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ウインターカップ決勝戦

●ウインターカップ決勝戦 55話●


17時

新東京総合体育館


決勝戦

三条北山vs白桜高校


既に試合開始、第一クォーターは始まっている。


白桜高校控え室に向かって総合体育館廊下を歩いているウインドブレーカー姿のより精悍になった青年の姿がある。


麻王は、

「……白桜…白桜…」


白のダブルブレストコートを来た20前後の女性が麻王の後ろから歩いて来ると、

「…あの…甲子園の夏葉君ですか?」


振り返ると麻王は、

「誰です?」



アップした髪、小顔に透明感のある顔立ちをした女性は、

「あ、いえ、夏葉君じゃなくバスケファンで…」


麻王は、

「は?」


「いえいえ!大のバスケファンで私も学生からバスケ部員で…」


「すみませんが、白桜高校の控え室はどこです?」


女性は、

「わぁ!やっぱりウインターカップ決勝に出るんですよね!……もう始まってますよ!」


「それでご用件とは?」


「あ、握手…いえいえ、サインをしてくれませんか!?」


小さなポシェット一つの女性に麻王は、

「いいですよ。で、何に書けばいいんです?」


「いいんですか!?コートの下にけっこう着こんでるんで、そのシャツに書いて欲しい…」


「白桜高校の更衣室で着替えます?」


「逮捕します!」


“逮捕します!”にジッとその女性の目を見ている麻王は、

「………………。」


「……あ、いえいえ、もうホントにすごいバスケファンで…すみませんでした…」


手を差し出すと麻王は、

「警察の方ですか?」


両手で麻王の右手を握ると女性は、

「あ、ありがとうございます!…まだ警察学校を卒業したばかりの新米で…ハハ…あ、でも、警視庁の受付もしていますよ。」


握手をしたまま麻王を見つめ続けている女性は、

「…ど、どこかで…お会いしましたか…?」


クスッと麻王は、

「体調がいい時は、未来が視えるんでね。」


そう言い、手を放すと麻王は廊下を歩いて行く。



「ナ、ナンパ?……な、何よ、少しイケメンだからってイヤなヤツ…」


後ろ姿のまま右手を挙げると麻王は、

「またな、優里。」


「うん、またね!って…えっ?…一ヶ月前に警視庁の受付でナンパして来た…それ、おじさん。ぜんぜん違うよ!…えっ…どういうこと?」


ウインドブレーカー姿の小学生たちは、

「……お姉ちゃん、頭イカレてるの?」


「……ごめんね…」





ウインターカップ決勝戦試合中


王者三条北山高校は鉄壁のディフェンスを誇るチームに変貌していた。


その中心は、青空や優也、芯と同じ三条北山中等部の時の烏丸未知の存在。


当時、中学三年の時は190cmだったが、高校一年の現在は201cm。一年半前より格段に反射速度も上がっている。

不調が続く優也と芯が攻め切れないから白桜のリズムも悪くなる。烏丸未知の鉄壁のディフェンス後の三条北山の激しいカウンターに青空も防戦一方に回っている。



第三クオータ終了時点でロースコアの白桜46対三条北山60。



白桜ベンチ


ベンチに座ると優也が少し自棄気味に、

「未知のヤツあんなに守備の範囲広かったか?」


碧は、

「青空がディフェンスの中心になってくれているからこの得点差だぞ。」


周は、

「この得点差ってもう終わってないのか?」


スポーツドリンクを飲み終えると伊藤は、

