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お見合いした時の事を覚えている?

●棗の心の傷は 91話●


都庁

ファイナンスビル 中庭


棗は、

「言い忘れていた、夏葉君、あらためてお父さんの事本当にありがとう。」


「さっきの話の弁護士は棗のお父さんだよ。」


「……父から神薙君の相談役をしているとしか聞いていないよ?」


「棗のお父さんにどれだけの人が救われているか…感謝しているよ。」


「……夏葉君、あ、あのね、私…」


「俺に頼み事だろ?それに元々、タイヤのパンクも噓だろ?」


「…ウソはごめんなさい。お願い!話だけでも聞いて。」


「なぜ青空に頼まない?」


「神薙君は間違えた事には、絶対に手を貸さないよ…。」


麻王は深いため息の後に強い語気で、

「ハァ、……俺なら言う事を聞くと?」


麻王の鋭い眼光に棗の心は縮みこんでしまう。


麻王は、

「メリットは?」


「………メリット?……夏葉君なら付き合ってもいい。その先の身体の関係も必要なら構わないよ?」


麻王はクスッと笑うと、

「メリットを尋ねる理由が分かるか?」


「…笑われたね。メリットの理由は、……この場合は夏葉君自身にメリットがあるかどうかじゃないの…?」


「差し出す報酬、つまりメリットの価値によって、事前にその人物からの依頼の大小、ハイorローリスクetc.etc.最終的に罠があるかどうか……全てが判るからだよ。」


「……私の身体の話が噓だったら?」


「俺の交渉には先払いができる価値あるモノのみだよ。」


麻王から自身の身体に価値がないと言われた棗は、

「………………。」


「いいよ。話してみろ。」


顔を上げると棗は、

「……夏葉君。」





10分後

「……つまり言いたい事は、棗の前の学校の大企業の孫、簡単に言えばその輩とその輩の取り巻き仲間20人ほどに脅されて元副警視総監の父の名を利用して悪さをしていたと…?」


「…うん。」


麻王はしばらく自身のラップトップを見ている、

「数々のドラッグの密輸入に一切の証拠が残っていないな。過ちは人の性、許すは神の心か…。」


麻王はラップトップを閉じる。


棗は、

「でも罰を与えるのが法治国家でしょう?」


「法治国家として機能している国ならお前の父親は神薙総合財閥の相談役兼顧問弁護士ではなく、今頃は極刑待ちで独房にいる囚人のハズだな。」


「…………。」


「六法の多くの穴に気付かないか?心の中の偽証の証明は?イジメによる自殺の加害者の罪は?詐欺は?取調べ室の可視化は?この冤罪大国が法治国家なハズがないだろ。法の限界に何故、気付かない?なら、その輩たちとやらかしたお前自身の罪は?」


「………私も共犯だよね。」


「それでも理想や綺麗事は大切だよ。」


「……えっ…」


「今、衛星に侵入して青空の車から離れた棗をラリッた奴らが血眼で探しているのを確認したよ。ま、棗に囮になってもらうか…スマホを出せ。」


麻王は棗のスマホからメールを打ち出す。



棗は、

「……もう連絡先は全て消してあるよ。」



「今、そいつらのアドレスも調べたよ。”午前二時、廃校で待ってい・る・よ…ナツメ”と。」


「……そんなメール、私らしくないし…」


「ヤツらは薬切れでそんな余裕もないって。それに犯罪者にらしいもらしくないもないだろ?」


「……私は…」


「脅されてようが手を貸したんだろ?先ず、おまえは被害者ではなく加害者と自覚しろ。」


下を向くと棗は、

「………はい…」



麻王はメールを打ち終わると、”午前二時までに用事と連絡する所があるから棗はファイナンスに戻って午前二時まで休んでおいてくれるかな?”と言ってそのまま立ち去る。鈴木が棗を迎えに来る。



