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一条文音① 文音と悪友

●一条文音①  47話●


一条文音は、白桜高校二年。四月になってからまだ一度も学校に来ていない。


白桜高校 中間考査後の午後五時


麻王が駐輪場に真っ黒などこのメーカーかわからない大型バイクを止めていると、駐輪場奥に周が立っている。


周は、

「スゲーいいバイクだな、麻王?」


「ある事件の解決を手伝った時に持ち主の人が外車を買って貰ったからお礼にってこの650をな。」


「マジかよ~!650ccって限定解除って免許証がいるやつか?」


「高等部に上がって直ぐにな。俺には教習所に通うお金も時間もなかったから直接試験場にな。」


「飛び込みってやつか?一発合格か、麻王?」


「そうだな。」


「何処で練習したんだよ!」


「新聞配達で1200軒頼まれた時にカブを運転していたからな。」


「…麻王ってマジ頭も運動神経もいいもんな。」


「学問は自分自身の為だよ。バイクは危険だから周は乗るなよ。」


「麻王も妹たちがいるだろ?」


「オーバー300km/hでエンジンが焼けてロックし転倒しても俺は大丈夫だよ。」


「…………。」


バイクボックスからフルフェイスを取ると麻王は周にヘルメットを渡す、

「睦月邸に行くぞ、周?」


ヘルメットを受け取る周は、

「……睦月弥生って結構、悪い噂があるよな、麻王?」


「睦月弥生の妹の一条文音は所謂、世間一般で言うところの妾の子だが弥生はそんな事は関係ないと文音を可愛がる良き姉だよ。」


「……いつ聞いたんだ?」


「今朝五時に体育館で一休みしている時に聞いたよ。」


「……麻王さ、俺でもいけるかな?」


バイクを校門前に押しながら麻王は、

「大金持ちって何を求めているんだろうな?」


麻王についていく周は、

「……まあ、全て持っているもんな?」


「そうか?俺は周と妹のひかりの絆の方が強く感じたけど?」


「……麻王。……俺たちは…」


「いいから後ろに乗れよ。」





午後6時 睦月邸

麻王がバイクを止めると周が800坪を超える瓦葺き屋根の睦月邸の大きさに驚く。


「麻王が超安全運転でむしろ驚いたわ!……しかしまあ、デカいな……家のボロアパート12軒分よりも門だけでデカいんだけど?」


「来たぞ、周?」


真っ白なセーターにグレーのロングスカートの弥生が袋を右手に持って一人門に向かって歩いて来る。


弥生は頭を下げると、

「ありがとう、麻王君。後、親友の周君も…甲子園、二人ともかっこよかったよ。」


弥生のブーツを見ている周は、

「周君……綺麗ですね?あ、いやいや!俺、キャッチャーマスクを被ってましたが?」


弥生はクスッと笑うと、

「四回戦からも弓道部メンバーで応援してたよ、周君?」


バイクに跨ったままの麻王は、

「周は先輩と話しておけ。俺がその間に勉強を教えるから。後、ゲームソフトの編集も頼むぞ。この後にソフトを持って飛行機に乗らないといけないからな。」



突然、弥生は、

「…麻王君、ごめんなさい。妹は悪い友達に付き合わされて…噓ついて本当にごめんなさい。」



タメ息を尽くと麻王は、

「ハァ、と思ったよ。帰っていいかな。」


弥生は、

「それなりのお礼はさせてもらいます!」


周は、

「麻王~、仕事頑張るから弥生先輩の力になってくれよ~!」


麻王はやれやれと、

「……仕方ないな。妹の場所は判る?激しくしていいんだっけ?…これだけ古風な

和式の大きな家だったら日本刀ある?」


「麻王、争いごとはマズいって…。」


「で、妹の現在の場所は?」


弥生は、

「文音のスマートフォンのGPSで新宿に。ごめんね、麻王君。飛行機は早急に自家用機を手配します。文音は悪い友人たちに利用されているだけなんです。このラップトップをどうぞ。」


紙袋から17インチのラップトップを出すと麻王に渡す。



ラップトップを起動させると麻王は、

「……新品だけど、使ってくださいじゃあなくどうぞって?」


「もちろん、お約束した家庭教師代金と別で麻王君にプレゼントします。」


麻王はラップトップを操作すると、

「処理速度も超最新の数万ドル以上するやつか…」


「マジかよ~麻王~!最高だろ、な?」


麻王は、

「あそこに筋肉ダルマのボディーガードが二人いるでしょ。なぜ、アイツらに頼まないで俺なんだ?」


周が慌てて麻王を止める。


弥生は、

「……文音の悪友は他校のそれなりの家柄の子たちなので妾の子の為に……いずれにせよ父は睦月家のボディーガードの使用は絶対に許しません。」


「自分の妹の事をそう言うのは感心しないけど。じゃあひと仕事して来ますか。」


弥生は、

「騙したのに…ごめんね。」


ラップトップをたたむと麻王は、

「これだけのCPUはマーケットでは手に入らないしな。さすが睦月家といったところか。」


麻王はラップトップをボックスに入れるとアクセルターンで走って行く。



弥生はその場で泣き崩れると傍に行く周は、

「いい匂い……いやいや、大丈夫ですよ!……それにしても今日の麻王は珍しく気が立っているな…」


「……周君も巻き込んでごめんね。」


「いえいえ、あの~弥生先輩、ボディーガードがめちゃくちゃ怖いんですけど……?」





一時間後

新宿


麻王はバイクに乗ったまま携帯を取り出すと、

「あれが文音か…驚くほど気が弱そうだな。噂の悪友は男子生徒3人と女子生徒2人ね。金持ちが金持ちをおごりに使うんだな。…………ああ、俺。新宿西口に向かっている……そうそう、バイクのヘッドマイクで言った通りに、よろしく。」


