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上杉周

2024 2/22 編集しました(^^) 未来ミキ


●高校生活 5話●


4月のゴールデンウイーク前日


白桜高等学校バスケ部は昨年の三年生5人も引退し、高等部一年になった麻王たち4人に、二年の伊藤先輩が残り5人のバスケットボール部がスタートした。



白桜高校 総合体育館


白地に桜色のHAKUOUのユニフォームにビブス姿の青空は、

「伊藤先輩って十分全国レベルのセンターですね。」


青空からスポーツタオルを渡されると長髪の伊藤は、

「済まない、神薙……家はさ、ふつう以下のサラリー家庭だよ。親父、曰く白桜には頭もキレる二代目もいるから知り合いをつくれってな……それで中等部からこの白桜にな。」


ビブス姿の麻王は、

「コネ探しですか?」


芯は、

「麻王よ~!」


ベンチに座ると伊藤は、

「いいよ、牧野。最初は親父の言葉も全くイミフでな…そう言う意味だったんだよなって思ったのがここ最近……俺は運動したいだけだからクソ上手い神薙か夏葉がキャプテンやってくれよ。」


麻王はボールを片付けながら、

「山のようにアルバイトをして少しでも妹たちにいい学校生活をしてもらいたいんでそんな時間はないですよ。」


伊藤は麻王の背を見ながら、

「訳ありか、白桜って貧乏人は1%もいないんだよな。」


伊藤の言葉に芯は、

「……どうしてですか、伊藤先輩?」


「どうしてか…同レベルの超進学校なら聖林館、神奈川なら霧谷があるだろ?」


青空は、

「聖林館はバスケ部も名門ですしね。」


スポーツドリンクを飲みながら伊藤は、

「そう、全校生の半分がバスケ部員だっけ?それでもおまえたち三条北山には勝てないんだから微妙だよな。」


優也は、

「俺たちはもう白桜っすよ。ってか伊藤先輩ってバスケ嫌いなんですか?」


青空は、

「優也、今のは伊藤先輩に失礼だ。謝れ。」


「いいって、神薙。三明、おまえも貧乏人だろ?」


不満そうに優也は、

「……まぁ、そうっすけど…」


「将来、おまえは神薙に雇ってもらうためにわざわざ三条北山を辞めて神薙のしりについて来たのか?」


「そんなワケねえだろうが!俺は俺の力で成り上がるんだよ!」


芯は、

「いい加減にしろ、優也!」


「いいって。だろ、三明?俺も誰の力も借りずに成り上がる。バスケも雑魚どもを抜いて最高のパスを仲間に供給する。変か、三明?」


「……い、いえ…」


麻王が戻って来ると、

「相手が雑魚でなければどうするんです?」


麻王との睨み合いが続くと伊藤は、

「……だから6人しかいないバスケ部で三年が5人も引退しても一人で練習を続けて来たんだよ。俺は孤独じゃねえぞ。孤高なんだよ。間違えているか、夏葉?」


「いえ、近い内に最高のパスを伊藤先輩に供給しますよ。じゃあ、バイトがあるのでお先に失礼します。」


会釈をすると麻王は体育館から出て行く。



芯は、

「……ハハッ、ムカつきますよね?…すみません。根は悪くないって言うか、その…」


「ムカつくはずないだろ?夏葉って新聞配達してるんだろ?」


「まぁ、…」


「おまえたちが中等部に来てから七ヶ月、毎朝4時から夏葉はずっと練習してる。コネ作りで白桜に来た俺とは信念が違うってことだな。」


芯と優也は、

「……4時って朝の4時ですか…」


青空は、

「伊藤先輩も時々、新宿のバスケコートでよく見かけますが?」


「俺は金儲けだよ。バスケもできてバイト代わりにもなるしな。」


優也は、

「……友達いるんっすね?」


「三年野球部の山形先輩な。後はそこら辺の暇そうなやつに声を掛けてな。」


優也は、

「なら、俺が行きますよ!」


「おまえ、足は抜群に速いけどワンマンプレイのレイアップだけだろ?俺は毎回自身で課題を課しているんだよ。何より神薙より初速が遅すぎる。」


優也は、

「………………。」


青空は、

「ただ賭けバスケは困りますね。」


「神薙総合財閥のおぼっちゃまくんだから下民の餓鬼は言うことを聞くと?」


両手を広げると青空は、

