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ウインターカップ

●ウインターカップ① 一言 54話●



……麻王が白桜を去って二ヶ月


放課後

白桜高校 総合体育館


バスト部ユニフォーム姿の優也は、

「麻王がアメリカに行ってしまったんだろ、青空!?」


スリーを打ち続ける青空は、

「そうだな…。」


周は、

「野球の秋季大会どうすんだよ。」


「そうだな…。」


芯は、

「ウインターカップはどうなるんだ。」


「そうだな…。」


青空は遠くを眺めながら「そうだな…。」と一言しか答えない。



更衣室からユニフォーム姿の伊藤が歩いて来ると、

「……インターハイ東京予選リーグ一位通過の俺たち白桜と二位の聖林館が今年のウインターカップ出場だ。」


芯と優也は、

「……伊藤先輩…」


山本は、

「ウインターカップ決勝までは肘鉄を喰らった三条北山とは当たりません。」


伊藤は、

「じゃあ、リベンジは決勝戦だな!サイコーじゃねえ?」


周は、

「……でも…青空が…」


今にもキレそうな伊藤は、

「”でも、でも、”うるせぇよ~、乙女か?また青空だけに戦わすのか?」


優也は、

「……それは…」


「芯、おまえはドライブで抜いて打てるSGになれ。」


「……俺がですか?」


「優也、120%中に来るおまえはミエミエで怖くないんだよ。スリーと的確なパスだ。」


「20%オーバーしてません?……イヤイヤ、いやぁ~、スリーはキツいっすよ~!」


「青空よりも格下のおまえたちがアップグレードしなくてどうすんだよ!」


芯と優也は、

「……まぁ…そうっすけど…」


「ウインターカップ決勝戦まで行くのにスタミナ抜群の碧に周、長身の駿、ディフェンス抜群のハルトもいる。」


バスケ部ユニフォーム姿で渋々歩いて来る碧、駿、ハルトは、

「……伊藤先輩には野球部の秋季大会でめちゃくちゃ活躍してもらいましたが…バスト素人の俺たちにはキツいっすよ~!」


「そ?袋でヤンキーどもをボコボコにして高野連に白桜高校の野球部員、伊藤聡がしましたって言って来よ。」


碧、ハルト、駿は、

「待って、待って、やります!やります!」



碧は、

「……まぁ、スタミナはありますよ…」


「だろ、リビドー碧?」


「もはや単なるヘイトっすよ!」


「いいか?麻王が糞みたいにモテたのはスタミナ抜群だからだ!」


優也は、

「……スタミナ抜群ってあっちっスタミナ抜群すか?」


「スタミナ抜群にあっちもこっちもねえだろが、このダボ!パスだ!今日から碧、ハルト、駿はあらゆる状況でのパス回し、一日一万回だ!」


碧、ハルト、駿は、

「…ええええっ、一万回もムリですよ~!」


クスッと青空が笑うと優也は、

「今、青空が笑いましたよ!」


「うるせぇ、馬鹿ども!雑用係に沖田、水戸、雅サッサとも呼んで来い!」





橘結衣は文化祭最終日以来、学校を休んでいる。香織から結衣自身が走って行ってしまった直後の話を聞いたから。


橘家

三ヶ月間、自宅の自身の部屋にこもっていた結衣は力なく麻王にゴルフレッスンを受けていた父に知っていたのかを聞きにリビングルームに行く。


ソファで新聞を読んでいた橘は、

「早くに麻王君から聞いていたよ。お前は麻王君をきちんと見送ってやったのか?」


下を向いたまま結衣は、

「……何で言ってくれなかったの?」


「麻王君には色々とする事があっただろ。名古屋の息子と会社もしていたし、文化祭の準備や海外への手配もあっただろうな…。結衣、大人はそんなに簡単じゃない。」



握りこぶしをさらに強く握るうつむいたまま結衣は、

「………聞いてたら…ちゃんと聞いてたらこんな惨めな思いをしなかったのに…」



「結衣、お前は麻王君に何回、助けてもらったんだ? お前が誘拐された廃校から一人分の血が検出されていてな。誘拐犯たちの者じゃなかった…麻王君はお前にそんな事を一言でも言ったのか?」


「……聞いたのに…だから聞いたのに何で言ってくれなかったのよ!」


「結衣、球技大会を覚えているか?」


「……もちろんだよ…」


「結衣のクラスのバスケットボールの試合の時、父さんもクラスから孤立している結衣が心配で見に行っていたんだ。あの試合の時も彼は結衣の頭を撫でる時しか笑顔をしてなかったな。」


「………だから何で…」


両手を後ろに回し、窓ガラス越しに裏庭を見る橘は、

「なぜ自身で確かめようとしないんだ?その情報が嘘だったら?そうやっておまえはまた自身の悦に浸り麻王君の気持ちを踏み躙ったんじゃないのか?」


父の言葉に悔し涙が溢れる結衣は、

「………………。」


窓ガラスを開けると橘は、

「ゴルフの時の神業のようなパターの時も結衣たちにプレゼントした時だけ彼は笑っていたな…父さんはね、愛枝君や結衣を見る時だけ優しい目をする麻王君が好きでね。」


結衣の父親は庭にゴルフの素振りをしに行こうとする。



橘は、

「彼はアメリカに行く前日までなぜ文化祭の準備をする必要があったのかな?なぜ碧たちには言わなかったのにおまえたちだけに”さよなら”を?」


「……ヤメて…」


「いつまでたっても甘えたのおまえたちのその後が心配だったんじゃないのか?きっと麻王君は今も闘っている。……ここからは父さんの推理だが……きっとホテルのロビーで麻王君はおまえを見つけていたんじゃないかな?」


「…えっ…?」


「孤独な闘いが待つアメリカ行きのフライト時間も迫っている。思い込みの激しいおまえは理解しないだろう…麻王君はおまえよりも辛かったんじゃないか…」


ため息交じりに橘はそのまま庭に行く。


「……待って、お父さん!私、アルバイトをして自分の力でアメリカに行ってもいい!?」



「父さんたちはアメリカでレッスンしてもらうよ。父さんが麻王君の立場なら結衣からプレゼントも欲しいな。」


そう言うと結衣の父親の橘は笑う。



「……お父さん…」


ゴルフクラブを取ると橘は、

「……麻王君に出逢えたおまえは誰よりも恵まれているよ。違うか、結衣?」


「……うん…」



結衣は香織から渡された袋を開けると、透き通るようなエメラルドグリーンのアクセサリーとカードが一枚入っている。


結衣はその言葉を読むと、

「……ごめんなさい…先輩…何もわかってなくて…」



月日は流れ高等部の体育祭も終わる。そしてクリスマス。



東京都インターハイを一位、二位で通過した白桜高校と聖林館はウインターカップも勝ち進むが聖林館は準決勝で当たった三条北山高校にトリプルスコアで敗退する。


白桜高校は三条北山とウインターカップの決勝を迎える。


白桜高校バスケ部は、神薙青空、三明優也、牧野芯、伊藤聡、山本信二の五人に加えて上杉周、井上ハルト、名古屋駿、橘碧たち野球部のメンバーも加入し、戦力は大幅にアップしている。



しかし、ウインターカップ一回戦、二回戦、三回戦…いつまでも調子の上がらない芯と優也。二ヶ月前まで素人だった周、ハルト、駿、碧たちのミスで準決勝の神奈川代表の霧谷とは延長戦を強いられる。


結局、神薙青空と伊藤聡の奮闘のみで決勝戦まで勝ち進んだ。



白桜高校バスケ部全員の疲労感は部員数200人を超える高校王者三条北山に比べて厳しい…。


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