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想像妊娠

●結婚の限界 80話●


新二年スポーツ科クラス


普通科から上杉周、橘碧と東神子も移動して来た。

これで実質スポーツ科クラスが学年で一番優秀なクラスとなる。

生物の授業後、荒木先生が麻王を呼び出す。



廊下


小声でリサは、

「……麻王君、来ないの?」


「何がです?」


「あれが来ないの?」


更に小声で話す。


「あれって何です?」


「もう、絶対にわざとでしょ!」


麻王は少し考えている、

「……シャルムのスペルの効果が最も低かったのが心海。最も反対に位置するのがこのリサ……現実主義者と妄想家の差か。」


「麻王!聞いてる!」


「ああ、一度、病院に行くか?」





新宿のとある病院の産婦人科の待合室で…。


待合室で待っている人達は全員が制服姿の麻王を見ている。


「あ、あの麻王、私ね、シングルマザーになっても絶対に生みたいんだ。」


リサの言葉に麻王は、

「妊娠しているのが判ったら高校は辞めるよ。」


「荒木さん、一診にどうぞ。」


看護師が呼ぶ。


「一緒に行くよ。」


麻王も診察室に入って行く。




五分後


“生理予定日にもう一度来られて下さい”とだけ診察医師に言われる。何もわからないリサは落胆し、麻王に連れられて病院近くの小さい公園に行く。


公園


ベンチに座るリサは、

「……麻王君、初めてで妊娠しちゃう女なんて最悪だよね。」


「結婚して子供ができない人もたくさんいる。そう考えると幸せだと思わないか?」


「……赤瀬さんや美緒さんたちには何と言うの?」


「いや、こういう解決方法があったんだなって。」


リサは、

「……?」


「子どもができれば納得して諦めることができるってな。」


リサは、

「それは卑怯だよ…」


「別に卑怯じゃないよ。」


「えっ?」


「男には子どもが成人するまで立派に育てる義務が生じる。それを全うしようとして何が卑怯なんだ?」


「……そんなこと言ったら恋なんて終わらないよね?……麻王でよかった。私のマンションに来週の診察日まで来てくれない?」


「結果が知りたければ薬局で妊娠検査キットを買って来るが?それに診察は次の診察は生理日だぞ。」


「ううん、もう少しこの余韻に浸りたいの…」




夜 

新宿 マンション


麻王はリュックに荷物を詰めながら、

「……と言うことでリサ先生のマンションに行って来るよ。」


文音は、

「………麻王、私が言うのも変だけどそれは違うよ。」


「麻王兄、私も文音に同意だよ。何か親切にするたびに麻王兄が尻拭いさせられるの?それって単なる甘えだよね?」


麻王はリュックに詰める手を止めると、

「文音はもう家族だし、心海も文音も二人とも間違ってないよ。」


文音は、

「……麻王。なら、どうして…」


心海は、

「妄想だよ?言いたくないよ、言いたくないけど麻王兄はあの先生を助けただけでしょ?その麻王兄の優しさにつけ込むのはどうなの?私は麻王兄の優しさにつけ込むあの先生は嫌いだよ!」


美緒は、

「……そうだったの?」


心海は、

「美緒姉、知らないの?高等部に来てからみんな噂をしているよ。オートロックのないアパートに住んでいたあの先生が麻王兄に助けられて勘違いしているって。かなりの妄想系だよね?美緒姉と似てない?」


「ええぇぇぇ~リサ先生と私が~?全然、似てないよ~!」


クスッと笑うと麻王は、

「そう言えば、心海も野球部に入った男子生徒に告白されたらしいな?」


文音もクスクス笑いながら、

「そうそう、食堂でね! ”夏葉心海さん、僕とお付き合いしてください!” って。食堂にいた全員がシーンだよ?そこにハルトと駿がキレてね。後輩君たちの一人が反発して。もう食堂で大喧嘩の大騒動!」