「そうですね、じゃあストリートで一試合、10万はどうです?もちろん僕が勝っても伊藤先輩たちからお金はいただきません。」


青空を睨み付ける伊藤は、

「……投資か?」


「ええ、そうなりますね。ですが、僕に勝てない限り伊藤先輩にお金は一銭もお支払いしませんよ。」


下を向いたまま伊藤はニヤと、

「……いいね!流石、白桜の貧乏ボンボンと違って傲慢さが半端ねえな!ぶっ潰してやんよ!」





新宿

バスケコート


白桜ジャージ姿の心海は、

「ハーイ、貧乏人でーす!」


呆然とする青空、芯、優也をよそに同じく白桜ジャージ姿の美緒は、

「……ども。…樹パパが怒るよ、心海!あ、見学です…」


青のジャージ姿の優也は、

「どういうことっすか!」


スマホをいじくっている伊藤は、

「あ?山形先輩が今日は来れないから代わりに夏葉を呼ぶって返信が来たらこのカワイ子ちゃんが来た訳だが?」


優也は、

「んだよ、それ~!麻王の妹だからって手加減はしませんよ。じゃあ2対2っすか?」


心海は、

「日本語、喋れんじゃん、原人!」


優也は、

「ああ!テメー、麻王の妹だからって調子こいてんじゃねえぞ!」


心海は、

「青空君、青空君、こっちが負けてもペナルティはナシ。そちらは青空君→芯君→原人のローテーションで一回でも負けたら10万だよね?」


優也は、

「無視すんなや~!」


クスッと笑うと青空は、

「つまり穴になる芯と原人ペアで大儲けってことかな?」


「オレは原人か~!」


「そうそう、白桜ってみんないいカバンや腕時計をしてるんだ…ぐすん。麻王兄には言えないし、やっぱここで金儲けしかないでしょ?」


黄色のジャージ姿の芯は、

「……めちゃくちゃかわいいな……青空、もう10万やろうぜ…」


優也は、

「絶対にやらね~!死んでも麻王の妹にはやらね~!」


くねくねする心海は、

「原人キモ。じゃあ芯君はドリブルパスだけね!」


芯は、

「お、おう…わかった…」


スマホをポケットに入れると伊藤は、

「まさか三条北山中のキャプテン様が女子とのペア相手にガチで出て来ないだろうな?牧野と原人ペアのコーチでいいだろ?」


スラックスに真っ赤なウインドブレーカー姿の青空は、

「伊藤先輩、ホンモノの金持ち様って言うのはメリットのないことには絶対にお金を出さない主義者のことでしてね。それにコーチはあくまでもブラフ。そこから交渉して最終的に一つ落としてのローテーション確約が狙いでしょ?」


心海は、

「伊藤チーン、バレバレだけど~!?」


「ローテーション、全10試合でどうだ、神薙?」


「いいでしょう。」


伊藤は、

「そう、今、メールで麻王を呼んだけど?雪辱戦は神薙が10試合でバテ気味でまた惜敗か…」


芯と優也は、

「……マジ?」


クスッと青空は、

「麻王は携帯を持ってませんよ、伊藤先輩。」


美緒は、

「……あの…伊藤先輩から私のスマホを麻王に渡しておけって言われて…はい…」


芯と優也は、

「もう何がなんだかわかんねー!」


青空は、

「ここまで布石を打てるのは麻王ぐらいか……いいでしょう。芯と優也は俺が来るまで指示を出す。優也、僕のカードから100万下して来い。」


伊藤は、

「芯、優也VS俺と心海、時間は心海はまだ身体のできてない15歳だから5分。異論は?」


青空は、

「麻王が命より可愛がっている妹ですしね。いいでしょう。」




芯、優也VS伊藤、心海


伊藤のキレのあるドライブで楽々優也を抜くとそこから高めになるワンバウンドパスを出すと心海はキャッチしながらそのままスリーを放つ。


ボールはボードに激しく当たりそのままゴールリンクに入る。


ストリートに来ている一般人たちは、

「……マジ?…女で片手シュート、スゲー!…超ウメーよ!」


ベンチに座っている青空は、

「芯、伊藤先輩は優也を狙っている。おまえがマークにつけ!」


芯は、

「おうよ!」



優也が心海にピタリとマークする中、身長158cmの心海には大き過ぎるバスケットボールをダムダムさせながら心海はトップスピードで右からさらに右に切り込むとそのままゴールリンクよりはるか上にシュートをする。


