やっぱり美緒だろ
●美緒の心 65話●
麻王は職員室を出た後に図書室でうつ伏せになったまま寝ている。
愛枝から順々に一人一人が黙って入って来てチョコレートをおいていく。最後は美緒。
スッと起きると麻王は、
「もう皆、帰ったな。」
「キャッ、驚いたよ~!……最近、麻王と二人で話せなかったね?」
「そうだったな。」
麻王はペンを置いて背伸びをする。
美緒は、
「……時々、アルトメニアに帰りたいなって思うんだ…」
「地球は嫌か?安全だぞ。」
「学校は楽しいよ。でもアルトメニアにいたらもっと麻王といれたのになぁって思っちゃうんだ…。」
席を立つと麻王は、
「廊下に出て連絡したい場所があるんだ。ここは図書室だし、少しいいかな?」
三分後に麻王は戻って来る。
「……何か上手くかわされたね…。」
「そんな事ないよ。美緒、明後日、一緒にニューヨークに来てくれるか?」
「……私でいいの?」
「美緒がダメな理由があるのか?心海が心配だからマスターと弓のお母さんに頼んでおくよ。」
「……麻王はいつも妹想いだね?」
「美緒はもう少しお姉ちゃんらしくしないのか?明後日の用意があるだろ。NYは考えられない程に寒いから一緒に防寒着を買い物に行くか。」
「……心海は私より格段にしっかりしているよ。じゃあ新宿で待ち合わせしよ。一度、帰ってマンションも片付けたいし。」
「一緒でいいよ。」
美緒は、
「言いたくないけど……昔から心海は苦手だな。文音や愛ならまだいいけど見たくないんだ…。麻王とずっと一緒にいるのに私は意気地がないね…・。」
麻王は美緒を見ると、
「タイプが違う事とそれを理由にその相手を否定するのは美緒らしくないな。」
「…………。」
「事実、心海は美緒を慕っているだろう?」
「……そうなんだ。私の一方的な嫉妬だよ。私にもっと才能があれば……。」
「そんなものは求めていないよ。」
「え?」
「例えば10年後に女医になった美緒と平凡な美緒がいるなら俺は後者が圧倒的にいいな。」
「…なぜ?」
「俺が求めているのは少しおっちょこちょいだけど優しい美緒だからな。」
「……麻王。」
「少し待っていてくれるか?」
麻王はメールを打つと美緒に「じゃあ買い物に行くか。」と言う。
「……わがままでごめん、麻王。」
「そんな事全然思ってないって。」
麻王は少し美緒に笑顔を見せる。
西新宿
キョロキョロと美緒は、
「……都庁はホントに綺麗だよね。」
麻王が美緒の手を握ると美緒は、
「……あ、ありがとう…」
美緒が景色に感動していると麻王が手をつなぐ。美緒は照れて言葉が出ない。
しばらく歩いていると麻王は、
「ここだよ、美緒。」
麻王の言葉に地下通路を歩く美緒は事務所を見つけると、
「……パスポート申請受付だ…。」
東京パスポートセンター
職員は、
「これですよ。」
と麻王にパスポートを渡している。
「麻王、ごめんなさい、私、パスポート持ってないよ?」
東京パスポートセンターから出ると麻王は、
「美緒のパスポートを取りに来たんだよ。そこれが美緒のパスポートだよ。」
「……図書室で廊下に出て連絡したい場所って。」
「ああ、ここな。美緒のパスポートができているかの確認の電話をしたんだよ。」
「ごめんね、麻王。いやな女だよね…。」
美緒が謝ろうとすると麻王がそっと抱きよせる。
「そんな事全然思ってないって言っただろ。美緒のそういう謙虚な所も含めてずっと好きだから。それに俺との関係で謝るな。ありがとうでいいだろ?」
「……麻王は……いつも……優しい…ね。」
麻王の胸の中で涙が溢れすぎて声が出ない。
「チョコレート、ありがとうな。」
「うん、麻王、アルバイトでね、これ。」
美緒は小さな包み紙を渡す。
「開けていいのか?」
「うん。」
包み紙の中の箱を開けると二つ折りのブラウンのお洒落な財布が入っている。
「高かっただろ。」
「麻王はね…白桜…ずっと…」
美緒は涙で話せないまま麻王を抱きしめる。
「ありがとう、一生大切にするよ。」
「……どっちを?」
「それはやっぱり美緒だろ。」




