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腕試し

四人が中央で、二人ずつに分かれて立っているのを見ながら、炎嘉が言った。

「…思うに、主は義心に多くを求め過ぎておるのではないのか。夕凪が(かせ)になって、しかも相手は二人であるし、手の内を我らに見せようなどできるのかの。チラと見たが、貫も柊もそれなりの腕ぞ。我でも鬱陶しいなと思う任よ。」

維心は、フフンと笑った。

「ま、見ておるが良い。あれは、出来ぬ事は出来ぬとまず申す。その上で我の指示を仰ぐ。それでもやれと申したらやる。できるところまでの。此度、あれは出来ぬとは一言も言わなんだ。夕凪の事はできぬと申しておったろう。」

志心が、顔をしかめた。

「また義心か。あやつが主の懐刀である限り、誰も主に逆らおうなどとは思わぬだろうの。うちの夕凪も、義心が仲間となると知った途端に安堵した顔になっておったわ。そら…始まるぞ。」

炎嘉が、声を張った。

「では、我が審判を。我が止めと言うたら、動きを止めよ。それでは、始めよ!」

全員が、スッと宙に浮き上がったかと思うと、一瞬にして姿が掻き消えたようになり、上空で激しく立ち合いが始まった。

王達は、それを見上げてじっと観察し始めた。


一方、義心は中央の場に立って、相手が小声で何か話しているのを見た。

なので、こちらも夕凪に小さく言った。

「…主はいつも通りに動け。我の事は気遣うでない。我は主の回りを補佐して回る。すぐに討ち取ってはならぬぞ。王のご命令ぞ。」

夕凪は、頷く。

「主は我の刀を勝手に避けるのだな?」

義心は、頷いた。

「その通りぞ。問題ない。」

だろうな。

夕凪は、その自信に内心苦笑した。

義心相手に一本入った事もない。完全に見切られてしまうので、それが味方ならこれ程心強い事はなかった。

いつも龍王の回りで補佐する役割の義心なのだから、こちらの動きを避ける事など朝飯前なのだろう。

何しろ、龍王ほど手練れな神はこの世に居ないからだ。

この世で唯一義心が全く敵わぬ相手、それが維心だった。

あの月の維月ですら、時々に義心には一本取られるのだと聞いている。

月をまけるほどの技術があるのだから、誰も敵わないのも道理なのだ。

なので、それを恨む事はもうなかった。

今はただ、義心から技術を盗む事に皆、全力を傾けているのだ。

炎嘉の声が始まりを告げる。

夕凪は、義心を意識から消して、目の前の二人に一人で対峙しているように気持ちを切り替えて、一気に向かって行った。


「…ほう。」見上げながら、駿が言う。「よう動きよるな、貫と柊は。夕凪は志心と同じですばしこい上、双剣なので、太刀筋が違うし面倒なのだ。それを、上手くかわしておる。」

志心は、頷いた。

「同じようにすばしこいからぞ。しかも、常に共に励んでおった筆頭と次席であるから、お互いの動きを知っておって動きが綺麗に連携しておる。なかなかに良い動き、夕凪一人ではあの二人にはかなり手こずったであろうな。」

漸は、それを聞きながら立ち合いを睨むように凝視していた。

夕凪はひたすら斬り込んでいて、義心が取りこぼした太刀を代わりに受けて上手く流している。

義心の動きは間違いなく傍観者のそれで、これを終わらせないように配慮しながらのようだった。

夕凪一人がまともに二人と対峙しているような形なので、断然夕凪の方が疲れているだろう。

「…うーむ、夕凪をあそこまで疲れさせるのは上手い証拠ぞ。」炎嘉が言う。「義心が、焦れた夕凪が仕留めてしまわぬように配慮して、貫と柊にも不利にならぬように上手く立ち回っておる。夕凪とは力は拮抗しておりそうだの。」