「うるせぇぞ!ちょっとでも休んどけ!」


伊藤の言葉に周、芯、碧、駿、ハルト、山本たちは、

「…うっす…」


青空を見ると伊藤は、

「……向こうさんは白桜に照準を合わせスタメンも元気いっぱい。烏丸以外のベンチメンバー全員がインターハイトップレベルクラス…さすがだな…」


立ったまま三条北山ベンチを見つめている青空は、

「ええ、まぁ…」



白桜メンバー全員の後ろから声が聞こえる…

「……未知か…さらにデカくなったな。あいつが成長したなら芯や優也もそれ以上と思うのは俺だけか?」



その懐かしい声と白桜ユニフォーム姿の麻王の姿に優也、芯、碧、ハルト、駿たちは、

「……麻王…?」


振り返ると青空は、

「遅いぞ、麻王。」


青空が当然のようにサラリと言う。


全員がまだ有り得ないと言う顔をしている。



青空は間隙を空けず全員に指示を与える。


SG(シューティングガード)には余力のある伊藤聡。PF(パワーフォワード)に優也、C(センター)に芯。タイムアウトの場面があれば伊藤先輩と周は交代だ。最後まで走るぞ。」


碧は、

「おいおい、再会のハグとかあるだろう?」


芯は、

「バーカ、もう最終クォーターが開始だよ!」


優也は、

「麻王、青空、芯、俺たちはこの日の挑戦者になる為に白桜に集まったんだよ!」


優也は続けて、

「麻王、青空、オマエたちのポジションはどうするんだ?」


青空は、

「必要か、麻王?」


準備運動をしながら麻王は、

「俺がフォローするから自由にしていいぞ。」


伊藤は、

「麻王のお陰で後一年もおいしいよなぁ。」


新東京総合体育館の二階観客席を見ている麻王は、

「……そうですか。」




最終、第四クオータ開始直後、青空がセンターライン上にいる麻王にパスをする。

麻王はセンターラインからそのまま即座にクイックでスリーポイントシュートを打つと新東京総合体育館、一万以上の観衆の大歓声が響く。


三条北山キャプテン岡本は、

「……センターラインから全く躊躇いがなかったぞ…」


岡本の下に烏丸未知が走って来る、

「キャプテン、アイツが夏葉麻王ですよ。」


岡本は、

「……神薙、三明、牧野がいる三条北山中と一回戦で五分に渡り合ったとか言うヤツか?」


「残念ながら五分ではありませんでした。中等部の鉄も入れて審判の誤審勝ちの一点差ゲームでした。」


「鉄も入れてか?当時からセンターラインの位置から楽々打てたのか?」


烏丸未知は、

「……今、見た感じ安定感が抜群というか…一年半前はバスケも碌に知らない素人でしたから…辞めたかと…青空たちが白桜に行くのが不思議でしたが理解しましたよ。」


三条北山ベンチにサインを送ると岡本は、

「タイムアウトを取る。スタミナ万全のフルメンバーで徹底的に叩くぞ。」


「ですね。恐らくパワーは今も俺の方が上ですね。全力で叩き潰しますよ!」





第四クォーター

タイムアウト終了


三条北山は抜群の体幹の持ち主、キャプテン岡本と一年スタメンの烏丸未知以外にレギュラークラスが12名もいる。そして今、岡本、烏丸未知以外は体力万全のメンバーが出て来る。


PG岡本(188cm、全身体幹のキャプテン、岡本正弘)

C烏丸(201、高校NO1のパワーセンター、烏丸未知) 

SF三ノ宮(166、100M11秒の韋駄天、三ノ宮拓)

SG飛鳥(178、器用なオールラウンダー、飛鳥竜也)

PF泉(195、スリーも打てるPF、泉元太)


