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神技

●神技 41話●


麻王、橘、名古屋、愛枝、結衣と香織の6人はゴルフ練習場の1階に降りる。風もかなり強い。


名古屋は、

「僕たちが夏葉君に勝ったら今後、橘先輩、愛枝君そして僕たち三人の専属のキャディーをしてもらいたいな?」


香織の父親が条件を出す。


結衣と香織は落胆気味に、

「……お父さんたち…」


「分かりました。もちろん負けたら約束は守ります。」


麻王は自信を持って答える。



最初は無茶な条件を出すつもりはなかったが、橘も名古屋も自信を持って答える麻王にかなりカチンと来ている。何より愛する娘たちの目が終始、麻王に向けられているのが最も気に食わない。



麻王は、

「引き分けの場合はどうされます?」


麻王が問う。


橘と名古屋の二人は笑うと、

「もちろん君たちの勝ちでいいよ。引き分けならね。」


愛枝は麻王の凄さを誰よりも知っている。でも麻王の専属キャディーには憧れる。愛枝はあっさりと橘と名古屋にアドバイスをする。


ゴルフ練習場にして関東最難関コースのパー3 150ヤード グリーンの周りは1M毎のバンカー(砂場)に囲まれ、高さ5Mのグリーンは下(一階)から全くピンが見えない。つまりこのゴルフ練習場に通いこのコースをより経験している者が圧倒的に有利になる。


ほぼ来ない麻王にはこのコースの経験はない。



麻王は、

「結衣と香織の得意なクラブは?」


「……お父さんたちがすみません。」


「娘たちを想う親心だよ。クラブは?」


「………パターです。」


結衣と香織は二人とも低いトーンで揃えて言う。


「アイアンは?」


香織は、

「二人とも50ヤードなら何とか真っすぐグリーンにおけると思います…。」


「じゃあ最初は結衣、二番手は香織、最後は俺でパー3だな。」


麻王は笑顔で言う。



先方の橘は130ヤードぴったりのグリーンの真ん中に。二番手の名古屋は残り20ヤードを大きな山なりのグリーンに乗せる。


愛枝が複雑な芝を読みきって見事にパー3で入れるとゴルフ練習場の一般客たち200人以上から拍手喝采が起こる。



橘たちは先攻でミスなくパー3にした。大盛り上がりの観衆。何より負ければ麻王は3人のキャディーをずっとしなければならない。この三つのプレッシャーは結衣と香織にはかなりキツい。完全に観衆に吞まれて固まっている結衣と香織。


笑顔で麻王は

「結衣と香織に最高のフォローをするよ。二人とも俺の目を見ろ。」


麻王がかがむと結衣と香織は麻王の瞳を最初は照れながらも見つめる…。



香織が最初に打ちますと言う。バンカーギリギリの69ヤードのグリーン。結衣の耳元に麻王がアドバイスすると結衣はしばらく笑ったまま53ヤードのバンカーとバンカーの手前に止まる。


麻王は五メートル上のホールの僅かに見えるピンフラッグを見る。


残り28ヤード。



サンドウェッジだと誰もが思う中、麻王はパターを出す。観衆がどよめく。


仮にバンカーとバンカーの間をくぐり抜けても五メートルの傾斜角の鋭い坂がありカップはグリーンの遥か右。誰もが奇策と笑いたがるがアドレスに入る真剣な麻王の空気はピリピリと周りのギャラリーにまで伝わり誰一人笑わない。


もう10秒以上静止している麻王に橘は、

「…………長考過ぎるな…。」


橘がつぶやく。



麻王はパターを縦にするとゆったりとそして大きくウッドのようなフルスイングから残り25°から尋常でない速さで瞬時にボールを叩く。



ボールは一瞬でバンカーとバンカーの間をすり抜けると激しくシュルシュルと音を立て横回転もしながら、2°ほど右に傾き続けながら横回転と縦回転で5Mの山を登り切る。

そのままゴルフボールの力は弱くなっていく程にゆっくりと大きく右にスライスしていく。カップのすぐ横で止まりかけるが強い風が再び吹くと半転がりしてカップにコトンと入る。



一瞬の静寂の後でプロのゴルフの大会でも聴けない大歓声が響き渡る。


一般客たちは、

「……スゲー凄すぎる!」

「………マジ?……今日、練習に来てよかった~!」

「………えぇぇぇぇぇ~!あの若いレッスンプロは誰?」

「……凄い……確か……赤瀬商社の孫娘を専属で教えている……誰?」

「……トッププロなんて比じゃあない…」

「…………あ~動画撮影しておいたらよかった…」

「…………神技だよな?」

「…………神業ですよ。」



結衣と香織は、生まれて初めて見た神技のようなプレーにしばらく口をポカンと開けたまま。

父の橘と名古屋も負けた事よりもその凄まじいと言える集中力とその超高度なプレーを超えたもはや神技に啞然としている。



愛枝は麻王ならサンドウェッジで直接カップインすると思っていた。でもパターでチップインはさすがにあり得ないと驚くがその神技に思わず涙が零れ落ちる、


自分のことのように誇らしい愛枝は、

「……スゴいね、麻王は……本当にすごいよ…」


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