日付は変わって、午前一時半。棗は鈴木に連れて来られて廃校の側で待っている。


男たち21人は待ちきれずに二時前にやって来る。



廃校


リーダ格らしき男は、

「棗、やっと見つけたぞ!もう逃がさないねえからな!オマエたちはそこに居ろ。いいものを見せてやる。」


リーダ格の男が棗に近づくと棗の白桜ブレザーを破る。別の男はビデオにその様子を録画している。他の男も加わり始める。


「も、もう、イヤ、麻王!!!!!!!」


棗の声が廃校一帯に響き渡る、


凄まじい速度の小石に前にリーダ格の男とビデオを撮影していた男の右前腕部が千切れ落ちると男二人は、

「…へ?……うてへゃない…イテェェェェェェェッー!!!!!!!!!!!!」


既に側にいる数十人がうつ伏せに倒れている。



リュックを下ろすと麻王は、

「ま、証拠は十分か…。」


麻王はラップトップに男が撮影していたビデオをラップトップに接続している。


接続が終わり、立ち上がると麻王は、

「で、どうして欲しい?」


ブラジャー一枚の棗は、

「………け、警察じゃないの?」


「過去にこいつらにレイプされたんだろ?」


「………ど…どうして…」


後ずさりする棗は、

「……もう私に価値なんてない…今も毎日毎日、…悪夢に(うな)される……何度も死にたくなる。これから先も私は苦しみ続ける…もう逃げられないんだ…」



麻王はリュックから細く先の尖ったボールペンを出すと棗に渡す。



「……これ…は?」


「これから先も苦しみ続けるんだろ?コイツらは法の及ばないところで処分してやるよ。」


ボールペンを持つ棗の手がガクガクと震える。


尖ったボールペンの切っ先が棗自身の喉元に来ると、

「……お父さん……ごめんなさい……でも、もう嫌だよ、生きたくないよー!!!!!!」


棗の言葉が終えると血が滴り落ちる。


「……麻王…?」


ボールペンを持った棗の手を刺し貫かれたまま麻王の左手がボールペンを握っている。そのまま右手でボールペンの切っ先を抜くと麻王は、


「その死の覚悟はどんな理由であれコイツらに加担し苦しんだ人たちへの罪だ。バラ撒かれた薬物も全て回収してやるよ。」


そう言うと麻王はボールペンを地面に捨てる。


「………麻王…」


麻王はラップトップをリュックに片付けながら立ち尽くす棗に、

「法の限界に気付いたか?」


棗は涙が溢れたまま、

「………麻王………ごめんね、麻王!」


棗はそのまま麻王の胸に飛び込む。


「右手でしか抱きしめられないぞ?」


「……うん、十分温かいよ。」



棗は小さな声で麻王に、

「……お見合いした時覚えている?」


「ああ、有楽町のホテルでな。」


「麻王は私に麻王のどこが好きかって。」


「ああ、聞いたな。」


「私に何が言えるの?麻王にもっと早く逢えば良かった…。そしたらこんなヤツらに…」


棗の涙が止まらない。



「………麻王は…すごく痛いよね?もっと早く麻王に逢いたかったよ………でも、もうこの悍ましいできごとは…戻せない…」


「……後始末が残っている。ファイナンスに戻って休んでおいてくれるか?」


廃校附近が暗闇すぎてよく見えない棗は、

「……殺すの?」


腕が千切れた男二人の腕を特殊な透明のロープで強く縛ると麻王は、

「……ま、手当てをしないと後5分でコイツらは死ぬけどな。ある隔離された場所に連れて行く。だから棗がコイツらに怯えることはもう二度とない。待てるか?」


「……う、うん、待てるよ。…麻王…」


「どうした?」


「………怖いよ、また死ぬほど怖いけど病院に付き合ってもらってもいい?麻王は私の為に闘ってくれた……だから私ももう逃げたくないんだ。」


「病院?……そっか、いいよ。」






ファイナンス 社長室

社長室の扉を開けると鈴木が立っている麻王は、

「お疲れ様、鈴木さん。もう休んでくれていいですよ。棗は?」

「社長室奥の仮眠室で寝ています。」

「優秀な鈴木さんがいて感謝だよ。」

「社長、助けてあげたらどうでしょうか?」


麻王は社長席の上に座ると、

「理由は?」

「理由ですか?そうですね……いつか社長を助ける女性のような気がします。」

「鈴木さんの直感は?」

「よくハズれます、申し訳ございません。」

「本当にファイナンス福岡支社の社長にならないの?故郷へ錦を飾るんでしょ?」

「私の話ですか?今は医学部一直線です!」

「検査は?」

「血液採取等、全て済んでいます。」

「有難う。自室でゆっくりと休んで夜間授業の準備を。」

「有難う御座います、社長。」


鈴木が社長室から出ようとすると、

「ああ、鈴木さん、医学部は私学でもいいよ。」


「有難う御座います、社長!ですが、やはり10浪してでも東大理三一直線でございます!失礼致します。」


鈴木は出て行く。


「10浪って…検査するか。」



ガウンを着た棗が三時間後に起きて歩いて来ると社長席の上に手紙と透き通ったネックレスが置いてある。


震える手で手紙とネックレスを取ると棗は、

「………手紙?……棗へ……それに私の検査結果だ……ネックレス……そう言えば制服ないよ…。」



