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宮の話

結局、三人で考えた結果、新しく加わる神が居るので、歓迎の意味を込めて、昔から有名な友との再会を喜ぶ曲、一般的に「再会の祝い」といわれている曲を演奏することにした。

本来多くの楽器を使うのだが、案外にいけるものだと綾が言う。

いつも、綾は筝の琴を使うのだが、今回は維月と共に十七弦を演奏すると言っていた。

ちなみに天音も、その曲ならば一般的だから知っていると言って、前向きだった。

維月も知ってはいるが里帰りの時に碧黎に教わって弾いたことがある記憶しかなかった。

だが、綾は維月に主旋律を任せる、と言って、自分はひたすらフォローに回るつもりらしかった。

それが心強かったので、維月は引き受ける事にして、二人で弦の調子を見ながら、天音も笛を袋から出して調子を見た。

…みんな呑気にお酒を飲んじゃって。

維月は、チラと向こうの桟敷を見て、思った。

ほんとにこういう所が、自分の心が狭いのかもしれないが、ちょっとムカついた。

妃に場を整えさせて自分達は後から楽しむってどうよ。

維月はそう思ったが、気持ちが音に出てしまうので、なるべく抑えよう、と思いながら琴の音を合わせていた。


維心は、こちらでぽろぽろと調子を合わせる音が聴こえて来るのに顔を上げた。

どうも、笛の音も少しするようなので、笛を扱う者も居るらしい。

炎嘉が、お、という顔をした。

「…始まるかの。待たせるではないか、思わせぶりだのう。」

翠明が、言った。

「前に聞いた金蓮花が忘れられぬでなあ。聞きたいものだが、いきなりでは無理か。」

炎嘉は、笑った。

「面子が前と違うしの。あれは維斗の妃の夕貴が胡弓を良くしておったし聞きごたえがあったが、本日は居らぬだろう。」

維心は、そうやって炎嘉が話して居る間も、調子を合わせている音に耳をそばだてていたが、少し眉を寄せた。

漸が、隣りから維心を見た。

「どうした?何か気になることでもあるか。」

維心は、むっつりと漸を見たが、言った。

「…維月が怒っておる。」

漸は、驚いた顔をした。

「え?」

炎嘉が、漸の向こうから笑った。

「ハハハ、音で分かるか。確かにの、何やらピリピリしておるような。」

漸が、心配そうに言った。

「我のせいかの。あの折、あやつには無礼な様であったのではないか?我には、こちらの礼儀とかそんなものは全く分からぬし、女の扱いも恐らく主らより悪かろうし。」

炎嘉は、首を振った。

「維月はそんな小さい女ではないわ。恐らく、維心は事前に演奏してくれとか維月に言うておらなんだのではないのか?だから、急に振られて怒っておるのだ。それならそれで準備があった、とかなんとか。」

維心は、ため息をついた。

「後で謝っておこう。時々、維月が気強い女であると忘れて臣下のように命じてしもうて反感を買うのよ。あれが怒ると尋常でないほど怖いからの。」

漸は、神妙な顔で頷く。

「確かにかなりの手練れであったしなあ。あやつが怒ったら確かに怖かろうの。我は逃げられて幸運だったということか。」

焔が言った。

「何ぞ、主は維月に会うたことがあるか。」

漸は、また頷く。

「ここに、面倒な輩が居た事があって。その折に維心の留守に侵入してそれらを殺そうとしたのだ。そうしたら義心に気付かれて、逃げようと潜んだ先に維月が来た。あれは刀を宙から呼び出すのだ。女であんな力のあるのは初めて見たので珍しかったわ。」

焔は、何度も頷いた。

「あれが怒ったら、我だったら訓練場でこてんぱんにされてしまうわ。月の能力の恐ろしさは並ではないからの。主、そういえばこちらの事はどれぐらい知っておるのだ。特に礼儀とか問題はないようにも見えるが。」

漸は、答えた。

「少しぐらいなら知っておる。領地の中だけでは素材などなかなか間に合わぬ時があるし、外へ材料を取りに出たりしておったからの。時々、外から珍しい物を手に入れて来ることがあって、楽器も主らが使うようなものは大体宮にあるわ。犬だと気取られるとそれなりに面倒だし、北の大陸やら北西の大陸やらから取り寄せることが多かったので、主らより先にあちらの大陸には出入りしていて、あちらの物が多い感じぞ。」