優也は、

「ハッ、大外れ~!」


ベンチに座る青空は頭を下げるとジャンプした身長185の伊藤がそのままキャッチからゴールリンクにねじ込む。


芯は、

「アーリーウープかよ…」


よくわからない美緒は、

「すごい、すごい、心海―!!!!!」


心海をマークしている優也は、

「テメー!」


「去年の夏のアンタと麻王兄の対戦はバッチリ記憶したからね!初速遅すぎ、じゃあね~!」


「ムムム…」




五分後

ベンチ前の青空のところに集まっている優也は、

「クソッ、いきなり10万かよ!」


芯は、

「青空はコーチを楽しんでいるから問題ないんだよ。それより伊藤さんは実力を隠していたぞ、青空。」


ベンチに座っている青空は、

「それは今日の練習でわかっていた。」


芯と優也は、

「……そうなのかよ…」


「ああ、もう一つの嬉しい誤算は伊藤さんはクラッチシューターであり、クラッチドリブラーでもあったことだな。しかもまだ心海に合わせて全力じゃないな。」


優也は、

「なんだよ、それ…ぜんぜん嬉しくねえぞ!」


芯は、

「違うだろうが、脳筋。俺たちは麻王、青空、俺、おまえ、伊藤さんのたった5人でインターハイとウインターカップ優勝を目指さなくちゃならないんだよ。」


「芯の言う通りだ。ただ、このまま負けるのはあまりいい気分ではないね。」


芯は、

「……策があるのか?でも、さすが麻王の妹って感じで初速がスゲーぞ。」


「先ず、心海はシュート力が低い。次に僕や麻王のような切り返しからのアンクルブレイクまでのテクニックはない。反して伊藤さんはあの位置からアーリーウープができる身体能力にドリブルもパスもシュートも苦にしないオールラウンドプレーヤーだ。」


優也は、

「一発目は博打かよ……しかし、よくたった5分でわかったな…」


芯は、

「……つまり、心海はほぼフリーでOKって伊藤先輩はどうすんだよ!」


「プレーヤーの数が少ないほど戦術の幅は狭まる。そして個々の能力が結果に比例し易くなる。」


芯は、

「……三条北山のゾーンプレス比率か?」


優也は、

「でも、麻王には通用しなかったぞ!」

「あっさりと見抜いていた麻王は驚くほど賢いよ。」


芯は、

「じゃあ、ドリブル、パス、シュート全てにおいて心海0.5、伊藤先輩1.5だな。」


青空は、

「できないなら三条北山に帰れ。」


「OK。」




5分前

心海のスマホを持っている美緒は、

「……伊藤先輩!さっきの伊藤先輩と心海たちのプレイ動画を送った麻王からメールが来ました。どうぞ!」


美緒からスマホを受け取ると伊藤は、

「サンキュー……なるほどね……神薙ベンチを見て、ニヤけるなよ、心海…」


心海は、

「了解。で、どうなの、伊藤ちゃん?」


メールをじっと見ている伊藤は、

「昨年、東中と三条北山の試合を観に行った時に”こいつ、ヤベーぐらい賢い”と思ったけどガチだな…三条北山ゾーンプレス心海0.5、俺が1.5に割り振られる……ああ、あれか…」


美緒は、

「……伊藤先輩ってそんなに会話しててメールの内容を理解できるんですか?」


「IQ160?もうちょいあったかな…OK、心海、もう下手くそなシュートは打たなくていいぞ。」


美緒は、

「えぇぇぇぇぇ~すごい~!」


心海は、

「わかった!」


「気付かれたらすぐに俺が牧野。心海は穴原人だ。」




30分後

21時


札束を持った心海は、

「ヤッター、30万、30万~!」


手を差し出すと伊藤は、

「3敗から完全にシステムを変更して来るのはさすがだな、神薙。」


伊藤の手を見ると青空は、

「麻王が来ると思わせた時点で伊藤先輩に負けてましたよ。」


「もう賭けバスケはしないから怒るなって、神薙キャプテン。」


芯、優也、心海、美緒は、

「えっ?」


「今日、麻王は配達員が二人も休んでいてな。もう今から1000軒も配り始めている。ボンボンのおまえはここで道楽しているのに可哀そうと思わないか?」


芯、優也、心海、美緒は、

「…まぁ、…」


青空は、

「……それで?」


ベンチに置いてあるスマホを取ると伊藤は、

「走りながら配っている麻王からの指示待ちしている時に”俺は忙しいぞ”ってメールをしてな。なら、キャプテンは青空と副キャプテンは芯でいいんじゃないですかって返って来た。」


