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開が、慌てて部屋へと駆け込んで来た。

「王!龍王様から御文が!」

炎嘉は、巻物を膝に考え込んでいるところだったので、眉を寄せた。

「は?維心から?珍しいことでもないのに、何を慌てておるのよ。面倒な事でも言うてきたのか。」

開は、ハアハアと息を上げながら、胸から書状を引っ張り出して炎嘉に差し出す。

「我には読めぬのでありまする!いつもの事と先にご確認をと開いてみたら、龍王様からの直筆の御文で!」

炎嘉は、目を見開いた。

「なに?!維心の直筆だと?!」

あの筆不精が書いて来るなどただ事ではない。

炎嘉は、急いでそれを開いた。

間違いなく維心の直筆で、相変わらず匂い立つように美しい文字だ。

だが、内容はそろそろ漸の宮に皆で参って序列を正式に決めよう、ということと、付け足したように万華の着物を仕立てさせておるから待て、ということだけだ。

正式な書状ではなく、私的な書簡のようだった。

「…どういうことよ。」炎嘉は、困惑した。「あれが我に文?どう見ても適当に思い付いたままに書いたように見えるが。」

「…拝見して良いでしょうか。」

開は、黙って頷く炎嘉からそれを受け取って、眉を寄せた。

「…何か、王と龍王様の間だけに分かる暗号のようなものは?」

炎嘉は、首を振った。

「どこにそんな余地がある。こんな短い文なのに。」と、立ち上がった。「ちょっと行って参るわ。何か我に話があって、それで来させようとしておるのやも知れぬし。」

開は、何度も頷いた。

「は。誠に何かあったのかも知れませぬ。他の王には気取られてはと思われたのかもしれませぬし。」

炎嘉は深刻な顔で頷いて、そうしてさっさと居間の窓から飛んで出て行ったのだった。


維月はまだ仕立ての龍の所か。

段々に退屈になって来た維心が、呼びに行かせようかと考えあぐねていると、居間の窓から声がした。

「維心!」

維心は、ハッとした。

…考え事をしておったから、またこやつを無意識に通してしもうた。

維心は内心舌打ちをした。

何しろ維心の結界を出入りする神は多く、ほとんど無意識に入れたり弾いたりしているので、炎嘉のことも臣下同様、無意識に通してしまう。

意識に上る頃には、もう炎嘉はここに来ているという感じだった。

「…何ぞ、来たのか。文を返せば良かろうが。何故にわざわざ参るのだ。しかも、部屋着のままで。」

炎嘉は、心外な、という顔をした。

「何かあったから来いということではないのか。主が直筆の文など送って来るゆえ、暗に来いと言うておるのだと急いで来たのに。」

維心は、暇だったから己で書いたのが悪かったかと顔をしかめた。

「べつに気が向いたから書いただけぞ。すぐにでも着物が欲しいから飛んで来たのかと思うたわ。」

炎嘉は、はあ?と呆れた顔をした。

「気が向いたからだと?あのな、気まぐれにそんなことをするでないわ。普段から筆無精の癖に、わざわざ直筆など何事かと思うではないか。」

プンプン怒っている炎嘉に、維心はちょうど良いと手を振った。

「まあせっかく来たのだから座れ。退屈しておったのだ。維月があちこち着物を指示して型を作らせておるので、戻って来ぬでな。」

炎嘉は、ブスッとふて腐れた顔をしながらも、維心の前に座った。

「我は主の暇潰しの道具ではないぞ。まあ良い、漸のこともあるしな。本日瑞が宮へ入ったのだろう?それで思い付いたか。」

維心は、頷く。

「その通りよ。あちらの宮もよく吟味して、真実最上位の何位にするのか決めねばならぬ。三位だとか志心は思い込んでおったが、まだ宮の中も見ておらぬのに安易に決められぬ。漸一人の事ではないからの。ゆえ、一度皆で参ろうかと。」

炎嘉は、息をついて頷いた。

「そうだの。瑞が入ったゆえ、来客を受けるのも問題あるまい。後は臣下がどこまでできるかぞ。よう見て参らぬとな。次の会合の折に話を出そうぞ。」

維心が頷いて、話を続けようとすると、そこに維月が反物を手に入って来た。

「維心様!」と、炎嘉が居るのに驚いた顔をした。「え、炎嘉様?」

来ているとは聞いていなかったのに。

維月が慌てて頭を下げると、炎嘉は言った。

「ああ、我はこやつの暇潰しにまんまと呼び出されての。」と、維月の手に抱えられている反物を見た。 「それは万華(ばんか)か?」

維月は、頷いた。

「はい。どうせなら炎嘉様のお着物は私がお仕立てしようかと思うて。維心様は仕立ての長に命じられましたでしょう?三枚ということですし、炎月にも私が縫うかなと思いましてございます。」

