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何で698にしたの?

●何で698? 62話●


白桜高校 校門


田中猛と深森千佳が白桜校門を出るとバイクが止まっている。


後ろから歩いて来た麻王は、

「田中さん、35万人中1番の気分は?」


「サイコーですよ、社長!一生の自慢もんです!でも食堂の遠くの中で隠れんぼしていたのに振り返った時の青空先生の眼がピッタリ私の視線に合って…もう死ぬほど怖くて少しちびりましたよ~!」



千佳の目の前で麻王と田中が親しげに話している。千佳は校門に来るまで田中に説明されて来たが意味が分からない。



田中が革のツナギを千佳に着せると千佳は、

「……もしかしてもしかすると……貴方が一位の…?」


「ども、35万人中1位の田中猛っス。」


「…………。」



麻王はバイクボックスからフルフェイスを取り出し、千佳に渡すと、

「勝負は俺が勝ったら何でも言う事を聞くんだろ?」


麻王の言葉に千佳はようやく理解をして笑い出す。


「……うん、完敗しちゃった!何処に連れて行ってくれるの?」


「何処に行きたいんだ。」


「うーん、北海道って言いたいけど真冬だから沖縄!」


「負けたやつのセリフじゃないな。」


「いいでしょ!……私は大真面目だよ…ダメ?」


麻王は千佳を後部座席に座らせると、

「ありがとう、田中専務、次は自分の力でな。信じているよ。」


「……社長…ぅぅぅ…この田中猛、一生涯社長について行きます…ぅぅぅ…」


「日帰りだからな。しっかりつかまれよ、千佳。」


後部シートから麻王を抱きしめる千佳は、

「うん!」


羽田に走って行く。


「うぉぉぉんって……あれ?社長?…」




機内で麻王は熟睡している。


刺刺(とげとげ)しかった千佳はシート眠っている麻王を見つめる。飛行機が乱気流に巻き込まれてエアーポケットに陥る。いつも飛行機に乗っている千佳も感じた事がない激しい揺れに驚く。


機内の乗客がパニック状態になる中、


千佳の座っているシートの頭の上の手荷物カゴが開くとまだ気付いていない、

「……麻王……。」


瞬時に目を覚ました麻王が千佳の頭の直ぐ上の手荷物をつかんでいる。


「大丈夫か?」


手荷物が千佳の頭に当たる寸前にギリギリのところで麻王の左手で止まっている。


当たっていたら考えるとぞっとする千佳は、

「………ありがとう、麻王。」


麻王が辺機内を見回すと完全にパニック状態に陥っている。


機内のパニック状態に千佳は、

「……すごく怖かったけど夏葉君が守ってくれたから私は平気だよ…」


手荷物を自身のシートに置くと麻王は、

「ここにいろよ、千佳。」


「う、うん…」


飛行機内で急患者が出ると麻王は走って行く。





30分後

麻王が座席に戻って来る。


呆然と千佳は、

「……ま、麻王……血が付いている…」


「ああ、俺のじゃないよ。かなり安定したな。」


スカイアテンダントや麻王に助けられた人の家族たちがお礼に来る。



自身のシートに座ると麻王は、

「妻にお礼を言っておいて下さい。千佳、飛行機にバイク積んでるから水族館でも行くか…。」


そう言うと麻王は既に眠っている。


「え?え?起きてよ~!」


千佳は、家族の人たちに手を握ってお礼を言われると呆然とする。


一人の男性は、

「ありがとうございました。奥様、旦那様はどちら病院の先生ですか?」


「…あ、いえ、私たちはまだ高校生で。」


「またまた~!機内で二人同時にオペなんて生まれて初めて見ましたよ!」


「……もしかして…お医者さんですか?」


「ええ、福岡で医師をしている沢切と言います。」


「ハハ、待ってください………麻王、ねえ、起き…」


深く眠る麻王に千佳は、

「…ああ、夫は疲れているので私に聞かせて頂けますでしょうか。」


空港に着くと数台の救急車が来る。




那覇市

空輸したバイクが届く。


背伸びをする麻王は、

「よく寝たよ、行こうか?」


麻王からヘッドマイクを渡されると千佳は、

「…………………。」



バイクが走り出すと後部シートの千佳がつぶやく、

「…もういいよ。私なんかと違い過ぎる…。私なんて偉そうにしているだけのクズだよ…」


麻王は信号でバイクを止まると、

「千佳がクズならあの飛行機に乗っていた全員がクズと言う理屈になるな。」


「……みんなが押しのけ合って我先に治療を受けたいと喧嘩にもなったって沢切さんから聞いたよ…?」


「千佳は裁判官になるんだろ?それぐらいの自信家でないとな。走るぞ?」


「うん……何で麻王が知っているの?」


「東京高裁管内に司法修習生に行った知り合いからな。」


「……それって…もしかしてもしかすると私より最年少で取ったのって麻王?」



「聞こえないって。」


麻王がそう言うとしばらくキョトンとした後に千佳は笑い出す。


「もう!……司法試験って高得点者が裁判官や検事にスカウトされるんだ…冤罪で苦しんでいる人たちを助けるすごい裁判官になる。」


「聞こえないって。」


「もう聞こえているでしょ!」千佳の笑いが止まらない。




水族館

マンボウがゆったりと泳ぐ姿に千佳は、

「大自然の神秘だよ……何で698にしたの?」


「満点じゃない方がリアルだろ。」


麻王の当たり前のような答え方に千佳は自然に笑ってしまう。


「でも青空君に負けていたら?」


「あいつの2つ後ろ右斜めの席だったからな。マークシートを書く手の動きでフランス語の36問目の三点問題の間違えを確認した。後は俺の最初の一点問題を空白にしただけ。完璧に見えるあいつもフランス語は苦手なんだよな。千佳はフランス語は満点だろ?」


麻王はその光景を思い出し少し笑っている。



勉学において血の滲むような努力をして来た千佳にはよく判る。口で言うのは簡単だが満点から配点操作する事は制作した者でもほぼ不可能に近く難解なことを。



「……私の保有している株を青空君に渡せとは言わないの…?」


「もしそう思っているなら偽名を使ってまで模試を受ける必要あるのか?」


「……そうだよね、私、青空君にも負けていたのに…ごめんなさい。」


続けて千佳は、

「じゃあ、夏葉君、好きな女性いるの?」


「いるよ。それよりもう麻王と呼んでいるだろ?夏葉君じゃなくそのまま麻王でいいよ。」


「……私じゃあ…ダメかな?」



水槽の中のナポレオンフィッシュを見ながら麻王は

「真剣に答えていいのか?」


「う、うん。」


千佳はかなり緊張気味に答える。


「妻が弁護士や裁判官だと何かあった時に法律ではどうこうとか言われるとしんどいだろ。」


「そんな事しないよ~!」


千佳は笑いが止まらない。


「じゃあ誓約書にそれ書いてくれる?」


法律のことを言っているのは麻王の方だよ。千佳は更に笑う。


千佳はクスクスと、

「麻王が法律にこだわっている~!」


「一本取られたな。」


「もう、ナポレオンフィッシュばかり見て~!」


「あの一見、無意味に見える額のコブが死んだ友人に似ていて……つい懐かしくてな。」


「そんな人間いないけど?麻王って可笑しい~!」


「法とは人の最低限のルールを書いているものに過ぎないのにな…。」


そう言う麻王の表情は千佳には少し悲しげに見える。


「帰るか?」


「うん。」


帰りの飛行機の景色が千佳には驚くほど綺麗に見える。


千佳は疲れ切って眠っている麻王を見ると、

「………ありがとう、麻王。」


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