文音たち6人はやくざ風の者たち20人以上に囲まれカラまれると新宿歌舞伎町方向に連れて行かれる。



黒縁メガネに髪がボサボサ、よれよれのコート姿の男が歩いて来ると、

「……君たち何をしているんだ?」


男の言葉にやくざ風の者たちは早々に去って行く。


身長165cm、ミディアムストレートの弥生とよく似た端整な顔立ちの文音は、

「……もう帰るの…ウソ…?」


他校の男子生徒の一人は、

「……えっ…?あっさりと………俺たちはあいつらにカラまれて…助かったよ、オッサン!」



ボサボサ髪に無精ひげの男がポケットから警察手帳を出すと、

「港区第三署の刑事だよ。君たちもあのチンピラの仲間に見えたけど?一応、職務だから私服チェックもさせてもらうよ。」


刑事の手を叩くと女子生徒の一人は、

「刑事かよ?オッサンさ、うちらの親を誰だと思っているん?お前なんか即クビだっうの!」



刑事は、

「はい、公務執行妨害ね。このSNSの時代に何を言っているんだ?アタマ湧いてんのか?親の名前は?テメーらの親の会社名は?SNSにオマエらの顔も学校名もアップするぞ!!!! 国家権力をなめるなよ、糞ガキども!!!!」



怒声の後に刑事が淡々とそれぞれのポケットから手錠を取り出し女子生徒にかけると文音も含めた6人は一瞬にしてまたド緊張の空気に包まれ沈黙する。



刑事はそれぞれの学生手帳を見ると、

「ビビるなって。どれどれ……不動高校のJK中野、不動高校に春日野校のMr.村上、高橋、都立北のJK今野と狭間…おお、最後の文音ちゃんは白桜か!」


春日野の村上は、

「…刑事さん…もう勘弁してください…」


一瞬、眼鏡を取ると刑事は、

「静かにしろって!鑑別にぶち込むぞ、コラ?」


中野、村上、高橋、今野、狭間、文音は、

「………………。」



刑事は文音のポケットからビニール袋に包まれた白い粉を取り出すと、

「へー、文音ちゃんね?……このおとなしそうな子がオマエらのグループなの?」


呆然と文音は、

「……えっ…な、なに、…それ?知らないよ?」


サッと慣れた手つきで文音のセーターの右腕を(まく)り上げると刑事は、

「腕に注射の痕はないし、君、売買とかしてるの?」


震える声で文音は、

「け、刑事さんが今、私のポケットに入れたんでしょ!」


文音の言葉に文音の友人たちは、

「………………。」


文音の仲間の一人、手錠をされたままの狭間は、

「……何かヤバくない?……私たち関係ないよね?」


村上は、

「……覚せい剤って、文音、オマエ。そ、そいつは単なる俺たちの金づる…つまりパシリで関係ねえよ!」



刑事は村上の胸ぐらをつかみ、軽々と片手で持ち上げると、

「”ないです”だろうが、クソ餓鬼!ボコボコにシメるぞ!!!!」


必死に空に浮いた足をバタつかせ、もがく村上は、

「く、く、苦しい…………ほ、本当に僕たちは文音とは関係ない……んです…」


手を離すと刑事は、

「警察もこの不況で色々と大変でさ、写真もバッチリだし6人で…毎月一人100万円を払ってもらおうかな?オマエたちの親なら安いもんだろ?」


村上はそのままアスファルトの地面に座り込むと、

「…そ、そんな金額、ま、毎月はムリです!助けてください!」


刑事は、

「あ、振り込み口座は海外経由しているからな。もしオマエらがチクっているのが判ったら一生その国で全員働いてもらうからな?…チビるなって~!これからもっと俺のために働いてもらうんだからさ~!」


狭間は、

「こ、こいつ、文音の家なら払えるよ、刑事さん!」


「マジ?」


「大マジ!いえいえ、本当です!」


「へー、じゃあ、コイツは今日から俺の女だ。それでOKだな?」


都立北の今野は、

「そいつ、不登校なんで私たちと違って学校もわかんないし、もちろんいいよ、刑事さん!」



刑事はもう一人の男子生徒の高橋をつかむと、

「へー、不登校?高校、通わせてこいつの白桜の友人からもむしり取ろうかな~。もし噓だったら東京にいる海外の工作員がオマエらの自宅で待ち伏せして必ず拉致るからな?オマエら全員のスマホを出せ。そしてこの女に二度と関わるなよ。」