真っ暗闇の路上にいる麻王は携帯を取ると、

「……棗が起きた?有難う、最上階のレストランに行くように伝えておいてくれる?ああ、すぐに向かうよ。じゃあ。」




最上階 レストラン


ピンクのガウン姿の棗は、

「ガウンのままレストランなんて恥ずかしいよ~!それに何でピンクかな~!」


棗がエレベーターを降りると最上階に人の気配はない。


「………レストランは開いているんだ。………麻王は?」



最上階窓際に棗は一人座っている。

「……麻王?」


エレベーターが開くと紙袋を持った麻王が歩いて来る。


「麻王!」


「はい、新しい制服な。」


紙袋の中の新しい白桜ブレザーを取ると棗は、

「………一日で?ううん、半日で?」


「知り合いの仕立て屋にな。トイレで着替えて来たらどうだ?」


そう言うと麻王は厨房に食事を取りに行く。


「………うん。」


棗は白桜の制服を着て座り直そうとすると麻王は、

「棗は入口側な。」


「うん………そう、検査なんていつ?」


「……はい、フカヒレスープ。もう全て終わらせた。喜ばないのか?」


「……昨日は興奮していて………殴られた痕も…感染症も……汚れた女だよ…」


麻王は窓際に座ると、

「娘さん…いえ、棗さんは私のどこが好きなのですか?」


呆然とする棗は、

「……麻王?………夏葉君……ううん、麻王は……強くて…頭もよくて甲子園でもかっこよくて……ううん、いつも優しくて一人闘う麻王とずっと一緒にいたい!」


棗は麻王の胸で泣き続けている。


麻王は自身の上着を棗に着せると棗は麻王の胸の中で、

「………どんなに検査しても………汚れているよ?」


「思ってないけどな。」


「…私は嫌だよ。」


麻王は棗の胸のネックレスを取り出すと、

「首に掛けた瞬間に透き通った宝石が砕け散っただろ?」


「………うん、砂の様になって………あれは何?」


「少し待てよ。」


「……うん。」


麻王は棗のピアスを取ると代わりに透き通るようなブルーのピアスを棗の耳にする。


「……これは?」

「俺の左手の傷を見て確認したら?」


そう言うと麻王は左手の包帯を取ると傷がほとんど消えている。


「………どういう事……」


「記憶が薄まっている感じだろ?」

「うん。」


「……過去を変える事は未来の棗の運命も歪める………でも忌まわしい記憶も外傷も感染症も、もうないよ。ふつうの16歳の身体。心の傷には耐性をつけておいた。数年でその記憶も完全に消える。」


棗は、

「……太ももの傷を見てもいい?」


麻王は席を立つと、

「じゃあその間に……食べたいものは?取って来るよ。」


「……ううん、怖いけど麻王にも一緒に見て欲しい!」


棗の両肩を持つと麻王は、

「今、棗はその身の不幸が故に魔術の深淵近くまで来れている。」


「……全然わからないけど、……感覚でわかるよ…」


「次、棗に危険な事が起こったらそのピアスが一度だけ棗を守ってくれる。」


麻王は優しくもう一度、棗を抱きしめる。


「……信じられない……そんな力があるなら……どうしてそんなにたくさんの手術をするの?」


「たくさん?」


「深夜にファイナンスに帰って来て鈴木さんと部長さんから全て聞いたよ。あの電話をしていた大阪の強欲社長の手術もしていたんでしょ?」


棗は麻王の胸で静かに問う。


「一部の地域で僅かに取れるマナ鉱石というものがある。およそ1㎥の鉱石から1μg(マイクロg=100万分の1g)しか取れない。一つのアクセサリーには10gのマナが必要でな。」


「……いつから知っていたの?」


「ゴルフレッスン場で逢った時。」


「…………。」


「じゃあ俺から質問。いつから俺の事が好きだったんだ?」


「………え、知っていたの?」


棗は目の前の麻王に気付かれると思うほど赤面する。


「ゴルフレッスン場に父親と入って来た時に棗の瞳孔が俺を見る前にすでに開いていたな。」


「……ウインターカップで…戦い続ける麻王がいて……一目惚れなんてしたことなかったんだよ?ホントだよ!」


「そうか。」


「……麻王と結婚したら一生嘘つけないよね…。」


「緊張や興奮をしていても瞳孔は開く。噓なんて分からないよ。棗ってチョロいな。」


「チ、チョロくなんてないですが?」


立ち上がると麻王は、

“Il n'y a qu'une loi en sentiment. C'est de faire le bonheur de ce qu'on aime.”


「……スペイン語?」


「フランス語な。」


顔を赤くすると棗は、

「……フランス語なんだ……い、意味は…?」


「”愛情には一つの法則しかない。それは愛する人を幸福にすることである。”っな。まだ仕事が残っているから行くよ。」


そう言うと麻王は、最上階、レストランから出て行く。


立ち止まると麻王は、

「……ああ、帰るなら鈴木さんに言えよ。超一流のボディーガードが家まで送ってくれるからな。」


「うん!」


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