暴力
●暴力 66話●
夜
新宿 喫茶店
麻王に弥生と千佳の三人が喫茶店に入って行く。
弥生は、
「………50坪はある広い喫茶店だね。でも寂れた喫茶店ね?」
「マスター、コーヒーを三つ。」
黒スーツにオールバックのマスターは、
「あい~、麻王ちゃん!」
弥生と千佳は、
「麻王……ちゃん?」
「盗聴器1つない喫茶店だよ。静かでいいだろう?」
「…………。」
「弥生と千佳の二人は向かいの席へ。」
警戒している麻王に弥生は、
「……怒っているの、麻王君?」
「そんな事ないよ。弥生と千佳は男性に慣れているから楽でいいよ。」
千佳は、
「………その……経験とかないよ、麻王?弥生は知らないけど?」
「こら、千佳!」
麻王は四人席の入り口側に座ると、
「無邪気な姉妹みたいだな。」
弥生と千佳は、
「……下座?」
「何の話だ?入り口から弥生と千佳を狙う人間が入って来た時に視界がいいだろう?反撃もし易い。」
弥生と千佳は、
「…………。」
千佳は、
「だ、だよね~ごめんね、麻王?」
「まあ、マスターがいるから杞憂だけどな。」
「…………。」
10分後
千佳は、
「……麻王、私と弥生のお爺様である睦月源八郎はヌルくないわよ。」
「睦月財閥と深森財閥の影の総帥様か?」
「それより何で千佳は麻王君の隣の席なの?」
「いいでしょう、弥生?麻王、その婚姻届けの話って本当なの?」
麻王はコーヒーを飲みながら、
「ここのコーヒーは美味しいよ。」
弥生と千佳は声を揃えて、
「……うん、深みがあってすごく美味しい!」
「本題に入るか。何故、千佳も弥生も株を青空に…神薙総合財閥に保有している株を売ったんだ?」
弥生は、
「……青空君から麻王君はいずれ近い内に神薙総合財閥のナンバーツーになる男だと聞いて。」
千佳は、
「……どっちみち神薙総合財閥には勝てないよ。それに敵対して負ければ神薙総合財閥は徹底的に私たちを叩く……だから祖父源八郎は…」
「……どうなんだろうな…」
弥生と千佳は、
「え?」
麻王はマスターを見ると、
「マスター、さっきまでの客は?睦月家or深森家?」
マスターは、
「……本家睦月家の元公安って所?麻王ちゃんってもうヤダ~麻王ちゃんも分かっているクセに~!」
「…………。」
少し声を荒げて弥生は、
「絶対に有り得ない!神薙家です!」
「弥生と千佳は俺を心底信頼してくれているしな。俺は神薙総合財閥のナンバーツーだよ。そのナンバーツーを張る必要が神薙総合財閥にあるのか?」
呆然と弥生と千佳は、
「……え?青空君から今はまだチーフマネージャーって…」
「明日、それを祖父の前で絶対に言うなよ。その方が敵も警戒しないから動きやすいだろ?それに神薙総合財閥は徹底抗戦をした企業を厚遇して迎える。尻尾を振り謙った者は徹底的に叩く。ボディーガード?当然、神薙総合財閥のボディーガードは全員把握しているよ………戦争か。」
愕然とした弥生と千佳は、
「………そんな。」
麻王は席を立つと、
「ありがとう、ここのコーヒーが世界一だよ、マスター。大丈夫、弥生と千佳は俺の命に代えても守るよ。」
弥生と千佳は、
「……麻王…」
「明日、信州の睦月家の別荘地に行くよ。それが終わったらそのままアメリカに戻るよ。」
麻王は一人喫茶店から出て行く。
「…………。」
マスターがカップを片付けに来ると、
「二人とも麻王ちゃんの為に売ったんでしょ?」
弥生の隣に座ると千佳は、
「………それは…まぁ…。」
「でもね、睦月家と深森家の者は貴女たちが憎くて仕方ないでしょうね?」
弥生は、
「……それもありますけど決して私や千佳が理想とする財閥ではないんです。」
「理想の大企業様ね~青い、青い。それにアンタたちは大丈夫よ、さっきのヤツらは本家から暴走した幹部の犬。ちゃんと始末したから。」
震え始める千佳は、
「……始末したって、もしかして……殺しですか?」
「二人とも男を見る目はあるわね?」
「答えて下さい!人を殺したんですか!なら、神薙総合財閥も麻王も変わらないです!」
「麻王ちゃんが先に出て行ったでしょ?やっぱりア○ルの青い小娘にはまだまだ分からないわね~。」
弥生と千佳は、
