表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/159

周知

そうして、上位のテーブルに着く事を許された王達は、皆犬神がなぜ引き籠っていたのかということと、そして今戻って来ようとしているのだという事を知った。

全員が犬神と言われても、その存在は知っていても全く交流がなかったので不思議な顔をしたが、しかし新しい神が出て来るということ、そしてその力が、炎嘉にも匹敵するという事を聞いて、少し困った顔をした。

知らない神なのに、そんなに気が大きくて大丈夫だろうか。

ということだった。

「…不安になるのは仕方がない。」高彰が言った。「何しろ、全く交流がなくここまで来て、どのような神なのか我らには全く分かっていない。主らが大丈夫だと申すなら大丈夫なのだろうが、しかし会ってみないことにはその性質も分からぬから。」

翠明が、言った。

「ま、聞いたところ争いごとは嫌いな神であるようだし、龍と鳥と仲が良かった昔があるなら大丈夫そうだとは思うがの。どうあっても維心殿より大きな気の神ではないのだろう?」

それには、維心は頷く。

「我は碧黎も言うておったが、知っておって作られた神であるらしいからの。我より大きな気の神は、基本的にこの地上には居らぬのだ。手を加えられておるからこそ、こんな力を持っておるのよ。迷惑な話であるが。」

維心からすればそうかもしれないが、他から見たら羨ましい限りだった。

とはいえ、世を統べろと言われるのはごめんなので、そんな力は欲しいとは思ってはいない。

ここに居る者達は、皆それがどれほど重いのか、維心が不在の間に嫌ほど思い知ったのだ。

維心はその力だけでなく知能も高いのでかなりの政務をたった一人で処理している。

それがどれ程に有難いか、皆はもう知っているのだ。

高彰が言った。

「ならば、とにかく先に白虎と獅子との間の事であるな。今聞いたところ、二人は特に気にしておらぬようだし、漸への説明は炎嘉に任せておこう。」と、翠明を見た。「後は樹伊であろう。翠明が甲斐に話をつけるということに?」

翠明は、顔をしかめながらも頷いた。

「まあ、やってみる。ただ、我はこうして老いも止まっておるのに、あちらは老いておるから話がどうにも進まぬ事が多くての。卑屈になってしもうて。力の差が妬ましいようよ。何しろ幼い頃は共に遊んだ仲であるしなあ。」

途中、翠明は公明の父である公青と気を入れ替えられたので、全く気の量が違うのだ。

それは翠明は、老いも止まるだろう。

公明が言った。

「ならば我が言うたほうが良いか?一応我が世話をしておるから、あちらは我には逆らえぬ。通告したら従うだろうとは思うがの。」

炎嘉が、首を振った。

「そこは一応友である翠明に任せた方が良い。主から言うたら変な恨みを買う可能性があるしな。翠明なら友としての警告ぐらいに留まるが、主だと最後通告のようになるからの。それは後で良い。とにかく樹伊自身の気持ちもあるし、そこまですることもないと申すならば、翠明が言うてもきかなんだ時には諦めさせよう。波風立てても良いことはない。とりあえず、樹伊には月見には必ず来いと連絡しておこう。」

こんなことで世が乱れるのは誰も望まない。

皆がウンウンと頷いて、その日はもう、それ以上政務の話は出なかった。


維心は、漸に話があるゆえ来いと連絡を入れた。

書状を持って行かせたのだが、迷ってはいけないので最初は義心に行かせる事にした。

義心なら、迷うこと無く必ず犬神の領地に行き着く事ができる。

何しろあちらは長らく隠されて来ていて、結界があるのは知っていたがどの辺りに行けば正解なのかはまだわからないのだ。

外に軍神も見回りに出ていない宮なので、とにかく結界に触れて直接漸に語り掛けるよりないという、面倒なものだった。

それでも義心は、難なく行って来た。

そして、返事と共に漸本神を連れて帰って来たのだ。

維心は、まさかいきなり来るとは思わなかったので驚いたが、来いと言ったのは自分なので、急いで炎嘉に知らせを送り、まずは自分一人で居間で漸を迎えた。

義心に連れられて来た漸は、懐かしそうに居間を見た。

「…ここは全く変わらぬ。」と、側の柱を見た。「何との。その昔戯れにここに名でも掘っておいたらどうだと言うたら、良い考えよとか申して維翔はさっさと気で刻んだのだ。新しい柱になんてことをと己で言うておきながら思うたものだが、あれから歴代、皆刻んだのか。」

柱には、確かに今の七代である維心までの名が刻まれていた。

その時その時の文字で書かれてあるので、維翔の頃は別の文字だ。

それでも、イショウのイの字が維に見えるので、それを維と読んでそこから歴代その文字を子に付けて来た。

実際は違う文字だった。

これは、戯れに書いたものだったのだ。

「…そんなに適当に書いたとも思わず、歴代皆、それが倣いと刻んで来たのよ。」と、椅子を示した。「座れ。記憶を見たわ。主も見たいとか言うておったの。どうする?炎嘉が来るまで時が掛かるし見るか。」