三条北山、岡本から三ノ宮へのパスを麻王が予測していたように素早くカットすると、


岡本は、

「なんだ、あの加速!?飛鳥、泉ゴール前だ!!!!」


麻王自身が中に切れ込み、瞬時に優也にワンバウンドパス。


スピードを落とさずにキャッチすると優也は、

「さすが麻王だぜ!」


優也の前に立ちはだかる飛鳥と泉は、

「させるか!!!!」


ジャンプした飛鳥と泉を空中でダブルクラッチすると優也は最後に”ひょい”と入れる。


未知は、

「……意地でもレイアップしかしなかった優也がダブルクラッチ…」




開始二分も経たない内に51対60。

烏丸未知は一年半前の麻王の凄さをよく知っている。


三条北山は麻王にトリプルチームをつけるが青空はその麻王にパスを出す。


やれやれと麻王はパスを受けると岡本、三ノ宮、泉が麻王につく。


ドリブルしたまま麻王は一歩下がって右→浅く左→即右に切り返すと三ノ宮と泉はコートにたまらず尻もちを着く。


そこからさらに右に切り込むアンクルブレイクで体幹の優れた岡本も瞬時に抜くとスリーポイントラインにいる伊藤にバックパスを出す。


スペースの出来た伊藤はクイックでスリーを打つ。だが、烏丸未知の素早いプレッシャーでボールの回転は悪い。


烏丸未知は外れると判るが身長176の青空が3M近くの高さから伊藤のスリーをキャッチしそのままゴールリンクにボールを捻じ込む。


尻もちを着いたままの三ノ宮と泉は、

「……あり得ない…」


すぐに立ち上がっていた岡本は、

「立て!負けるぞ!」



青空は未知を指さすと、

「お前の実力はその程度だったか、未知?」


そう言うと青空はそのまま自陣に走って行く。


未知は、

「……青空…クソッ!!!!」


青空の言葉に青空を超えたと思っていた未知の怒りが収まらない。


53対60


三条北山はパス回しを始めると思いきや三年キャプテン岡本が麻王と同じくセンターラインからスリーを打とうとした瞬間、麻王がより高く跳躍する、素早くカットした麻王は芯にアイコンタクトを送ると、麻王自身が高目のシュートを打つ。


三条北山の飛鳥は、

「野球じゃねえぞ、ノーコン!」


助走をつけ跳躍した芯はゴールリンク305cmのさらに30cm上でキャッチするとそのままアーリーウープを決める。


新東京総合体育館の大観衆が立ち上がる。


芯は、

「よっしゃー!」



白桜ベンチのハルトは、

「……麻王のプレーって簡単に見えて全然簡単じゃないんだよなぁ…」


駿は、

「空中でカットして芯にアイコンタクトからのループだもんな…」


碧は、

「まぁ、こんな近くで見れてお得だけど。」


伊藤は、

「周、交替しろ!」



55対60


烏丸未知がパスを受けると周と芯をドリブルでねじ伏せ、麻王と1on1になる。



守る麻王に対して未知は浅い左→深く右に切る、高度なアンクルブレイクで麻王が崩れたスペースに走ろうとした瞬間、優也がカットする。


未知は、

「クソッ、わざとか!」


崩れたように見せかけて右に敢えてスペースという通り道の選択を一本にさせた事により優也は楽々カットする。


未知は、

「10年早いぞ、優也!!!!!!!!」


優也はその場から飛ぶとカット直後の未知も飛ぶ、


ジャンプした優也は、

「麻王がその程度のアンクルブレイクで崩れるはずないだろうが、未知よ!」


そう言うと優也はバックパスを青空に送る。


スリーポイントライン上にいる青空が一歩下がると岡本と凄まじい反射神経で戻った未知がブロックに入る。


青空は無理をせず麻王にバックパスを送る。


三条北山のPFの泉も麻王のマークに加わる。麻王はバックステップをすると思いきや、ダブルビハインドザバッグで瞬時に未知、岡本、泉の三人を抜くと既にコートの反対側に移動している青空にパス。


バランスを崩し、また尻もちをついた泉は、

「……見えない…」


青空は悠々とスリーを決める。残り二分。58対60の二点差になると観衆が白桜高校に大声援を送り始める。



抜群のテクニックに加えて麻王はこう言った人の群衆心理というものをよく理解している。



この間に疲労し切った伊藤がガッツポーズをしながらコートに入る。


そして、これまでの連戦で肉体的にも精神的にも疲弊した仲間たちに、この声援は非常に大きな力を与えてくれる。



未知からキャプテンの岡本にパスが渡ると岡本は芯を抜き優也を抜いてそのままシュートに行くと思わせてスリーポイントラインにいるSGの飛鳥にパスを出した瞬間、目の前にいる青空にカットされる。