美緒は、

「それって麻王の後輩だよね?麻王は忙しくて食堂でお昼も取れないのに……でも、妹が男に告白されたら確認ぐらい行こうよ。」


文音はクスクス笑い、

「ハァ、イミフですが?やっぱ美緒ってズレてる~!」


「美緒姉は私に別の男を押しつけているだけだよ!」


「いや、美緒の言う通りだな。どんな男か確認しないとな。とりあえずリサと約束したから行くよ。」


「麻王兄!」


文音は、

「麻王!既成事実ができていくだけだよ!」


「何も起こらないよ。それに文音も俺が囲っているって言われているだろ。」


「……まあ、私も麻王に助けてもらっただけなんだけど。」


「そんな風に思ってないよ。リサもそんな感じだろうな。そうそう心海、健康診断をするからこの袋に検便検尿を入れておけよ。診察は俺がするから明日、神薙総合病院に放課後な。」


麻王はリュックを肩に掛けるとマンションから出て行く。



心海は、

「しませんが?」


文音は、

「アイドル?……でも、健康診断は明後日あるでしょ?」


美緒は、

「……うん、まあ、麻王が海外の医学部に行った一番の理由は間違いなく心海の為だよね?」


文音は、

「麻王はいつも優しいね。」


美緒は、

「……文音?」


「聞かないよ。でも何か理由があるんでしょ?麻王は全て知っていて何も言わずに私を迎えてくれた。身元保証人もファイナンスの社長の麻王ならできるのに信頼するお兄さんに敢えて私を紹介する為に言ってくれた…」


