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次の月

そうして長月は過ぎた。

雷嘉は漸に連れられて犬神の宮へと渡ったが、あちらでかなり重宝されているらしい。

何しろ、あの宮のもの達は、こちらの事を何も知らないのだ。

片っ端から話し掛けられて、問われるままにこちらの話をするので、息つく暇もないらしい。

義心には定期的に文が来るので、あちらがどんな様子なのか、こちらには筒抜けだった。

漸が外に関する講習会というものを開かせ、それを受講して試験にパスしないと外には行けない決まりを作っているらしい。

そんなわけで皆、我先にとそれを受けたがって、大広間に集まって大勢を前に何度も講義することになっているらしかった。

ちなみに筆頭軍神である貫は、いち早くそれをパスして時々龍の宮に現れる。

義心と立ち合いたいからだった。

漸もやって来ては、その講習会には何度も立ち会っているそうで、維心に、知らぬ事が多い、我は未だにパスできぬと愚痴っている。

それなのに外にホイホイ出て来ていることについては、皆には秘密にしているそうだ。

漸は昔から、勉学が嫌いらしかった。

ちなみに、漸の考え方で面倒があってはならないので、維月はその話の席にはいつも同席しなかった。


そんなこんなで、少し不安も残る中、漸は神有月の会合に、顔見世のために来る事になったのだった。


今回は、鳥の宮だった。

「炎嘉、宮を建て直したのか?真っ白で美しい宮であったのに。」

炎嘉は、そう言う漸に苦笑した。

「我が死んだ後、我の息子が維心に刃向かっての。一度滅ぼされたのだ。ここは、その折一度崩壊して後に龍が建て直して砦にしておったのよ。」

漸は、驚いた顔をする。

維心は、頷いた。

「一時炎嘉が転生しては来ても龍身であった時があってな。その時、ここへ炎嘉は戻っておらなんだ。炎翔という王が、維月を拐って参って…取り返すのに、滅ぼした。その折共闘しておった獅子も共に滅ぼしたのだ。」

そんなことがあったのか。

漸は、二人を代わる代わる見た。

「…それでも、主らは共か。」

炎嘉は、頷く。

「戦をしようとした炎翔が悪いからの。我が何のために維心と共に殺戮の限りを尽くして太平の世を作ったと思う。あれは間違った。維心が悪いのではない。何より、維心は我が戻った後、こちらを復興させることを許してくれた。ゆえ、我は別に維心に某かないのよ。」

漸は、感心したように頷いた。

「…主らは、昔から変わらぬの。やはり記憶は無くても主らは主らよ。我はそう思う。」

維心が、困ったように言った。

「だから覚えておらぬというのに。まあ良いわ。」

そうして、三人は皆が待つ会合の間へと向かった。

会合では、いきなり現れた大きな気の神に皆、驚いた顔をしていたが、何しろ漸はとても友好的な雰囲気で懐こい様子で、常に口元には笑みを浮かべているような様子だったので、すぐに皆、慣れたようだった。

最初に全ての宮の王達に、端から名乗って行かせたので、漸も一応、顔は見た。

しかし全部覚えたかと言われると、微妙だった。

何しろ、学ぶのが嫌いな男なのだ。

とはいえ、皆が名乗る時には真剣な顔をして聞いていたので、少しは覚えたかもしれない。

真顔になると鋭い目がとても怖いのだが、終わるとまた普通に戻ったので、下位の王も警戒することはなかった。


宴の席に移ると、漸は言った。

「毎月こんなことをしておるのか?大変だの、数が多いし。」

炎嘉が答えた。

「前はもっと多かったのだぞ?二月に一度にしておった時もあるし、今でも忙しい年にはそうしておる。だが、今は序列を見直したばかりで、自立できていない宮は他の宮の傘下に入れて、発言権を剥奪した。なので障りがあってはならぬから、一月に一度なのだ。これでも減ったのだぞ。」

漸は、談笑しながら酒を飲む、他の王達を見回した。

「そうか…あの頃とは全く違うな。集まって話す事に決めたのは維翔で、その頃宮らしい宮があったのは龍、犬、鳥、獅子、白虎だけでな。いつも五人で、特に用もないのに話しておった。何のためなのか我にはわからなんだが、維翔が申すから参加しておったな…我は、昔からあまり深く考えずにいたのかもしれぬ。いつも、維翔が賢いゆえそれについて行けば問題ないと思うて。力だけはあったゆえ、何かあったら手伝うことはしたがの。」

