序列
今の序列は、確定されているのは最上位では維心、炎嘉、志心、箔炎、焔、そしてそこに蒼が挟まり、駿、高彰と続いていた。
蒼も最初は最上位の中で地位が定まらなかったが、維心が維月を娶って宮を与えたので龍が補佐するようになり、そこで一気に序列がついた。
そこからは、これで確定して来ていた。
後から戻った箔炎や焔にしても、宮は最初からきちんとしていたし、何より気が大きく元から維心の友で炎嘉の眷属だ。
なので、戻ってすぐに位置は確定したのだ。
思えば、どんな時も上位三名は変わらず、月という特殊な眷属が紛れても志心は三位だった。
なので、漸が戻ったからと変わるはずもなかったのだ。
そもそも蒼など月なのだから、碧黎を抱えているのだし地上への貢献からいうと計り知れない。
それなのにこの地位なのだから、言われてみたら志心の序列が下がるのはおかしな話だったのだ。
他、上から二番目でいうと旭など翠明に匹敵する大きさの宮を有し、気も大きいのに蝦夷で滅多にこちらに関わらないので序列が低い。
他の事を考えても、ここで漸を高い地位に付けようとすれば、それ相応の理由が要るだろうと思われた。
そんなこんなで会合はいつも通り終わり、大広間へと移動した一同は、下位の王達と離れて檀上にまとまった上位の王達は、並んで盃を手にしていた。
炎嘉が、言った。
「漸、顔色が優れぬの。やはり準備が大層か。ならば、もっと後にしても良いぞ?月が現れた時も、蒼は長く序列が定まっておらなんだ。まだ神世に来て時が経っておらなんだから、力の大きさから最上位だとは定められておったが、具体的な地位は決めておらなんだのだ。主も、蒼と同じようなものであるし、もっと後でも良いぞ?落ち着かぬかと思うたから、妃も娶ったしちょうど良いかと今にしただけであるからの。」
漸は、むっつりと炎嘉を見た。
「別に、我は今さら序列がどうの何も言わぬ。何より、我はこれまで単独で生きておったから、他の神と関わっておったのは遥か昔の前世の記憶でしかないし、その頃は宮さえできたばかりで混沌としておった。序列というてハッキリ決めておらなんだが、それでも力の差から龍が一番かという感じであっただけで。ここまでにしたのは主らの力であるし、我はこちらでの地位にはこだわらぬよ。中では未だ我らの価値観の中で生活しておるし、主らとは一線を画しておるからな。それに、志心には言うたが我はこれまでこちらの平和や他の神の世話など一切して来なかった。綺麗に出来上がった所に、ではと高い地位で戻る方が気詰まりであるわ。臣下にも申しておるし、あれらもそこまで序列に拘ってはおらぬ。ただ、無様に見えることだけは否と毎日準備しておるだけ。」
維心は、それを聞いてため息をついた。
「主の言うは分かる。だがの、これからこちらに戻って参るのならいろいろ序列は大切になって参るのだ。宮へ到着して下りる順にしても、序列が上の者から順にと定められておるからの。そうでないと誰が先だと面倒も起こるゆえ、何事も円滑に進めるための事なのだ。後からならばもう少し上が良いとか言われても、実績がないと簡単には上げられぬ。できるだけ、上の方が良いのは確かだと思う。」
焔が、頷いた。
「それはそうよ。我は神世を引っ込んでおったのが悔やまれたもの。何しろ長く待たされるからの。維心などいつなり後から来て先に降りるのだから、羨ましい限りぞ。だが、維心は神世全てを見ておるし、何より宮が最大で、他より臣下まで優れておるのだから仕方がない。それが序列というものぞ。主も、控えめで無欲なのは良いことであるが、後の事を考えてもここでできるだけ高い位置になるように、励んだ方が良い。」
漸は、ため息をついた。
「そも、我らの常識と全く違う。」漸は、大広間を見回した。「この設えにしても対応にしても、一々何も知らぬから、瑞が片っ端から実演させて毎日練習ぞ。視線一つが関わるとか言うし、気を遣って皆疲弊しておる。我は、別に誰に見られても特に気にせぬから。維心、主は影から見られておっても咎めるらしいではないか。」
維心は、顔をしかめる。
