弓の転入試験
●弓の転入試験 44話●
日曜の朝8時
白桜高校グラウンド
周、優也と芯たち三人は麻王と野球部の練習をしている。
冬服紺のセーラー服に白のダウンジャケット姿の弓が歩いて来る。
「お久しぶりです、皆さん。」
弓が挨拶すると芯たちが喜んで弓の下に駆け寄る。
芯は、
「弓は白桜に来るのか?」
「はい!」
芯は、
「なら弓も俺の後輩だな!柔道しないか?」
優也は、
「弓は柔道はしねえだろ?それにその体育会系のノリは嫌われるぞ?」
「……そう、…俺こと嫌い?」
ニコッと弓は、
「私は全然、気にしませんよ!芯先輩って頭いいですしね!」
「だ、だよな!さすが弓!」
三塁側ファールゾーンベンチに集まっている弓、芯と優也を見るプロテクター姿の周は、
「……麻王、弓って聡い女だな?」
両膝を着き、周のキャッチング練習に付き合っている麻王は、
「周は妹がいるから判るんだろうな。ほら、投げるぞ。」
「おお…麻王ってよく観察してるよな?」
「弓のスカート丈が膝上3cm、最もふつうの男が好むチラリズムだな。」
「……麻王の言う通り、そこに同性の女をイラつかせるあの男に媚びたと思わせる接待スタイル。加えて……優也は膝上20cm以上の女が好きだもんな。プロフェッサー麻王と呼ぶよ!」
「ほら、次!」
弓は制服姿のスカートのままピッチャーをする。
周がキャッチャーマスクを被って芯と優也がバッターボックスで空振りしている。
ピッチャーマウンドの弓に麻王は、
「山形先輩と伊藤先輩から相談を受けていてな。弓、それが終わったら食堂に来てくれるか?」
そう言うと麻王は更衣室に歩いて行く。
「はい!」
芯と優也は、
「…麻王が羨ままし…」
白桜 食堂
碧たちが集まっている下に行くと弓は、
「夏葉先輩はいますか?」
水戸は、
「……確か弓ちゃん?麻王からの言伝で生徒会に来てくれって。今、麻王は青空と一緒に生徒会室で仕事をしているよ……それにしても麻王ってモテないって言っている割にめちゃくちゃいい女が周りにいない?」
水戸が言うと芯が本気で殴る。
周は、
「……言わなくて良かった…バカでありがとう、水戸。」とホッとしている。
水戸の言葉に暫く呆然とする弓は、
「…………夏葉先輩って付き合っている女性いるんですか?」
ハルトは、
「俺の双子の姉の愛と赤瀬愛枝、後は東神子ぐらいかな。美緒はどうかな?あれ?もしかしたら言ったらダメなやつ?」
碧と駿も、
「後は、俺らの妹の結衣と香織もかなり怪しいな。」
周は、
「お前たちの父親たちも認めているぽいよな。いや、むしろ応援してないか?麻王って意外と罪だよなあ。」
弓は、
「……私、白桜の転入試験受けます。白桜中等部の中間考査も高等部と同じ日ですよね?まだ中学生ですが来年正式に白桜野球部に入るので先輩方よろしくお願いいたします。」
弓はそう言うと生徒会室に走って行く。
「………………。」
周は、
「……なあ……お前たちが麻王の立場ならどうする?」
碧は、
「そりゃあ妹の結衣一択だろ?」
駿は、
「…麻王って他の白桜の女子生徒や他校の子たちはふつうに断っているよなあ…。」
「それは妹の結衣が可愛いからだろ?」
芯は、
「D組の山形先輩の妹とかか?」
雅は、
「えっと…期末考査7位の藍ちゃんだっけ?大人しくて可愛いよな?けど断っていたな。」
水戸は、
「そうそうあんまり肩を落とすから麻王が放課後、山形先輩と一緒に三人で帰っていたよな?」
ハルトは、
「何でフッた女と一緒に帰ってんだよ……それに麻王ってあんまり話さないしな。」
芯は、
「……麻王って何か深いよな?」
「いや、だから、妹の結衣だって!」
「………………。」
生徒会室
会長席の白桜ブレザー姿の青空は、
「麻王はいないよ。何か用かな、新宿東校の九条弓さん?」
青空の質問に緊張気味に弓は、
「……あ、その、転入試験の手続きを持って来たのでお渡ししようと…。」
「その推薦状は僕が預かるよ。九条さんが良ければ今すぐ試験を受けてもいいよ。」
青空はニコリと笑う。