漸は、座りながら何度も頷いた。

「見る。というかあちらで会ったのだぞ。その時に主は何も言わぬから…そもそも口数が少ないやつで、あの後どうなったのか分からぬままでの。あの後が知りたいのだ。炎郷は胸のすく結果になったがあれが何も言わぬのなら我からは言わぬとか言うて。維翔が転生するとなってあっさり去りおって、炎郷もあれが行くなら我も行くとかで出て行って、我は一人になったのだ。思えば我も、あの時行けば良かったのやもしれぬが…まだ平和には程遠い世の中であったしな。勇気が出ずで。」

維心は、頷いた。

自分は、あちらで志真と羽矢を討った事を言わなかったのだ。

「ならば見るがよい。」と、玉を示した。「その部分を見たいと念じれば見える。我はもう二度も見たゆえもう良いわ。そら。」

維心は、玉の乗っているテーブルを漸に押して寄越した。

漸は、少しためらった顔をしたが、じっと玉を見つめて、そして目を閉じた。


漸がじっと維翔の記憶を見ている間に、炎嘉が部屋着のままで息急ききって居間の窓から飛び込んで来た。

「維心!」と、ゼエゼエ言いながら傍らの漸を見る。「…何ぞ。今記憶を見ておるか。」

維心は、頷いた。

「主が来るまで時が掛かりそうであったし。そんなに急いで来ることはなかったのに。」

炎嘉は、眉を寄せた。

「あのな!漸が来たから来いとか言うて来ておいて、急ぐなとは何ぞ。主一人で拗れたらと慌ててしもうて会合から帰って来て着替えたところだったのに、すぐ来たのだからな!」

そこまで信用がないか。

維心は思ったが、何かを言い返す前に、漸が目の前で涙を流し始めた。

「…!」

炎嘉は、慌てて漸の肩に手を置いた。

「漸?大丈夫か。」

漸は、ハッと顔を上げて、そして炎嘉を見た。

「…維翔が」漸は、大量の涙を流した。「維翔が二人を討った。我に見えるようにわざわざ北の結界外に首を吊るして。我は…見ておらなんだ。あれは、我の心を軽くしようとしてくれておったのに。」

炎嘉は、慰めるように言った。

「別にどうしても知らせたいわけでもなかったのだろうよ。あれから白虎と獅子がおとなしゅうなってしばらく平和だったし。問題ない。」

漸は、涙を拭おうともせずに言った。

「だが、恨みはかったであろう。龍族はそれで後々面倒な事になるやも知れぬのに、わざわざそんなことをしてくれておったなんて…申し訳なくて。」と、維心を見た。「何故に言わぬのよ。知っておれば礼の一つも言えたのに。それで終わったものと思えたやも知れぬ。」

維心は、顔をしかめた。

「だから覚えておらぬと言うのに。ま、今の我でもわざわざ討ってやったとか言わぬと思うし、維翔の心地は分かる。主がそうして泣くだろうと知っておったと思うしの。済んだことだし、もう黄泉で関係ないといわなんだのだろう。」

確かにそうだ。

漸は、思った。

今の自分のように泣いて感謝とか、多分維翔の性格ではして欲しくはなかっただろう。

それでも、漸は維翔の気持ちに胸が温かくなった。

もう、あの時点で何もかも終わってしまっていたのだ。

「…もう、良い。」漸は言った。「我のわだかまりはとっくの昔に消えておった。その子には罪はないし、維翔もそう思うたからこそ殺さなんだのだろう。そもそも、あれは誰彼構わず殺す奴ではなかった。我だって、その心根に助けられたのだ。なので、顔もみたくないなどとごねたりせぬ。」

あっさり言うのに、炎嘉は何か拍子抜けした。

案外いけるのかも知れない。

「…ということは、主、会うか?白虎と獅子に。」

漸は、頷いた。

「会う。あちらが否でなければの。そも、龍が始祖を殺しておるのに今は友好関係を築いておるのだろう?ならば我はそれを乱すまい。」

維心は、ため息をついた。

「全く無かったわけでもないようだがの。歴代龍とは絶対に相いれないと、それを理由に子に教えておったようだからの。だが、今の白虎の王の志心は、それを知っても子を殺さなんだ事は評価しておった。なので、話をした時にあれは我と共闘することを選んだ。なので、共にこの太平の世を作った。」と、息をついた。「ちなみに獅子は、我を最後まで恨んでおって後に我が滅ぼした。だが、その皇子がはぐれの神として生き残り、大変に優秀であったから神世に復帰させた。なので、今は獅子の宮は存在するが、大変に獅子の生き残りは少ない。僅かに王族だけぞ。つまり、志心が賢い判断をしたゆえ、今に繋がっておる。」

漸は、暗い顔をした。

「…ならば獅子が滅んだのも、維翔が我のためにあれらを討ったからか。我はあれらに謝るべきやもしれぬ。」

炎嘉は、漸の肩を叩きながら、首を振った。

「あちらは己の祖先が愚かだったとむしろ祖先に憤っておって、主に謝っても良いと申しておった。志心も、自分はそんな出来事など知らぬし何の恨みのないが、こちらがそれほどに恨んでおるなら謝っても良いかもしれないと申しておった。会って話そう。主らは新しい生を生きておるのだし、もう過去はそれで水に流すのだ。」

漸は、頷いた。

そして、やっと涙を拭った。

思ったより漸が素直な男だったので、炎嘉も維心も拍子抜けしていたが、漸は何やらスッキリしたようにもう笑っていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