岡本が”なぜ?”と思う。


ディフェンスに来た三ノ宮の前でドリブルをしながら青空は、

「あなたの苦しい時のクセは知っていますよ。」


ニコリと笑うや否や凄まじい速さで三ノ宮を抜き、三条北山ゴール前まで走ると泉も抜き去り楽々とゴールする。



そのままダンクで60対60。



王者三条北山がタイムアウトを取る。



周は、

「麻王、いつ帰って来たんだよ?」


麻王はコートを見つめながら独り言のように、

「…話は後だ、周。三条北山は延長を考えていない。この残り一分に王者の経験値全てを掛けて来るぞ。」


タイムアウト終了 残り57秒。


オールコートマンツーマンから芯が何とか飛鳥をカットをするが無理に飛び込み過ぎてボールを弾いた瞬間、未知がボールを拾うと優也と伊藤に即座にダブルクラッチでゴール。


着地した伊藤は、

「……2Mの身長でもダブルクラッチに一切のぎこちなさがないな…」


優也を起こすと麻王は、

「あのスムーズな動きは上半身の背筋力ですね。」



60対62。


青空からボールを受け取ると麻王は走り出す。


センターライン手前に来ると三条北山は麻王に未知、岡本、三ノ宮、飛鳥の四人がピタリとつく。


王者である三条北山の夏葉麻王だけは絶対に止めるという意地。そしてキャプテン岡本は、夏葉麻王は絶対に逃げないと理解している。



麻王はフルトップからのフルブレーキ、更にフルトップで三ノ宮と飛鳥の二人が倒れる。



ダブルビハインドザバッグでもう一人、横から追いつく岡本にアンクルブレイクのゼロ位置からのフルトップ、フルブレーキで粘るチームナンバーワンの体幹の持ち主の岡本もさすがに倒れる。


コート上に倒れたままの岡本はこの間、僅か2Mの麻王の動きに、

「……次元が違い過ぎる…」


ここまでの時間はわずか2.1秒。



それでも五人目の未知は三条北山の意地で麻王を止めに来る。残像が見えるか見えないかの素早い左にフェイクを入れ即座に右から未知を抜くとすぐ横を走る青空にパスを渡す。


麻王と青空の完全な呼吸に未知は心の中で、

『……絶対に有り得ない…』


そう思う未知が青空を追いかけようとすると、既にその麻王がスクリーンに入っている。


青空が後ろから来ている事は絶対に分かるはずがない…三条北山のベンチやコート上のメンバーはただただ呆然とする。


青空は、電光掲示板のタイムを見ながらゆっくりとスリーポイントラインから全ての観衆が美しいと見惚れてしまう程の華麗でループの高いシュートを投げる。


青空のスローイングと同時にブザービーターが鳴ると大歓声が東京体育館に地響きのように鳴り響く。




烏丸未知が麻王に握手を求め歩いて来る、

「…相変わらず凄いヤツだな、夏葉。お前が来なかったら勝てたのに…さすがに悔しいな…。」


麻王は未知と握手をすると、

「青空が舞台を整えてくれていたからな。バスケがつまらなくなるから白桜には来るなよ。」


次はキャプテンの岡本が麻王の下に来る、

「完敗だよ。君はアメリカに行ったと聞いたが。……そう、なぜ青空が後ろから来ていると分かった?」


「俺が絶対抜くと信じている青空ならスペースの空く横に来ていると。来てなかったら負けてましたね。三年間、いえ、三条北山中から数えて六年間、お疲れ様でした。」


麻王の言葉に涙を拭うと岡本は、

「……高校三年の最後に夏葉麻王に会えて良かったよ。バスケがもっと好きになった。ありがとう、夏葉。また必ずいつかやろうな!」


岡本はチームメイトを慰め麻王に向かって手を挙げる。



麻王は、

「……またいつか。」


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