これが桜田門か…歴史感じる~
●誰との邂逅? 72話●
無線で最上階にいる首相たちに制圧終了した旨を伝えると麻王は応急手当を受けた後に最上階の木村の下に向かう。
最上階
右手を押さえたままの麻王はSWATたちと一緒にエレベーターから出て来ると歓声が起こる。
麻王は首相のボディーガードたちに、
「木村さん以外は全員、首相も一階に救護班が来ていますのでそちらに。」
娘の棗を見ると木村は、
「……なぜ、僕と娘だけが?」
「今、行けば貴方は全てを失う。それでもよければ皆さんとご一緒に。」
川上首相は、
「何の話だね、木村君?先に行くからね!」
木村は力なく、
「……どうぞ、首相。」
全員がレストランから出て行くのを確認すると麻王は、
「私の質問は一つです。あの時はパニックなるので黙っていましたが最上階に来たテロリストの一人が無線で”首相を人質に取った後に木村だけは大切に扱え”と…そして”残りは殺せ”と指示をしていました。どういう意味です?」
棗は、
「……お父さん?」
「……何の話かな、夏葉君?私は弁護士資格もある。問題にするよ?」
木村の言葉に麻王はポケットから赤く光るレコーダーを出すと、
「ベータAIを組み込んだレコーダー。テロリストのリーダーが保険の為に残していました。
今、録音した貴方の声紋と一致しました。テロリストの共犯か。よくて無期懲役。いい弁護士の友人はいます?」
娘の棗は呆然と、
「……そんな。お父さん、話して!」
オロオロと木村は、
「……ゆ、優秀な知人の弁護士を…高村?いやいや、飯泉か?いやいや…」
「無理だな。世論が警察官僚のオマエを絶対に許さない。99%極刑だよ。」
「…………。」
「まあ、オマエが死んでもいいが娘はこの日本社会で暮らせるかな?アメリカもテロリストの娘はいいとこ保護観察対象かな。交渉するだけの物はあるのか?アタマがいいならそこまで考えているんだろ、木村さん?1分だ。選択する時間をやる。」
棗は、
「お父さん!早く話して!」
「…………娘を殺すと脅されたんだ…。だからあの睦月家を一人で潰した夏葉君に娘を託そうとしたんだ。」
木村の言葉に麻王は、
「FBIからの依頼でスイス銀行の貴方の口座を調べた。テロ犯から貴方への口座に振り込みも確認した。それにもうすぐテロ犯を追いかけていたそのFBI様が日本に到着するよ。」
「……何者なんだ、夏葉君は?」
「1分過ぎたな、木村。でも娘は不憫だな。次の選択だ。今から全てを話せば海外に残っているテロ犯の残党グループから棗だけは救うと約束してやるよ。1分必要か?」
木村は床に膝まづくと、
「海外の口座まで………全てを話します。」
「…………お父さん。」
麻王は、
「テロに手を貸した人間にアメリカは甘くない。棗さんだったかな? お父さんに最後のお別れを…。」
麻王の言葉に棗は土下座をすると、
「お願いします!母が亡くなるまで父はこんな強引な人じゃあなかったんです!何でもします……私は一人になっちゃう…」
「……棗。」
父である木村は娘の土下座に涙が止まらない。
麻王はポケットから携帯を取り出すとスピーカーホンにして首相と話し始める、
「先ほどまでの話を聞いていましたか、首相?証人保護プログラムで木村さんはアメリカで別人になり、その代償に日本の警察組織内部の情報を全てアメリカが得る可能性は高いです。どうされますか、首相?」
スピーカーホンから聞こえる川上の声は、
『……し、しかしもうFBIは空港に着いている。どうしたらいいの、夏葉先生?』
「スイス銀行の木村さんへの振込の記録、その経路の全てを10分以内に消去します。後の証拠は知り合いの橘、名古屋、両警視長に全て消してもらいます。近々、首相官邸に検診に行きますよ。来ないでしょう?では。」
麻王は笑って携帯を切る。
木村と娘の棗は呆然としている。
「木村さん、テロ犯に騙されましたね。」
「…え?」
「口座に振り込まれた金額を確認しました。」
木村は、
「……いや、先ずは娘の安全確保をと。」
「100万です。一般市民でも100万の振り込み程度でテロに手を貸すと?」
木村は、
「……100万…最低でもその金額の20倍は振り込むって…」
「100万でも共犯とみなされますがね。」
「……なぜ、君は?」
