体育祭 午前① ダイビングキャッチ
●体育祭 午前① 31話●
白桜高校
中高等部生、合わせて約3000名で各クラス、部活(文化部、運動部)、風紀委員、生徒会に分かれて体育祭が行われる。
【午前】
玉入れ
障害物競走
二人三脚
400Mリレー
【午後】
500Mリレー
1000Mリレー
ダンス
白桜グラウンド
白桜体操服姿の優也が興奮気味に、
「麻王、100Mで勝負しようぜ!」
ワイシャツ姿の麻王は忙しそうに、
「どれも出ないって。生徒会の雑用と風紀委員の仕事あるだろ。中等部から心海が来るから勝負しろよ。前回の球技大会でも負けたんだろ?」
「負けてねえよ!」
体操服姿の芯は、
「風紀委員なんて高等部にあったか?」
芯が尋ねると麻王は、
「高等部には多分ないんじゃなくいないな。中等部の橘結衣の手伝いだよ。」
最初の玉入れの準備をしながら話す麻王。
芯は、
「へー、碧の妹の気の弱い結衣か……麻王にベタ惚れなんだろ?」
「そんな事を話したら碧がキレるぞ。」
麻王の言葉に優也は、
「でもよ、クラスで一番可愛い女の子が兄妹なら多少は異性と思えるんじゃないの?」
「逆じゃないのか?優也によく似た姉がいたらどんなに美人でも少し考えるだろ?」
麻王の言葉に芯はゲラゲラと笑うと、
「ハルトに聞けよ、優也!」
優也は少し考えると、
「井上愛か?……確かに水泳部兼女子バスケ部員でスタイルも顔もパーフェクトだよなあ…胸もデカいし…よなぁ…」
麻王は歩いて行く。
芯は、
「おい、優也、麻王が行ったぞ?」
「……逃げられた…ところで芯よ、お前は胸デカい派か?」
「……優也さ、言い方が下品なんだよ!……井上か?確かに可愛いよなあ……でもこの前もC組の重下の告白を断っていたぞ?」
「重下は何て言ってフラれたんだ、芯?」
「同じスポーツ科クラスに好きな人がいるって言われたらいしな。井上は愛枝と仲がいいだろ。聞けよ、優也?」
「知らないと思うぜ?」
「何でだよ?……もしかしてなくても、やっぱ麻王か、優也?」
「やっぱ麻王か青空だろ?……意外と芯もいけるんじゃね?」
「マジかよ~!なら四番目の優也もイケるだろ?」
優也は、
「……俺って四番目なんだ。」
「いや、駿もかなりイケてるな。」
優也は、
「五番目かよ~!」
「いやいや、周も頭もいいしな。」
優也は、
「六番目かよ~!」
「双子のハルトとも仲がいいよな?」
優也は、
「近親相姦かよ~!燃えるシチュだな、芯?」
「……それはない!ただ……あくまでも噂だけどハルトと井上愛は誕生日が違うって聞いたけどな。」
「それがどうした?」
「いや、初めて優也を尊敬したわ。」
「だろ?」
「…………。」
玉入れが終わり、障害物競走に変わる。麻王は次の二人三脚の準備をしているとジャージ姿のリサが走って来る。
「麻王君、一緒に走って!」
麻王が用紙を受け取ると”好きな人”と書いてある。
麻王は、
「はぁ~、父親の理事長がいるだろ?」
「理事長室に行く時間ないよ~、早く~!」
「いや、すぐそこの観覧席にいるよ。」
「そんな時間ないよ~!」
「仕方ないな。」
「歩幅が合ってないよ~キャッー!!!!!」
午前、最後の400Mリレーの決勝
白桜高等部のグラウンドに一周400Mのトラックに6レーンが設けてある。400Mリレーの決勝にはバスケ部、陸上部、野球部、水泳部、硬式テニス部、柔道部の6チームが残っている。
体操服姿の青空は、
「出ないの、麻王?着替えているし。」
体操服姿の麻王は生徒会観覧席のテントを作りながら、
「汚れるからだよ。生徒会の雑用がまだまだあるしな。状況を説明してくれないか?」
「お坊ちゃまお嬢様の集まりの白桜にまともな選手はいないよ?400M自由形に出ない、麻王?」
