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文化祭の意味③ ありがとう、そしてさようなら

●文化祭の意味③ありがとう、そしてさようなら  53話●


22時

白桜高校グラウンド


グラウンド端に造られた麻王たちの寿司店


弥生と一緒に下を向いたまま帰って来る香織は、

「……ごめんなさい、麻王先輩。」


もう白桜制服に着替えている麻王は、

「ありがとう、弥生。」


寿司店内から心海たちの声が聞こえると弥生は、

「ううん、私も帰り支度をして来るね。」


弥生はお店に入って行く。



「午前4時が懐かしいな。」


「……まさか、ホントに覚えているんですか?」


「ショートヘアだったな。帰って来ただろ?明日から頑張ってもらうからもう帰り支度をしろよ。」


テントの鉄パイプも片付き、麻王は最後のたこ焼き器を持って歩いて行く。



涙が頬を伝う香織は頭を下げると、

「……お兄ちゃんを救ってくれて、ありがとうございました…」


制服にカバンを持った心海たちが寿司店から出て来ると、

「……なに、香織?午前4時が何?」


「……ううん、…先輩は朝4時に魚市場だって…私も帰る!」




仕事の合間の休憩時間にリサや弥生が心海と弓に勉強を教える。そう言った形で文化祭三日間が終わる。

唯一売り上げ2000万を超えた麻王たちの寿司店。


文化祭三日目の夕方


寿司店

麻王がリサ、弥生、結衣、心海、弓、香織に最後のお寿司を握っている。


結衣は、

「順調過ぎるほど上手く行きましたね?」


麻王は、

「結衣たちのお父さんが来てくれたのも大きかったが、最初に噂を流すサクラを2人雇ったからな。もちろん品物は超一級品だよ。」


心海と弓は、

「悪知恵働く~!」


弥生は、

「一般人では凡そ口にできないモノだよ。でも、テイクアウトまでしても、やっぱりお酒を扱えないと利益は薄いね。」


心海と弓は、

「大人~!」


香織は、

「それでも三日で売り上げ2000万超えですか?」


「借金500万を引いたら、純利益はそれほどでなかったな。じゃあお給料。」


麻王は、結衣、心海、弓、香織にそれぞれ通帳と印鑑を渡す。4人はポカンとしている。


「リサ先生と弥生先輩は大人だから後で一緒に買い物に行って好きなものを選んでいいよ。」


リサは、

「うん…って……麻王君は?」


この三日間ではじめて笑顔を見せると麻王は、

「俺は売り上げトップ3に入ったから留学か大学進学時の資金援助をもらえるからな。7人で楽しかったよ、ありがとう。」




麻王の言葉に呆然と心海は、

「……麻王兄、もしかして海外に行くの…?」


「それより食べながら話すなよ。」


少し寂しい空気になると香織は、

「何でリサ先生と弥生先輩だけ?」


心海は、

「ちょっと!今、そういうのはもういいから!」


香織が言い出すと結衣と弓が頷く。


麻王は、

「お前たち四人には以前にプレゼントしただろ。それにお前たちが一生懸命働いた大切なお金だ。大切に使えよ。」