志心が、庇うように言った。
「維心はその昔、あまりにも女が寄って来過ぎて面倒過ぎて片っ端から切ろうとした事があったゆえ、我らで維心は見るなと決めた事なのだ。見るとこの容姿であるから、惹かれて大騒ぎになるからぞ。もう、ならば見ない方が良いと思うて。維心が定めたわけではないのよ。」
炎嘉も、頷いた。
「臣下が妃候補を連れて来ても、臣下諸共切った事まであるのだぞ。主は知らぬからそう思うのだろうが、今は影から見るぐらいでは維心も咎めぬ。ただ、嫌な顔をするだけぞ。維月が居るし、そうそう刀を抜く事もないゆえ。一応、決まっておる事にはそれなりのワケがあるのだ。我ら上位の宮の王は、力も財力もあるゆえ、放って置いたらいくらでも女神が寄って参って大変なのだぞ。主は面倒な中で生きておるのだなと前に言うたではないか。庭を歩いておるだけで、噂になって回りから固められて妃に迎える事になってしまうと知った時。こちらは、複数を娶る事ができるというて、それなりの理由があっての事なのだ。女の方から寝ておったら寝所に潜んで来て、気付かず朝になって妃だとか言われる事もあるからなのだ。分かるか?我らはそういった柵の中に居るのだ。主とて、気を付けねば同じ憂き目にあうのだぞ。」
漸は、恐れおののく顔をした。
「え、押し掛けて来ても妃になるのか?」
志心が、頷いた。
「だから、言うたではないか。一晩何もしておらぬでも共に過ごしたら責任を取る必要があるのよ。女神が理不尽に扱われるからと決められた婚姻制度も、逆に利用される可能性もあるということなのだ。だからこそ、見るのも許さぬとかなるわけよ。炎嘉が言うたように、それなりの理由があって出来て行った決まりなのだ。」
漸は、なんと面倒なのだろう、と思った。
そんな規則があったら、漸の部屋になどいくらでも女神が入って来て朝まで過ごして行くだろう。
そう思うと、王達の警戒のしようも分かった気がした。
「…知らなんだ。いろいろ学んだつもりでおったが、そんなことまでまだ習っておらぬ。ならば、瑞が言い寄って来なんだのも道理ぞ。きちんと取り決めを守っておったからなのだ。それにしても…主らの世では、我はかなり無防備であるのだな。」
維心は、何度も頷いた。
「その通りよ。主は知らぬでようおかしなことにならなんだなと思うたが、通っておったのがあの月の宮であるから良かったのやもしれぬ。あそこでは、余程でないと清浄な気の効果で面倒は起こらぬしな。まあ、余程なヤツも居るので厄介なのだが。」
志心は、言った。
「とにかく、何位になろうとも最上位であるのは変わりないし、主はもう少し気を付けた方が良い。我らも分かっておるし、こちらの女も犬神だけは、そういう仲になったからと一生面倒を見てくれるわけではないと知っておるからわざわざ選んでは行かぬだろうが、瑞を娶ったしな。もしやと思うておるやもしれぬ。気を付けよ。娶るのが否なら、斬らねばならぬようになるぞ。斬ったら斬ったで、後始末がかなり面倒になるゆえ、罪もない女神を斬り殺す残虐な神と維心のように思われるのが否ならようよう気を付けてな。」
維心は、フンと鼻を鳴らした。
「なぜに望んでもおらぬ女を傍に置いて面倒を見ねばならぬのよ。しかも、こちらを陥れるような事をしたのに。斬ったら良いのよ。そうしたら、いつの間にか誰も近寄って来ぬようになるゆえ。」
漸が、さすがにそれは寝覚めが悪いと目を丸くすると、志心が言った。
「こら、主は!その通りだが、非力な女神を斬ったら後味が悪いではないか。」と、漸を見た。「まあ斬らぬでも、他に方法はあるゆえ。罪を着せて宮を追放したり、いろいろ影でできる。ゆえ、そんな事になったら我らに相談せよ。維心のような方法は、極端すぎて許されるのは維心ぐらいのものぞ。戦国の昔であって、回りで命があちこち散っておって皆、鈍感になっておってそんな事もありかとなっておったが、今は違う。とにかく、斬る前に我らに相談するのだぞ。」
漸は頷いたが、そろそろいろいろ面倒になって来て、戻って来たのが果たして良かったのかと、段々に後悔しそうになっていたのだった。