「……ア○ルの青い。」
「ケツの青い子羊ちゃんたちは私の部下の車で行きな。」
「結構です。帰ります、ね、千佳?」
「睦月家と深森家の莫大な利権を失ったアンタたちの一族郎党は裏切り者の貴女たちを殺すわよ。死んだら当然、永遠に麻王ちゃんに会えなくなるわよ~。」
弥生は、
「……お爺様の下まで行けば安全ですか?」
千佳は、
「弥生!」
「麻王ちゃんに頼まれたのよ、雌鶏ども。そんなに青臭かったら死のうが生きようがアンタの人生はどうせ終わっているわね。」
千佳は、
「……雌鶏って。」
「なら大人の女になりな!」
「…………。」
弥生と千佳の隣に強引に座るとマスターは、
「ホラ、詰めなさいよ!麻王ちゃんはホストじゃないわよ?」
千佳は、
「……どういう意味ですか?ちょっと…真ん中で苦しいんですけど…」
「麻王ちゃんがつくる人工知能だけで神薙総合財閥はぼろ儲けってこと。」
弥生は、
「麻王君の頭脳ってことですか?」
「ま、それもあるけど麻王君がいたらグダグダの政治家や反社会的組織と繋がらなくていいしね。」
千佳は、
「……どういう意味です?」
「賽を投げたのは貴女たちよ。自身で確認したら?」
「………………………。」
翌朝
麻王はスーツを来て睦月家の所有する信州の大きな別荘に訪れる。千佳と弥生が出迎える。
奥座敷に麻王が案内されると睦月財閥と深森財閥の本家の総帥の睦月源八郎が袴姿で座っている。
その両隣には弥生と文音の父、息子の睦月龍一郎と千佳の父、娘婿の深森正三が座っている。
麻王はその場で正座をすると、
「神薙総合財閥、副社長兼開発部チーフマネージャーの夏葉麻王です。どちらの会社も江戸時代からの伝統ある企業です。名前は、勿論、そのまま残させて頂きます。端的に言えば、両企業のバックアップと既存の商品の改善を私が行います。」
千佳と弥生の祖父源八郎は、
「我々の立ち位置はどうなるのかな?神薙家のお坊ちゃんは睦月財閥と深森財閥を合併させ私に新会長として居てもらうと言っておったが?」
「神薙総合財閥がバックアップをしているのに会長ですか?契約書を交わされましたか?」
源八郎は、
「古来より睦月家は口約束のみの信頼関係でここまで築いてきた。契約書は交わしておらん!」
「それは買収する時の口約束でしょうね。新睦月財閥社長には娘婿の深森正三さん。息子さんの龍一郎さんには部長職について頂くと契約書にも書いてあります。それともレコーダーなどに記録されていますか?」
弥生の父、龍一郎は、
「なんで俺が妹の婿養子の正三より下なんだ!せ、専務取締役は?」
「神薙総合財閥の者です。」
龍一郎は、
「……クソッ、何で俺が…」
「よい、龍一郎。我々を騙したのか?反社会的勢力をも取り仕切る睦月家を舐めるなよ、小童。」
源八郎の言葉に龍一郎も静かになる。弥生と千佳は凍り付いている。
麻王は、
「繰り返しますが新睦月の枝から再スタートをして頂くと聞いております。」
源八郎は、
「何でもできると思っている若僧どもには社会のルールを教えないとな。」
源八郎の言葉に襖が開くと黒スーツ姿のボディーガードたちが20人立っている。
千佳は、
「待って、お爺様、睦月財閥と深森財閥のバックに神薙財閥は素晴らしいと思います!」
弥生は、
「そう、麻王君、お爺様のお立場は?」
淡々と麻王は、
「神薙総合財閥の枝の新睦月財閥の龍一郎さんと新深森財閥の娘婿の正三さんの下の次長と聞いているが?」
弥生は、
「お爺様が次長って………じゃあ麻王君は?」
「副社長だけど?」
千佳は、
「待って、本部長じゃなくお父様たちが部長なの?」
「ああ。」
麻王の言葉にその場にいる者たちは啞然とする。
呆然と千佳は、
「睦月家と深森家が合わさって………枝?代理ってお父様たちは下?」
冷静に父、正三は、
「そう聞いているよ、千佳。」
正三の言葉に源八郎は、
「フッハハ、分家のしがない娘婿の正三を取り込んでおったか!覚悟はできているのか、小僧?」
麻王は立ち上がると結衣からプレゼントされた腕時計と香織からのネクタイ、美緒からの財布を自身のスーツの上着に包んで弥生に持たせる。
弥生は、
「…どういう意味……麻王君?」