「400M自由形って水泳か?……何、この腐蝕しそうなアルミニウム?」
「400M自由形は一人で400Mを走ってもいいし、4人で100Mずつ走ってもいいリレーだよ。」
「それってもうリレーじゃないよな。」
「う~ん、まともなのはバスケ部からは山本。彼に300Mと残りの100Mを優也一人と陸上部には心海一人しかいないね。硬式テニス部はテニス部員三人と碧。野球部は山形先輩、ハルトに最後の200Mは6秒台前半の駿のフルメンバー。」
「ふ~ん。」
青空は、
「水泳部は笹井沙月と井上愛に他二人で各100M×4人で400M。柔道部は芯一人で400M。」
「何で碧が硬式テニス部なんだ?柔道部は芯と碧の二人だろ?」
青空は、
「芯と碧は剣道部で一度出場しているだろ?」
「それで硬式テニス部か?剣道部は?」
青空は、
「テニス部員は負傷者続出で、残ったテニス部員三人と碧だよ。」
「……芯と碧はどうせ勝てないからか?スポーツは参加することに意義があるんじゃないのか、生徒会長?」
「バランスよく硬式テニス部に参加させているだろ、麻王?」
青空の言葉と同時に生徒会観覧席のテントは倒れる。
呆然と麻王は、
「……ま、海水浴場に行ったら水着一枚で日光浴するからな。」
「OK。」
テントの鉄パイプを曲げ何とか立てようとする麻王は、
「陸上部の最初の三人は?」
「100M13秒台前半の陸上部最強三人衆だよ?」
「山本って速かったか?」
麻王の言葉に青空は笑顔で、
「全然。」
「前半から中盤までは野球部の独走と見せかけて結局のところ優也と心海の一騎討ちという筋書きか?」
「脚力はデータを裏切らない、だろ、麻王?」
再びテントが崩れると麻王は、
「……俺はそうは思わないけどな。」
【400Mリレー】
第三走者がそれぞれバトンを受け取ると野球部の駿は遥か前方をすでに独走している。
最終走者にバスケ部代表の優也と陸上部代表の心海の二人が立っている。
前回のバスケの対決もあり中高等部生合わせて3000人が午前一番の盛り上がりを見せる。
生徒会観覧席
青空は今日初めて観覧席に座ると、
「いい出来だね、麻王?優也は公式記録で50Mを5秒後半。バトンパスは苦手だけど凄い気迫だね、麻王?」
観覧席裏のクーラーボックスから客席の飲み物を出している麻王は、
「何がいい出来だよ、ブラック財閥御曹司。高校生、公式日本記録が5秒75だからほぼ同じ走力の優也も現役高校生ならトップだよ。」
競技の前でもいつも明るく気さくな心海が目を閉じて集中力を高めている。
優也はヘロヘロで走って来た山本のバトンを受け取ると、
「すまないな、心海!残り60Mを独走する駿に追いつけなくなるからな!」
優也は猛ダッシュで走って行く。
心海はテイクオーバーゾーン後方で、
「………圧倒的窮地からの逆転勝利!」
低い姿勢からバトンパスを受け取ると華麗な飛び出しで走り出す心海。瞬時にテイクオーバーゾーンで会話をした優也の10M後ろをピッタリと心海は走っている。
ゴールまで残り20Mを切っていた駿を優也と心海はあっさりと追い抜きゴールに向かって一直線に走って行く。
100M10秒前半の優也と心海の速さに白桜中高等部生3000人と保護者凡そ4000たちは呆然と見ている。
振り返る余裕もない優也は、
「……何でピッタリついてくんだよ、心海!」
「スリップストリーム、知っている、優也君?最後の5Mで軽く抜くからね!」
「クソッ、振り切れねえ!」
優也と心海の走る姿に青空は、
「…………よくないな。麻王の場合は足の指先から下肢、腰に至る力を大地から集めて走るが二人の走りはまるで海上を上半身の力だけで走るような”極めて軽い”走り方。………転ぶ。」