芯は、

「…俺?」


青空は、

「なぜそこまで孤高を通すんです?」


「夢がある。それに都で優勝するならいいが全国となると戦術がいる。俺のここまでのバスケは暇つぶしだしな。文句あるか、神薙?」


青空は、

「いえ、では、お疲れ様でした。」


青空は歩いて行く。



優也は、

「次は負けねえからな、心海!」


心海は、

「10万、貯まったらいつでも来な!」


芯は、

「伊藤先輩、失礼します。ほら、行くぞ、優也!」


伊藤は、

「おう、また明日な。」


心海は、

「伊藤チーン、分け前はどうすんの?」


伊藤は、

「二人にやるよ。但し、麻王には内緒な。」


美緒は、

「…えっ…」


「久しぶりに昔を思い出してな。麻王の中等部の成績を知っているか?」


心海は、

「……思い出して?」


美緒は、

「……二学期中間、期末、三学期末はフルスコアーでしたが…」


「じゃあ、なぜ俺より知能の高い麻王が肉体労働をしていると思う?」


心海と美緒は、

「…えっ…?それは…えっと…」


二人が考え込むと伊藤は、

「愛するおまえたちに決して楽な生き方をしないように教えているんだよ。」


心海は、

「だと思った……伊藤ちゃんは、なぜそこまでしてくれるの…?」


美緒にスマホを返すと、

「俺にも妹がいてな。生きていたら夏葉と同じことをもっとしてやりたかった…もう女の子には遅い時間だ。さっさと帰れよ。」


後ろ姿のまま右手を挙げると伊藤は駅に歩いて行く。



心海は、

「……麻王兄に似てると思ったんだ…」


美緒は、

「……もう少し早く麻王が来ていたら伊藤先輩の妹さんは助かっていたのかな…」



新キャプテン兼部長の神薙、副キャプテンの牧野の体制で創立150年の中で一回戦突破も苦しいチームが四月の練習試合では負けなしのトリプルスコアのゲーム。

これまで部活動に関心のなかった白桜の生徒たちも転入して来た青空、麻王、芯、優也たち4人に強い関心を見せた。



一方、野球部も、青空、麻王たち4人に三年の山形先輩が一人。

残り4人は山形を慕う三年のクラスメート。今年の夏にその山形の友人4人が留学する夏前まで形だけ所属してくれることになった。

つまり、野球部はメンバーを集めなければ部活から同好会に落ちる寸前の状態。


中3の転入から白桜高校の野球部で約半年間、ピッチャー麻王とキャッチャー青空がバッテリーを組んで練習を重ねていた。



野球部

白桜グラウンド


白地に胸に桜色でHAKUOUと書かれたユニフォーム姿の芯と優也、三年の山形はキャッチボールをしている。


清潔感のある短髪の身長165の山形は、

「…さっきの投球、150km/hは出てたんじゃないか。夏葉は正真正銘の天才だな!」


麻王はグラウンドにトンボをかけながら、

「山形先輩もセカンドの守備力は十分全国レベルだと思いますよ。」


きれいな回転のボールを投げると山形は、

「まあ、リトルでは全国に行ったしな。白桜の三年生の仲間たちでは最後の夏の一回戦突破も夢の夢で終わるかなって。そこにお前たち4人の救世主が現れたよ。」


野球部ユニフォーム姿の芯は、

「優也なんて足が速いだけっスよ?」


優也は、

「こら~クソ芯~!」


「俺が考える理想の野球は1~4番まで俊足であること。優也は足も速い。センター一番ってとこかな?」


