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体育祭午後③ ごめん!

●体育祭午後③  決勝 33話●


一回戦で半分の団体が消えおよそ50団体、二回戦で更に半分の24、三回戦で12チームが決勝の四回戦で6チームが残った。

昼休憩から既に二時間以上が経過している。


風紀委員チームは心海以外の結衣、神子、香織はかなり疲労している。


ただ、心海も優也との戦いの後でベストとは程遠い。


1000M決勝に野球部は残っていない。早々に敗退した野球部員はバスケ部メンバーに合流している。


決勝は出場している白桜生徒たちのコンディションを整えてからの一時間後。




白桜高等部 1A教室


心海は、

「麻王兄がいないからこういう接戦にしたんだ…もっと深く考えるべきだった。」


心海の言葉も届かないほどに神子、結衣そして香織は既に四回全力で走り、すでに疲労(ひろう)困憊(こんぱい)


寝起きのような結衣は、

「………ごめん、心海、何の話?」


結衣と神子の様子を見ながら香織は、

「…東先輩と結衣はほぼ限界だよ、心海?」


「香織ってさ……ま、今はいいか。えっと…つまり決勝は生徒会とバスケ部の一騎打ちで盛り上げて風紀委員の私たちには外されたって事かな。」


香織は、

「違うと思うよ?生徒会長の青空先輩はケガ人を出さないように圧倒的差を見せて残り四チームを諦めさせて無理させないように配慮していたんだと思うよ。」


突然、心海は鋭い眼光で、

「香織、アンタが高等部のチャラ男共と遊んでいるって噂は私には関係ない。でも麻王兄に変な同情で誘ったりしたらアンタの元半グレ兄貴と一緒に殺す!」



アルトメニアという弱肉強食の異世界で生き抜いてきた心海の眼光の鋭さに疲労困憊だった結衣と神子も凍り付く。



香織は平然と、

「心海には関係ない。殺せばいい。でも夏葉先輩は心海の事を心のどこかで許さないよ。」


心海は、

「へー、やっぱ噂通りの馬鹿だね!」


心海の笑顔に香織も笑顔をする。


結衣と神子は、

「…………えっと…。」


神子は、

「……コホン、よ、宜しいでしょうか、お二人とも?」


心海は、

「すみません~神子先輩!」


「神子先輩?……スポーツの駆け引きは私にはよく分からないですが、一時間で心海ちゃん、結衣、香織をベストコンディションにしますから。えっと…保健室に行きましょう!」


