花見
蒼と高瑞は、その様子を見ていた。
蒼は、奥へ帰ると見せ掛けて、高瑞の対に渡っていたのだ。
高瑞が、苦笑した。
「…まあ、良いのではないか?瑞花は好奇心の強い子供だったのだろうの。それが皇子ならば良かったが、皇女であったから面倒な事になった。侍女達が口さがなく皇女の前で男の話などするからあんなことにもなったのだろうて。侍女の教育も、皇女を育てるに当たり重要ということぞ。」
蒼は、頷いた。
「前に居た妃達との間には、皇女ばかりでしたが中には困った性質の者も居ってな。オレも苦労したし分かる気がする。あれらの間のわだかまりが、これで失くなったのなら良かったことよ。」
高瑞は、頷いた。
「渡が案じておったのは、力を持った瑞花が宮に何をするかということだったのだろう。我もそれを案じて、地位を利用したりする性質ならと最初に鎌をかけてみたが、あれはそんなつもりはなかった。だからこそ、養子にしたのだしの。ゆえ、渡は取り越し苦労だったのだ。安堵したのではないか?渡には、瑞花の言う事が本心からだと分かったのだろう。やはり親子だの。」
蒼は、頷いた。
「じゃあ、二人は帰るだろうしオレは話をするために居間に帰る。高瑞はどうする?」
高瑞も、腰を上げた。
「ならば我も。渡という男はおもしろい奴よ。少し話してみたくなったわ。」
高瑞が渡に興味を?
あまりにも違うタイプなんだけど。
蒼は思ったが、頷いて二人で、王の居間へと向かったのだった。
それから数日、花見の宴が開かれるのは月の宮だ。
招待されている上位の王達は、皆月の宮へと向かっていた。
「思うたら漸に娶られるのが一番であったようよ。」維心は、輿の中で言った。「あれから炎嘉とも話したが、炎嘉も開から同じ事を言われたらしい。まあ、確かに我とてもし、維明が瑞花をと言うておったら反対したと思い当たってな。漸は、どこか浮き世離れしておるから、娶りたいと聞いても何も疑問は感じなかったのだろうの。今さらながらにそれに思い当たることよ。」
維月は、複雑な顔をした。
「それでも、あの子は頑固でありますからそうなったら許すよりなかったと思いますわ。そうなると、簡単になびかぬあの子の様子にも理解ができるというものです。」
その言い様に、維心は維月を見た。
「…主、阿木のことを維明に申したのでは?それとも、あれの侍女にでもして側近くに行かせたとかなかろうの。維明は見向きもせなんだのだろう。」
維月は、え、と驚いた顔をして、維心を見返した。
「…ご覧になっておったのですか?」
維心は、やはり、とため息をついた。
「見ておらぬでも主の考えそうな事は分かるわ。今の言い様でもの。だから言うたではないか。あれが望んだら我が飲むと思うたのであろうが。」
維月は、下を向いた。
「申し訳ありませぬ。あの、ただ私が作った菓子を頻繁にあちらへ、阿木に持って行かせただけなのですわ。ですが、維明はすぐに気取って…わざわざ文で、母上のお気持ちは分かるが、我は興味はないゆえこれ以上は、と断って参りましたの。これ以上押したら機嫌を悪うするので、何もできなくなりました。」
維心は、またため息をついた。
「だから言うたではないか。あれは、己の相手ぐらい己で見つけようぞ。ゆえ、面倒なことをするでない。我なら母であっても鬱陶しく感じて遠ざけたと思うぞ。それは我だって、あやつが誰かを娶ってくれたらと思うが、分かっておるからの。気長に待つのだ。」
維月は、頭を下げた。
「はい。勝手な事を致しまして申し訳ありませぬ。」
維心は、仕方なく維月の肩を抱いた。
「もう良い、そのように鬱々とした顔をするでない。本日は主の里で花見ではないか。珍しく碧黎も出て参るようだし、暗い顔をしておったら我が責められる。そんなことは忘れて、本日は楽しもうぞ。」
維月は、頷いた。
「はい、維心様。」
そうして、輿は月の宮へと降りて行ったのだった。
到着口には、蒼が迎えに出てくれていた。
「蒼。今年も無事にこの日を迎えられて良かったことぞ。一時はどうなることかと思うたが。」
