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トーシャー(ありがとう)

●公平とは 29話●


九月 始業式


午前9時

白桜高校 総合体育館


始業式では甲子園初出場、そして準優勝を果たした白桜野球部のメンバーが表彰されていた。

体育館の中は大歓声。でもそこに麻王の姿はない。




白桜グラウンド


グラウンド、三塁側ベンチで空を眺め続けている麻王に青空が声を掛ける、

「表彰式にも出ないでどうしたんだ、麻王?」


空を見つめ続ける麻王は、

「……一人一人の心を救って行くと、次はその心と心が衝突したりしてな…。ま、俺が曖昧だからなんだけどな。」


ベンチ、麻王の横で立ったままの青空は、

「それが麻王の答え?それは女の持つ独占欲というエゴとエゴの衝突だと思うけど。」


麻王はベンチをポンポンと叩くと、

「隣に座れよ?女には男ほどの独占欲はないと思ったけど。」



青空は麻王の隣に座ると、

「個人によるよね?でも僕は麻王に救われているよ。一年前、白桜に転入する時に結果を残す事を条件に父に許しを得て東京に帰って来た。バスケで負けた時、白桜での生活は終わったと思った。でも麻王は僕を甲子園に連れて行ってくれた…。芯、優也、周、駿にハルトも……麻王にどれだけ救われているか分かっている?」


「男ばっかだな…」


麻王の言葉に青空が笑う。


青空はベンチから立ち上がると、

「男は敬意や敬愛の中に友情を持つけど、女は親愛と一緒に愛を持つからね。でも麻王はその心を捨てずに拾いたいんだろ?全校集会もホームルームも終了したからバスケ、先に行っているよ。ああ、荒木先生が出席にしといてくれたよ。」


そう言うと体育館に歩いて行く。



東神子が後ろで下を向き、もじもじしながら立っている。


「バッティングでも見ていくか?」


「うん!甲子園決勝は凄かったね。」


ベンチから立つと麻王は、

「野球はわかるのか?」


「お父さんが猛烈な野球ファンでね。白桜エラーの連続だったけど、夏葉君と速水君の奪三振ショーにお父さんも鍼灸院、待合室の患者さんたちも大興奮だよ。」


「詳しいな。」


「うん、お父さんに色々と教えてもらった!」


麻王が倉庫にあるピッチングマシンを取りに行くと追いかけて行く神子は、

「変化球ってあんなにも曲がるんだね?」


「右サイドスローの速水の方が現時点では完成されているんじゃないかな。」


「そんなことないよ!2M近い高さから落ちるドロップカーブ、ホームベース手前で抉り込むように曲がるスライダーにシュート…お父さんは夏葉君ならメジャーでも通用するって!」



麻王はピッチングマシンを出そうとすると彼女も手伝う。


快音と共にキレイなライナーが飛んで行く。四階の図書室の窓際からこのグラウンドはよく見える。


東神子、彼女の心を一番癒してしてくれる光景。


50球ほど打つと麻王はピッチングマシンを止め、

「観ていてもつまんないだろ?」


「……ううん。私なんかが100年努力してもできないことを軽々とする姿に…あ、すみません。」


「教えるのはどうだ?」


「夏葉君が?……私、運動神経ゼロですよ?」


「ふつうに動ける事がどれほど素晴らしいか考えた事はあるか?」


「……ですよね。」



麻王は神子にバットの振り方を教えるとヘルメットと手袋を渡す。


麻王はピッチングマシンの横に軟式ボールが入ったバケツを持って行き、右バッターボックスに立つ神子に80km/hの山なりのストライクボールを投げる。


麻王は甲子園のマウンドの時より楽しそうに投げる。


神子が大きな打球を打つと、



麻王は楽しそう、

「運動神経に自信ないって言っていたけど神子は打つな。白桜レギュラー取れるかもな。」


レフトに飛んで行く打球を見ると神子は、

「……当たった…気持ちいいね!」


「だろ?」



二人はベンチに座ると神子は目をつぶって告白する、

「……いつも夏葉君を前にすると緊張して。でも夏葉君はそんな私の心を見通して…。赤瀬さんも夏葉君の事を好きなんだろうけど、夏葉君に初めて助けてもらった時からずっと好きでした…。」