以前にプレゼントをもらった結衣と弓は下を向く。


麻王はその様子を見て少し考えている…。


「…もうお嬢様扱いは失礼だな…。銀行はもう締まっているからATMで下せる範囲でな。リサも弥生もそれでいいか?」


リサは、

「うん、本当に楽しかった!ありがとうね、麻王。」


弥生は、

「有難う、麻王。私も楽しかった!」


「じゃあ俺はお店を片付けてから追いかけるから先に6人で行っておいてくれるか?」


「えぇぇぇぇぇ~!」


「6人で行った方が安全だろ。」


香織は、

「じゃんけん大会で優勝したら麻王先輩と一緒に行きたかったのに…」


弥生はクスクスと笑うと、

「まだまだ中学三年生は可愛いね、リサ先生?」


弥生の言葉に心海、弓、香織はムッとする。


リサは、

「ん?このエビ、すごく美味しいよ?」


「………………。」


心海は、

「麻王兄、先に私たちはどこに行くの?」


「……やっぱり新宿かな。ああ、私服でもいいんじゃないか。」


結衣、弥生、リサ、弓、香織がキャッキャッと騒いでいる中、


心海は、

「……うん…わかった…」





三時間後

新宿西口


白桜制服姿の麻王が西口改札から横断歩道を歩いて来ると私服姿のリサ、弥生、心海、結衣、香織、弓が待っている。


「待たせたな。」


リサは、

「……片付けまでさせてごめんね。」


「構わないよ。それより買い物はもうしたか?」


弥生は、

「せっかくだから、麻王に指輪を選んで欲しいな…」


結衣、香織、弓は、

「えぇぇぇぇぇ~!」


「女性は結局、自分が気に入ったものしかしないから弥生自身が気に入ったモノを買ってやるよ。」


「さらにえぇぇぇぇぇ~!」


弥生は、

「……上手くかわされた気もするけど、麻王に買ってもらえるなら、うん!」


結衣は、

「まぁ、今後の参考になるよね…」


一人、心海は、

「………………。」





全員の買い物が終わると麻王は”このホテルで待っていて欲しい”とだけ言い、そのままいなくなってしまう。


超高層ビル ホテルスカイアドリア


ホテルスカイアドリアを見上げている結衣、リサ、香織、弓は、

「……すんごい高さ…」


弥生は、

「ここ一年ぐらいにできた60階建てのホテルよ。」


心海は、

「来たことあるの?」


弥生は、

「睦月不動産が建てたんだよ。」


リサと香織は、

「えぇぇぇぇぇ~!」


弓は、

「麻王先輩は最上階で待っておいてって言ってたよね。」


心海は、

「……私、帰るよ…」


心海の右手を掴むと弥生は、

「待って、もしかしてさっきの白桜からの資金援助の話?」


「……うん…私の勘はよく当たるんだ…」


リサは、

「いいんじゃないの?」


振り返ると心海は、

「……えっ…?」


続けてリサは、

「麻王君ってずっと心海の面倒を看て来たんでしょう?まだ16だよ。信じられる?16で人生の90%が妹二人の面倒ってどうなの?もしそうなら世界で一番愛されている心海は精いっぱいお兄ちゃんを応援してあげるべきじゃないの?」