維心が、意外だったので眉を上げた。

「誠か。では、いろいろ進んでおるのか。」

漸は、頷いた。

「そういう技術的な事はの。外から手に入れた物をバラして皆でどうやって作ったのかと悩んでのう。そういう事で技術を向上させておった。」と、目の前に散らばる楽器を見た。「ここにある物は全て弾ける。とはいえ、それが正しい使い方がどうかも分からぬし、そもそも曲は宮で作ったものばかりで、主らの一般的とかいう曲は全く知らぬ。」

焔が、興味を持ったように漸に膝を進めて近付いた。

「誠に?ならば主、我らが知らぬ曲を知っておると言う事よな。面白い、独自に発展した文化ぞ。これはしばらく退屈せずに済みそうな。」

箔炎も、何度も頷く。

「誠に。最近同じものばかりで飽きて来ておったが、新しいものを聞けるなど珍しい。思うたら主の宮へも行きたいものよ。大きさは?」

漸は、素直にいちいち答えた。

「大きさは、ここの半分ぐらい。」と、龍の宮をぐるりと指差した。「維翔がバカでかい宮を建てたし、そんなものかと我も倣って作ったのだ。そうしたら、あやつは増設してどんどん大きくなって。気が付いたらこちらが神世最大の宮になっておった。ま、そんなものよな。あやつの臣下は多かったし、元の大きさでは収まり切れぬだろうし。我はもう、面倒だから宮の他に離宮を建ててそこに下位の臣下の執務をする場所を作ってある。ついでに職人も下位ならそこ。増築すると、あちこち穴を開けたり工事の間うるそうてな。」

維心は、ほほう、と興味を持って身を乗り出した。

「主は臣下は幾人居るのだ。それほどに多いか?軍神は?」

漸は、言った。

「今の軍神の数は4万5千。そういえば、我の筆頭軍神は(かん)と申しての。あれが義心と立ち合ってみたいと申しておったわ。己と同じぐらいの気の軍神など初めて見たと喜んでおった。やはり外に出て来るものだのうと話しておったのだが。」

漸はさらりと言っているが、龍の宮の軍神が五万なのでどう考えても、この中では二番目に数が多い。

皆も思ったようで、驚いた顔をした。

「待て、四万五千?!」焔が言う。「もしかして、主の宮はかなりの規模なのではないのか。」

漸は、訝し気に焔を見た。

「…そう申したはずだが?維翔が宮を建てたから、我も同じ規模で建てたと申したであろうが。少なかったらそんな大きさは要らぬわ。昔は龍と鳥と共に駆け回っておったからの。今は減る事もないし増える一方で、籠っておるのも退屈だと皆、思い始めておったから、今大喜びでいるのだ。」

考えたらそうだ。

力があったからこそ、昔龍と鳥と仲が良かったのだろう。

だとしたら、これから多くの犬神が、あちこち出て来る事になるのだ。

炎嘉が、ふと言った。

「そういえば、主、妃は?」

漸は、顔をしかめた。

「妃?ああ、女か。主らは、手を付けた女をそう呼ぶのだの。」

全員が仰天した顔をした。

もしや、婚姻という関係がない?

「…ちょっと待て、婚姻制度がないか?」

炎嘉が言うと、漸は眉を寄せた。

「婚姻とは何ぞ。」

やっぱり。

太古から宮を閉じていて、開いたからと良い事ばかりではない。

炎嘉は、そう思った。

手を付けた女、と言っているという事は、そういう関係になっても生活が保障されないという事で、女の扱いがかなり悪いと思われた。

炎嘉は、説明した。

「あのな、我らは手を付けたら婚姻という制度にお互い縛られることになるのよ。つまり、男は手を付けた時点でその女の夫として、全ての面倒を見る責任が生じるのだ。幾人でもな。あちらに連れて参っておるのは、別に気に入っておるとかそんな意味でなくて、妃、つまり己の連れ合いとして決めた、それぞれにとって特別な女ぞ。昔のように、気に入ったからと貸し借りとかもできぬ。そんなものではないからの。」

漸は、驚いた顔をした。

「え、維心は維翔と同じであるから維月を貸してはくれぬだろうなあと思うておったが、妃というのは手を付けた女というだけではないのか?特別?」

どう説明したらいいのだろう。

皆が困っていると、向こうからポロンポロンと演奏が始まった。

「…それは後ぞ。」維心が、言った。「とりあえず演奏を聞こう。それから、皆で漸の意識を変えられるように説明するしかないの。」

皆は頷いて、演奏に耳を傾けた。

どうやら、二つの十七弦と、笛だけの演奏のようだった。

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