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話し合い

関は、峡の宮を訪れた。

辰起が出迎えてくれたが、むっつりと機嫌が悪いようだ。

文が来ていたので、辰起がどれだけ迷惑を被っていたのか知っていた関は、苦笑した。

「そのように。すまぬの、辰起。まさか父が生きておったなど我は知らぬで。迷惑を掛けたの。」

辰起は、歩き出しながら頷いた。

「あれが王であったなんて、主らは大変だったのだなと思うたわ。それが友だという父上ですら恨む心地になりそうであった。主が牢へ籠めた心地も分かる。」

関は、困ったように勝手知ったる宮の中を、辰起と並んで歩いた。

「とにかく、上手く話を収めて宮に連れ帰るわ。あんな父だが、あれで憎めぬところがあっての。此度は我らの親子喧嘩に巻き込んでしもうて申し訳なく思う。」

辰起は、ため息をついた。

「父上もそのように。あれで気の良いところもあるのだとか言うて。我には分からぬ。が、長年共に居れば分かるのやも知れぬな。」と、声を潜めた。「ところで。松がそんなことになっておったとは初耳ぞ。主から文が来て、臣下にも話した。もちろん、我が宮の重臣だけのことで、他に口外などさせぬし案ずるな。」

関は、頷いた。

「…あれは、あの頃外に興味を持って我にも連れて参れとよう言うておったのだ。だが…侍女が居らぬ間にの。」

辰起は、頷いた。

「臣下もならば渡殿の責ではないと言うておった。我は侍女に忍ぼうなど考えた事もなかったが、どこの宮でもあるのだそうな。主とてそうではないか?」

関は、辰起もそうか、と頷いた。

「その通りよ。まさかそんな取り決めがあるなど。我がそういう癖のある皇子なら、知っておってここまで父上とこじれる事もなかったのに。しらなんだゆえ…まあ、ゆえに今では、父上を恨む心地も何を恨んで良いのか分からぬようになっておってな。」

辰起は、また頷いた。

「だろうな。臣下達は逆に渡殿は寛大であったなどと言うし、松のことは確かに宮の恥であるから隠すのも道理だとか理解を示す言い方で。こちらは渡殿に迷惑を被っていて、臣下も良く思うておらぬのにそれであるから、神世の臣下は皆、そう判断するのだろうなと思うた次第。初殿ですら、娘が籠められるがままにしておったのであろう?」

関は、渋い顔で頷いた。

確かに母も、父に対してあれだけ発言力があったのに、何も言わなかった。

やはり、恥だと思っていたのだろう。

「…臣下に言わせたら、松は奔放な女となるようぞ。外へ出たらどうなるのか、毎日嫌になるほど聞かされていたのに、たった一人で出て参るその行動がもう、それでも良いという女と示されたと見なされるようで。我も皇女は重々気を付けて育てねばと思うた。」

辰起は真剣な顔で頷いた。

「我もそのように。皇女達の侍女をあれから倍に増やした。」

倍とは多いの。

関は驚いたが、それぐらいはしておかねばならないかもしれないと、歩きながら思っていたのだった。


奥宮の王の居間へと到着すると、正面の椅子に峡が座り、その隣りに置かれた椅子に渡が座って待っていた。

辰起と共に到着した関を見て、渡は渋い顔をしたが、それに構わず関は峡に会釈した。

「峡殿。お世話を掛けし申した。何も知らずに申し訳ありませぬ。」

峡は、手を振った。

「良い、我が黙っておったのだからの。座れ。」と、辰起を見た。「主も。」

関と辰起は、顔を見合わせてから二人とは対面になる椅子へと腰かけた。

峡は、続けた。

「で、どうするのだ?主は渡に謝罪を求めておるのだろう。」

関は、答えた。

「…父上とは、腹を割って話さねばなりませぬ。これまで避けておりましたが、もうこのままではどうしようもないことに。」と、渡を見た。「父上、なぜに黙っておったのです。あの事件、侍女の不手際であったのでしょう。もちろん父上もお悪いですが、しかしながら臣下はそんな事は想定内であったので、対策は普段からしておってそれで問題なかったのだと申しておりました。侍女は、他の侍女を呼ばねばならなかった。本来、松があのような事になった時点で、斬っても良かったはずでありまする。」

