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優しさとは

●優しさとは 45話●


「怖かったよ~。」


弓が片付けて生徒会室を出ると麻王が目を閉じて廊下の壁にもたれている。


「全然、出題されなかったよ~、麻王先輩~!」


麻王は、

「受ける前から合格が決まっている試験の勉強をさせるはずがないだろ?あの勉強は4月からの高等部一年の授業内容と中間考査の勉強だよ。」


「え?…えぇぇぇぇぇ~!?」


「知っていたら勉強しないだろ。制服の細かい寸法を合わせに行くぞ。」


「何で麻王先輩が私の制服の寸法知っているの?」


麻王は、

「家庭教師で弓がトイレに行っている間に測ったよ。」


「は、恥ずかしいよ~!麻王先輩の変態~!」


麻王はクスッと笑うと、

「そんなはずないだろ?制服はお母さんに頼んでおいたんだよ。連絡してあげろよ。」


「え、あ、ですよね?」




事務処理も終わらせると、時計は午後二時半になっている。


「疲れているだろうけどグラウンドに行かないか?」


東中の野球部と白桜高校が練習試合をしている。


東中、友人の浩美が弓に手を振っている、

「弓、合格おめでとう!ショートに入ってよ~弓~!」


「俺は生徒会の仕事が残っているから。」


麻王はそのまま歩いて行く。


「………麻王先輩。……うん、すぐ行く~!」




時計は午後五時を回る


浩美は、

「弓、私たちはハルト先輩たちと一緒に帰るからあんたは麻王先輩に送ってもらいなよ!」


浩美たち東中メンバーはハルトや周たちと歩いて行く。弓は顔を赤くしながらも麻王の居場所が分からない。


グラウンドから再び美しい調律のような快音が聞こえる。

「…先輩だ。」


弓は走る。



弓の目の前では先程の生徒会長の青空がピッチャーをし、麻王が右バッターボックスに入っている。


生徒会長の投げる球も驚くほど速い。チェンジアップでタイミングを外されてファールを打った麻王とピッチャーマウンドの青空の二人は笑っている。


弓にはその二人の姿がとても美しく見えた。しばらく二人から目が離せない。


麻王が気付くと生徒会長の青空は弓に手を挙げて歩いて行く。


ワイシャツ姿の麻王が弓の下に歩いて来ると、

「そうそう、渡さないとな…。」


麻王はカバンから袋を出すと弓に渡す。

「こ、これ…グローブ?」


「前のグローブに愛着あるだろうけど、合格祝いにと思ってな。」


今、弓が使っているグローブは夏の雨の日に使い、硬くなってしまったと弓は甲子園近くのホテルのロビーで麻王に話した記憶がある。



弓は、

「………覚えてくれていたんですか?」


弓には内野手も外野手もこなせる特注品のグローブだとすぐに判る。


「さ、帰ろうか?」


「ありがとうございます、麻王先輩……どうして私、一人にここまでしてくれるんです…?」


校門に向かって歩き始めると麻王は、

「東中時代の一番の親友だった心海が喜ぶだろ?」


麻王の言葉に呆気に取られる弓は、

「…えぇっ…今日も来てくれてませんが…」


振り返ると麻王は、

「不満か?」


「…いえ、…いえ!」


弓と並んで歩く麻王は、

「そう言えば、最初、出逢った時は中々、麻王先輩と呼んでくれなかったな。」


「……恥ずかしくて…」


「そっか…」


弓は涙が溢れ、

「……甲子園に行ってどんなにすごい投球をしてもホントにいつも変わりませんね…あれ?何で?」


弓は涙を拭うと、

「……泣いちゃった………麻王先輩、私のライバルは誰です?」


「突然、何だ?」


「白桜中等部の中間考査でトップを取って他のどんな(ひと)に負けない!」


麻王は素っ気なく、

「ふつうに無理じゃね?」


「酷い~!」


「白桜の進学率を知っているか?」


「……麻王先輩がずっとトップしか知らなくて……心海も賢くて…」


「心海は白桜中等部で下位だよ。」


「えぇぇぇぇぇ~!…じゃあ、東中時代に心海より下の私は…」


「最初に飛ばし過ぎると高等部に来てからバテるからな。でも50位以内に入ったらご飯でも食べに行こうか?」


「えっと…う、うん、頑張ります…怖い生徒会長の言う通りついていくので精一杯だ…ライバル……」


「寒いか?」


麻王は自身のウインドブレーカーを弓にかける。


「……結局、麻王先輩の力がなければ何もできないんだ…」


「近い将来、専門的な事を学ぶ俺と教育を通過点とする弓は違うしな。」


「……麻王先輩は全てを持っている………生徒会長さんの言う通りだ…」


「例えば弓と結婚し、俺が病に(かか)り、俺が全てを持たなくなればお前は見捨てるのか?」


「……聞いたことないです…」


「男女以前に人は必ず双方向で成り立っている。弓のお母さんは弓がお腹にいる時にパパが働けなくなった時期があって辛かったとな。」


「…だから、聞いたことないんですが…」


「なら、まだ親子として信頼されてないのかもな。」


「そんなぁ…」


「自らの優しさでお父さんの愛情を永遠に勝ち取ったと言ってたよ。」


麻王は弓を置いて歩いて行く。



一人、ボソッと弓は、

「…そう…自分が家柄や親の年収の土俵に並んでも勝てない…んだ…」


「……麻王先輩!私は160km/hを投げる先輩を好きになったんじゃないんです!いつも優しかった麻王先輩をいつか支えたくて……麻王先輩……置いて行かないで…」


立ち止まり振り返ると麻王は、

「帰ろうか、弓?」


麻王は弓に向かって手を差し出すと、

「ようこそ、白桜へ」


「……麻王先輩…はい!」


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