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大騒ぎ

そんなこんなで婚姻早々大騒ぎの宮を後に、漸は皐月の会合へと向かった。

貫も、連日宿舎の設え直しやら、ついて来た軍神控えの準備やらで大わらわで、さすがに疲れた顔をしている。

今は次席の(しゅう)が居残って貫の代わりに皆を統率して大改造しているが、柊も連日の大騒ぎと、試合のための鍛錬に、疲れて来ているのは顔を見て分かっていた。

漸は、ここまで皆を疲弊させてまで、宮の地位を高くせねばならぬものなのか、と疑問を感じて来ていた。

今回の会合の場は、白虎の宮だった。

白虎の宮は白亜の宮で、それは美しい。

遠くから見ても、光輝いているのではないかと思うほど、外壁も美しく掃除されていて完璧だった。

漸は、これまで内々だけで生活していたので、誰かに外からどう見られるかなど、考えた事もなかった。

だが、こうして見てみると、確かに宮は美しい方がいい。

白虎の宮の到着口へと降り立つと、漸は言った。

「貫。しばしの間休め。こちらに居る間は立ち合いや宮の設えの事は考えるでない。とにかく、また帰ったらいろいろあるのだから、今だけでもゆっくりせよ。」

貫は、頭を下げた。

「は。しかしながら、気になってしもうて訓練場に行って、一試合して参りたい心地でありまして。じっとしておる方が、今は心に重いのです。」

漸は、ため息をついた。

「仕方のない。ならば、行って参っても良いが、無理はするな。」

貫は、疲れた顔だがホッとしたように頷いた。

「は。」

貫がその場を立ち去ると、志心が奥から出て来て漸を出迎えて、言った。

「漸。どうしたのよ、婚姻からそう時が経っておらぬのに、何やら疲れておるような。もしや気にいらなんだとか言うまいの。」

漸は、顔をしかめた。

「焔ではあるまいに。違う、序列の確定とか維心が言うて来たではないか。来客など受けた事もないし、考えた事もないような宮であるのに、そこから設え直さねばならぬのだから、やることが多うてどうしようもないのよ。よう考えて主らの宮に来ておったわけではないから、我もそこまでは考えておらなんだが、瑞が申すのを聞いておったらかなりまずいことになるだろうと、皆必死なのだ。ゆえ、疲れておるのだ。」

志心は、漸と並んで歩きながら、言った。

「そうか、我らは昔からこうであるから考えた事も無かったが、確かにの。来客などない宮に居るのだから、我らが行くというだけで大騒ぎになるのだな。そこまでとは思わずで。ならば、時を空けるか?我が維心に申しても良いぞ。炎嘉は次の会合で、主の序列をしっかりさせたいと申しておったがの。」

漸は、ため息をついた。

「良い。仕方がないからぞ。もう、この際別に何位であっても我は良い。これまで考えた事もなかったが、他の宮の美しさはどうよ。主の宮も、遠くから見て光り輝いておるように見えた。しっかり管理できておるという事ぞ。今さら、戻って来たからと我が宮が主の上などおこがましいわ。宮の序列というもの、王の気の大きさばかりではないのだろう?」

志心は、あまりにも直球に素直にそんなことを言う漸に、一瞬絶句した。

が、困ったように言った。

「…まあ、確かに宮の序列とは王の気ばかりではない。それゆえ、宮を見に参ろうと申しておるのだからの。だが、石造りであったら洗えばそれなりに綺麗に見えるし、うちは総大理石であるから美しく見えて当然なのだ。そこまで己を卑下するでない。とりあえず、できる所までやって見よ。臣下も励んでおるのだろう?」

漸は、頷いた。

「臣下には、昨日無理のない範囲でやれと申した。別に我は、序列にはこだわらぬし、これまで主らが整えて守って参った世に、平和になってから戻って参ったのに。何の貢献もしておらぬ。ゆえ、それは臣下にも重々申したのだ。我は、特に上へとは願っておらぬと。皆が疲弊しては本末転倒であるからな。」

