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師走

そんなこんなで、もう師走の一日だった。

維心は、今月も会合がもうすぐだと今年もいろいろあったと考えていると、義心が入って来て、膝をついた。

「王。ご報告に参りました。」

維心は、頷いた。

「漸のことか。申せ。」

義心は、頷いて顔を上げた。

「は。漸様には本日、月の宮を出て宮へとお戻りになる由。途中何度も宮へと様子を見に戻っておられましたが、遂に此度は引き揚げるという事のようです。教育は、滞りなく終わったようでございます。」

維心は、満足げに頷いた。

「そうか。もっと早うにこうしておったら良かったのやもしれぬ。考えたら蒼はこういう事に強かったものな。鵬も、月の宮からもらった犬神の宮読本とやらの三部組を、大変に参考になると言うて絶賛しておったわ。それを聞いて炎嘉も蒼に頼んで取り寄せて、他の宮も同じく学んでおるそうな。思えば、相互理解が必要なのに、こちらはこちらを理解させようと必死なばかりで、あちらを深くしらなんだ。蒼には頭が下がるものよ。」

義心は、何度も頷いた。

「は。特にあちらには婚姻制度がない代わりに、お互い合意がないとそういう関係には決してならぬのだとか。こちらのような略奪婚の習慣がないのは、驚きでありました。」

維心が、顔をしかめた。

「それよ。」

義心は、はて?と眉を上げた。

「は。何か問題が。」

維心は、頷く。

「維月もそれを読んで感心しておったわ。あちらは男が襲うとて女も強いゆえ命懸けになるゆえ、そんなことは滅多に起こらぬのだとか。そも、無理に通じる事は禁じられておるから、それが発覚したら男女どちらであっても有無を言わさず死罪なのだと。絶対的な合意がないとどちらにしろ死ぬことになるゆえ、お互い相手に媚びて気に入られようとするゆえ、こちらが思っているほど乱れた様子ではないようだった。維月は、略奪婚には否定派であるから、あちらの方がしっくり来るとか言うての。我も、どちらが良いとは言えぬでいた。」

義心は、頷いた。

「確かに人世と似たところもございますな。人世では死罪にはなりませぬが、お互いの合意がなければ罪に問われるので。維月様には身近に感じられたのやもしれませぬ。とはいえ、漸様が蒼様とお話になっておる時に、こちらの女はか弱いがその代わりというか、品が良い上に動きまで繊細であるようで、そんな女ならば守る価値もあるような気がすると仰っておられたとか。」

維心は、頷いた。

「確かに強い女ばかりであったらもしかしたらそうなるのやも知れぬの。とはいえ婚姻の縛りはない。」維心は、息をついた。「なので、我にはどっちもどっちとしか言えぬ。まあ良い、では漸は師走の会合には来るよな。正月のこともあるゆえ、そろそろ話さねばと思うておったのだ。」

義心は、また頷いた。

「は。あちらも落ち着いておられるようで、臣下達もまた、更に50人ほど新たに月の宮に入って学ぶのだとか。先に学んで帰っておった、貫と伯の二人が頑張っておるようで、理解が進んでおるそうです。雷嘉が知らせて参りましたので。」

維心は、首を傾げた。

「あれはまだ主と申しておるか。あちらへ帰っても?」

義心は、苦笑した。

「はい。とはいえ、あちらで己を必要とされておるのは分かっておるので、その間だけでも、同族を助けてやりたいと思うと文に書いておりました。まだしばらくはあちらに残るのではないでしょうか。価値観が違うので、言い寄って来られたりすると退くというておりましたが。」

維心は、クックと笑った。

「ま、良い経験よ。そこで女を見定める目を養って参るやもしれぬ。とはいえ、我は行きとうないな。遠慮なく見られることに慣れておらぬし、維月がまたキレるやもしれぬ。」

義心も、表情を引き締めて頷いた。

「は。時々に我も偵察にあちらの宮へと参りましたが、外から密かに見ていても、皆が皆ではありませぬが、中には男女どちらも己が気がある相手に恥ずかしげもなく色目を使ったりするので、見ておるこちらがハラハラ致しました次第。とはいえ、それが普通なのだとは分かっておるのですが…我には慣れぬで。」