「ほ、本当ですか?五教科×50分。六時間ぐらいですね。受けます!今すぐ受けます!」
弓の言葉に青空は生徒会室の自身の机からテスト用紙をだす。
「分かった。そこの席に座って。五分後に国語から始めるから。」
芯、優也、周、ハルト、水戸たちが生徒会室を左右の開いたままの扉から覗き込んでいる。
「お前たち、何を見ているんだ。生徒会室は今から一切の立入を禁止するから。」
青空が芯、優也、周、水戸、ハルトや駿たちに言う。
「弓、頑張れ!」
周は青空に連れて行かれる。
「…………。」
お昼休憩
残り一科目英語を残して白桜の食堂で落胆気味に昼食を取る弓。芯たちが励ます。
弓は、
「ここまで四科目全記述なんて…麻王先輩の予想問題と全然違うんだ…。最後の英語もダメかも。」
周が一年前の自身の転入試験を思い出しながら、
「昨年の俺の転入試験は五択のマークだったな。その後すぐに中等部の中間考査があってさすがに欠点取ったな。」
ハルトは、
「俺は四択だった…っうことは毎回違うのか?」
碧は、
「ところで周は青空にどこに連れて行かれたんだ?」
周は、
「……スリーポイントシュートを練習させられていたわ。昼からは倍の200本追加……逃げたら後が怖いしな?」
「やっぱり、青空、こえー!!!!」
クスクスと弓は笑うと、
「皆さん、ホントに仲いいですね?」
芯と碧は、
「……そう?殴り合いのケンカばっかだけど?」
「残り一科目、頑張って私は絶対に白桜に来たい!」
周は、
「そうだ、膝上3cmの弓!」
「…………。」
午後一時から最後の英語
【下記の英文を貴女が翻訳家としたらどう柔軟に訳すかを別紙B4に記入せよ。】
生徒会室の時計を見ると弓は、
「後、10分しか……もう、意味わかんないよ…違う…もっと冷静に……結果を恐れるな…」
弓は問題文を読んで困惑するが、この数ヶ月間、どんなに疲れている時も麻王は付き合ってくれた。
甲子園に出場している時も家族で応援に来ているホテルのロビーで教えてくれた…。甲子園から帰ってからもほぼ毎日教えてくれた…。
「もう終わったかな、九条さん?」
青空は弓の隣に来ると英語の解答を確認している。弓が終わりましたと解答を提出する。
15分後…
青空は生徒会長席に座ると、
「もうお客様だしね、そこのソファに座れば?他の科目の採点も済ませたけど、思考力はある。でも君の決定的な弱点は諦めの早さだね。記述にその弱さがよく出ている。」
青空の言葉に弓は目の前が真っ暗闇になり、暫くすると、さすがにダメだったと涙が出る。
弓の新宿東中学校の書類を見ると青空は、
「ハァ、…ピアノの成績も平凡、家も下の上か…」
「家は関係ないと思います!」
「あるよ。あるから成功する者は現在の自分の立ち位置を正確に把握し、努力する。君が憧れる麻王はそうじゃないかな。」
何も言い返せない弓は、
「………………。」
青空は続けて、
「……ざっと愛枝、愛、東、結衣と言ったところかな?…白桜に来たら麻王のライバルは強いよ。九条さんは、このまま来ない方が幸せじゃないかな?」
「……どういう意味でしょうか?」
「今、上げた愛枝、彼女は赤瀬商社の一人孫娘。家柄、学力、運動神経…スタートラインが違い過ぎると思わないかな?」
「……赤瀬商社って…あの…」
「君のお父さんなら社員も無理な総合商社だよ。」
「……ダメダメな父ですが、私は父を尊敬しています!」
「図々しいとは思わないのかな?」
下を向く弓は、
「……初めて夏葉先輩に会っ……いえ、白桜は私には無理でも彼を諦めたらきっと一生後悔するからあきらめません…」
席を立つと青空は、
「そうか…転入試験は合格だよ。必要な書類と制服は事務に行けば用意してあるから。来週からよろしく。二学期の中間考査はすぐだけど、君の言葉が本当か噓かはすぐに判るね。」
青空はニコリと笑いながら生徒会室を出て行く。
合格した喜びよりも青空の怖さに弓の手はまだ震えている。
「……あの人が麻王先輩と並ぶ……怖かったよ~!…………でも……やったー!」