うつむいたままの心海は、

「……きっと…そうなんだね…」


結衣は、

「むしろ、さっきから何の話です?」


弓と香織は、

「……うん、…何?結局、行かないの?」


心海から手を放すと弥生は、

「わかった!麻王君が先に行ってるんだ!」


香織は、

「弥生さんやリサ先生って”麻王”や”麻王君”ってコロコロと呼び方が変わりますよね?」


弥生は、

「香織も大人になったらわかるよ。最上階に行こ!」





最上階


結衣、弥生、リサ、心海、香織、弓の6人が最上階に上がると場内は、数百人の観客の歓声でとても盛り上がっている。


なぜか私服姿の愛、美緒、愛岐、神子、文音もいる。


弥生は、

「文音?」


「お姉ちゃん?なんでここに?」


笑顔になると心海は、

「美緒姉、メイド喫茶の売り上げは?」


美緒は、

「えっ…まぁまぁかな、愛枝?」


「私?……5人で三日間の売り上げが十万ぐらい?って何で弥生さんやリサ先生も?」


愛は、

「……テントでメイド喫茶はムリあるし、内装工事にお金が掛かってね。」


神子は、

「利益は2100円だよ。三日でフル稼働で日給たったの140円だよ~!」


神子の言葉に心海、弥生、リサ、結衣、香織、弓は笑いが止まらない。



愛は、

「それより、始まったばかりなんだけど、凄いマジックショーなんだよ!」


美緒は、

「……麻王がこのホテルに誘ってくれたんだけど、あのマジシャンが誰かさんのような…」


心海は、

「ホントに!?」


弓も、

「見る、見る!」




高さ70cm×横210cm×奥行き100cmのマジックテーブルでマジックのショーが開かれている。

真っ白な仮面をしたマジシャンは驚くほど鮮やかな手さばきを披露している。リサたち6人に愛枝たち5人も加わり、11人はその見事なテクニックに驚き、魅了されている。


マジシャンは、

「そこのお嬢さん、勝負をしませんか?」


心海は、

「私?」


結衣は、

「……話した…」


美緒は、

「声が違う…」


マジシャンは心海を指名する。愛枝や結衣たち10人が心配するが心海は前に出る。数百人の観衆が拍手を送る。



マジックテーブルの真ん前まで行くと心海は、

「勝負は?」


「コイントス勝負はどうかな?君が勝ったら君と君のお連れの10人にもプレゼントをするよ。」


自信満々に心海は、

「その勝負受けるよ。」


マジシャンは「コインの表か裏か?」と尋ねる。


麻王からマナの結晶鉱石のネックレスを掛けている心海は負ける気は全くしない。


マジシャンはコインを左手で上に投げるとほぼ同時に右手で全てのトランプを空中に飛ばす。

愛枝たち観衆はその両手の鮮やかな手捌きに呆然を超えて唖然としている。


マジックテーブルの前にいる心海は「表!」と自信を持って答える。


マジシャンが右手を水平、内側に振ると落ちて来たコインは消える。場内は驚くほど完全に静まり返る。


神子は、

「……えっ…見えた?」


愛は、

「……左手でコイントスして、右手でトランプカードがコインを覆ったよ…」


マジシャンの仮面しか見ていない美緒は、

「……う~ん…」


弓と香織は、

「コインが空中でぜんぜんクルクルしてなかった…逆にすごい…」



無言のままマジシャンはマジックテーブル越しに心海の前に右手を差し出すとコインは裏。


観衆からため息が漏れる。



なぜか涙が溢れる心海は、

「……絶対に表だったよ…」


マジシャンは心海の周りにいる愛枝、美緒、神子たちを見ると、

「他にも景品は用意してるからね。さ、皆様は別室にどうぞ。」


リサや愛、結衣たち11人は別室に行く。




別室

別室に入るとマジシャンはマスクを外す。

全員が麻王と思っていたが声が全く違った。



文音は、

「やっぱり麻王!」


結衣は、

「でも、声が違いましたよ?」


仮面の裏、口元のボイスチェンジャーのような器機を見せると麻王は、

「ふー、暑いな、声質を変えただけだよ。」


仮面を持つと美緒は、

「……ホントだ…何もない…」


弥生は、

「自分の声が嫌いな人が声質を変える…みたいな感じ?」


「いや、人は声質は変えられない。だから声帯を動かす4つの筋を動かすことによって声色をな。ほら、心海。」



麻王は心海にコインを投げる。心海がコインを見ると両面が接合されている。両面が表だけのコインと裏だけのコイン。


「ズルいよ、麻王兄~!」



胸ポケットから紙袋を出すと麻王は、

「だな。でも世の中にはこういう事がたくさんある。それを知って欲しくてな。でも心海の集中力と視界が広くてコインを入れ替えるのに苦労したよ。さすがだな、心海。」


突然、結衣は、

「……麻王先輩は結局、白桜の美女を集めたかったんだ…。私はこんなメンバーの一番なんかに絶対なれないです。」


