

しかし、志心が言った。

「大丈夫なのか?主の第二皇女が銀令に嫁いで子を産むのに里帰りしておると聞いておるのに。本宮を離れる事になろうが。」

旭は、首を振った。

「仮にあれが産気付いても我に何ができるのだ。問題ない。予定は如月なのだ。銀令が何かあっては困るとか言うて、早めに戻しただけよ。あやつは何でも我、我で、どっちが我の子なのか分からぬぐらいでな。まるで息子が増えたようで手が掛かる。」

炎嘉が、それを聞いて笑った。

「それでも可愛がっておるのだろうが。銀令は見たところ問題のない上位の宮の王の様になってしもうて。まるで主のようだと話しておった。動きまでそっくり写し取ったようだの。」

旭は、苦笑した。

「あれは何事も我のようにと通いつめてな。気がついたらああだった。なのでまるで息子なのだ。麗羅が妬むほど妃より我の言葉優先の男でなあ。まあ、ゆえにおかしなことはせぬから安心ではあるが。」

志心が、クックと笑った。

「まるで主が娶ったようぞ。まあ良い、お陰で神世が上手く回るもの。良かったことよ。」

旭は、顔をしかめた。

「あのな、いくらなんでも娘の夫に手を出したりせぬわ。」と、立ち上がった。「ではの。正月には待っておる。」

旭は、戻って行った。

焔が、それを先ほどとはうって変わって深刻な顔で見送ると、小声で言った。

「…待て。志心、旭はもしや?」

志心は、当然のように頷いた。

「何を今さら。知らなんだのか?旭は両刀ぞ。」

知らなかった。

というか、知らないままが良かった。

焔がショックを受けていると、漸が言った。

「両刀とはなんぞ?二刀流か?」

知らないのか。

また皆が驚いて漸を見ると、炎嘉が説明した。

「ええっとな、確かに志心は二刀流だが、そう言う事ではない。その…子を作る行為を男女どちらとも好んでするということぞ。」

漸は、眉を寄せた。

「え、こちらは男も子を産めるのか?!」

それは知らなかった。

漸が思っていると、炎嘉は首を振った。

「違う。産めるはずがなかろうが。そういう行為を楽しむ点で、どちらもいけるということぞ。主の所には居らぬのか?」

漸は、うーんと真剣な顔で考え込む仕草をした。

「どうだろうの。見たことも聞いたこともないが、あるのやも知れぬの。別に禁じておるわけでもないから、あっても驚きはせぬが…我は男とは考えたことがないの。そも、どうやるのよ。」

それをここで説明しろと。

志心は、言った。

「まあ、機会があれば教えるが、興味がないならやめておいた方が良いぞ。ここで説明することでもない。」

漸は、頷いた。

「別に興味はない。我は女の方が良いし、相手には困っておらぬ。」

維心が、そういえば、と言った。

「そういえば蒼の所から主の宮の事の書を取り寄せて読んだが、主の宮では略奪婚は違法なのだな。処刑と聞いた。」

漸は、頷く。

「その通りよ。そんなことをした奴は我が片っ端から切っておる。昔からのことぞ。まあ、わざわざ斬らぬでも相手の女でも男でも、そんな輩は切り捨てる権利を与えておるから襲ったら例外なく死ぬわな。無理やり通じるなど、普通に考えて犯罪ではないか?しかも、婚姻制度とやらで己を襲った輩に縛られて一生過ごすなど我なら身の毛もよだつがの。」

言われてみたらそうなのだが。

いちいち正論なので言い返せずにいると、志心が言った。

「昔はの。何しろ弱い女を襲うだけ襲って後は放置という輩が多かったので、女の救済措置としてその行為は婚姻で、手をつけたら一生面倒を見る義務を負わせる事で、抑止しようと決めた事なのだ。それでも今はお互い合意の上で婚姻することが多い。確かにまだ合法なので、略奪婚はあるがそんなことをする奴は上位には居らぬ。皆女には困っておらぬから、こちらが言えばあちらは簡単に合意するしな。下々にはまだ多いようだがの。」