猛スピードで観覧席を走り抜ける麻王は、
「青空、優也を頼む!」
既に観覧席から立っている青空は、
「了解!」
先に優也がバランスを崩し、ライン内側に入ると、ゴール手前で突然、突風を浴びた心海が瞬時に完全にバランスを崩して前から倒れる寸前、体操服姿の麻王が心海をスライディングキャッチする。
白桜グラウンドにいる観衆7000人が静まり返る。
麻王は手を伸ばしうつ伏せになったまま、
「…………セーフ…だな。」
麻王は顔を挙げて立ち上がると優しく心海の手を取る。
体操服の麻王の左臀部から太ももに掛けて血が乾いたグラウンドに滴り落ちる姿に、
グラウンドにうつ伏せになっている心海は、
「…………麻王兄、血が…」
心海は、今はダメだと判っていても麻王を抱きしめたい気持ちを抑えられず麻王を抱きしめて泣き続ける。
「………力強くて美しい走りだったよ。今ならフォルシオンはもっと共鳴してくれるだろうな。ほら、みんな心配してくれているぞ?」
麻王の言葉に心海は涙を拭うと大観衆に手を振る。
ゴール後に優也もトットッと転び掛けるが青空がスライディングキャッチした事に観衆が続けて拍手を送る。
「……ふぅ…スピードスターの面目躍如だな、優也?」
青空がニコリと笑う。
「全然、勝ってないしよ、この拍手喝采の差はなんだよ!」
体操服の土埃を払うと青空は、
「バランスを崩して何とかインに入った優也より、諸に突風を浴びた心海の方が崩れるのが早かった。それだけだよ…」
中等部3Cクラスに戻る心海の下に中等部三年の心海の親友の香里、このみ、実来が走って来ると心海に抱きつき、
「よかったよ~、心海~!」
すでに麻王の姿は心海の視界のどこにもいない。
「……う、うん…」
香里は、
「このみと実来の3人で新宿に服を買いに行った時に風林の不良たちに十人以上に絡まれて逃げてね。」
このみは、
「そうそう、そこに颯爽と夏葉先輩が現れてね!風林の不良たちは夏葉先輩の出で立ちを見ただけで猛ダッシュで逃げてね。」
実来は、
「私が夏葉先輩に”心海は世界一の兄ガチャですね”って言ったら、夏葉先輩は”兄弟でも親子でも一方通行はないよ。人の関係はギブアンドテイクだ”って。」
「……私は麻王兄に何もしてあげてない…」
このみは、
「そうじゃないの、心海。私が親からもらった、こずかい5万が入ったカバンごと逃げる時に落としたんだ。」
実来は、
「夏葉先輩が改札で待っていろって。走って行ってね。」
香里は、
「10分後にこのみのカバンも5万も夏葉先輩が取り返して来てくれたんだよ。」
「……麻王兄なら…」
このみは、
「夏葉先輩は”何かあったら次からは誰か一人が連絡しろよ”って…でもね、心海、財布には万札が4枚と五千円札が二枚だったんだ。」
心海は、
「……どういうこと?」
実来は、
「このみは親から服代に万札で5枚貰っていたんだ。夏葉先輩はギブアンドテイクって言ったけど、先輩はそんなことを求めていないんだって。」
心海は、
「……麻王兄らしいな…」
香里は、
「上手く言えないけど、凄いのに少しも偉ぶらない、私はそんな夏葉先輩に副会長になって欲しい!」
このみは、
「うんうん、さっきも神薙生徒会長と阿吽の呼吸だもんね!」
実来は、
「夏葉先輩は”いつも妹と仲良くしてくれてありがとうって言って去って行ったんだ。”素直に喜べばいいんだよ、心海!私たちとたった一つ違いだよ。私もこのみも香里も何か感動して泣いちゃったよ~!」
涙が溢れると心海は、
「もう、何で言わないかなぁ~。」
香里、このみ、実来は顔を合わせると、
「……言う?夏葉先輩がその風林の不良たちをボコボコにしたから”黙っておいてくれ”って。」
クスクスと心海は、
「麻王兄らしいね。」