維心は、頷いた。

「まあそれでも良いが、それで何故にその数の反物を?多くはないか。」

維月は、頷き返す。

「はい、維心様に炎嘉様がお似合いになる色目を見ていただこうかなと持って参りましたの。ご本人がいらっしゃるとは思うてもおりませぬで。」

維心は、炎嘉を見た。

「ならばちょうど良いゆえ、当てて見たら良いわ。炎嘉の好みもあろうしな。」

炎嘉は、明るい顔をした。

「おお、誠か。良いぞ、持って参れ。」

維月は頷いて、側のテーブルの上に反物を乗せて、一つずつ炎嘉の肩から転がして掛けて、色合いを見た。

深紅、朱色、緑や金色など様々な色がある。

「…やはり赤かと思うておりましたのに、炎嘉様には何を当ててもお似合いになるのに困りますこと。」

お世辞ではなく、本気で困っている。

維心が、苦々しい顔をした。

「…何を着せても派手なやつよ。目立ってしようがないの。」

炎嘉は、頬を膨らませた。

「どういう意味よ。」と、窓に映る自分を見た。「そうよなあ、着物といえば紅とか朱色とかとにかくそちらの色が多いゆえ、他の色も欲しいのだがの。こちらの白はあまりに我にはそぐわぬが、深緑のこれか…。」

「そうですわね。」維月は、言った。「こちらの光沢のある青碧(緑掛かった青)や、錆納戸(くすんだ深い緑掛かった青)も、普段着られないので良いかもですわね。とはいえ、やはりこの金色に赤が透ける物の方が、炎嘉様らしい華やかなお品なので、映えるかと思いますけれど。」

維心も、それに頷いた。

「青碧など我の着物に多くあるし、やはり炎嘉にはその金色の物よ。他は波やら花やらだが、それだけ鳥であるではないか。龍も炎嘉ならこれだろうと織ったのではないか?」

確かに、柄がこれだけ鳥だ。

他は、やはり誰でも着られるように、自然にある何かを模してあるようだった。

炎嘉は、ため息をついた。

「仕方ない。我もその方が良いように思う。何より鳥が織り込まれた物であるしな。」

維月は、気を遣って言った。

「維心様からは三つとご指示されておりますので、これから図案を考えて後二つは織るのですわ。どうせなら、欲しいお色を仰ってくださいましたら、そちらで織らせますが。」

炎嘉は、微笑んだ。

「そうだの。ならば緑系のものを一つ、入れておいてくれぬか。青はどうも維心の雰囲気であるから、緑にする。」

緑なら、下に赤を重ねたら炎嘉様にも合いそう。

維月は思って、頭を下げた。

「はい。では、指示して参りますわ。」

維月は、侍女達に手伝われて広げた反物を巻き取ると、それを持ってそこを出て行った。

炎嘉が侍女に持たせぬのだな、と思っていると、それを見送って、維心は言った。

「…盗難の恐れもあっての。侍女達は、触れることは良いが持ち運ぶ事を許されておらぬのよ。触れるのも、我ら王族の侍女だけと定めた。宝物庫から持ち出そうとした奴がおってな。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「…そこまでか。最近の万華(ばんか)の価値は上がり過ぎておるなと思うたのだ。また面倒な事になったの。」

維心は、ため息をついて頷いた。

「その通りよ。ゆえ、主らに着物を急ぎ贈って少しでも価値を下げようと思うておるところ。だが、最上位だけが身に付けておるとなると、余計に価値が上がりそうだの。いっそ技術を公表した方が良いのかとも思うが、さりとて龍達の努力を思うとの。」

炎嘉は、息をついた。

「あれは知ったからと簡単に真似できるものではない。ゆえ、開示しても問題はなかろうが、どうしたものか。月の宮のタオルも大概最初大騒ぎであったが、あれは人の機械というもので織るし、日常で使うだけなのでここまでではない。だが、着物は身に付けて皆に見せるものであるし、その宮の職人の技量を測るもの。一筋縄では行くまいな。」

どこも、己の王には自分達の技術の粋を集めて作った着物を着せて、誇り高く居て欲しいもの。

他より秀で過ぎた技術は、面倒な事になってしまうのだなと維心と炎嘉はため息をついていた。

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