立ったまま中腰で両手をベンチに着き遠くを見る麻王は、

「神子の事は好きだよ。優柔不断でダメなヤツだと思ってくれてもいい。でも今はこのキョリを大切にしたいんだ。友達以上恋人以下って……That means I'm stuck in the friend zone with you. That’s we’re close.…この方が伝わるか?」



神子はクスッと笑うと、

「夏葉君、恋人未満じゃなくて”恋人以下”って恋人だよ。」


麻王が話し始めた時は涙が溢れていた神子がクスクス笑う。


「そっか…まだまだだな…」


「日本語の方が変って、夏葉君らしいね?そのネイティブスピーカー並みの発音は?」


「妹二人が海外ドラマにハマっていて……それをレコーダーにな?」


「……レコーダーに?」


麻王は小さなレコーダーを右手でクルクルと器用に回すと、

「レコーダーも使い慣れていればいざという時に即座に相手にわからないように録音できる。準文書として裁判でも使えるしな。」


「……え、う、うん……本当に頭のいい人っていつもそうやって何かを考えているね?」


「それは神子が好意を抱いているからそう思うだけだよ。俺を嫌う者がいればただの変人。」


「……そ、そう?夏葉君ってアメリカ人みたいだよね?」


「神子は大和撫子みたいだけど?」


神子はクスッと笑うと、

「もう、すぐに嬉しい返事が返って来る……自信がある男性はやっぱりカッコいいね?」


「碧が言っていたが女性はちょい悪が好きらしいな。」


クスクスと神子は、

「そういう子もいるけど、むしろ例外だよぉ~!生徒会に来る橘君って絶対に意識してるよね?」


「……私は誠実な人が好き。お父さんみたいに厳しくてもいい……あ、私なんかが夏葉君とお付き合いできたらいじめに遭うよね…」


「どうかなと。」


そう言うと麻王は自身のカバンを持って来る。


「……ここら辺にな。あった。ほい、プレゼント。」


驚く神子に小さな箱を手渡す。神子が箱を開けると高価な鍼が入っている。


「……瀉血(しゃけつ) (汚れた血を出す)に使える……(さん)(りょう)(しん)だ……ありがとう、夏葉君!何で?」


淡々と小さな声で話す麻王は、

「神子のクラスの友達に聞いた。それだけだよ。」


「……あの…もう少し近づいて…キャッ!!」


神子の言葉の途中で麻王が抱き寄せると麻王は、

「こうか?」


「…………你很帥嗎?(いつもカッコイイね?)、夏葉先生。」


神子は麻王に手を回すと小さくつぶやく。


「清再悦一遍(もう一回言ってくれる?)、神子?」


驚いた表情の神子は、

「もう台湾語も分かっているの、夏葉君!」


麻王は、

「鍼も極めるならいつか役に立つ…何より、シルクロードを感じるよ。」


神子は麻王の胸で目を閉じると、

「…………以前できなかったから分からないと思ったのに…………何でも努力してできるんだね?でもほとんど睡眠時間ないでしょ? 心配しているんだよ。」


麻王の胸の中で小さく話す。


神子をお姫様抱っこしたまま麻王はベンチに仰向けに倒れると、

「トーシャー(ありがとう)。」


神子が覆い被さっている姿に部活にグラウンドに来た白桜の生徒たちがざわざわすると、


神子は、

「キャッー!!もう誤解させれるよ~!キャッー見ないでください~!」




体育館出入口から麻王と神子を見ているユニフォーム姿の優也は、

「……麻王って女たらしだよなぁ…」


碧は、

「違うよ。ふだんは毅然としていて脆い妹と神子はよく似ている。少なくとも結衣は麻王にフラれたら立ち直れねぇ…神子もそうなんだろ…」


ハルトは、

「ああ、麻王は自信満々な女はあっさり振るしな。一途軍団に言い寄られて一番悩んでいるのは麻王じゃね?」


伊藤が入って来ると、

「麻王は一途で不器用な彼女たちのためになるように平等じゃなく公平に接したいんだよ…しっかし、竹下をフるか?」


山本は、

「ああ、あの放送部の二年のマドンナですよね。傷心中の今なら伊藤先輩の一言でコロっと落ちるのではないかと?」


体育館に戻って行く伊藤は、

「あのな、その傷が埋まったら必ず上手くいかなくるぞ。ウインターカップに向けて、練習だ!」


芯は、

「……意味わかるのか?」


駿、ハルト、碧、山本、優也は、

「……さぁ、サッパリ?」


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