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決勝戦航空高校vs白桜高校とレミングの死の行進

●決勝戦 28話●


甲子園決勝戦

航空高校vs白桜高校


一年生右腕エース速水桐。一番バッターの右投右打。

準決勝対香明学園でMAX156km/h。回転数の非常に高いストレートと全く同じ投球モーションからの高速スライダーも同様に最大の武器。


この甲子園決勝前まで麻王と同じ完全試合を二度も達成している。


1番センター  三明優也

2番サード    牧野芯

3番ピッチャー 夏葉麻王

4番キャッチャー神薙青空

5番ファースト  上杉周

6番セカンド   山形大士

7番ライト    沖田泪

8番ショート   名古屋駿

9番レフト    水戸洋 




鳴尾浜

白桜 宿舎

前日、試合前の決勝戦ミーティング。


白桜メンバーは麻王と青空、山形以外は緊張の局地。


青空は、

「前回までの試合と違って麻王には打たせてもらうよ。」


芯は、

「いやいや、俺たち内野手は山形先輩と周しか強烈なライナーは取れないって!」


山形は、

「……一回戦から三回戦までは青空とキャッチャーの周のリード。四回戦からは麻王に完全におんぶにだっこ状態……他の参加チームのレギュラーを見たか?草野球レベルで申し訳ないと思わないのか?」