心海は、

「文音っていい女だね?」


「私は秋までしか日本にいられないから。私が心海の立場でも麻王を好きになったよ。美緒、心海、麻王と離れたらまた泣くよ。」


「……文音。」




白桜 食堂

麻王はラップトップを打っている。


赤羽たちが歩いて来ると、

「………あの、夏葉先輩ですか?」


麻王はラップトップを打つのを止めると、

「妹の優良物件ってお前か?」


「いえいえ、僕は赤羽…」


「赤羽居織だろ?右隣が神戸瞬かな?左隣が優良物件の神谷かな?」


「ヨロシク、お願い致します!」


赤羽たち10人の挨拶に食堂が静まり返る。


麻王はラップトップを打ち始めると、

「体育会系か?やかましいって。周りの人に謝ってから俺の前の席に全員座れよ。」


赤羽は、

「……すみません、早急に!皆さんに謝って来ます!」



三分後

緊張気味に神戸は、

「……終わりました、夏葉先輩。」


「よろしく。麻王でいいよ、瞬。後、みんなも。」


神戸は、

「はい、麻王先輩!」


「先ず、学生の前に社会のルールを守れ。ただでも酷いのに更に野球部とバスケ部はバカの集まりと思われるだろ?」


顔を腫らした神谷は、

「…………麻王先輩もノートパソコンを打ちながらは失礼じゃあないんですか?」


赤羽、神戸、白鳥は、

「ヤメろ、神谷!」


麻王はラップトップを打つのを止めると、

「ハァ、ダメだな。神谷だっけ?今日からテニス部でも行けば?ああ、他のヤツは黙っておけよ。」


赤羽、神戸、白鳥に坂季は、

「……あ、いえ、はい。」


「……もう一度言いますよ、それは先輩の横暴ではないんですか?」


「横暴じゃあないな、神谷。」


「……なぜですか?」


「神谷、昨日の午前中に俺は生徒会室にいたけど挨拶に来たか?周先輩から聞いてなかったのか?」


「……いや……それは…すみません。」


「何故、来なかった?」


「……それは…」


麻王はラップトップをたたむと、

「愛の告白が最優先順位ってか、神谷?オマエたちも。」


食堂のテーブルを叩くと神谷は、

「待ってくださいよ!赤羽たちは関係ないでしょうが!?」


神谷の言葉に赤羽、神戸、白鳥、坂季たちは更に下を向く。


麻王はラップトップを持って歩いて行く。



椿は、

「あ~もう最悪だよ~。赤羽たちは全員で麻王先輩を追いかけてくれ!俺もすぐに行くから!」


「OK、椿!付き合ってらんねえよ、死ね、バカ谷!」


赤羽たちは走って行く。


怒りの収まらない神谷は、

「…………。」


椿は、

「オマエさ、麻王先輩はずっと語尾に”神谷?”って付けてくれていただろ?」


「…………だからそれが何だよ、椿?」


「オマエを見てると青空先輩の言う教養ってホントに大切だと痛感するよ。麻王先輩は、後輩のオマエにも敬意を払ってくれていたんだよ。なのに、オマエはバカみたいに噛みつきやがって……オマエとはもう付き合えねえよ!ホントにテニス部に行け!じゃあな、バカ谷!」


