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訓練場にて

義心は、もう何度目かの勝利を得ていたところだった。

貫は、何度負けても必死に食らい付いて来る。

だが、義心が思うに貫のレベルは帝羽辺りで、そこそこできるはずだった。

義心は、前世の記憶も手伝って誰にも負け知らずなので、貫に勝てるはずもなかった。

義心が勝てないのは、維心。そして、維月だった。

もちろん、義心も維月に勝てそうな時があるが、それでもすぐに読みきられてしまうのだ。

それが、妙に心地良かった。

「…勝てぬ!」貫は、刀を拾って座り込んだ。「何故に勝てぬのだ。手加減されたと感じたら、隙だと斬り込むのに簡単にかわされる!」

義心は、苦笑した。

「すぐには無理ぞ。闇雲に立ち合うだけでは勝てぬぞ、貫よ。」

貫は、刀を鞘に収めながら、言った。

「だが…雷嘉は主を己の神だと言うて崇拝しておる。もしあれが宮に戻ろうと思うても、我が主に敵わぬとなれば肩身も狭かろう?せめて主と並んでやらねば、あれは戻ることもできぬ。」

貫は、そんなことを考えていたのか。

義心は、素直で実直な貫に何やら感動した。

常識は違うが、どうも犬神達はとても気立てが良いと感じる。

次席の(しゅう)も最近時々来るようになったが、同じように変な意地もなく、素直な感じで教えやすい神だった。

つまりは、恐らく犬神達は、こんな風に気立ての良い者達が一般的だと思われた。

義心は、貫に手を貸して立たせながら、言った。

「…とりあえず、我だけでなく龍の他の軍神とも立ち合って、こちらの神の戦い方に慣れていくことぞ。主らは独特の太刀筋を持っておって、それもまた強みであるしな。我も勉強になるわ。」

貫は、渋い顔をした。

「それでも主は簡単に対応して来て、我は敵わぬのに。そうか、そうだの。まずは主ではなく、他の龍達と戦ってみるべきか。」と、キョロキョロと回りを見回した。「だが、主の他に軍神は?」

義心は、また苦笑した。

「王は、会合に出られる時は軍神は一人と決めておられるからの。他は皆、宮に残っておるのだ。我が王に敵など無いし、お一人でも良いと仰るぐらいなのだ。我は、日々あの方を目指して精進しておるのよ。」

貫は、神妙な顔をした。

「…龍王か。確かに、我が王の友というだけあって、恐ろしいほどの気の持ち主。だが、それほどの手練れか。」

義心は、頷いた。

「この世にあの方に敵う者など居らぬだろうの。我の生涯の師であり、王であられるから。」

貫は、ため息をついた。

「そうか。主らの王であるものな。」

すると、その時訓練場の扉が何の前触れもなく開いて、そこから炎嘉が、そしてその後ろから維心、焔、漸、箔炎、高彰、翠明、駿、志心、公明、覚、加栄、英というそうそうたるメンバーが入って来た。

「!」

義心は、急いで膝をついた。

己の王が居るからだ。

貫も、漸の姿を見て義心の隣りに同じように膝をつく。

維心が近付いて来て、その前に立った。

「…義心。」

「は。」

義心は答える。維心は続けた。

「それに負けたか?」

義心は、首を振った。

「いえ、未だ。」

維心は、頷いた。

「そうか。ちなみに漸が、主と立ち合いたいと申しておっての。やるか。」

義心は、顔を上げて漸を見た。

漸も、犬神なので恐らく変わった形の立ち合いをするだろう。

それを学ぶためにも、確かに立ち合ってみたい相手だった。

「は。光栄なことでございます。」

炎嘉が、脇から言った。

「主、甲冑にした方が良いぞ。義心相手だと手足の動きが無駄に制限されると、勝てるのは維心ぐらいのものぞ。こやつもやりづらいだろうし。」

漸は、顔をしかめた。

「そうか?」と、貫を見た。「貫、甲冑を脱げ。」

貫は、慌てて自分の甲冑を外しにかかった。

「は!お待ちくださいませ。」

炎嘉は、慌てて言った。

「待て、我の甲冑を貸してやるゆえ!軍神の甲冑を奪うでない。下には裁付袴と鎧下着しか着ておらぬのに!」

確かに部下を下着姿で立たせておくのは気が咎めるかもしれない。

焔が、言った。

「なら、我にも貸せ!別に弦の甲冑でも良いのにの。」

炎嘉は、傍の嘉張に頷き掛けて、持って来るように指示した。

嘉張は、急いでそこを出て行って、人数分の甲冑を探しに行った。

「…全く。ならば我と少し、このままで戯れてみるか?」と、維心は、義心に手を差し出した。義心は、サッとその手に刀を渡す。維心は、刀を抜いた。「我は良いぞ。本気で掛からぬから。主とて着物では動きづらかろうし。」