志心は、頷いた。

「確かにの。実戦では恐らく簡単には討ち取らせてもらえまい。よう分かったわ。」と、維心を見た。「そろそろ夕凪の手数が減って参る頃ぞ。」

維心は、頷いた。

「そうだの。」と、言った。「義心!もう良いぞ!」

義心は、その声に気を取られた夕凪の剣が、貫によって片方飛ぶのを見て、言った。

「退け!夕凪!」

夕凪は、スッと下に退いた。

ハッとした顔の貫と柊が、飛び出して来た義心に対応しようと体勢を整える前に、義心は一瞬で次々に二人の刀を手から弾き飛ばした。

「…止め!」炎嘉が、叫んだ。「こちらへ参れ!」

四人は、宙に浮いていたが、飛ばされた刀を拾ってこちらへと戻って来た。

義心が先に到着し、維心の前に膝をつく。

他の三人は遅れて来て刀を鞘に収め、息を上げながら膝をついた。

漸が、言った。

「…結局、義心には全く敵わぬか。」

その声に、貫と柊が項垂れている。

炎嘉が、庇うように言った。

「我でも三本に一本は取られるほどの腕ぞ。主も知っておろうが。こやつが全く敵わぬのは、維心だけぞ。」

維心が、頷いた。

「義心は場数が違う。前世(まえ)の記憶もあるしな。むしろ貫と柊は若いのに、ようやったと思うぞ。夕凪の動きは、ここに居る王達とて面倒に思うほどのものであるからな。それに義心が居って、受ける圧力も半端なかったはず。ようやったと思う。」と、義心を見た。「主はどう思う?」

義心は、答えた。

「は。前に立ち合った時より、かなり腕を上げておりました。二人同時に立ち合ったのは初めてでありますが、連携が素晴らしいと思いましたところ。別に、夕凪の技術がこの立ち合いの最中に格段に上がって行ったのを目の当たりにして、侮ってはならぬなと思いました。」

そう、夕凪は貫と柊に対峙して、ぐんぐんと慣れて行き、見たこともない動きをその最中に編み出していた。

志心は、満足げに頷く。

「あの真っ只中でそれに気付いておったか義心よ。我も驚いた。夕凪は短期決戦型で長く立ち合う事がないので、どうにも最近では伸びておらなんだのが、今の立ち合いで苦しみながらあちこち己で咄嗟に考えた動きをしておった。誇らしく思うたものぞ。それを引き出すほどに手練れである貫と柊は、間違いなく最上位の軍神に相応しいと我は思うぞ。」

貫と柊は、思いもよらずそんなことを言われたので、顔を赤くした。

それは夕凪も同じだった。

箔炎が、言った。

「義心に敵わぬのは仕方がない。皆が分かっておったことぞ。ここに居並ぶ王の大半が義心に負けた事があるし、一度も勝てぬ王すら居る。主らはそれを恥じるのではなく、義心と立ち合っても形になるだけの技術があることを誇るべきよ。」と、維心を見た。「それで?主はここまで見てどう感じたのだ。」

維心は、答えた。

「…我は、ここまで見て漸の宮はまごうことなく最上位であると思う。職人は良いし、軍神も今後神世を引っ張って行く頼りになりそうぞ。」と、漸を見た。「ただ、漸よ。主と志心を比べた時に、この太平の世を形作る礎を築いたのは我らと志心であるから、どうしても主の評価はその下になる。つまりは、四位。我の答えはそれぞ。炎嘉は?」

炎嘉は、頷いた。

「我もそのように。宮は他と遜色ない事が分かったし、焔と箔炎とて戦国には引きこもっていた王。宮の様子がその二人と変わらぬとしたら、主の気の大きさから考えて主はその上の四位が妥当な位置。他はどう思う?」

焔は、頷いた。

「我は元よりそうなるだろうと思うておったし、この宮の力ならば我らの上でも異議はない。」

箔炎も、頷く。

「同じ引きこもりの過去があるゆえ文句など言わぬわ。良い宮であった。我も同意する。」

ここで採決するのか。

漸は、訓練場に立ったまま、皆が次々に思う結果を言い出したので驚いていた。

駿も、言った。

「我も異存はない。そもそも我はここまで大きな宮もない。職人にまずまずであるし、異論などあるはずもない。」

高彰も、頷く。

「我もそのように。あれこれこれまで王族が面倒を起こした宮であるしな。文句など言えようはずもない。」

確かに高彰が戻るまで、大変な宮だった。

樹伊も、言った。

「我も異論はない。」

翠明が、公明を見てから頷いた。

「元より我らは異論などない。我らはまだ新参者の類いであるしの。主らが決めた通りに。」

覚、英、加栄もそれに同意し、これにより余程の事がない限り、犬神の宮は最上位四位と取り決められた。

こうして、正式に序列が確定することになったのだった。

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