誠に、漸は変な意地もプライドもない、素直なヤツぞ。

志心は、その言葉を聞いてそう思った。

未だに神世では己の宮の序列を重く見て、それに一喜一憂する宮が多い中で、漸のような王は珍しい。

志心は、この話は他の王にもしておこう、と思いながら歩いていたのだった。


まだ維心と炎嘉が来ていないので、控えの間へと案内された漸は、あちこちその部屋を見て回った。

やはり、瑞花が言っていた通り、置いてある物はみな、一級品で垂れ下がる布すら良い物だ。

ここが、上位の宮の王達を迎える部屋なのだ。

…やはり、細かい事は意識しておらなんだゆえ。

漸は、後悔した。

こういった所は全く気にしない方だったが、確かに居心地が良いのは漸にも分かる。

瑞の言うように、あちこち変えていて正解なのだ。

漸は、ため息をついた。

もう序列にはこだわらないが、せめて見下される事がないように、とにかくできることはやっておこう、と、そこで待つ間思った。


志心はと言えば、最後に到着した維心と炎嘉を出迎えていた。

炎嘉が、慣れたように輿から降りて来て言った。

「此度はご苦労であるな、志心よ。なにやら宮が綺麗であったが、何かあるか。」

志心は、答えた。

「去年は年末に大洗できておらなんだので、地震が終わって我が花見で留守にしておる間に、臣下が外を大洗したからぞ。なのに漸は常、このようだと思うたのか、己の宮が我の下なのではないかと卑屈になっておって。何しろあちらは来客など受けた事もない宮であるゆえ、我らが参ると聞いて大騒ぎしておるそうな。これ以上臣下を疲弊させたくないし、序列にこだわらぬから我の下でも良いとかなんとか。神世に貢献してこなかったゆえ、今さらという思いもあるらしい。」

後ろから、維心が言った。

「まあ、確かにそれはそうなのだ。主が気の量を見てあれを己の上にというのは分かるのだが、我らもそれは話しておった。戦国を終わらせたのは主や我らの力であって、漸は全く関わっておらぬ。ゆえ、そこは考慮に入れねばとの。」

炎嘉は、頷いた。

「そも、箔炎や焔が主より下なのはそこを加味されておるから。気の大きさも宮の格もそう変わらぬではないか。なので、漸はどう考慮しても主の下の四位か、それとも神世に戻って参った順から言って焔の下の六位かと話しておったのよ。漸は、確かに我の次に気が大きいが、後は宮の様子と神世への貢献度であろうと我らも考えておる。主が言うのは、とにかく気の大きさであろう?しかも、宮の様子は主らと変わらぬとしての判断で。」

言われてみたらそうだ。

志心は、頷いた。

「…確かに、あれの気の大きさならばそれなりだろうと宮の中まで深くは考えておらなんだし、貢献とてこれからかと考えておったから。では、四位以下と考えておると?」

維心は、頷いた。

「その通りよ。太平の世に対する主の貢献度は高いからの。主が我らに従わなければ、まだ我はあちこち滅ぼさねばならなんだ。そう考えるとやはり、他とは格が違うわ。」

言われてみたらそうなのかも知れない。

志心は、それを聞いて思った。

漸がああいうのも道理なのだ。

炎嘉が、歩き出しながら言った。

「ゆえ、漸はよう分かっておるのだなと安堵した。とりあえず宮の様子を見て、箔炎や焔と比べて変わらぬようなら四位に。劣るようなら六位と考えておる。恐らく箔炎も焔も分かっておるのではないか?」

二人について歩きながら、志心は頷いた。

しかし漸はああいうが、たかが序列、されど序列なのだ。

何かあれば序列順にいろいろ動く事になるし、序列が物を言う世の中だ。

志心は、己の貢献をこの二人が高く評価してくれているのに今さらながらに気付いて、何やら嬉しいような気がしていた。

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