「事前にこのホテルに来る首相をテロリストたちが襲う事は知っていました。ゆえに帰国を早くしました。」
呆然を通り越してその場にふらつく木村は、
「……知っていた…」
「ええ、それに貴方はテロリスト14名がこのホテルに入って来るのを黙認してましたね?」
「……そ、それは。」
「貴方のミスはそのプライドの高さ故に率直に部下に相談しないで一人で解決しようとした傲慢な性格。貴方のそういう一面も理解している者たちの操り人形になりやすい貴方はテロリストにターゲットにされた。この事件の裏にはもっと大きな組織が動いています。ま、FBIが日本まで来る異例事態。しばらくはおとなしいでしょうね。」
棗が自身のワンピースを引き千切ると麻王の右手を縛る。
麻王は、
「ありがとう。」
下を向いたまま棗は、
「……いえ…」
二日後
木村は今後の娘の安全を考えて辞職する。
ヨレヨレのスーツ姿の木村が一人トボトボと桜田門を歩いて来ると麻王がバイクを止めている。
「これが桜田門か…歴史感じる~。ま、副警視総監クラスなら天下りする必要ないですもんね。」
「……夏葉君、右腕は?」
「ま、春の選抜までには何とか治しますよ。今後のご予定は?学生時代に司法試験に合格された弁護士に?」
「……いや、娘の事を考えると何か大きな組織に関わるのがもう怖くてね。実家の寂れた旅館でも手伝おうとね…。」
「奥様を早くに亡くされているのでしたね…何処に逃げても貴方の記憶は必ず利用されますよ。」
木村は頭を抱えてその場で蹲る。
「ウチの会社に来ませんか?」
「うちの会社って……夏葉君の?」
「セキュリティの高さは世界一ですよ。娘さんには白桜に来て頂きます。ウチの社長の神薙青空と一緒に送り迎えには防弾仕様のリムジンに乗ってもらいます。」
「……あの神薙財閥の神薙君?僕は何をすればいいのかな?」
「貴方の記憶に興味はありませんが、まだまだ力のない幹部ばかりの会社でね。娘さんを土下座させる貴方の人柄を部下たちに教育して欲しいな…。そう言えば、退職金を受け取らなかったらしいですね?本来、貴方が受け取るはずだった定年までの退職金は契約金としてお渡しします。」
「……君は首相とも知り合いだったようだが…。」
「ちょうど今年の年始の頃かな。そういった日本の特権階級と言われる人たちの手術を山のようにしました。そういう類の人間は、本来、嫌いなんですがね。命の重さや苦しさに違いはないでしょう?でも、まだ世界で一度も行われていない手術ばかりなので何人かはマウス代わりになってもらいましたよ。」
麻王の言葉に木村は笑う。
麻王は遠くを眺めながら、
「……本物の理不尽で非人道的行為というものは、世界に山のようにありますよ。そういった世界を少しでも変えたい…そういった会社です。」
「………………。」
「木村さんとのこの邂逅は未来をきっと変える。契約は成立かな?」
麻王は木村に手を差し伸べる。
木村は立ち上がり麻王の手を握ると、
「……棗の為に?……いやいや、僕は最低なヤツだったよ、夏葉君。」
「どうでしょうね。でも、最低なヤツでも最高の父親ならいいんじゃないですか?契約成立ですね。これからは麻王でいいですよ。」
「………素晴らしい人格者だね、麻王君は。」
「木村さんの身近にいた黒幕たちの目安はついています。」
「………身近に……たち?」
「24時間、365日守り続けることは困難です。早々に始末しにいきます。」
「……何者なの、麻王君…?」
麻王は遠くを見つめると、
「貴方にはもう関係のない話ですよ。これからは娘さんと自分の幸せだけを考えればいい。」
「……そうだよね、僕はテロの共犯だしね。」
無言のまま麻王はバイクに乗るとヘルメットを被りながら、
「そんな証拠は何処にも存在しない。木村さんは傲慢な一面もあったが最もクリーンな副警視総監だった。関与した者も直ぐにいなくなる。明日、神薙総合財閥本社午前九時に。」
「……麻王君。」
「娘の人権も守れない人権派に何を言われてもね。」
「…………だよね。」
「でも現実、冤罪で苦しんでいる人たちも多くいる。いつかホンモノになった木村弁護士との対決を楽しみにしていますよ。」
麻王は木村に会釈をすると猛スピードで走って行く。
「…………そうだね…………対決?えっ、ちょっと待って、麻王君~!もういない……速!道路交通法、ガン無視?」