結衣はそう言うと部屋から走って出て行ってしまう。


弥生が追いかけようとすると麻王は、

「いいよ。」


香織は、

「…結衣…何を言って…」


弥生は、

「……でも、…」


「俺はアメリカに医術を学びに行くよ。」


愛枝は、

「……えっ…い…じゅつ?」


愛は、

「……いつから…」


「甲子園の三回戦の頃かな。ある博士が俺に手を貸して欲しいって。」


美緒は、

「聞いてないよ、麻王!?」


「リサ、愛枝、神子、愛、弓、香織、文音に弥生そして心海、美緒…今日までありがとう。」


全員がお別れの言葉以降何も聞いていない、聞こえていない。


心海は、

「……すごいことなんでしょ?なら…私は泣かないよ…」



麻王は小さな紙袋から小さなアクセサリー。ピアスやネックレス……一つ一つが違う色と形をしたものを取り出す。


麻王は心海に右耳に深紅のピアスをつけると、

「このアクセサリーは一度だけお前たちに何か起こった時にその身を守ってくれる。」


「…大切にするね…麻王兄…昔、私が怖くて眠れなくなったら抱きしめてくれたよね…」


屈んだ麻王が心海を抱きしめる光景に愛、弓、弥生、リサ、神子は涙が止まらない。



強く麻王を抱きしめ返すと心海は、

「……麻王兄…いってらっしゃい…待ってるよ…」


「ああ。」




「愛枝、お前には赤が似合うだろ。愛枝もピアスな。」


ピアスを受け取ると愛枝は、

「……待って…わかんないよ、麻王!」


美緒は、

「これアルトメニアの装飾具と違うよ、麻王?」



「俺はアルトメニア生まれじゃないからな。いつか話す時が来たら全てを話すよ。」


そう言うと麻王はそれ以上は、何も言わずに結衣以外の全員にアクセサリーを渡し終えると別室から出て行ってしまう。


全員が信じられないままその場で立ち尽くす。


愛枝が泣き始める、愛枝の切な過ぎる姿に全員が泣いてしまう。

「……な、なんで…私はヤだよ…」


愛は、

「……麻王君を必要と言った博士はきっとすごい人なんだと思うよ…」


リサは、

「……麻王君に直接聞いたのは文化祭の一日目だけど、知ってたんだ…ごめんね。」


文音は、

「なんで言ってくれなかったの!?」


弥生は、

「……私は、麻王君の表情でなんとなくだけど……わかったよ。」


弥生の両肩を持つと文音は、

「どうして言ってくれなかったの、お姉ちゃん!」


「文音、もう十二分に麻王君に救われたでしょう?リサ先生も言っていたけど、麻王君はまだ16だよ?彼が私たちの気持ちを大切に尊重してしてくれたように私たちも麻王君の気持ちを大切にしようよ?」



別室の椅子に座ると神子は、

「……恋って突然、終わるんだ…さりげなく優しい麻王君が好きだったけど、…すごい人だし…」


弓は、

「……神子さん…」


香織は、

「……わかった…」


美緒は、

「…何が?」


涙を拭うとリサは、

「……うん、私もわかった…きっと一人一人にお別れを言われたら、今ごろは辛くて仕方なかったよね?」


愛枝は、

「でも…」


愛は、

「……呼ばれたのは私たちだけだよ…愛枝?」


愛枝は、

「…熱烈アタックしたのに呼ばれなかった、山形さんとか?」


「そういうことを言う?」


香織は、

「……多分、お兄ちゃんたちも知りませんよ。」


美緒は、

「……そうなんだ」


愛枝は、

「たい焼きでアホ面してたもんね…」


ずっと下を向いて座っている神子に弓は、

「神子さん、麻王先輩は一人でアメリカですよ?」


「……うん…きっと私たちより辛かったよね…でも、ここまで大切にしてくれて泣いてたらダメだよね…」


文音は、

「リサ先生、麻王ってどこに行ったの?」


「……えっと…白桜高校に来てた書類には…東海岸のメディカルスクールって書いてあったよ。」


愛は、

「メディカルスクールって医学部だよね?東海岸のメディカルスクールってどこの大学?」


美緒は、

「……えっと………どこ…?」


弥生は、

「ああ、あそこかニューヨークか…さすが麻王…もう追い抜かれちゃった…フフッ…」


弓と香織は、

「”フフッ”って…どこ…どこです!?」


愛枝は、

「なんで弥生さんが”麻王”呼びなのよ!」


愛は、

「もう、愛枝~!今はいいよ~!」



部屋から出ると麻王はホテルのスタッフに美緒たち全員分の車の用意をお願いする。



結衣が一階のロビーで泣いている姿を見ると、

「……ああ、俺だよ。結衣を家までお願いしていいかな?」


麻王は携帯を切るとリュックを背負ってホテルを出て行く。



「別れは次の出逢いを意味するか…真実でもあり綺麗事でもあるな。」


麻王はそのまま歩いて行く。


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