神子が麻王と呼ぶ日
●気が弱い者の強がりは? 84話●
空港
神子は作業着を着たまま麻王のバイクの後部座席から降りると、
「この作業着、温かいよ!店長さん、新しい作業着を貸してくれて優しい人だね?」
バイクボックスから神子のカバンを出すと麻王は、
「もう初夏だな。新聞配達の頃からお世話になっている人でな。空港のトイレで着替えて来たら?」
「うん!」
20分後
小型旅客機並みの大きさの機内
離陸するとシートに座っている神子は、
「………誰も乗っていない………これ自家用機だよね?」
「青空の自家用機だよ。俺には一生買えないものもあいつの小遣いレベルだから凄いな。ニューヨークまで8時間掛かるから休んでもいいよ。」
神子は下を向いて赤面している、
「な、夏葉君、変なことしない?」
「しないよ。何でそんな事聞くんだ?」
「な、麻王君はストッキング履いている女性大好きだってクラスのみんなが噂しているから…。わ、私はいいよ。で、でも準備してない時は恥ずかしい…で…す。」
「自意識過剰だよ。」
「……ひ、否定しないの?」
「しないよ。俺は好きな女性にしか関心がないからな。」
麻王はシートベルトを外すと機内の後ろに行く。
戻って来ると麻王は、
「ほい」と大きなコンビニのビニール袋を渡す。
「……これは?」
「飛行機を用意している間に空港内のコンビニに行ってな。女性の店員さんにパジャマや下着とかお願いしたから後ろの更衣室で着替えて来たらいいよ。後、その隣にシャワー室もあるから。」
「あ、あのね。麻王君は、私に関心ない…かな?ご、ごめんね、私が変態だね…」
「そんな無理をしなくても神子のことは女性らしいと思っているよ。」
「……いつも優しいね、夏葉君は…。」
空元気で話す神子。
「関心のない女を海外にまで誘うはずがないだろ?後、弱気になると夏葉君になるのも卒業しようか。」
「………思い切って麻王って呼んでもいい?」
「あまり感心はしないが?」
「え?」
「呼び方が変わるとその人に対する姿勢も大きく変わるからな。勿論、変わらない人もいるけどな。」
「でも変わりたい!いつもオドオドしている自分が嫌なの!」
「なら、試してみろ。」
「うん!それでね、麻王!この前、私ね、…」
笑顔で話し続ける神子を麻王は見ている。
「いつかそういう時はきっと来る。愛枝にも愛にも美緒にも負けるつもりもないよ。麻王は去年のウインターカップの後、”こういう事が続いても悲しいだけだろ”って言ったよね。でも麻王がいない毎日は胸が張り裂けそうに辛かった。期末考査なんて考えられなくて最下位まで落ちたんだよ。ウインターカップの後は立てなかった。涙も出なかった。悔しくて、悔しくて、麻王のバカ。でも悔しいんだけど麻王と同じ教室にいるだけで幸せだと思うんだ。人が人をこんなに愛せるなんて有り得ないと思ったよ。それに今は他の誰の事も話さないで。」
神子は一人話すだけ話すと麻王の胸で泣き続けそのまま眠りにつく。
麻王はスタッフに大きなブランケットを用意して頂けますか? と尋ねると神子に大きなブランケットを被せて神子のメガネを取る。
「………ここが終わりの始まりかも知れないな……おやすみ。」
飛行機に乗ってから5時間後に神子が目覚めると時計は午前6時。
隣に麻王がいない。
神子が眼鏡を取って麻王を探そうとするとスタッフが神子を止める。
スーツ姿のスタッフの一人は、
「今、夏葉先生はリモート操作でオペをしています。」
「機内で?手術の事ですか?」
スタッフは、
「はい、本来の予定では空軍が用意した戦闘機に乗って頂き、四時間ほどでニューヨークに来てオペをして頂く予定でしたが四時間程遅れたので衛星とチャンネルを繋いで、現在、手術をされています。」
「会いたいんです!会わせてください!」
「……わかりました。こちらに。」
スタッフは飛行機の前方にそっと神子を連れて行く。
「夏葉君は寝てないんですか?」
神子の問いにスタッフは黙ったまま頷く。
機内前方にある大きなモニターの中のそれぞれ別のモニターに患者が3人映っている。麻王はラップトップの鮮明な画像の方を視ながら遠隔操作で手術を行っている。神子は数メートル後ろから麻王を見ている。
「………患者は命を助けてもらった人の名前もわからないんだ…。」
なぜか神子の涙は止まらない。
「………私は夏葉君の邪魔をしたのかな。」
スタッフは、
「戦闘機に乗ってしまっている間は何も出来ませんが今回、プライベートジェットでの初の試みでこの超遠隔操作の手術を今後も採用できます。それによって世界中の医師の技術も上がる。つまりより多くの患者が救われます…。国家機密なのでご内密に。」
スタッフは神子にシャワーと食事の用意をして待っていると言うとスタッフルームに戻って行く。
神子がシャワーから出て来るとオペを終えて麻王が座席で寝ている。
神子は眠っている麻王の顔をさわりながら、
「愛しているよ、麻王。独占したら神様に怒られるかな…。」
クスッと笑顔で麻王を強く抱きしめる。