刑事は全員のスマホを自身のポケットに入れ、女子生徒の狭間にした手錠を外すと一人考え込む。

その異様に手慣れた冷静さと沈黙に6人は震えが止まらない。



「へー、う~ん、でもさ、情報が漏れたらと考えるとな。悪いけど、オマエらやっぱり逮捕するわ。院卒な!」



刑事の満面の笑みに涙声で中野は、

「刑事さん、絶対に漏らさないから~!」


「ふ~ん、そう。オマエら自身も今後、互いに関わるなよ。」


村上は、

「……こんなアバズレどもにも飽きてたんですよ!喜んで!」


中野、今野、狭間は、

「テ、テメー、村上!」


呆然と文音は、

「ちょっと待って…」


刑事は中野のスマホをコールすると、

「………ああ、中野ミユのお父さん?」


中野は、

「ホントにヤメて~!」


スマホを切り中野の髪も(むし)る勢いでつかむと刑事は、

「こら、舐めるなよ、糞ガキども。不動と春日野にこのまま引っ張って連れて行くぞ、ああ?」


中野は涙と鼻水を垂らしながら、

「…………もうホントに許して、…絶対に…裏切らない……刑事さん…」


コートからスマホを取り出すと刑事は、

「ほら、文音、撮れよ。」


刑事に渡されたスマホを持つと文音は、

「えっ…えっ…?」


「サッサとしねえとドツき回すぞ、コラ!」


「は、はい!」



髪をつかまれガクガクと震える女子生徒の中野と男子生徒の高橋が失禁する。



コートの左ポケットから5人のスマホを取り出すと刑事は、

「ま、全員の名前も住所も記録したしな………金づるの文音以外はスマホを持って帰っていいよ。許してやるよ。」


中野、村上、高橋、今野、狭間は、

「ホ、ホントですか!文音は自由にしてね、刑事さん!バーカ、死ね、文音!バイバイ~!」


文音の友人6人は散り散りに走って行く。



文音は、

「待って、置いて行かないで!」



麻王はメガネとあごひげ、手錠、全員の住所記録を田中に渡すと、

「フゥー、面倒くさいな。田中さん、周囲の人たちを近づけないでくれてありがとう。これ今回のお礼。皆で分けて。」



文音が気付くといつの間にか麻王の横にいる丸坊主、黒スーツ姿の田中は、

「……社長、本当にあれで良かったんですか? アイツらのバカ親の会社も自宅も全員分かっていますし…クンクロ(脅し)を入れておくべきかと。」



「そう言う野蛮な事をうちの社員はしない。ちゃんと全員、夜間高校通っている?田中さんは専務取締役なんだからしっかりしてもらわないと。それに300人を養うには堅実信頼経営が一番。」


田中は、

「へい、全て社長のお陰で、全員、バッチリ、行ってやす!それにしても社長も中々のネチっ濃さでしたね~?」


「ほとんどの日本人は本当の恐怖を知らないから、その場はペコペコしてても直ぐにチクるだろ?ま、バレそうになったらソッコーで追い込みかけるけど。」



満面の笑みで田中は、

「社長はホントに悪っすね~!」


田中にコートを渡し、背伸びすると麻王は、

「あ~変な言葉遣いで疲れた!」


田中は、

「アイロンで腕を焼いて三分ぐらい顔面を浴槽にツッコんだら5分で済みましたがね、ヒヒッ。いや、爪に注射針ブッ刺して末梢神経に直接、責めれば3秒ですね、ヒヒッ!」


田中のネクタイを整えながら麻王は、

「でも、アイツらのメンタルならショックで死ぬしな。人権派はツラいって。」


「社長!ありがとうございやす!一生ついていきやす!」



ただただ呆然と文音は、

「………………。」



麻王はやくざ風の黒スーツにスキンヘッド姿の男とその周りの100人以上と笑いながら話している。座り込んだままブルブル震える文音が私どうなるんだろうとこちらを見ている。


文音の下に来ると麻王は素っ気なく、

「お姉ちゃんの弥生に頼まれてな。嫌ならアイツらの下に帰るか?」


文音はまだガクガク震えながらも無言のまま首を横に振る。


「俺は夏葉麻王。弥生に雇われた文音の家庭教師だよ。文音の一年後輩の白桜高校の生徒でもあるけどな。」


文音は下を向いたままもじもじと、

「………そうなの?ホントに?…………あ、あの……先に着替えたいんです……すみません。」


田中は、

「社長が質問してんだろうが!!!!! ハキハキ答えろやー!!!!」


今にも卒倒しそうな文音は、

「ヒィィィィ!…………もうびしょびしょだよ…」


「パンツ一枚、100万な。」


麻王の言葉に文音は、

(ぼる)な~!」


やくざ風の黒スーツにスキンヘッド姿の田中とその周りの100人が文音をジッと見つめている。


文音は、

「……ははっ、調子に乗ってすみませんでした…ははっ、助けて~お姉ちゃん~!」


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