高彰が、口を挟んだ。

「…我らの宮は、主らより遠く遅れて建てられたのだが、それでも初代龍王の賢さは伝え聞いておるからの。初代龍王が太平を目指して種族でまとまり、まず内戦を終結させ、その後外に向けて戦をする気も起こらぬように強権的に統治を始めたのは歴史を読んで知っておる。そんな混沌とした時代に、ようそんなことを考え出したなと我は子供ながらに感心して、そしてやはり龍には敵わぬと王座に就いてからは従う事を選んだ。前の生での事であるがな。」

炎嘉は、苦笑した。

「そうだの、とりあえず戦国が収まった後でも、主の宮は我ではなく維心についておったものな。臣下達は目の上のたんこぶだと言うておったのを思い出す。あの頃はまだ、あやつらは世の覇権を握ろうとしておったものよ。我にはそんな気はなかったのにの。懐かしい。」

維心は、言った。

「碧黎にたぶらかされて一度我が宮に攻め入ったくせに。」と、炎嘉が言い返そうとするのに、手を振った。「良い。昔の事よ。後に宮を滅ぼしたしの。お互い様よ。」

漸は、ため息をついた。

「…やはり歴史を学ぼう。雷嘉が維心の所できちんと教育されて戻ったので、あれは我に教えてくれようとするのだが、面倒でなあ。何しろ礼儀やら常識やらが先だと、未だに皆で講習会に出ては落第点を採っておる始末。我が未だに試験に通らぬ事は臣下には内緒にしておる。」

志心が、心配そうに言った。

「難しいか?確かにいろいろ決まりがあるし、王族ともなると更に細かい決まりがあるからの。我らは生まれながらにそんな中におるゆえ、自然身に付いておるが、主はそうはいかぬだろうに。どうしたものかの。」

維心は、言った。

「それでも筆頭の貫はとっくに合格してよう我が宮に参っておるぞ。義心と立ち合うのだと言うて。毎回こてんぱんにされておるがの。」

漸は、苦々しい顔をした。

「あれは賢いのよ。とはいえ義心に敵わぬと嬉しそうに申して通っておるわ。我ぐらいしか相手にならなんだのに、義心があまりにも強いゆえ面白いらしゅうてな。相当の手練れらしいの。」

それには焔が言った。

「あやつは維心が居らねば恐らく王になっておった。前にドラゴン城が瘴気に沈みそうになった時、あやつは領地と宮に事も無げに結界を張ったからの。本気になったらあれには敵わぬ。ちなみに我も勝てる気がしない。なので未だに手合わせしたことがない。」

炎嘉が、笑った。

「なんだ、だからか。一度も義心と立ち合わぬと思うたら。我も三本に一本は負ける。維心はあれに負けた事がないのにの。」

漸は、興味を持ったようだった。

「誠か。ならば我も義心と立ち合ってみたいの。維心は良い、敵わぬのは前世で知っておるから。」

維心は、眉を上げた。

「ならば立ち合うか?今、鳥の宮の訓練場に居るのではないかの。主についてきた貫が義心を見てやろうやろうとうるさいゆえ、義心は困っておった。なので我は義心にそれを許したのだ。」

炎嘉が、お、と杯を置いた。

「面白い。漸がどこまでやるのか見てみたいしな。行くか。」

今から?!

覚達は驚いた顔をしたが、翠明は慣れているので言った。

「なんぞ、またか。甲冑もないのに袿に穴を開けたら綾が怒る。ゆえに我は見ておるからの。」

こんなことがしょっちゅうなのか。

覚と加栄、英は顔を見合わせていた。

焔が俄然やる気になって立ち上がった。

「良い!弦の甲冑を脱がせて着るゆえ!あれとちょうど同じサイズなのよ。さあ、行くぞ!」

弦とは焔の筆頭軍神だ。

甲冑をいきなり剥ぎ取られる弦も気の毒だなと皆思った。

そうして、壇上に居る王達は、いきなり言い出した維心や焔に促されて、仕方なく訓練場へと向かったのだった。

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