椿も走って行く。


「……クソッ!」



赤羽たちが走って来る、

「先輩~!麻王先輩~!」


麻王は振り返ると、

「廊下は走るな。」


赤羽と神戸、白鳥、坂季は、

「……すみません……あの…俺たち……本当にすみません…」


「ここは迷惑だな。屋上でも行くか?」





屋上

柵から遠くを眺めながら麻王は、

「昨日、神谷が食堂で告白した後にハルトと駿が怒ったんだろ?」


「………はい、神谷が暴走して食堂がめちゃくちゃに……本当にすみません。」


「明日、青空が来る。そうすれば自動的にお前たちもハルトや駿たちも退学になる。」


「…………。」


「俺から話しておくよ。」


「……麻王先輩。」


「友達想いのヤツは嫌いじゃないよ。ただ…。」


「…………。」


麻王は振り返ると笑顔で、

「ただ友達なら注意してやる事も想いやりじゃないか?放課後、俺はいないからハルトたちとも仲良くしろよ。」


麻王は屋上に走って来た椿の肩をたたくとそのまま歩いて行く。


「はい!」


呆然と椿は、

「お疲れ様です、麻王先輩!………で、どうなったんだ、赤羽?」


赤羽は、

「……一年後にあんな先輩に慣れているかな?」


坂季は、

「背中で語るつうの?絶対に無理しょ。」


千条は、

「香明学園も敬遠する生夏葉麻王、めちゃくちゃカッコイイ~!」


「それな!」


神戸は、

「いやいや、ウインターカップのトリプルクラッチだって!俺、会話しちゃったよ~!麻王先輩から”瞬”だぜ~!」


「それな!」


椿は、

「……バカ谷はどうなるんだ?」


神戸と坂季は、

「……もういいんじゃね?」


「…………。」


榊は、

「でも、ハルト先輩は鬼怖いぞ?」


赤羽は、

「……はぁ~それな。バカ力のバカ谷は一発ノックダウン。それにフォローに入った怪力白鳥を駿先輩も加勢に入って首ロックだもんな…」


三好は、

「………可愛くないけど。後輩に一切の容赦なしだもんな…。ハルト先輩は空手日本チャンピオンだし。」


「マジか?」


椿の言葉に三好は、

「ああ、俺も空手やってたしな。」


椿、藤原、榊は、

「…うわ!放課後、怖い~!」


赤羽、神戸、坂季は、

「はぁ~途端に憂鬱な気分…」


三好は、

「そもそもなんで食堂で告白する必要があったんだ?」


「……はぁ~…」




放課後

こっそりと赤羽たちは体育館を覗いている。


藤原は、

「………女子バスケのみだ。どうすればいい、居織?」


千条は、

「……昼も俺たちの教室に来ていたらしいしな……もう恐怖だよ。バカ谷が見つかって二回目は教室内で半殺しだぞ?」


ハルトと駿が、

「コラ、クソ餓鬼ども!見つけたぞ~!」


「ヒェッ~!」


駿は後方で赤羽たちが逃げられないようにし、前に来るハルトは、

「俺も駿もどうせ青空に退学にさせられるかんな。道連れにしてやんよ!意識不明コースでいいよな~!」


「ヒェェェェ~すみません、すみません!」


赤羽たちは体育館に座り込んでしまう。



「駿、ハルト、何をしているんだ?」


ハルトと駿は振り返ると、

「………麻王…?」


麻王は赤羽たちを起こしながら、

「今、赤羽たちを殴れば今後、先輩後輩関係は二度と回復しないぞ?」


駿は、

「………でもよ~麻王~!………今後?」


「青空も理事長も了承済みだ。中庭清掃活動一週間、赤羽たちもそれでいいな?」


祈るように両手を握る赤羽と神戸たちは、

「もちろんです~麻王先輩~!」


ハルトと駿は、

「…でもよ~、麻王~!」


「後輩たちとのこの出逢いはきっと白桜や俺たちを救ってくれるよ。」


「……このゴミカスがか?まあ、でも麻王が言うなら……そう、神谷って言う特大ゴミはもう半殺しにしたぞ?」


藤原、椿、榊はもう一度尻もちをつくと、

「ヒェェェェー!!!」


麻王は笑いながら、

「アイツは本物の脳筋だから大丈夫だよ。じゃあまた明日な。」


周と交替で麻王は歩いて行く。


周は、

「ハァ、駿もハルトもいい加減にしろよ。」


ハルトと駿は、

「な、何だよ?」


「新入部員の入部届を職員室に持って行ったら麻王が高等部110名の先生たち全員に頭を下げていたぞ。」


ハルトは、

「………麻王につまんねえ事させやがって!練習するぞ、ボンボン息子共!?」


「は、はい!」


駿は、

「次、舐めた事したら二度と麻王に手間を掛けないようにソッコーあの世に送ってやるからな!」


「ヒェェェェ~!」


周は、

「はぁ~。」




三日後

リサは医師から想像妊娠と伝えられる。

意味が理解できずリサは数秒呆然とした後、貧血で倒れる所を麻王が抱きかかえる。


麻王はリサを抱きかかえたまま病院を出る。



病院近くのベンチに力なく座るリサは、

「………ごめんね、麻王。私、本当にダメな女だね。嫌いになったでしょ。」


麻王はリサに自身の上着をかけるとリサと同じ目線になるように座る。


「あれはシャルムのスペルだよ。」


「……しゃ…何?」


「リサ、まだ白桜で教師を続けたいだろ?」


「………うん、私はどこの高校でも採用されなかったからお父さんが白桜に呼んでくれたんだ。」


「このままずっとこんな感じでいいのか?」


「………大人にならないとね?」


「人には成長しなければならない分岐点が必ず来る。今がその機会だと思わないか?」


「………それを………たったそれだけのことを伝えたいために三日間付き合ってくれたの?」


「結婚したらこんな感じなんだろうなって俺も勉強になったよ。」


「………ごめんね。麻王は私よりも何でもできて遥かに大人だった。」


「じゃあ、このままアメリカに行くから一人で帰れるか?」


「うん……有難う、麻王。最後に抱きしめてもらっていい?」


「ああ。」



麻王の胸の中でリサは、

「………私が妊娠しているのが判ったら高校は辞めるって言葉は?」


「本当だよ、子供は可愛いと思わないか?」


「うん、麻王は結婚ってどう考えているの?」


リサと離れタクシーを呼び止めると麻王は、

「リサの家で炊事洗濯に仕事と勉強……全員を幸せにするのは限界があると思ったよ。ほら、今日はタクシーで帰れ。」


タクシーに乗るとリサは、

「……麻王でも気づくことがあるんだ。」


「あるよ。だから人は走り続けるんだよ。」


「………甘えて逃げてばかりで二十年以上来た……私も走ってみるね。麻王は?」


「ああ、空港バスで行くよ。」


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