私は何番目?
●三人との結婚式81話●
放課後
白桜高校
下校する生徒が山のように下駄箱に流れる中、
麻王は一人下駄箱に来ると、
「麻王先輩!」
革靴に履き替えると麻王は、
「不良物件か?あれから孤立しているんだってな。」
まだ顔中が青タンだらけの神谷は、
「………あの…先日はすみませんでした。」
神谷に正対する麻王は、
「妹に告白したんだろ?」
「………はぁ、梅雨知らずで。」
「梅雨じゃなく露知らずな。」
「………何で?」
「発音だよ。で、妹のどこが好きになったんだ?」
「……グイグイ聞いて来ますね?」
「聞くよ。大切な妹だからな。」
「………明るくて何よりも可愛いんで。」
「可愛いね………浅いなオマエは。新一年スポーツ科クラスには結衣や香織もいるだろ?」
「……いや、いえいえ、……碧先輩も何より駿先輩も怖いですし…」
「感情のコントロールもできないオマエがいい彼に慣れるのか?妹が決めることだから俺はこれ以上は何も言わないよ。」
廊下の右方向から赤羽や白鳥たちが左方向から心海と弓が視ている。
椿は、
「あのバカ谷、また麻王先輩に口論勝負しているぞ?」
坂季は、
「10秒で露知らずを指摘されたけどな。」
赤羽は、
「バカだ、あれだけ殴られてホンモノのバカだ。」
白鳥は、
「麻王先輩は殴ってないだろうが!フォローのみだよ!」
神戸は、
「白鳥ってドデカいのによく話すよな?」
三好は、
「ドデカいって………今、関係あるか?」
心海は、
「………麻王兄。」
弓は、
「”聞くよ。大切な妹だからな”って私も言われてみたい~!一人娘の悲愴~!」
心海は、
「意味わかんないし!」
下履きに履き替えると神谷は、
「…麻王先輩もノートパソコンを打ちながら話していたじゃあないですか?」
「”も”は何に比較しての言葉だ?」
「………いえ、………さあ?」
「ラップトップは敢えて打っている事に気付かないのか?」
「え?」
「芯は碧や優也。ハルトは駿とつるんでいる事が多いだろ?」
「……確かに。」
「どれだけ上から目線なんだ?”そうですね”だろ?オマエの言葉遣いはなんだ?………オマエに妹は無理だな。もういいか?」
「なぜダメなんですか?」
「オマエのバカな言動が周りを巻き込んでいる事に何故、気付かない?何故、友人も巻き込むんだ。告白が食堂って舐めているのか?無神経か?」
「……………。」
「もういいか?」
「……麻王先輩も全校集会を利用して女を落としたんでしょ?」
「いつの全校集会だ?誰の事だ?どうやって落としたんだ?俺は副会長の責務を全うしているだけだが?」
「……か、風の噂…です…」
「おまえは自身の目や耳ではなく風を信じるのか?ガチムチの新しい風の精霊か何かか?」
藤原は「ノーガード戦法でボコボコだ……一級品のバカだ。」
千条は「でも、麻王先輩も機関銃のように容赦なく口撃するな。」
神戸は「弁もめちゃくちゃ立つ~!」
赤羽は「知能指数100ぐらいの差がないか?バカ谷は単なるサンドバッグで会話になってないぞ?」
弓は、
「…愛されているね、心海。」
心海は「うん!」
弓は涙が溢れ、
「チョットは否定しようよ~!でもホントに愛されているなあ~うらやましいなあ~。」
「弓のパパもキモかわいいじゃん。」
「あ~!今、バカにしたでしょ?」
「麻王先輩!俺と勝負してください!」
「テニス部のオマエと?何で?」
「野球部です!」
「メリットは?」
「メリット?メリットですか?………少し待ってください、今、考えます!」
「話せ。」
「は?」
「”はい”だ。そして話せ。言葉遣いを現在進行形で矯正しているんだ。とにかく話せ、バカでも話せ。」
「は、はい!」
椿は「あちゃ~もう見てらんないわ~!」
赤羽は「………そうか?」
三好は「…どういう意味だよ?」
赤羽は「麻王先輩は矯正しているって言っているだろう。」
神戸は「…確かに……あ、また言葉遣いを指摘している…カッコイイな。」
榊は「………う~ん、あの角度から切り込むのか。」
坂季は「麻王先輩は噂以上に優しいよな。」
赤羽は「………俺、一生ついていくよ!」
神戸は「俺だよ!」
千条は「いーや、俺!」