優也は、

「……山形先輩、初速を上げるにはどうしたらいいんですか?」


山形は、

「いきなり難しい質問だな。股関節の柔らかさがいいという意見も多いが俺は硬い方がいいと思うぞ。」


ベンチでレガースを外してキャッチャーミットを持ってグラウンドに出て来た青空は、

「同意です。柔らかさが速さなら体操選手は全員速いハズですがそうではない。硬さは抵抗を産む。後、優也は勘に頼り過ぎだ。麻王、キャッチボールをしようか?」


優也は、

「どういう意味だよ…」


右手にグローブをすると麻王は、

「つまり、思考で先読みをする。ゲーム一周目より二週目はどうだ?」


優也は、

「……一周目は突然、モンスターが飛び出して”うわっ!”でゲームオーバーだもんな。一周目で先読みか…なる~!」


芯は、

「麻王はゲームなんてするのか?」


再びトンボかけを始めると麻王は、

「そもそも持ってないしな。」


芯と優也は、

「………………。」


山形は、

「ところで夏葉はいつ練習しているんだ?」


青空と20M離れ伸びるボールを投げると麻王は、

「新聞配達後の早朝と放課後に新宿の24時間営業のバッティングセンターですね。」


山形は笑いながら、

「夏葉って何気に言葉数少ないよな。もう高校三年か…もう一度だけ全国大会に行きたいな…」


優也は、

「高校生で全国って甲子園っすか?」


山形は、

「同級生たちには高校三年で何を言っているんだって思われているんだろうけど、諦め切れないんだ。」


優也は、

「白桜って進学率99%ですよね。大学はどうするんっすか?」


「成績はそこそこだけどな…それよりおまえたちと同じ新一年に妹がいるからよろしく頼むよ。」


優也は、

「可愛いんすか?」


「可愛いかどうかはおまえたちの判断に任せるとして頭はいいよ…ああ、神薙と夏葉は中等部でも妹より上だったらしいな。」


芯は、

「白桜全体的に冷めている感じですけど、山形先輩って二年の伊藤先輩と似てますね?…こう先輩ぶらないっていうか…」


言いにくそうに山形は、

「伊藤のお父さんは家の親の小さな中小企業の社員だよ…小さなな…」


青空は、

「だから仲いいんですね。」


芯は、

「後輩たちへの接し方やハングリーなところとかお二人は合っていますよ!ベンチャー企業でもされたらどうです?」


キャッチボールしていた手を止めると山形は、

「……伊藤とベンチャーか…夢あるよなあ~!」


麻王は、

「大企業優遇の日本ではな。第二の山形先輩や伊藤先輩のお父さんたちをつくるようなモノだろ?」


青空は、

「それは神薙総合財閥への批判かな、麻王?」


「だな。中小企業が減れば大企業や大企業の献金を受け取る政治家の考えも変わるかもな。」


「何故、大企業が献金を回していると?」


「何故、大企業だけを優遇する必要がある?」


優也は、

「ブッハハ、山形先輩、コイツら中々の変人コンビでしょ?」


青空はため息交じりに、

「はぁ~、神薙総合財閥に入る気満々の優也に言われてもね。」


「自身に課題を課し、既にかなりの選手だよ……神薙や夏葉って大人だよなあ。キャプテンは神薙青空、副キャプテンは夏葉麻王でいいんじゃないか。俺はスコアブック担当の部長でいいよ。」


