文化祭の意味➁
●文化祭の意味➁ 52話●
生徒会室
結衣と麻王が生徒会室に入って来ると、
麻王は、
「青空、他の生徒の割り振り場所を見れるか?」
青空は笑うと、
「副会長が何を言っているんだ、麻王?」
リサ先生と弥生先輩が息を切らしながら開きっぱなしの生徒会室に走って来る、
スーツスカート姿のリサは、
「麻王君、私たち、どんな事でもするよ!」
「文音のお姉ちゃんまで、…心境の変化か?」
白桜ブレザー姿の弥生は、
「……色々と怒られてね…」
結衣は、
「……怒られた…睦月前生徒会長が…?」
青空は、
「先生が参加できないということは書かれてないしね。」
「女子校、女子大を卒業後即白桜の教師なら共学の良さを味わうのもいいかもな。」
感動するリサは、
「……麻王君…」
弥生は、
「私はダメかな?」
「青空、美人店員が三人も集まってくれたんだから寿司屋をするよ。」
青空は、
「わかった、麻王。手続きはしておくよ。」
弥生は、
「青空君は参加しないの?」
「ま、僕は見送り役なので。」
結衣と弥生は、
「……見送り役?」
リサは、
「私のこと~!?ここまで来たら、もう意地でもヤメないから~!」
結衣と弥生は、
「…………………。」
リサは、
「……それでお寿司のネタは、麻王君?」
「市場に朝一に行って仕入れも全て俺がするよ。三人は接客とレジを絶対に滞りなく回転できるように練習してくれないか。」
結衣、弥生、リサは、
「はい(うん)!」
「青空、済まないが、プレハブ設置場所を…」
文化祭前日
麻王は用意した大きなプレハブの左右と後ろに大きな”寿司屋”と書かれた薄緑色の暖簾でプレハブ全体を隠す。
見た目の食欲と衛生感を出すためだと麻王は結衣、弥生、リサの三人に説明する。
レジの打ち方、領収書のきり方、接客も細かく指導する。
作業着姿の自身で建てたプレハブを見ると麻王は、
「いよいよ明日か。初日は表でするから結衣もリサも弥生もよろしく。」
グレーのスカートにワイシャツ姿に弥生は、
「……弥生……嬉しい!」
結衣は、
「麻王先輩、内装工事もしたプレハブがあるのに表でする理由は何です?」
「パフォーマンスだよ。それに魚介類などの生ものは怖いだろ?」
「ええ、まあ。」
「人は視覚で見て安心できるものが欲しい。特に食べ物はな。」
リサは、
「他のお客様がパクパク食べてると安心するもんね!」
結衣と弥生は、
「……リサ先生は気にしませんよね?」
「後、テイクアウトもするから。このメンバーの三人の一人でも欠けたら終わるからな。」
麻王の言葉に弥生とリサは緊張気味に、
「……頑張ります。」
結衣は、
「このプレハブの費用は?」
「150㎡だから500万くらいかな?」
リサは、
「……500万……麻王君が立て替えてくれたの?」
「そんなハズないだろ。リサ、結衣、弥生、そして俺で借金だよ。」
弥生は、
「……借金…じゃあもし売り上げが黒字にならなかったら?」
「過去最大の赤字が50万だから俺たち四人で10年ぐらい奉仕活動すればいいんじゃないかな。」
結衣、弥生、リサは、
「えぇぇぇぇぇ~!」
プレハブ内の座席は回転寿司のような360°の見渡し型。かなり広い。リサ、結衣、弥生はこんなに広い所がいっぱいになったらと更に緊張する。
30分後
プレハブ内
座敷に座り麻王は一人笑いながら四方八方に連絡している。
携帯を切り、ポケットに入れると麻王は、
「みんな緊張しているのか?」
座敷で正座している弥生とリサは、
「……10年も奉仕活動…ハハ…」
座敷から出ると麻王は、
「まかないでも作って来るよ。」
リサは、
「もらう、もらう~!」
結衣は、
「……睦月先輩でも緊張するんですね?」
女座りをすると弥生は、
「弥生さんぐらいでいいよ、結衣ちゃん。」
「私も結衣でいいです、弥生先輩!」
真っ直ぐな結衣に弥生は、
「周りからチヤホヤされている嫌な先輩と思った?」
「……いえ、中等部の男子生徒のほとんどが弥生先輩を好きでどんな女性かなぁ…って…」
