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アルバイトどれだけ好きなんですか?

●結衣の気持ちは? 38話●


放課後

白桜グラウンド


制服姿の麻王が周のバッティングフォームを矯正していると結衣と香織がやって来る。


「……お、麻王、お客様だぞ?」


結衣と香織の下に歩いて行く麻王は、

「周、スイングスピードを半分以下にしてそのイメージを固定しろ。」


「OK、麻王!」


「ベンチに座るか?」


結衣は、

「はい!でもその前に…」


結衣と香織が深々と頭を下げて、

「……あらためて先日はありがとうございました、麻王先輩。」


三塁側ファールゾーンにあるベンチに座ると麻王は、

「きちんとお礼はもらったからいいよ。座ったらどうだ?」


結衣はベンチに座ると、

「……お礼ですか?」


麻王は、

「婚姻届の名前の欄を三人分にしてもらってな。」


香織は、

「さ、三人ですか? あ、あの差し支えなければその欄はもう埋まっているのでしょうか?」


「いや、1つ空いているよ。」


結衣は、

「残り一つですか?」


香織は、

「そ、その枠が二つになる可能性はあるのでしょうか?」


「今のところないな。」


結衣と香織は、

「し、失礼します、麻王先輩。」


結衣と香織は逃げるように走って行く。



麻王は、

「……人の話を最後まで聞かずに言ったよ。」


「あーあ、あんな可愛い子が麻王に愛想を尽かせて行っちゃったよ。」


周がやれやれといった感じで話す。


麻王は去って行く結衣と香織を見ながら、

「どうかな?それよりあの二人、完全に交互に話していたぞ。一卵性双生児か?」


「そこかよ~!?」


呆れながらツッコむ周。


「ほら、せっかくの野球部休日まで練習してるんだぞ、周。」


「ひかりには手を出すなよ。」


「なんだ、それ。」




結衣と香織の父親は警察官僚の先輩後輩の関係だ。

彼女たちの父親は五年後を目安にSWATとは別の特殊エリート部隊を作る事を画策している。


先輩である橘の息子の碧と更生した後輩の名古屋の息子の駿を大学に進学させた後、その部隊に迎えたいと考えているが、それでは従来通りのSWATと何ら変わりはない。


そこにズバ抜けた経験値と身体能力を持つ麻王を絶対に迎え入れたいと橘と名古屋は考えている。


そして父親たちと信頼関係にある娘たちの結衣と香織は父たちの力になりたいと思っている。





19時

既に誰もいない白桜高等部 図書室


身振り手振りで香織は、

「ね、結衣、あの婚姻届けの一枠に入ったら麻王先輩はパパたちの部隊に絶対に入ってくれるよ。」


香織は麻王の冗談を真に受けて嬉しそうに話す。



結衣は、

「そんなに上手く行くかな…。麻王先輩って神薙生徒会長と並んで成績トップ……それに三年が受ける全国模試でも一年ですでにトップだよ…」


「…最初から警察のトップになる気なら、ふつうに東大に行くよ。麻王先輩なら司法試験も大学生の内に絶対パスするよ。」


香織は、

「……この前、駿お兄ちゃんと少し話したんだけど、先輩は既に司法予備試験をパスしたみたいだよ。」


「えぇぇぇぇぇ~予備試験って五月じゃないの!15歳だよ!?……やっぱり政治家の娘さんをもらって、叩き上げのお父さんたちより数年で上に行くかも知れないよ…」


そう言う結衣は内向きがちであまり乗り気ではない。



香織は、

「私は行く!あれだけ荒れていたお兄ちゃんを麻王先輩が助けてくれて甲子園まで連れて行ってくれた。私が麻王先輩と付き合ったら駿お兄ちゃんも大喜びしてくれるよ。」


結衣は、

「……麻王先輩の気持ちは?」


「……そ、それは……でも、私とお兄ちゃんはよく似てるし、先輩にも通じるところがあると思う。」


「それは香織の勝手な思い込みだよ…」



元々、結衣より活発な香織がそう思うのはごく自然な発想なのかも知れない。そもそも香織は麻王と直接的な接点はなかったと結衣は思っている。そして結衣は自身と麻王との関係から、香織は麻王に個人的にも会いに行くようになったと思っている。