「………………。」


山形の言葉に声が震える駿は、

「…で、でも野球って結局のところピッチャーでしょ?」


碧は俯きながら、

「……それに麻王はノーヒットノーラン継続中だし……麻王はプロに行くんだろ?」


「いや、行かないよ。」


駿、ハルト、沖田、水戸は、

「えぇぇぇぇぇ~!」


「なるべく妹二人の近くにいてやりたいしな。」


碧は、

「……でもよ、麻王は……その……お金ないだろう?麻王ならすごい契約金入るんじゃないか?」


山形は、

「こら、バカ碧、甲子園に来る前の全国模試で麻王はトップだぞ!」


碧は、

「あの、高校三年や浪人生が受けるヤツでですか?」


山形は、

「そうだよ、バカ碧!人にはそれぞれの生き方があるだろうが!」


周は、

「山形先輩も北海道のチームからオファー来ているんでしょう?」


「断ったよ…。ドラフト7位で契約金1500…仮にプロで活躍できてもせいぜい10年だろう?親父の会社を助けながら伊藤が卒業するのを待つよ。」


遠慮がちに碧は、

「……山形先輩の家も中々の貧乏でしょ?」


「そうやってせいぜい親ガチャで粋がっていろ、バカ碧。10年後の再会を楽しみにしてやるよ!」


すっかり顔の腫れの引いた優也は、

「碧のオヤジってテレビでよく見る捜査一課長だろ?やっぱり、そんなに金貰えるのか?」


駿は、

「碧のオヤジは捜査一課長、俺のオヤジは捜査二課長を蹴って例外的に碧のオヤジの部下だが同じ警視正の捜査一課係長。つまり国家公務員だよ。」


碧は、

「……まぁ、おふくろは俺と結衣の学費で一杯って言っているけど…」


麻王は、

「1000万ぐらいだと思うぞ。」


沖田、水戸、ハルトは、

「安くね?」


雅は、

「退職金と天下りがおいしいんだよ。」


碧は、

「……オヤジは天下りなんてしねえよ。」


駿は、

「家もそうだなぁ…正義を貫く警察官って感じか?ゴルフは大好きだけどよ…」


愛枝は、

「橘おじ様と名古屋おじ様はセミプロレベルだよ。退職までまだ十年以上あるけど、定年が来たら二人でゴルフショップを経営したいって…」


碧は、

「昔から愛枝と仲いいよな?」





青空はため息交じりに、

「そろそろいいかな?速水桐、彼は麻王や山形先輩と対極に位置する性格。プロになる為ならどんな手でも使って来る。」


「また弥生律みたいなヤツかよ~!」芯の言葉に、


青空は、

「いや、弥生律はチームメイトも見下していた。だが速水は一年メンバーだけでここまで来た。メンバーの信頼も極めて厚いよ。」


麻王は爪を切りながら、

「個人よりもチームメイトを活かす為に徹底して全力投球をして来る。その信念の延長線上にプロがあるだけだよ。」


碧は、

「ミーティング中に爪を切るな~!」


山形は、

「コラ、草野球レベルの碧、リリースの際の最後の押し込みをするためにとても重要なんだよ!」


青空は、

「山形先輩、もういいでしょ。 速水は明日、麻王とは勝負をして来ない。僕にはフォアボールもOKの際どいボールのみかな?」


ハルトは、

「……三番の麻王と四番の青空を敬遠したらいきなり得点圏になるぞ?」


青空は、

「それでも後続を抑える自身があるんだろうね。」


青空の言葉に麻王は、

「まだ未完成だが俺たちの試合後、香明学園に見せたストレートは本物だったな。」


碧は、

「………スッパン!って音が内野席にまで聞こえていたぜ…」





航空高校vs白桜高校の決勝戦は驚く程あっさりと白桜高校の敗北で幕を引いた。


香明学園と上山蒼と同様に三番バッターの夏葉麻王は徹底した敬遠。

四番の神薙青空には際どいコースのみのMAX158km/hの全力勝負。

それでも青空は四打席、二つのフォアボールと右に流した一安打と一本塁打。


白桜高校の敗因はエラー12。



4対3で白桜高校の夏は終わった…。


夏葉麻王は3試合で12打席5安打5ホームラン、7フォアボール。三試合ノーヒットノーラン継続で敗戦投手。


最優秀選手には、6試合で25打席13安打5ホームラン、10フォアボールの神薙青空。



麻王と青空以外の白桜メンバーも愛枝とリサも白桜ベンチで涙を流している。



ユニフォーム姿の麻王は無言のまま荷物を片付けると白桜ベンチから裏の扉を開けると、

「お疲れ様でした、山形先輩。また高校を卒業したら草野球をしましょうね?」


そう言うと麻王は歩いて行く。


山形は再び涙を零すと、

「……お、おう…ありがとうな、麻王!」


ベンチ椅子を蹴ると芯は、

「青空よ!あのクソ采配はなんだよ!」


優也は、

「おうよ、俺たちは死に逝くレミングスか?」


青空は荷物を片付けながら、

「レミングの死の行進のこと?ああ、優也もレミングの複数形を覚えたんだ。大学入試で出ないと思うけど?」


芯と優也は、

「そういう事じゃあねえよ!」


「そういう事だよ?」


芯と優也は、

「ハァ?」


「レミングはその凄まじい繫殖能力と成長の速さで自らの食糧を失い、その爆発的に増えた数と飢餓感、故にどんな流れの強い川でも大移動をする。」


「…………。」


「白桜野球部の爆発的な力は紛れもなく麻王。そして力もなく行き場の失くしたレミングは君たち。」


「…………。」


青空は荷物を片付けると、

「……確かに芯と優也の言う通り、麻王のピッチングと僕のリードで三振を中心にピッチングを組み変えれば勝てただろうね。ただエラー12で甲子園決勝も図々し過ぎる。世論も、

能なしでも麻王について行けば甲子園優勝ができるとおまえたちに厳しく当たるかもしれない。いや、必ず当たる。」


「…………………。」


「麻王と僕、山形先輩以外の平均打率は一割未満。この課題は今後の白桜野球部には絶対必要だった。」


青空は淡々と話す。


碧は、

「……でもよ、青空、山形先輩は三年、最後の夏だったんだぞ?」


再び涙が溢れると山形は、

「いいよ、碧。史上初の甲子園三試合ノーヒットの麻王の投球のおかげでスポーツ新聞には連日、”夏葉麻王を支える日本一の名セカンド山形大士”って…三歳から野球にすべてを捧げて来て間違えてなかったと麻王と青空が証明してくれた。」


駿は、

「でも、青空は…」


山形は、

「麻王のあの凄まじいシュートとスライダーを取れるのは青空、航空高校のキャッチャーの新保、後はプロ野球に二、三人じゃないか。それに我が母校の白桜高校の名も日本中に知れ渡った…ありがとう、青空…本当にありがとうな…」