渡は、相変わらず渋い顔のままそれを聞いていたが、諦めたように言った。

「…そうか、あれらは話したのだの。」と、渡は言った。「主には侍女に忍ぶような事は考えられぬようだったし、それは恐らく、我があのような事をして松がああなったのを見ておったからだろうなと思うておった。ならばそれで、知らぬままで良いかと黙っておったのよ。そも、確かに侍女を斬るべきであったが、あの夜我が行かねば、と思うとの。不憫になって、牢へと繋いで、皆が忘れた頃に宮下にでも出せば良いかと思うておった。なのに、主は先にあれを出したと勝三から聞いて。ああ、あやつは恐らく我が悪いとか思うておるだろうなと思うたが、別にそれで良いかと思うて。臣下の命一つが、それで助かるのだしの。我は、王であったし何があっても殺されるという事はない。言いたい奴には言わせておけば良いし、何を思われておっても王なのだから問題ない。だが、外向きは別ぞ。主が継ぐ時に宮が問題ないように、序列を下げるような行いだけはしてはならぬと思うておった。我が父上の(じゃく)も、それだけは案じて死んだしな。ゆえ、松の事は徹底的に隠したのだ。そうでないと、臣下の反応でも分かったであろうが、宮の品位に関わるから。主が比呂を臣下の養子にして松を出すというた時、あれらは反対しただろうが。それで、少しは理解できたかと思うたのに。」

関は、父がどう思って弁解も何もしなかったのか、初めて知って目を丸くしていた。

やはり、父は自分は王だし何を言われても命に関わらないので、臣下の命がそれで助かるなら良いか、と放置していたのだ。

「…臣下が反対したのは、父上に言いくるめられたからだと思うておりました。父上も、なぜにしっかり我に全てを話してくれなんだのか。全部話しておってくれておったら、我だって納得した事があったのですよ。それを…どうせ王だから問題ないとか、臣下の命一つを守るためとか…その臣下が王をどう思うかで、宮は変わって参りますでしょうに。誠に…だから我は、父上を恨んでも恨み切れぬのですよ。」

今度は、渡が驚いた顔をした。

関は、ため息をついて続けた。

「…とにかく…父上を籠めておいて、地震の折放置しておって申し訳ありませぬ。そこは我も謝りまする。ですが父上も、王である我を扇で張るなどあってはならぬ事でありますぞ。どうなさるのですか。」

渡は、むっつりと言った。

「…ついカッとなってしもうたし、その事については謝っても良い。すまなかった。だが、あのままでは牢で死んでおったのだからの。頬を張るのとでは格が違うわ。」

関は、渋い顔をした。

やはり恨んでいるか。そうだろうな。

「ならば、我を許せぬと?…確かに、牢番が涙ながらにもっと早く解除の術を放っておけばと報告しておったのですが…。」

渡は、眉を上げた。

「牢番?あやつがなぜにそんなことを。あれは主の命じた通りにするしかあるまい。むしろよう解除してくれたと感謝しておるわ。」

関は、答えた。

「死んだと思うておったからです。父上は、己も牢の中で助かる見込みもない地震の最中に、あやつがあちこちぶつかっておるのを見て、浮き上がれと指示したのでしょう。咄嗟の時に、己を守る言葉を掛けた父上を、牢番は惜しんでおったのですよ。まあ、解除の術は間に合っておったのですがね。」

渡は、盛大に顔をしかめた。

「あのままではどうせ我は死ぬのに、それよりは、生きる可能性のある臣下が右往左往しておるのを助けるのが先であろうが。王族であったら当然ぞ。何を今さら。そんな事は別に恩に感じる必要などない。義務だからぞ。何のための王族だと思うておるのだ。まさか主、そんな事も分かっておらなんだのではないであろうな?もう王座に居るのに?」

