優しき彼女 赤瀬愛枝
●赤瀬愛枝は理不尽な女? 9話●
白桜高校 中庭
5月19日
【高等部一年一学期中間考査結果】
一年高等部一学期中間考査結果
1位1000神薙青空
2位999夏葉麻王
3位986東神子
4位984夏葉美緒
5位980赤瀬愛枝
6位972牧野芯
7位970山形藍
8位969上杉周
9位964橘碧
10位960津山薫
ただただ呆然と立ち尽くす愛枝は、
「……5位…私が…」
愛枝は目の前が暗くなる…。
「キャッー!!!!! 夏葉君―!!!!!」
意識が消える寸前に愛枝は、
「……夏葉君…なんで…?」
クラスメイトたちが声を掛けている。
保健室
愛枝の一番の親友である井上愛は、
「……大丈夫、愛枝?」
保健室のベッドの上で目を覚ますと愛枝は、
「……ああ…、負けちゃった…。もう学校には来れないよ…」
愛は、
「愛枝、夏葉君と仲直りしたんだね。良かったぁ。」
「……何、言ってるのよ、愛?」
「夏葉君がね、愛枝が倒れて地面に当たる寸前に職員室から出て来た夏葉君が窓を超えて愛枝をダイビングキャッチしてくれたんだよ。」
「……そんな…40M以上はあるのに…」
「もうホントにすごかったんだよ…女子の何人かは夏葉君の腕から滴り落ちる血を見て卒倒して…」
「……そうなんだ…」
「それで愛枝の呼吸と脈拍を確認して保健室まで運んでくれたんだよ。それに夏葉君、
ワイシャツの両腕が血まみれになって……そのまま部活行ったよ。」
愛枝はベッドから立ち上がると、
「……私は、何時間寝てたの、愛?」
「4時間ぐらいかな、クラスのみんなも交代で来てくれているよ。もうね、中間考査上位5人は有り得ないよ。愛枝なんて5位なんだから睡眠不足で倒れるよ。小等部から愛枝と神子はすごかったもんね。」
白桜ブレザー姿のままの愛枝は保健室のベットから起き上がると、
「……愛、迷惑掛けてごめんね。夏葉君に会って来る。」
「うん、考査明けだから部活休みだけどグラウンドにいると思うよ。ほら、聞こえる?気持ちいい快音。もうツンツンしたらダメだよ。」
井上愛はにこやかに笑う。
愛枝が下駄箱に来るとクラスメイトの井上愛が言う通り調律のような快音が響く。
グラウンド手前まで調律に惹かれるように歩いて来た愛枝は白球がゴルフボールのように遠くに飛んで行くのをしばらく眺めている。
グラウンドにトボトボと歩いて行くと、
「あ、…………あの…夏葉君…」
ためらいがちに愛枝が小さな声を絞ると麻王が振り返る。
両肘より上にワイシャツを折っている麻王はピッチングマシーンを止めると、
「転入した日に、麻王でいいよって言っただろ。覚えていないのか?」
少し麻王にいつものような元気はないが愛枝を気遣ってくれているのが愛枝にはよく判る。
我慢しても涙が頬を伝う愛枝は、
「……ごめんなさい。私もこれからは愛枝でいいから。ケガ、大丈夫なの…?」
「愛枝、バッティングを観ていくか?」
麻王のワイシャツの両腕が真っ赤に染まっている姿に愛枝は、
「……でも、病院に行かないと…」
「いわゆる皮下組織で止めようと思ったんだが、少し走り過ぎたな。」
麻王の笑顔に涙が止まらない愛枝は、
「……こういう時にはなんて謝ればいいのかな……私、世の中の常識とかなんにもわかってなくて本当にごめんなさい…」
「俺も地球に関しては世間知らずだしな。」
「えっ…」
麻王はピッチングマシーンを調節しに行く。愛枝には何の操作をしているのか分からない。麻王がバッターボックスに立つ。
“ガン!!!!!!”という凄い衝撃音の後、はるか遠くにボールは飛んで行くとネットに当たって落ちていく。
「遠くに飛んでいく……何キロ出てるの、麻王?」
「昨日、新しいスプリングが届いて軽く150前後かな。」
そう言う麻王は話しながら容易く打つ。
「愛枝は運動神経いいんだろ。」
「えっ…私?」
そう言うと麻王はベンチから軽量木製バットとヘルメットを持って来る。
愛枝にかぶらせると自身はピッチャーマウンドに行く。
「80kmから行くから。ストレス解消だと思って好きに振っていいぞ。」
麻王は左投げで軽く投げると愛枝は一球目から当てる。
「次は90な。」
ヘルメットにそれらしくバットを構える愛枝は、
「うん!次は麻王みたいなすごいホームランを打つ!」
50球の投球が終わると麻王は、
「愛枝は上手いな。」
麻王は三塁側に設置されているベンチに座ると愛枝も隣に行く。
麻王はベンチで足を伸ばして空を見上げると、
「女子で120kmを当てるのはかなりすごいじゃないかな。」
「子供の時から今もプロ目指してゴルフやってるから。何かあったの、麻王?」
「特例特待生の条件の一つに学年一位の成績があって……結局二位だったから期末までお預けになってな。ゴルフか…楽しそうだな。」
「……もしかして…」
愛枝は麻王のウインドブレーカーの裾から血が漏れているのに気付く。
「ゴメン、愛枝。帰るよ。」
「待って、麻王!」
「まだ何か用か?」
「えっと…」
「いや、帰るよ。」
「ちょっと待って、リムジンを呼ぶからおじいちゃんが懇意にしてる病院に行こ!」
「……なら、保健室で腹部に包帯を巻いてくれるか?」
保健室
「包帯を巻くのも中々上手いな。」
「これでも女医志望だからね。授業料の免除とは行かないかもだけど協力できるかも知れないから今日は私に付き合って。」
「プロゴルファーじゃないのか?」
「両立するの!」