「いいんだよ。」
「…………。」
麻王はあぐらに座ると、
「仕方ないな。一切問題にしませんのでご自由にどうぞ。ああ、男前が台無しになるので顔だけは勘弁してくださいね。」
「ブッハハ、肝が据わってるな、小童!」
龍一郎は、
「……父上、流石に神薙総合財閥の幹部に手を出すのはまずいのでは?」
麻王は、
「龍一郎さん、神薙総合財閥の社員には手を出されてもいい者は私以外にいませんよ。」
源八郎は、
「ブッハハ、ほざくな、小童!殺せ!」
ボディーガードに押さえられると弥生と千佳は、
「待って、何をするの!?麻王、逃げて!」
麻王は一時間以上、20人のボディーガードたちに殴られ続ける。畳は血だらけになり弥生や千佳には麻王に意識があるか分からない。
弥生と千佳にその凄惨な姿を見ると気絶する。
源八郎は、
「龍一郎、正三、孫娘たちを起こせ!」
龍一郎と正三は、
「……しかし、父上。」
「お前たちの娘の弥生と千佳はこの男に惚れているらしいな。」
正三は、
「なら、今は辛酸を舐めても将来的には明るい未来と思いませんか、お父さん?」
「辛酸を舐める、この睦月家が!?娘婿のお前には分からんわ!」
龍一郎は、
「正三の言う通りですよ、父上、この若さで副社長兼開発部チーフマネージャーですよ。それにこれ以上は神薙家も報復して来ますよ!」
「殺せ。」
龍一郎と正三は、
「……国家権力をも動かすと言われている神薙財閥に戦争なんて…」
目が覚めると弥生と千佳は、
「……お、お爺様―なんてことを……ヤメて!…お願いだから…麻王が死ぬ…」
呆然とする息子孫娘の二人に源八郎は、
「起きたか、弥生と千佳?この若僧を殺した後に生首をあの神薙家の餓鬼に送りつけてやる!お前たちにはもっと相応しい男を見繕ってやるわ。」
弥生と千佳は涙を零しながら、
「……そ、そんな…」
龍一郎は、
「父上!もう昔ではありませんよ!警察も間違いなく介入して来ます!」
源八郎は、
「官僚共も抑えておるわ。のう、伊達よ?」
源八郎の言葉にボディーガードのリーダーらしき伊達は、
「はっ!」
麻王の血に興奮する源八郎は、
「表のボディーガードも全員呼んで来い!」
「もう呼んでおります、総帥。」
伊達の言葉に表のボディーガードも50人以上奥座敷に入って来る。
麻王は立ち上がるとスーツの埃をはたく。血が滴り落ちる。
「殺人が社会のルールか?それに手慣れているな。これまで何人殺した?」
源八郎は、
「ボディーガードが何十人いると思っているんだ、餓鬼!!!!?それにその身体で何ができる?死んで行くオマエに正しく冥途の土産に教えてやる。そうだ。睦月家に負けた犬共に生きる資格はないわ!!!!!!」
源八郎が話を続けようとすると麻王は血が滴り落ちる右手を前面に出し源八郎の話を遮る。
「老人の話は聞き飽きたよ。1つ質問していいかな。睦月家に深森家、過去に殺した人たちの遺体はどこに埋めた?」
麻王の言葉に源八郎とボディーガードたちは狂気の沙汰の様に嗤い狂う。
「へー、流石にこれから殺す人間にも簡単に口は割らないんだな。ま、力づくで聞くからいいか。」
源八郎は、
「抜かせ、小童!!!!! 殺れ!!!!!!!」
源八郎の言葉に麻王を取り巻いている10人のボディーガードが源八郎の掛け声で獣のように襲い掛かる。
一人目のボディーガードの喉を左手手刀で潰すとその右隣の二人目のボディーガードを肘打ちでノックダウンする。
後ろから襲い掛かった三人目のボディーガードを屈みそのまま地面に叩き付け左手掌で顔面を潰すと四人目のボディーガード、五人目のボディーガードを掌底と裏拳の一撃で次から次へと顔面を潰していく。
再び瞬時に麻王は屈むと残り五人の足を掛けると五人は転びバランスを崩し、六人目、七人目と掌底で瞬時に10人を倒す。
麻王は口の中の血が溜まったツバを吐き捨てると、
「……元傭兵、自衛官、警察……所詮は殺し屋に堕ちた元だな。」
そう言うと麻王は中庭に向かって走って行く。
麻王は中庭の竹ほうきの先を割ると追いかけて来たボディーガードたちの眼を次々と突き刺す。
50人以上のボディーガードたちが中庭で壮絶な悲鳴を上げてのたうち回っている。ボディーガードたちの片目から血が垂れ流れている…。