「いえ、マスコミの白桜野球部員の叩きを避け、来年度の構想のために山形先輩には犠牲になってもらい申し訳ありません。」


涙を拭うと山形は、

「……白桜や航空が絶賛されたのは正真正銘のアマチュア軍団だからだ。私学強豪化はするなよ!」


「ええ、バスケ部員の補充しか考えてませんよ。」


白桜夏服、半袖に桜色のリボンの愛枝は、

「大切な話し中にごめんね、……私は白桜野球部のマネージャーだけど、麻王を追いかける!」


愛枝がベンチから麻王を追いかけて出て行くとリサは下を向いている。



周は、

「リサ先生、後は僕と青空でやっておくので。今、麻王を追いかけないときっと後悔しますよ。」


周が笑顔で言うと躊躇いながらもリサは、

「あ、ありがとう、上杉君。」


そう言うとスーツスカート姿のリサも麻王を追いかけて行く。


廊下で着替えを終わらせ制服姿のまま宿舎に1人で戻ろうとする麻王に愛枝とリサが追いつく。



木製バットが入った大きなカバンを持つと白桜夏服の麻王は、

「一緒に宿舎に戻るか?」


麻王が言うと黙って頷く愛枝とリサ。



宿舎に戻ってカバンを置くと麻王がスマホで青空に連絡を取ると、

「……青空?ああ、三時間後に皆と合流するから愛枝とリサを借りるよ。」


そう言うとスマホを切る。


愛枝は、

「リサって言うんだ…。」


愛枝の言葉にリサは下を向く。


麻王は、

「俺はお前の所有物じゃないんだけど?」


「……赤瀬商社の祖父の孫娘として思い上がっていたところもあったよ……でも、生徒と教師…そんなの駄目だよ…」


「そっか、分かった。」


そう言うと麻王は無言のままカバンを持って一人出て行く。泣き続ける愛枝の傍でリサが声を掛けようとすると愛枝がリサの手を払う。


リサは強く、でも優しい口調で、

「私たちが誘拐された時の本当の事を赤瀬さんは知っている?」


泣き続ける愛枝は、

「………本当の事って何よ?」


「私たちが気絶してた間の事よ。」


「何でアンタなんかが知っているのよ!」


「赤瀬さんも大概だよね?世の中は自分中心に回っているって思っているでしょう?」


さらに泣き続ける愛枝は、

「……そういう、先生はどうなのよ…!?」


「私も名一杯甘やかされて来た……そして役立たずだと思い知らされた。」


「……その話しは誰からなの?」


「……今後、麻王君の近くにいるならって神薙君からね。彼、すごく頭いいし、赤瀬さんが聞く事もわかって私に話したと思うよ?」


「……怖いし思い出したくもないけど、聞く…」





「……そんな事が…」


「私は麻王君…麻王が好きだから追いかけるよ。」


「……三食大食いより?」


「う~ん、少し迷うけど、やっぱりダントツ麻王かな!じゃあね!」


リサは麻王を追いかける。


涙を拭うと愛枝は、

「……ぬけぬけとあの大食い天然女~!」



駅に着こうとしている麻王にリサは追いつきそのまま麻王を抱きしめようとすると麻王がリサの肩を止める。


「人が見ている。リサには辛い思いをして欲しくない。」


麻王の言葉に我に返ってコクリと頷くリサ。


「リサ、先に帰ったとだけみんなに言っておいてくれるかな。」


愛枝が少し息を切らして走って来ると、

「麻王がたとえ誰を選んでも…………私もずっと麻王と一緒にいていい?」


「愛人二号ってか?それはこの世界の話だろ。俺はこの世界の人間じゃないしな。」


麻王は素っ気なく愛枝とリサ二人にそう言うと二人は笑い出す。



愛枝はクスクスと笑ういながら、

「ふつうそういう事って隠すんじゃないの?」


「まあ、誰も信じないしな。」


「私たちはすぐに信じたけど?」


「詐欺師に騙されるなよ?」


愛枝は、

「もう!……私たちって結構、モテるんだよ、ね、リサ先生?」


駅に歩いて行く麻王は、

「はぁ~。」


愛枝は、

「タメ息するな~!って置いて当たり前のように追いて行くなぁ~!ちょっとホントに待って~!」


リサは、

「赤瀬さん、麻王は甲子園ノーヒットノーランピッチャーだよ。白桜で一番の成績で駿君と会社まで起こして…」


「準決勝でバカ碧たちがエラーしまくってノーヒットだけ…どうなるのよ…?」


「赤瀬さん、味方のエラーで何人ランナーが出てもノーヒットノーランなんだよ。私も勉強したんだから。」


「…ふん、これからは私のことも愛枝って呼んでもいいよ。」


「……生徒を下の名前で呼ぶはずないでしょ。」


「なによ、この天然女~!」


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