椿と白鳥は「千条はないわ~!」
神谷は、
「………と言うメリットはどうでしょうか?」
「却下。そろそろ行くか?」
「へ?」
「”はい”だ。野球の練習に決まっているだろう。青空は俺のように甘くない。考えながら話してもいいから言葉遣いに気をつけろよ。」
麻王が歩いて行くと神谷が追いかけて行く。
麻王の横、15cmにピタリといる神谷に、
「近いって。キョリ感ゼロか?無神経か?」
「はい!あ、すみません!………麻王先輩はなぜ言葉遣いにこだわるんです?」
「言葉遣いをないがしろにして来たお前に説明しても理解できるのか?」
「………そうですね、すみません。」
「ハルトに一発ノックダウンされただろう?」
「……はい。」
「最初、身長180以上のお前は細くて背も170少しのハルトを舐めていただろ?」
「……はい、正にその通りです。」
「出逢った人が誰であってもその過程でその人がどれだけの努力をしたか又はこれからどれだけ努力するかは分からないだろ?出会う人そのものに敬意を払えと言っているんだ。分かるか?」
「………はい!………いえ、全然です!」
「そこは沈黙して考えてもいいから”いえ”から入ろうか?」
「ですよね?はい!」
麻王は振り返ると、
「少し待てよ。お前たち!いつまで眺めているんだ!心海は陸上部だろう?もう始まっているぞ!」
心海と弓は、
「あちゃ~やっぱりバレてるよ~。は~い!」
赤羽は「え?一度でも目線合った?」
坂季は「麻王先輩は何でもお見通しなんだよ!」
千条は「何、そのトンデモ論?」
椿は「行くぞ、バカ共!」
「仕切んじゃねえ~!」
神谷は、
「………全校生徒が出入りしてたのに………いつから気付いてたんですか?」
麻王は、
「最初からだよ。感情をコントロールしろ、神谷。心海はああ見えて気難しい一面を持っている。本当に妹を愛しているならいい男になれ。」
「………はい!お兄さん!」
「ハァ、まだまだだな。」
神谷は、香明学園の上山とほぼ遜色ないポテンシャルを持っているな。連日、日本にいる時の麻王と青空、周から指導を受けている。
三好は高校一年と思えない力強いバッティングができる。
麻王は、ピッチャー候補の千条、藤原、坂季には一切バッティングの指導はさせない。変化球のフォークは一試合三球目のみ。
千条には回転数と速球のみ。藤原には回転数と同じ投球動作から変化球のみ。坂季には回転数と制球力のみを指導している。
九条弓と一緒に体幹のトレーニングの為に水泳部に入部させている。
白桜の水泳部は夏以外、温室プール。
麻王も最近はよく利用している。
野球部、副キャプテンの周は、神谷、坂季、三好、藤原、千条の五人と弓を呼ぶ。
「夏の地区予選は、ピッチャー、千条、藤原、坂季の三枚看板。四番に神谷。五番に三好で行こうと思う。弓はその繊細なバットコントロールを神谷と三好に教えてあげて欲しい。」
五人は緊張しながらも喜ぶ。
側で聞いていた麻王は着替えに行くと弓が追いかけて来る。
立ち止まると麻王に弓は、
「麻王先輩、一緒に帰ってもいいですか?」
「今日は何もないし少し、歩いて帰るか?」
「ですよね!」
「ですよね?」
五分後
校門を出ると弓は、
「高等部最初の模試が神谷、心海、私の三すくみデッドヒートレベルなんです~!」
「………デッドヒートという名の正に最下位争いか?」
「もう~いじめないで~!」
もじもじと弓は、
「……最近、先輩が優しくて…何かありましたか?」
「心の赴くままに…なんてな。」
麻王は笑う。
「好きな人がいるんですか?」
「いるよ。」
麻王はサラッと答える。
弓は下を向く、
「…………。」
「軽蔑されても仕方ないが、弓も入っているよ。」
「…わ、私は何番目ですか?」
「強いよな、弓は。真剣に考えていいか?」
麻王の答えに弓は黙って頷く。
「そう……一番か二番かな?弓の芯の強いところいいな。でも、やっぱり順位はないな。」
「一番ですか!それは結婚も含めてですか?」
少し頬を赤くして弓は尋ねる。
「結婚したい人以外とはいつも一緒に居たいとは思わないだろう?」
「春の選抜が終わって高校生で付き合いたい男、全国ナンバーワンですよ?」