芯は山形に、

「そんな緩くて適当でいいんですか、山形先輩?」


「元々、4人とも一流選手だろ?自主的に考える部活動をしたくてな。俺はサポート役で甲子園に行く。ここから最強白桜のスタートだからな!」


芯は、

「……”最強白桜”か…なんかいいっすね。」





翌日 昼

一年スポーツ科クラス


麻王の席に座っている優也は、

「バスケ部も野球部も人数ギリだな。麻王、そろそろポジション固定してもいいんじゃないか?」


立ったままの麻王は、

「もう山形先輩と相談したよ。部員は声を掛けたい者が何人かいてな。それより先ず優也は中間テストの心配だな。」


青空は、

「だね。昨年の転入以来、麻王、僕、そして芯が優也の勉強をみてきたが、高等部はキツいね。」


青空の言葉に優也は下を向いたまま、

「……三条北山に入る前の俺の人生が自分のトップだったよ…同じバスケでも野球でもスポーツ全般でも麻王と青空には到底勝てない。勉強では芯も加わり論外な存在だよ…」


青空は、

「…優也。」


「でもよ、今の自分の方が遥かに好きだと思っているぜ!」


ゲラゲラと芯は、

「なーにがトップだっただよ。小学生じゃねえか、小学時代を懐かしんでいるんじゃねえよ、バカ優也!」


「う、うるせぇ、クソ芯!わかっているよ。でも、麻王、やるからには野球もトップ目指しているからな。」


照れながら話す優也に麻王は、

「いいと思うよ。」




時間は少し遡って白桜中等部三年の二月初旬。


生徒会の仕事の手伝いで俺、上杉(うえすぎ)(しゅう)は海浜公園近辺で数グループに分かれ清掃活動をしていた。

この学校にあの夏葉麻王や神薙青空たちとほぼ同時期に転入した一人が俺。


この白桜外部生徒をハブる内部生たちに、そして例外的に夏葉麻王たち4人をチヤホヤするヤツら内部生に心底うんざりしていた。


階級社会に憧れる親の勧めでこの白桜に来たが家の家計はとても苦しい。本当に無理してまでこんなところに来る必要があったのか? 


放課後、いつも屋上で腐っている俺に最初に声を掛けてくれるのが牧野芯。あいつだけはそれなりにいい奴だと思っている。だが所詮は警視庁で働いて来た祖父を持つやつの余裕だろとも思っている。そんな風に人を思う自分自身にも嫌気がする。




そんなある日の出来事


周りの生徒たちから悲鳴が聞こえる、

(ひがし)が溺れているぞ!」


目の前にいた芯が飛び込もうとする、


その時、

「芯!お前はこの船場の浮き輪を。」


と言うと麻王はそのまま水際で躊躇している芯を追い抜き溺れている東の下に一直線に飛び込む。


周はその様子を見て身動き1つできない。


麻王は溺れている東の背後に顔を出し、水中から立ち泳ぎで東を持ち上げると、

「落ち着いて大きく深呼吸をしろ。」


水面で振り返ろうとする東は、

「…ケホ、ケホ…夏葉君?……うん、ありがとう…」


「芯、引き上げる準備は?」


先ほどから固まっていた芯は、

「お、おうよ、待ってろ!」



溺れた東という女子生徒は波止場に芯や生徒会のメンバーも協力して引き上げられる。東はまだ少し咳き込んでいる。



波止場に右手を掛けると麻王は、

「海水を少し飲み込んでいるから誰か救急車を呼んでくれないか?」


女子生徒の一人は、

「もう呼んだよ、夏葉君、超すごかったよ~!」


麻王はずぶ濡れのまま軽々と波止場に上がると、

「そっか。」


芯は、

「……麻王、すまん、俺は…」


拳を強く握り、うつむきながら声を漏らす芯に麻王は、

「誰よりも正義感の強い芯が飛び込むのをほんの一瞬、躊躇した時に芯が泳げないとわかった。芯、お前の躊躇は正しい。もし芯も無理をして飛び込み、溺れていたらこの結末は変わっていたかも知れない。すぐに救命胴衣とロープを用意してくれた芯のアシストの勝利だな。」


麻王の言葉に泣き崩れる牧野の肩をつかむと麻王は、

「高等部に行ったらプールで練習しような、芯。」


「…お、おうよ、麻王…」


芯を抱き起すと麻王は、

「ずぶ濡れになったし、帰ろうか。」


笑いだすと芯は、

「関係あるのかよ。」


麻王と芯が帰り始めると、


呆然と周は、

「……なんで?お前は波止場にいなかっただろ?オレはこの波止場に居たのに…クソ…何でだよ!」


周の白桜に転入して半年ほどの不満が思わず(せき)が切れた。


振り返ると、

「溺れた人、特有の呼吸ができない濁音(だくおん)が聞こえたからそちらに向かって走った。それにここにいる誰よりも俺が一番泳げるから飛び込んだ。それ以上の説明が必要か?」