「この前、麻王君にサラッと流されてね?文音からどんなに陰で努力をしていてもそれを表面に出す者を麻王は相手にしないって。」
「……弥生先輩って麻王先輩が振り向かないから好きと思っているだけじゃないんですか?」
「それは嬉しいな…ううん、今ならはっきり言えるよ。」
「な、何ですか?」
「30歳差以上の大人の男性と政略結婚すると思っていた…」
「………30歳以上ですか?」
「うん、でもそれもいいかなって。なぜだと思う、結衣?」
「弥生先輩は経済力も容姿端麗頭脳明晰だし…も、もしかしてあっちですか?」
「ピンポーン!………麻王君なら同世代にないモノも何より深い愛情もある。」
「……やっぱりリサ先生より大人の女性ですね?」
まかないを食べているリサは、
「ん?お弁当、美味しいよ。」
「…………。」
そして文化祭初日
中等部に出店したお店に結衣の父親の橘と香織の父親の名古屋が部下数人を連れてやって来ると外に設置したテーブル椅子に座る。
ラフなポロシャツ姿の橘は、
「麻王先生、安くて美味しい寿司を食べさせてくれるんだね。じゃあ先ずはマグロ20人前。」
ワイシャツに赤ネクタイ、白の寿司ユニフォーム姿の麻王は結衣の父親と話しながら笑みを浮かべて”合点”と返事をする。
左手で包丁を空中に投げると一度も見ずに楽々と右手でキャッチする。
橘と名古屋に部下の現役警察官たちが呆然としていると素早く繊細な速さでマグロを捌くと艶のあるマグロ10人前が出される。
周りから歓声が起こると、
桜色の茶羽織の弥生は笑顔で、
「お食事は店内でどうぞ。」
橘は、
「……ヒュー、すんごい美人…イテテテテ!」
緑色の茶羽織姿の結衣は、
「もうお父さん!早く中に入って追加の注文してよ!」
麻王は空中高くに包丁を投げると、
「今はお父さんじゃなくくつろいで頂くお客様だよ。」
そのまま背面でキャッチする。
名古屋は、
「……ハラハラドキドキしますが…」
麻王は、
「仮に今ここで震度10の地震が起こっても包丁を落とすことは有り得ませんよ。」
名古屋は、
「……うん、僕たちは命を落としているよね?」
麻王は他の食材も見事に捌いていくと観ていた人たちが「スゲー腕前!」「美味しそう!」と言って店内に入って行く。
360°見渡し型の店内が一時間ほどで満員になる。
皆が麻王の包丁捌きと握りの大胆かつ繊細な速さに客は皆、見惚れる。
店内のお座敷
橘は、
「このマグロや他の魚も一級品だね。何処で仕入れたんだい?それに麻王君のその技と目利きは?」
結衣の父親の橘が尋ねると周囲の客も聞いている。
「生まれは違うんですが育ちは海に近い場所で育ちましてね。だから目利きには自信があるんですよ。朝一に築地市場に行って来ました。」
麻王の言葉に橘は、
「……麻王君って出来ない事ってあるの?」
麻王は初めて手を止めると、
「結衣、弥生、リサ先生の三人がいなければ、この寿司屋は無理だったでしょうね。」
橘は穏やかな目で麻王を見つめている。名古屋は娘の香織をキョロキョロと探している。
初日が終わる。
「お疲れ様、結衣、弥生、リサ先生。三人もお腹が空いただろ。好きなものを注文していいからもう着替えてもいいよ。」
青の茶羽織のリサは、
「麻王君は?」
「夕方からは一人でするよ。」
一番疲れているのは麻王だと分かっている結衣、弥生、リサの三人が反対する。
「いや、もうすぐダメなやつらが手伝いに来るから。」
麻王は笑顔でそう言うと三人を着替えに行かせる。
15分後
向かいでたこ焼き屋をしていた心海と弓、香織がしょんぼりと店内に入って来る。
“たこ焼き”のイラストが入った真っ青な法被姿の心海は、
「わざと私たちのお店の向かいでしたでしょ? 赤字だよ、麻王兄~!」
目線も合わせず包丁を研ぐ麻王は、
「お前たちのたこ焼きが本当に美味しかったら寿司の後のつまみに買いに来ていただろうな…。」
その言葉以上に麻王は何も話さない。
真っ青な法被姿の心海と弓、香織はしょんぼりとお店から出ようとする。