維心は、ため息をついた。

「…とはいえ、一度あちらの宮も見ておかねばと思うてはおる。炎嘉も漸が不在なので行けないが、そろそろ宮構えなど見ておきたいだの言うておったし、漸が落ち着いたら宮に招待してもらいたいと申すか。」

義心は、頷いた。

「は。我は何度も見ておりますが、大きな本宮を囲んで回りに宮が点在し、その回りを大きな建物でぐるりと砦のように囲んだ変わった形の宮でありまして。王にもご覧にいれたいと思うております。」

維心は、言った。

「気は進まぬが訪問はする。漸にも準備があるだろうし、時期はあちらに任せるわ。蒼にも話が聞きたいものよ。あれは何か言うてはおらぬか。」

義心は、首を傾げた。

「いえ…こちらの事は何も。漸様のお世話でここのところ忙しくされておったので、それどころではなかったのでは。本日帰られるので、またお知らせくださいますでしょう。」

維心は頷いて、蒼と話をしておこう、と思っていたのだった。


師走、漸が帰って月の宮には次の、偶数序列の50人が入れ替わりに来ていた。

こちらももう慣れたので、教師達はサクサク皆と面談しては組分けして行く。

とりあえず漸が戻ったので、後は裕馬に任せておける。

蒼は、やっと一息ついた心地だった。

実は、松と漸の二人きりでは面倒が起こるのではと危惧していたのだ。

そもそもが力社会の神世で、漸があっさり松に手を付けるとかなっては、価値観の違いからまた松が、不幸になると恐れていたのだ。

なので、できるだけ同席するようにしていたが、漸は思っていたよりずっと紳士的で、闇雲に近付く事もないし、手を取る事もしない。

松の様子を窺って、警戒していそうだと判断したら視線を合わせる事すらしようとしなかった。

つまりは、蒼が知っている神の王と比べて、漸はとても女性を気遣う動きをするのだ。

あれだけ松ほど淑やかで美しい女は見たことがないと褒めていたのにも関わらず、手を握る事は愚か色好い事すら口にしない。

するのは雑談や、己の宮の事など色恋には全く関係ないことで、不必要に体を寄せたり絶対にないので、ある意味他の王より余程安心できる男だった。

よくよく聞くと、その意味が理解できてきた。

漸の宮は略奪婚は違法だ。

お互いの合意がなければ通じる事などご法度で、それを破った者は男女の別なく殺される。

つまり、気に入ったから手を付ける、と漸は言っていたが、相手も漸なら良いと合意があるからそうなるわけで、こちらが否ならば漸は手を出さないのだ。

王である漸が、その決まりを破るはずなどなかったのだ。

漸を誤解していた、と蒼は思った。

こうなって来ると、女神にとって犬神の宮ほど安全な場所はないだろうと思われた。

勝手に襲われて、勝手に婚姻となり一生世話はしてくれるが縛られる、そんな事は絶対にないからだ。

婚姻制度はないが、つまりは犬神の宮はしっかりした倫理観が確立しているのだ。

人世の考えに近いが、しかし婚姻制度はなく、男女どちらも力があって強い。

蒼には、どちらが良いのか分からなくなっていた。

嘉韻が、入ってきて膝をついた。

「王。漸様がお越しになりました。」

蒼は、驚いた。

一昨日帰ったとこなのに?!

「え、一昨日帰ったとこだろ?もう来たのか。」

確かにいつなり来て良いとは言ったが、早すぎる。

何か問題でもあったのだろうか。

蒼は、言った。

「こちらへ案内してくれ。何かあったのかな。」

嘉韻は、首を傾げた。

「どうでしょうか。特に問題もなく…焦っておられる風でもありませんでしたが。」

蒼は、頷いた。

「とにかく話を聞こう。」

嘉韻は頭を下げてから、出て行った。

蒼は、漸が何を思ってまたここへ来たのか、心配になっていたのだった。

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