関は、さっくりとそんな事を言う父に、盛大に顔をしかめた。

隣りの辰起も、驚いているのかまじまじと渡の顔を見ている。

峡が、クックと笑った。

「…主には渡がどんな王であったと見えておったのか知らぬが、会合で会ったらそれなりに上位の王としてしっかりした考えであったわ。私生活の事は知らぬ。こやつの性質は変わらぬから、宮でどう過ごしておったか分からぬが、しかし普段は上から二番目の王に相応しい意見を出しておったぞ?我はこやつが王座についてから、外向きの顔しか見ておらなんだので立派になったなと思うておったものぞ。実際は変わっておらなんだが、しかし王としては問題なかった。主、渡からきちんと学んだのであろうの?臣下や家族に良く思われるのだけが、王の仕事ではないぞ。そこのところ、辰起にも学んでおいて欲しいものよ。何事も、バランスが大切なのだ。渡は少し、内で暴れ過ぎた気もするがの。」

渡は、軽く峡を睨んだ。

「うるさい。皇子の頃を知っておるからと。我は父上に、宮の評判は落とさぬと亡くなる時約したのよ。気苦労をお掛けしたしの。ゆえに外では父上の言いつけ通りにしておった。考え方も改めた。内に居る時ぐらい、気を抜きたいわ。初は恐ろしかったし…全く。」

関は、松の事で父に不信感を持っていて、外向きの事を色眼鏡で見ていて考えた事もなかった。

だが、言われてみたら臣下は特に、父に不満は持っていないようだった。

傍若無人なので困っていた時もあったが、基本的に王と崇めてしっかりと仕えていた。

自分達には恨めしい父も、臣下にはきちんと王だったのだ。

関は、ため息をついて頭を下げた。

「父上。」

渡がぎょっとした顔をした。

「なんぞ?頭を下げてから斬るとか言うまいの。」

関は、顔を上げた。

「違いまする。いろいろ誤解もあったし、それは父上がお悪いのですぞ。ですが、長年しっかり父上を見ておらなんだのは謝罪致しまする。ゆえ、宮へお帰りを。峡様にこれ以上お世話を掛けてはなりませぬ。」

渡は、ジトッとした目で関を疑わしげに見た。

「…また牢に籠めるとか、面倒だから帰ったら斬るとかないか?」

関は、またため息をついて首を振った。

「だからお籠めしたのは申し訳ありませぬ。ですが、我が王なのですから手を出す前にきちんとご説明を。此度の事も、先に申しておいてくださったら長年に渡ってこんなことにはならなんだのですから。よろしいですか?」

渡は、むっつりと頷いた。

「分かった。だが、松は高瑞殿の養子になったのであろう?あちらに迷惑になっっておらぬのか。そうなったら月の宮や高彰殿の宮との関係も面倒になるのではと案じられるのだ。もう、あちこちに松の件は知られてしもうた。松は、まだどこにも嫁いでおらぬか?」

関は、え、と渡を見た。

「嫁ぐ?というと?」

渡は呆れたような顔をした。

「主な、ちょっとは考えぬか。松を養子にとて、もう良い歳の娘、成人しておって子まで産んでおる娘を、養子になど普通ない。そういう時は、大概誰かが娶りたいゆえ、それ相応の身分を与えたいと思うておると考えるのだ。もしや、松の名はもう松ではないのではないか?」

関は、仰天したように目を見開いた。

確かに、養子にした時名を変えた。

「今は…瑞花という名に。」

ああ、と分かったような顔になった。

「そら。それで過去を消そうとしておるのよ。その上で恐らく、どこかへ嫁ぐのではないか?高瑞殿は隠居したとはいえ、最上位の宮の王であったかた。恐らくは長い時間傍に置いておくことを良くは思うておらぬ。近々動きがあるのではないかの。そうなった時の、相手の事が気になるのだ。松がもし、我に恨みでも抱いておって、復讐とまでは行かぬでも、嫌がらせでもして来たらと案じるのよ。地位と権力を手に入れて、どう考えるのかと思う。何しろ…あれは、楢とは違い、顔は初に似ておったが内面は我に似ておったからの。月の宮へ行ってからはどうであるのか知らぬが。」

やはり父上も松は自分に似ていると思うておられたのか。

関は、ますます松に話を聞いて来なければならないかと、うんざりした気持ちになっていたのだった。

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