「一事が万事なら万事もまた一事だと思わないか。たこ焼き屋にclosedを掛けて三人とも今から手伝え。」
麻王の言葉に心海と弓が笑顔を見せる。
心海は、
「……あの時、意地を張って、麻王兄を追いかけなかった事はすごく後悔しているんだよ…。」
白桜制服姿に着替えて来た結衣は、
「心海、麻王先輩は私、心海、弓、香織に”つまらない人間になって欲しくない”って…」
心海は、
「……うん、そうだよね…理解できなくて、ごめんね、麻王兄…」
弓も、
「……”入ったら勝ち”とかサイテーですよね……すみません…」
まだ見捨てられたという目をしている香織を見ると結衣は、
「……香織~!」
麻王は、
「香織、家族や親友が自惚れていたら、オマエはそれに手を貸すのか? 香織にとって本当に大切な人ならその家族や親友がダメになった時の用意をするべきじゃないのか?」
「…………。」
「それに、このお店は元々お前たちが加わる予定で作ったんだけどな…。お前のつまらない意地が勝るならもうこれ以上は何も言わない。」
麻王は切り捨てるように言うと香織は走って行く。
心海と弓が追いかけようとすると麻王が二人を止める。
麻王は、
「弥生先輩、疲れているのに申し訳ないけど香織を追いかけてもらっていいかな。」
笑顔で白桜制服姿の弥生は、
「任せて、麻王!」
弥生は走って行く。
“なんで前生徒会長に?”心海が麻王に問う。
「結衣、心海、弓なら友人からの憐れみになる。リサ先生なら教師の立場からの説得…そんな事を聞いている余裕があるのか?」
心海は、
「ま、麻王兄が言うならそうなんだろうね!」
寿司ユニフォームを脱ぐと麻王は、
「タコ焼き屋は俺が畳んで来るから結衣から指導してもらえ。」
心海と弓は、
「……うん…。」
着替えを済ませたリサは、
「よし、私が青空君に言って来てあげる!」
麻王は作業着に着替えるとリサと一緒に出て行く。結衣は心海と弓に指導する。
10分後
テーブルを拭いている結衣は、
「心海と弓がうらやましいなぁ~。」
心海と弓は、
「……何で?」
「先輩は限りなく優しいよ。でも、時間もすごく大切にするよね…」
涙声の結衣に心海は、
「……結衣…?」
涙を拭うと結衣は、
「泣いちゃって、ごめんね……”愛情”の”情”って過ごした時間って意味でしょ?じゃあ私は絶対に心海や弓に追いつけない…」
弓は、
「私は結衣に悔しいよ。」
結衣は、
「……なぜ?」
「先に結衣と出逢っていたなら麻王先輩はおいて行ったかなって。」
心海は、
「ま、私が一番愛されているけどね!」
結衣と弓は、
「でも、麻王先輩って妹ガチャは大外れだよね?うんうん、女運も私たち以外はいまいち?」
「こら~!」
21時
街路灯の灯りでテントを片付けている麻王の下にグレーのスーツスカート姿のリサが歩いて来る。
後ろに手を回しているリサは、
「ありがとうね、麻王。」
鉄パイプを一つにまとめている麻王は、
「喜んでもらえたらならよかったよ。」
「……文化祭が終わったら海外の大学に行くの?」
手を止め、振り返ると麻王は、
「行くよ。」
「……私と違って麻王は凄い才能があるからね。」
「リサの周りはいつも平和な空気が流れていて好きだった。先に言っておくよ”ありがとう”。」
麻王の視線に下を向くとリサは、
「……わがまま言ってもいい?」
「いいよ。」
「…こ、今晩、だ、抱いてほしい…な…」
「ほら、来い。」
まるでチーターのような引き締まった胸板の麻王に強く抱きしめられるとリサは、
「…えっ…そうじゃなくて……そんなに強く…気持ちいいよ…麻王…」
麻王の首に両手を回すとリサは、
「……麻王と一緒なら貧乏でもいいよ…」
「……俺は嫌だな。好きな人にはおいしいものを食べて欲しい、好きなものを着てずっと綺麗でいて欲しいな。変か?」
「……ううん…麻王らしい………めちゃくちゃにして欲しい…」
「ここでリサを抱けば前に進めなくなる。」
「…なんとなくわかるよ…私はきっと泣き続ける…でも、もう少しだけ抱きしめて…」