麻王はボディーガードの一人の頭を踏みつけると、
「オマエが本当の事を言えば命は助けてやる。遺体は何処にやった?」
ボディーガードはのたうちながらも黙している。
麻王は、
「そこの源八郎にはもう何の力もないのにな…。何に対しての忠誠心か分からないが敬意を評して一突きであの世に送ってやるよ。」
麻王が割れた竹を奥座敷から襲い掛かって来た最後の一人伊達の眼球直前で寸止めすると、
伊達は、
「……さ、さ、…刺さないで……う、裏の竹林に100人以上の死体がある…」
「竹林の根がどれだけ強いか分かって言っているのか? 噓だな。死ね。」
「こ、殺さないでくれ!…だから遺体は見つからないんだ!」
「……その目は噓じゃないな。」
麻王は血塗られた竹ぼうきを捨て奥座敷に歩いて行くと背後からナイフを取り出した伊達が再び襲い掛かって来る。
麻王はスッと自身の頭を左に倒すと伊達の右手を自身の肩をテコにして叩き折る。伊達の右手上腕骨が見えるほど裂け血が吹くと伊達の右前腕が中庭に転がる。
麻王は振り返ると、
「恐怖が伝播するように敢えて遅く戦った事に気づかなかった時点で勝敗は決していたな。」
麻王が奥座敷に歩いて来ると龍一郎と正三は中庭の凄惨さにガクガクと震えている。
麻王は再び気絶している千佳と弥生の様子を確認すると弥生が持っていた麻王の上着から携帯を出して連絡する。
「聞こえていましたか、橘さんと名古屋さん?至急、逮捕令状を持って睦月別荘地に家宅捜査に。」
携帯を切ると、麻王は黙ったまま、上着に付けていたペン型のレコーダーを源八郎に見せる。
「元々、睦月家本家のオマエに関わった人たちの行方不明者が多過ぎてな…。龍一郎、正三、伊達を見ましたか?」
龍一郎と正三は、
「……は、はい!」
「俺の眼には一切の偽証は不可能です。伊達のようになりたくないでしょう?何人、殺しました?」
正三は、
「……16年と32日前に義父に睦月家に婿養子に入る儀礼と言われ龍一郎と一人殺しました。」
正三の言葉に龍一郎は下を向いている。
麻王は、
「……遺体は?」
正三は、
「……富士の樹海に捨てました。」
麻王は深いため息を尽くと、
「………源八郎の罪にするよ。」
正三は涙を零すと、
「でも!……あの日の記憶が今も……無邪気な娘の顔を見ると…」
ペン型のレコーダーを握り潰すと麻王は、
「貴方たちの話の前にこのレコーダーは止めてました。」
龍一郎は、
「で、でも、…」
「もう警察が突入して来ます。」
龍一郎と正三は、
「……………………。」
睦月別荘近くに停まっていた覆面パトカーに乗っていた警察官数30人以上が襖を蹴破って奥座敷に入って来る。
麻王は、
「……睦月源八郎と…このボディーガード53名の逮捕を…」
「は!」
源八郎は、
「オ、オマエも人殺しだろうが!」
「……このボディーガードたちの事か?伊達以外は全員気絶しているだけだよ。俺の血を空瓶に入れておいた。目を刺した者は硝子体。ま、俺しかできないがな。源八郎、死刑までに少し時間はある。独房で考えたらどうだ?」
「……死刑、ワシが?」
「眼球が飛び出し糞尿が漏れる絞首刑は通常3~5分生きている……意識が消えるまでのその気が遠くなる時間をこれまで殺して来た人達にただただ懺悔しろ。」
麻王の言葉に複数の警察官に取り押さえられた源八郎はその場に項垂れる。
麻王は自身の上着で両手の血を拭くと大切に腕時計、ネクタイ、財布をポケットに入れる。
次第に腫れ、口の出血がひどく橘が声を掛けても低い声でほとんど聞こえない。
奥座敷に入って来た橘は麻王の表情に驚きながらも、
「……いつも本当にありがとう、麻王君。」
「………しば…らく…戻…ます。」
「申し訳ない、麻王君。睦月源八郎と共犯のボディーガード全員を連れて行け!」
「はっ!」
「……またゴルフレッスンで、麻王君。」
「…ええ。」
源八郎は橘と覆面パトカーに。ボディーガードたちは複数台の救急車で運ばれて行かれる。警察官が麻王に応急手当をしようとするが麻王は断わり救急隊員から乾いたタオルと濡れタオルを二枚だけもらう。