心の中で周は、

『………夏葉、こいつは悲鳴が聞こえるより先にこの波止場に走っていたのか…』


麻王は、

「同じ転入生の普通科Bクラスの上杉だろ?制服がビショビショなんだ。生徒会長から学校に帰る事が許されたから芯と一緒に三人で帰らないか?」


自身を指さすと周は、

「俺?」


ゲラゲラと笑いだすと芯は、

「ブッハハ、自分を指さすってさすがにベタすぎんだろうが、周!ほら、さっさと来いよ、周!」


麻王と芯の隣に行くと周は、

「……スマホは?やっぱり壊れたよな?」


周の言葉に麻王は、

「ああ、携帯は持っていないんだ。」


「……持ってない?白桜だぞ?」


「白桜は関係ないが、高等部に行ったら俺も携帯を持つのが夢なんだ。」


「……夢って。小さくねえ?いやいや、あり得ないって!」


「夢に大きいも小さいもないだろ。」


「いやいや、あるって!」


芯は、

「うるせぇぞ、ボッチ周!」


「ボッチって言うなぁ~!」





ファーストフード


椅子から立つと麻王は、

「夕刊配達があるから俺は帰るよ。じゃあまた明日な、芯、周。」


周は、

「……ビショビショの濡れたシャツのまま帰るのかよ?」


芯は、

「おうよ、また明日な、麻王!」


芯の言葉に麻王は背を向けたまま右手を挙げてお店から出て行くとそのまま自転車を走らせて行く。



もぐもぐとポテトを食べる芯は、

「麻王はカッコイイだろう?」


不満そうにハンバーグを食べる周は、

「………………。」


「麻王は決して恵まれた家庭でもないぞ、周?」


「えっ…」


「父親兼兄的存在の人がいるんだけどなるべく迷惑をかけないように、そして妹二人のために麻王は働き続けている。」


「双子の妹の夏葉美緒か……親戚か何かと暮らしているのか、芯?」


「そうそう、一人は夏葉美緒。もう一人は中等部二年の夏葉心海だよ。妹二人はそのお兄さんと暮らしているみたいだけど麻王はびっくりするほどのボロアパートで一人だよ…」


「ボロアパート?夏葉はすごく高級なタワマンに住んでる感じだぞ!」


「まぁ、麻王はスマートだけどどんな感じだよ?……言いにくいけど、本当の妹じゃないんじゃないかな?」


「ボロアパートかよ……俺にも一つ下の妹がいるんだ。」


芯はシェイクを飲みながら、

「なら周も頑張らないとな。」


「……芯は?」


二つ目のビックバーガーを食べ始めると芯は、

「俺?一人っ子のおじいちゃん子だしな。」


「…………。」


「周、自分の置かれた環境に嘆いているよりよ、今の自分ができる事を考え、行動に移すべきじゃないか、周?」


「おまえが言う?………まぁ、でも…そうだよな。大人だな、芯は?」


三つ目のビックバーガーを食べ始めると芯は、

「麻王の台詞の丸パクリ…最近、体重がな…憂鬱だよ…晩飯はなに食おうかなぁ…」


「食べ過ぎなんだよ!」


……次の日から毎日毎日屋上にいる周はいなくなった。




そして現在、四月ゴールデンウイーク前日。


昼休み 白桜 

麻王は白桜高等部の野球部グラウンドを一人でトンボかけをしている。周はベンチで一人座っている。


手を止めると麻王は、

「周、野球部に来ないか?」


「えぇ、麻王みたいに朝4時からグラウンドで練習なんてムリだよ~!」


「俺は妹たちが喜ぶ姿を見たいからな。」


周は、

「……運動音痴だぞ?」

「周は体格いいけど、スポーツをしてなかったのか?」


「……前の学校じゃあ一応、テニス部にいたよ。」


「俺も前の東中でテニス部に入りたくてな。」


「最初にユニフォームやラケット代が掛かるけど、それは野球も同じだろ?」


「兄さんにこれ以上は迷惑を掛けられないしな。」


「……麻王の親戚とかか?」


「いや、兄さんとは元々は他人だよ。」


「……そんな大切な話を俺にいいのか?」


「俺にとっては最も誇りに思っている話だよ。」


周は立ち上がると、

「……そうかよ、運動神経抜群の麻王をギャフンと言わせてやるよ!」


「そう言うのはいいんじゃないか。」


周は、

「は?」


「自分自身との問題だろ。それより俺の女房になってくれよ。」


周は、

「はぁ?キャッチかよ~!しゃねえな~!一球一球、受け取ってジャッジしてやるよ!」


周の言葉に麻王は少し笑顔をする。


麻王から野球部に誘われた。運動音痴のおれだが、もちろん、断る理由はない。


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