香織は、

「……何の話ですか、東先輩?」


神子は、

「私が三人を保健室で鍼を打って調節するよ………いやいや、させて頂きます。」


「麻王兄が神子先輩を褒めていたよ。」


神子は、

「ホ、ホントに!」


心海は、

「でもさ、そう言うのって違法じゃあないの?」


「お父さん、曰く、本人の同意の下でお金を取らなければ違法じゃあないんだって。あ、お父さんは鍼灸院を経営していてね。」


香織は、

「ヤメて、心海!駿兄ちゃんたちも、何より夏葉先輩がしてもらっているんだよ?」


心海は、

「金持ちなんでしょ?お金を払ったら?」


神子は、

「ううん、駿君やハルト君、野球部やバスケ部の皆もお金を出すって言ってくれたんだよ?」


「だったら何でもらわないの?正当な対価でしょ?」


心海の言葉に神子は、

「麻王君、いえいえ、夏葉君が万が一の時のためにダメだってね。」


「……麻王兄らしくないね。」


「違うよ、心海ちゃん。お金はもらってないよ。でも夏葉君はいつかその全員分のお礼はきちんとするって言ってくれたんだよ。」


「ふ~ん、やっぱアンタらの兄貴はクズじゃん!」


香織は涙を零すと、

「……いい加減にして、心海!責めるなら私にして!駿お兄ちゃんが毎日、夏葉先輩に恩を返したいって言ってたから私がおじいちゃんにソフト製作の話をしたんだよ!」


「分かった。じゃあ結衣のバカ碧は?」


結衣は、

「……私はお兄ちゃんにずっと庇ってもらって来たから…私が麻王先輩に恩を返すのはダメ?」


「何、言ってんの、結衣?イミフなんですけど?」


神子は俯くと、

「私が変なことを言ったからみんなごめんね?」


心海は、

「保健室に行こうよ!ほら、神子!元気出して!」


神子は、

「ど、どうしたの?」


神子の手を引っ張ると心海は、

「神子、挙動不審すぎ~!」


「チョット待って、ちょ…。」


結衣は、

「心海も不審だよ~!」





保健室


心海がぴょんぴょんとベッドの上で跳ねると、

「本当に軽いね!」


神子は少し複雑そうに笑うと、

「解剖学も生理学も深く理解している夏葉君はもっと上手いよ。」


胡坐をかいてベッドの上に座ると心海は、

「……何でここまで風紀チームの勝利にこだわるの?」


心海は素朴な疑問を三人に聞く。



突然、敬語で話し出す香織は、

「白桜は権力者の息子娘が集まるが故にそういう者同士がグループになると好き勝手にできる所という最悪な一面も持っています。情けないですが家の兄もグレてからは…そういう”不良”と呼ばれる学校の人間でした…」


心海は、

「何?いきなり敬語?」


結衣は、

「心海、白桜はね、一見、ボンボン学校に見えるけど、過去にはレイプ事件もあったんだよ。」


「それで?」


結衣は、

「退学処分だけで済んだ者もいれば卒業した者もいる。だからお兄ちゃんはいつも一人の私のために一緒にいてくれたんだ…」


香織は続けて、

「東先輩もその事に共感してくれて夏から正式に高等部の風紀委員になってくれました。

私たち三人の頑張っている姿を見てくれれば夏葉先輩も風紀委員に籍だけでも置いてくれるかなって…」


心海は、

「つまり、麻王兄に風紀委員に入ってもらって白桜にいる犯罪予備軍を何とかして欲しいと言うこと?」


神子は、

「レイプなんてされたら生きていけない。でも、学校というある種の治外法権のところには警察も手が出せない。ましてや、白桜は…もう、わかるでしょう?」


心海はバトンで肩を叩きながら、

「なるほどね、よし!神子さん、結衣、香織の三人がこれまで通り最初の150Mを。私が残り850Mを走り切るから。麻王兄に頑張っている姿を見せようよ!」


神子、香織、結衣は笑顔で、

「うん!」



今度は屈伸運動を始めると心海は、

「……相手チームの弱点は100M毎のバトンパスに時間が掛かること。おそらく生徒会は200Mを五回。野球部は100Mを十回。そのタイムロスを私が850Mを走り切れば勝つ見込みがあるよ。」


結衣と香織は、

「………大丈夫、心海…?」


「……一度しか言わないよ、香織や結衣のお兄ちゃんをバカにしてごめんね。それに神子さんの鍼とお灸は最高だったよ!」





15時半

1000M決勝


白桜や他校の生徒観衆がおよそ4000人にその家族や記者も含めると一万人近くが静かになるほど白桜グラウンドには緊張感が漂っている。


理事長が審判になると、

「セット。」


各6レーン

生徒会は、井上愛が深呼吸をしながらスタートの準備をしている。


バスケ部は、三明優也が余裕を持ってスタートの準備をしている。


陸上部は、心海の友人の実来の双子の姉の実花がウォーミングアップをしてスタートの準備をしている。


弓道部は、白桜学園の元生徒会長でマドンナ睦月弥生は皆に手を振りながらでスタートの準備をしている。


剣道部は、橘碧は隣レーンの結衣に”結衣、ファイト!”と励ましながらでスタートの準備をしている。


風紀委員会は、橘結衣は凍り付いてスタートの準備をする。




全員がスタートをすると優也が断トツのトップの後に井上愛と橘碧が続く。

バスケ部は第一走者の優也から二番手の井上ハルトに続いて三番手の上杉周が走り終える時に、後方の走者と100Mも差がつき、バスケ部が余裕で逃げ切ると皆が思った時に夏葉心海が300Mラインで周を軽々と抜きそのまま一人独走で走って行く。