結衣は、四ヶ月前、麻王に告白した後に誘拐されその時に麻王に助けられている。

元々、大人しいが男子生徒に人気のあった結衣。でもそれは恋愛対象としての彼女で、友人はいなかった。


麻王のお陰でクラス全員とも友人になれ、香織も今や一番の親友になった。


でも、結衣にとって、その夏葉麻王と言う存在は、親や兄は関係なく結衣自身が一年前に麻王が転入して来た時から強い恋心を持っている。



「明日、麻王先輩に告白してくる!」香織は顔を真っ赤にして話す。


「えっ…? あ、なんで…。」


結衣は何も言えない。





翌日

放課後

白桜高等部の野球部練習後の遅くに、香織は麻王に告白しに行く。結衣は図書室に1人残っていた。


30分程経った頃、香織からメールが来る。


結衣はスマホを見ると、

『……やったよ、結衣! 先輩はOKしてくれたよ。もう最高に幸せ!』



結衣はしばらく顔面蒼白のまま、

「……勇気のない自分のせいだ。先輩はバスケの試合で勇気と信念の大切さを教えてくれたのに…でも二回目の告白なんて…もう何がなんだか…」


頭を抱える結衣は少しずつ情けない我に返って来る度に結衣の教科書にたくさんのしわができて行く。



結衣はふらふらと歩きながら校門を出て行こうとした時、

「昨年のゴールデンウイークの頃にもこんな事あったな。」


体育館の出入口の扉から麻王が話す。


力なく見上げると結衣は、

「…麻王先輩………グラウンドにいたんじゃ…」


「いや、今日、放課後はずっとバスケだよ。」


結衣はふらふらと麻王に近づきながら、

「……正直、麻王先輩が香織を選んで悔しいです…でも麻王先輩がいない人生なんて考えられない……こんなにツラいなら何人目の女でもいいから傍に置いて…私を捨てないで…」


結衣は麻王の胸で泣き始める。


麻王は、

「昨日、結衣と香織に会った後は香織には会ってないよ。よく状況がわからないけど何かの勘違いしてないか?」


「……本当ですか?」


身長146になった結衣が184になった麻王を見上げる。



ジャージ姿の麻王は結衣の涙を拭きながら、

「少し後ろを向いておいてくれるか。このまま着替えて結衣を送るよ。」


「は、はい。」




五分後


白桜制服姿の麻王は、

「何だろうな、その話。ドッペルゲンガーのダブルってやつか。」


麻王が考えていると駿からメールが来る。


麻王は携帯を見ると、

『……白桜野球部更衣室の周りを妹の香織が麻王を探していた時に駿が更衣室から返事をしたら妹が麻王と勘違いをして何言っているか分からないから適当に返事をしたら妹の香織から麻王と付き合えたと返事が来てな……助けてくれ、麻王…駿…』


麻王は結衣に駿のメール内容を見せると、

「よくわからないが、誤解は解けたか?」


「……すみません、思いっきり泣いちゃって…」


麻王は、

「いいよ…」


『…妹が一番傷つかない方法は、お前が正直に話す・こ・と・だ。』


麻王は自身のメールを読みながら打つ。


ホッと結衣は、

「よかった…」




15分程前、結衣は、麻王を失ったと思った。でも今はその麻王と一緒に歩いている。

失って分かる、その人が自分にとってどれぐらい大切な存在か…夏葉麻王は、以前より結衣の近くにいる感覚がある。


そのことが結衣にはとてもどんな事よりも嬉しい。



結衣は、

「あ、あの婚姻届の欄の話なんですが…。」


「ああ、あれは噓だよ。結衣はずっと親友の香織に遠慮していただろ? 三人なら結衣も入れるだろ。」


嫌味レベルのすごい自信に聞こえるが麻王にそんな気はない。彼にとって結衣の心を見通しての配慮に過ぎない。その事を結衣は一番に理解している。


「見苦しくて…す、すみませんでした。」


「何で結衣が謝る?元々、俺が噓を付いたからややこしくなった。だから謝る必要はないよ。お父さんに会って欲しがっていただろ?結衣が望むならいいよ。」


結衣は笑顔で、

「もういいんです!」


「そっか…でも門限があるだろ。家に連絡してご両親にOKもらってくれないか?結衣と一緒にご飯を食べに行きたいんだけど。」


麻王の誘いに結衣は思わずクスッと笑ってしまう。


「まだ6時半過ぎですよ。麻王先輩は古風なんですね。行きます!自宅に連絡してもいいですか?」


結衣は少し笑いながら自宅に連絡を取る。




結衣はスマホをカバンにしまうと、

「……麻王先輩が送ってくれるなら何時でもいいって言ってました!」


麻王は、

「そっか……一年前に転入して来た時、いつも独りで風紀委員の仕事をしている結衣が気になっていた。その結衣が四ヶ月前に告白してくれた。今……」


結衣は麻王の言葉の途中で、

「大丈夫です!他の一番は…赤瀬先輩、東先輩、美緒先輩ですよね。愛さんと心海もかな?みんな真っすぐで心が綺麗ですよね。」


結衣はニコッと笑う。


少し遠くを見る麻王は、

「…そうだな、本当に幸せなら愛枝も神子も美緒も愛も俺以外の男でもいいと思っているよ。」


「……らしくないですね?」


「らしい方が怖いけどな。」


結衣はクスッと笑うと、

「ですよね?……麻王先輩のしたい事ですか?」


「しなければならない事だな。」


「…………。」


「結衣がさっき、あなたがいない人生なんて考えられないって言っただろ?」


「……死にたくなるほど恥ずかしいので忘れてください。」


「そうか?でも、本当にそう思ってくれる女性にだけは応えたいよ。」


繋いだ手を手繰り寄せる。結衣は驚きと幸せで涙が溢れる。



麻王の胸で結衣は、

「……欲張って絶対に失いたくないものもあると学びました…婚姻届の欄が三人分でも私はいいですよ?」


麻王の腕に寄り添って目を閉じる結衣。


「結衣は警察官僚になって父の後を継ぐんだろ。その時はバイトで特殊警官やってやるよ。」


クスクスと結衣は、

「……麻王先輩ってアルバイトどれだけ好きなんですか~!」



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