漸は、頷いた。

「だろうな。あの穏やかな月の宮でも見たわ。我が口出しすることではないゆえ何もいわなんだが、我には奇異に見えたものよ。女が弱いゆえ、簡単に手篭めにされるゆえそうなるのだろうが、我が宮では皆強いからな。簡単には襲えぬわ。命懸けであるから、そもそんなことをしようと思う輩はうちには居らぬ。」

もう、犬神の宮読本でそれを知っていた皆は、頷いた。

つまりは案外に、犬神達は安全で、どちらかと言うとこちらの神の方が危ないということが分かったからだ。

「…となると主の宮の女達には注意喚起しておかねばの。こちらはそれが合法であるし、こちらの男の方が強ければさっさと手篭めにされてしまうぞ。一応、今は犬神との婚姻を禁じておるから余程でなければ大丈夫だろうが、そこはお互い気を付けておいた方が良い。」

漸は、それにも頷いた。

「分かっておる。皆には重々申してあるので、問題ない。分かっておってふらふら出て行ってそんなことになったら、あちらの法の元に婚姻となるぞと脅しておいた。腕に覚えがある女は無謀に出て行こうとするやもだが、そこは自己責任であるし。外で何かあるなら、それは我もこちらの法に従うゆえ文句は言わぬ。ただ、我が宮の中では絶対に許さぬゆえな。」

まあわざわざ犬神の女を娶ろうと略奪に行く神も居ないだろう。

皆は思っていた。

要は、娶りたければあちらの合意を得れば良いわけで、余計なことはするなと言うことなのだ。

「…いろいろ考えさせられるが、主も正月は参るだろう?」焔が、話題を変えようと言った。「我らも旭の離宮に参るのは初めてで楽しみにしておるのよ。ここ二回ほどは月の宮で世話になったが、毎年蒼に面倒をかけるのもなので、今回は旭のところぞ。こちらも面倒があって今年は何もできなんだが、来年はやっと行ける。無礼講であるし、珍しい酒も飲めるぞ。」

漸は、苦笑した。

「まあ、皆で参るのなら我も参る。だが、月の宮でないのは残念なことよ。我はあの宮が殊の外気に入ったのだ。」

炎嘉が、言った。

「皆そうぞ。あれだけ癒しの気が降り注ぐ場所も珍しいからの。だが、何度も蒼にばかり面倒も掛けられぬから。蝦夷も良いぞ?楽しみにするが良い。」

漸は、頷いた。

「そうであるな。まあ、今も三日に明けず通って学んでおるし、良いわ。」

維心が、首を傾げた。

「まだ何かあるのか?そういえば蒼が、宮で教えるための形を構築するのに通って来ているとか言うておったな。それでか?」

漸は、頷いた。

「その通りよ。松という優秀な教師がおっての。共に考えてくれるのだ。そういえば、前は侍女をしておったらしいが、松の妹の楢が樹伊に嫁いだので顔を合わせてはと蒼が教師の任を与えたのだとか聞いておるが、樹伊は松を知っておるか?」

黙ってやり取りを聞いていた、樹伊が顔を上げた。

「いや、あちらの宮では松のことは口外してはならぬと言われておるようで。楢は月の宮に居るのは知っておるが、時に密かに文を送るだけのようで。詳しくは知らぬのだ。だが、顔は見たことがある。侍女をしておる時にの。」

漸は、そうかと頷いた。

「松から事情は聞いておるが、渡とかいう元王は小さい輩よ。こちらが略奪の世なのは分かっておるが、相手が悪いのは分かっておるのに何故に被害者の松に当たるのかの。己が娘を守れなんだくせに。」

まあそうなんだが。

皆は思ったが、漸とはとにかく価値観が違うので何も言い返さなかった。

焔が、言った。

「これから交流していろいろ分かり合おうぞ。あまり本神が居ないところで余計なことは言わぬことぞ。松の名誉にも関わるゆえな。」

漸は、眉を寄せた。

「名誉?たった一人の男を通わせただけでか?」

だから価値観が違うのだというのに。

維心は思って言った。

「そこは婚姻制度に関わるのだ。まあ、追い追い話して参ろう。」

漸は頷いたが、まだ納得できていないようだった。

炎嘉が気をきかせて別の話題を出して、その場は違う話に花が咲いて流れて行ったのだった。

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