蒼は、会釈した。
「維心様。はい、地震はあちこち大変でしたから。あの後の大雨は、場所により大雪であったりして、人も大変そうでしたね。」
維心は、維月が輿から降りるのを手伝いながら頷いた。
「まあ、もうかなり降らせたのでここからは通常とあまり変わらぬよ。本日は花見であるし、晴らしておるがな。」
蒼は、微笑んで頷いた。
「はい。皆様、もうお揃いですよ。庭の毛氈に移動致しましょう。」
そうして、維心と維月は蒼について、南の庭に向かった。
その道すがら、維心は言った。
「…そういえば、渡と関が来たようよな。無事に和解したと主から聞いて、面倒もなくなったかと安堵しておったのだ。」
蒼は、それにはため息をついた。
「…はい。何と言うか、オレも今回学びになりました。裏でいろいろあるんだなと。まだ知らぬ事もあるのだと、今回の件で思いました。」
維心も、それには神妙な顔で頷いた。
「誠にそのように。鵬から聞いて、そんなことがと目を開かれる心地であったわ。思えば見目の良い女ならあちこち通う王も多いだろうに、上位には居らぬから我も理解ができておらなんだ。炎嘉も初耳であったそうな。あれは前世女好きとか言われておったが、侍女に手を出すなどなかったからの。我らには、あれらは一括りに臣下、であるから。そんな目で見たこともない。そも、そんなことをしておったら子があちこちにできて妃だらけになり、宮が立ち行かぬ。価値観が違うのだの。」
そもそも身分が違い過ぎるので、上位ほど問題になるのが面倒で下位の女には手を出さない。
それでもとなると、余程のことなのだろう。
漸のように。
そんなことを話しながら歩いていたが、よく考えたら炎嘉の父の炎真は、炎嘉の乳母に手を出していて、妹を隠していたのだった。
維心は、身近にそんな王も居った事があったのに、と、つくづく自分の価値観だけでは全ては見えないのだと思い知っていた。
南の庭は、華やかに美しかった。
桜が満開でその下に畳を置き、紅い毛氈を敷いていてその上にはとりどりの衣裳を身に付けた、王や妃達が座っている。
その只中に、維心と維月は蒼に案内されて歩いて行った。
炎嘉の隣りに設えられた席へと座ると、炎嘉が言った。
「維心。いろいろあったがとにかく終わって良かったの。正月もこちらへ来ておったのに、何やら落ち着かぬで。」と、旭を見た。「見よ、珍しく旭まで来ておるのだ。」
旭は、頷いた。
「毎年呼んでもらうのに、遠いからと来ておらなんだのが悔やまれるわ。誠に見事な桜よな。」
焔が、笑った。
「そのような事を言うて。どうせ正月に来てここの清浄な気に魅せられたのであろうが。一度知れば、また来たくなるものよ。」
旭は、見透かされたか、と顔をしかめた。
「うるさい。正月はそれどころではなかったゆえ、心の底から堪能できなんだし良いではないか。地震はうちは問題なかったしの。」
蝦夷は遠いしな。
皆が頷いていると、志心が言った。
「ところで漸は無事に婚姻を約したそうだの。本日は共に花見をせぬのか?」
漸が、首を振った。
「皆が揃うとあれも気を遣うのではないかと思うての。先に見ておいたのだ。しょっちゅうここには来ておるし、五分咲きの頃からここを何度も歩いておった。皆と揃うのは、また、正式に妃となった後で良いわ。」
漸も気が利く男よ。
それを聞いて、維心は思った。
翠明が、言った。
「とはいえ、妃達は王と共ではなかなか話せぬだろう?少し場を外して歩いて参って良いぞ。」
維月が、まあ、と顔を明るくした。
そして、維心を見た。
「王、よろしいですか?」
維心は、苦笑して頷いた。
「良い。行って参れ。」
維月は嬉しそうに立ち上がると、綾を見た。
「綾様、それに皆様も。共に参りましょう。良い場所がありますの。」
皆も嬉しそうに立ち上がった。
「是非に!維月様、誠にお久しぶりで嬉しいことですこと。」
綾がそう言い、妃達は微笑み合いながら歩いてそこを離れて行ったのだった。