漸は、己も貫に手を差し出して、刀を手にした。

「主の手腕など知っておるわ。どうせ生まれ変わっても変わらぬだろうが。もっと手練れになっておるやもしれぬ。何しろ子供の頃から、我は主に勝てた試しがないからの。炎郷には五分勝ったことがあるが。」

炎嘉は、ムッとした顔をした。

「こら。我だって前前世より絶対腕を上げておる!」

維心は、クックと笑った。

「良い。とにかく参れ。主の筋が見たいのよ。」

漸は、構えた。

「仕方がない。主も腕が鈍っておる可能性もあるしの。」と、袖を振り上げて足をトンと蹴った。「少し戯れてみても良い!」

漸は、維心に真正面から掛かって行った。

「あー。」炎嘉が言った。「維心に真っ正面から行きおって。」

炎嘉がそう言った瞬間、キンッと音がして、刀が宙を舞った。

維心は、立っていた場所から動きもせずに顔をしかめた。

「ならぬというに。なぜに真正面から来るのよ。丸見えではないか。いくら何でもお粗末すぎるぞ。」

漸は、急いで刀を拾って来た貫からそれを受け取って、言った。

「…ちょっとどういう感じか見てみただけよ。」漸は、言ってフッと笑った。「面白いのう。では参る。」

と言ったかと思うと、フッと漸が目の前から消えた。

ように見えたが、気が付くと漸は維心の真上から来ていた。

維心は、そんな事には慣れているのでサッと腕を振ってそれをしのぐと、さっさと浮いて漸の太刀筋を見ながら、右へ左へと移動して避けている。

焔が、言った。

「維心は何をしておるのかの。」焔は、眉を寄せている。「あれなら我でも取れそうだがの。」

炎嘉は、呆れたように焔を見た。

「だから、維心は漸の筋を見ておるのよ。」と、指した。「そら。ああして見たい動きをするように、時々太刀を出して動かせるのよ。漸は変わった動きをするのう。恐らく、この後立ち合う義心のために、情報を与えておるのだ。」

言われて見ると、確かに義心はじっと怖いほど真剣に漸の動きを見つめていた。

維心は、あちこち動いては漸にあり得ない方向から太刀を突き入れてみたりしながら、漸の動きを事細かに引き出して行く。

漸は、本当によくついて行っていた。

維心は間違いなく手加減をしているが、そこらの軍神ならこの動きには絶対については来れなかった。

早々にどこか、怪我をして退場していた事だろう。

「く…!!」漸は、言った。「主、あやつに我の手筋を見せようとしておるであろうが…!」

維心は、ククと笑った。

「その通りよ。よう見えておるではないか、漸。」と、スッと腕を振った。「もう良いか?これで少しは対等に立ち合えるのではないかの。」

キンッと刀が飛ぶ。

義心は、目の前にサクッと刺さった刀に、頷いた。

「は。変わった太刀筋、ですが我は貫と何度も立ち合っておるので、漸様の動きが大変に優れておるのも理解でき申しました。漸様は、大変に効率的に動かれますので。」

漸が、驚いた顔をした。

維心が、苦笑した。

「…確かにの。まともに立ち合ったらもっと面白いやもしれぬと我も思うた。少し手こずるやもしれぬぞ、義心。こやつは炎嘉ぐらいにはやりおる。もしかしたらより優れておるやもと思うほどぞ。」

炎嘉が、心外な、という顔をした。

「何を言う!だったら我も漸と立ち合うわ!我も甲冑を着る!」

嘉張が、ちょうど甲冑を山ほど抱えて入って来た。

維心は、それを奪い合うようにして身に付ける王達を見ながら、呆れたように微笑していたのだった。

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