周は、

「……やっぱり麻王の妹だわ…」



心海はこのまま逃げ切れると思った400Mラインを超えた瞬間、周囲から大歓声が心海に聞こえる。


心海が一瞬後ろを振り返ると神薙青空が心海の後ろを猛スピードで追い上げて来る。


走りながら心海は自身につぶやくように、

「…………信じられない。優也君より断然速いんだ…。」


心海がそうつぶやいた瞬間に青空は一瞬で心海を抜き去って行く。心海は全力で追いかけるがどんどん離されて行く。



500Mラインを越えた頃には心海の目には青空の背中は小さな米粒になっている。


心海は自分が麻王の次に速いと思っていた。それが彼女の誇りだった。心海の速度が落ちようとすると、


「まだ終わってないぞ、心海!」


風紀委員会の第6レーンにボロボロの体操服で立つ麻王が叫ぶ。



600Mのブルーラインで心海は、

「…………絶対来ると思ったよ、麻王兄!」


心海が涙を溜めながらテイクオーバーゾーン(バトンパスの20M区間)で麻王にバトンを渡すと、


心海からのバトンを強く握ると笑顔で麻王は、

「いい走りだ。」



麻王はバトンを受け取って走って行く。心海は両手を膝に置き息を切らしながらも走り去って行く麻王の後ろ姿をずっと見ている。



観衆が呆然とそして見惚れるほどコーナーでも全くスピードの落ちない麻王は信じられないほどに速い。

麻王と青空の100M程の差はつまっていくが青空も観衆が驚くほど速い。しかも井上愛と赤瀬愛枝の後なので既に400Mは走っているが青空のスピードは全く落ちていない。


碧は、

「…………やっぱ麻王はめちゃくちゃ速いな…」


駿は、

「……青空も有り得ない速さ…」


ハルトは、

「……速いってレベルじゃあない…って…」


優也は、

「…………カールより速いんじゃね?」


周は、

「…………二倍ぐらい……って古いわ!せめてベンと言え!」


芯は、

「……どっちも古いわ!……本当に人間の出せる速度か?今更だけど麻王も青空も何者だ?」



観衆も白桜に来ている記者たちもスタンディングオベーションで今日最高に沸き立つ。


900Mで青空は美緒にバトンパスをする。バトンパスを受けた美緒も全力で走るが、ゴールまで残り100Mで麻王との差は僅か15M。


美緒はそのまま一瞬で麻王に抜かれるがまだ諦めない。



周回遅れのグループが残り10Mの中で混成してゴール付近に(ひと)(かたまり)の団子状態になっている。


周回遅れの心海の友人の弓道部の月帆が転びそうになった瞬間、麻王が左片手スライディングでワンハンドキャッチをする。


麻王は月帆に、

「ごめん!」と言って再び走り出す。


「えっ、…ごめん?あ、ありがとうございます……」


月帆には”ごめん”の意味が分かず呆然としている。



その間に美緒が麻王を抜き返して残りゴールまで後20Mと少し。

麻王は立て直すが美緒とほぼ同時にゴール。


ビデオ判定で美緒が一位になる。



二位に終わったが心海、神子、結衣と香織は抱き合いながら、

「心海、凄すぎ~!」


結衣が心海に抱きつき、

「うんうん、流石、白桜中等部一の陽キャ人気ナンバーワン!」


香織も心海に抱きつく。


神子も喜びながら、

「やったー!最後はやっぱり……あれ?麻王君は?」



白桜高校校門を出て、再び病院に行こうとする麻王に後ろから美緒が声を掛ける。



「麻王!その血で滲んだ足でどこに行くの?」


振り返ると麻王は、

「何のことだ?」


タクシーが走って来ると美緒は、

「タクシーさん、待って~!……えぇぇぇぇぇ~空席なのに行くかな、ふつう?」


「タクシーはいいよ。」


「港区から新宿まで歩くの?青空君のお抱え医師に連絡取ってもらって四時に予約してるんだから。間に合わないよ~。私のバイト代ならいいでしょ?」


美緒はタクシーを止めると嫌がる麻王の背中を押してタクシーに詰め込む。


麻王は、

「何で美緒のバイト代ならいいんだ?」


「与えられるだけが幸せじゃないと言ったのは麻王でしょ?それに私は今もずっとずっと幸せだよ。」


タクシー後部座席に入ると美緒は先に入った麻王の手を両手で握り、

「最後、弓道部の後輩を助けて………ううん、ありがとうね。私も一緒に病院に行ってもいい?」


「よくあきらめないで走ったな。」


「もう、ホント、ウソつきなんだから!……あ、すみません、運転手さん、新宿の神薙総合病院までお願いします。」


「いつも大切に想ってくれて本当にありがとう、麻王!」


麻王の手に美緒の涙が零れ落ちる。


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