「いや、テレビは観た事ないな。」
「”やっぱり順位はない”ってどういう意味か聞いていいですか?」
「それぞれの良さがあるだろ?」
無言のまま弓は緊張気味に頷く。
「……例えば複数結婚できるとしたら三人が限界かなって。きっと俺が好きになる女性は結婚後も働きたい人かな。三人が毎日それぞれの仕事を終えたら子供たちと一緒に妻を迎えに行きたい。ま、そう言っても俺が一番忙しそうなんだけど。」
「麻王先輩はやっぱりプロ野球ですか?」
「ふつうの外科医では手に負えない患者さんの治療ができる医者かな。」
「…プロ野球に行かないんですか?」
「……頑張っても40歳前後が限界かな……仮に運よくそこまで頑張れたとしても仕事もなくて妻を迎えに行くのは嫌かな…」
弓は気まずそうに、
「……すみません、少し意味がわかりません。」
「子供が大きくなって父親の仕事がよく分からないのもどうかなって。」
「ああ、そう言う意味ですか。」
弓は麻王をジッと見つめている。
「嫌なら弓とは先輩後輩にするよ。」
「……あっさりと言うんですね。」
「言うよ。根本的な部分だしな。それに弓はモテるだろ?」
「…何でそんなことを言うんですか?」
「東中の頃からプロ野球選手と結婚するって言っていただろ?」
「……それは麻王先輩が絶対にプロ野球に行くと…私も正直に言っていいですか?」
弓の言葉に麻王は、
「いいよ。」
「私はいつか麻王先輩にあっさり捨てられるかなって…。私を好きな理由を言えますか?」
「先ずは、シンプルに好みだな。清潔感があって器用貧乏な所。器量もいい。でも一番は俺が頑張っている限りついて来てくれると信じられるから。少しドライで軽い一面は嫌いかな。ま、軽いとこは好きでもあるんだけど。」
弓はクスッと笑う。
「もしそれが噓なら一瞬で…すごい嘘つき…すよ。」
弓は涙声で麻王を抱きしめる。
麻王の胸で弓は、
「……麻王先輩が愛おしくて……でも全部当たっていますよ…」
「俺の好みってバレてたっけ?」
「東中の頃からバレバレです。」
弓は麻王の胸で笑い続ける。
「私の中で先輩は絶対の一番だから…。」
「私に医者は無理だから頑張って看護師になろうかなぁ。うん…私も考えました。最初は私だけ見て欲しいけど、麻王先輩ならきっと子供の面倒を見てくれるし、先輩は絶対に公平に大切にしてくれる。結衣は少し我が強いから香織か心海が麻王先輩の妻なら最高かな。」
「心海か…。」
「……駄目ですか?」
「ずっと一緒にいたから異性としてはな…。」
「今の先輩の愛している五人を聞いていいですか?」
「……愛している五人………愛しているは家族愛も含めてか?」
「家族愛はナシですよ~!こっちは人生掛かっているんですから…麻王先……麻王先輩?」
麻王は立ち止まると、
「……そう言われると誰だろう……未来は変わるのかな?」
「……え?…先輩?」
「そう言うのが関係ないなら…」
遠くを見つめ深く考える麻王の答えが怖くなる弓は、
「じ、じゃあ質問を変えますね!もし一人しか助けられないなら?」
「曖昧な質問だが、全員だよ。」
「即答ですね。麻王先輩は死んでも?」
「余裕でその選択を選ぶよ。」
「じゃあ一人しか結婚できないなら?」
「誰ともしないよ。」
「……なぜ?」
「何人かは幸せに慣れない気がするからかな。」
「結婚式は?」
「三人の結婚式か…全然考えてなかったな。多分、最終的に、こんな馬鹿な話に納得してくれる女性はいないと思うけどな。」
「私は真剣にいいですよー!」
「弓が一番嫌がると思っていたよ。」
「一番幸せにしてくれる人には一途です。その時までにちゃんと考えてくださいね?」
新宿区
九条弓の自宅マンション
「あ~私のバカバカ!絶対に私一人って答えが来てたのに~!……もしかしたら意外や意外の香織も?」
心海はジッーと弓を見ながら、
「……あのさ、私もいるんだけど?」
「心海!もしかしたら私と心海、香織の三人かも~!」
「それね、弓!」
結衣は、
「……あの、私もいるんですが?」
弓と心海は、
「ごめん~結衣!何でいるの?」
「二人が勉強を教えて~って言ったからでしょ!」




