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妹の心を救うのは…………チョコレートと神秘のピアス"ルーテ"

●妹の心を救うのは? 27話●


準決勝後の休日の夕方、鳴尾浜で麻王は海を眺め続けている。


後ろから心海の声が聴こえる。


白桜夏服のショートカットになった心海が走りながら、

「麻王兄~!」


麻王は振り返ると、

「ピッチャーマウンドから二人がな。美緒と応援に来てくれているんだろ?」


「うん、ソフト会社の営業ご苦労様です。それにしても相変わらず麻王兄の視界は広いね~それに余裕すぎ~!」



麻王は兄として心海を溺愛に近く大切にしている。この世界に来て彼が嬉しい事の大きな1つが妹と戦場を伴にしなくていい事だからだ。


「それに友達も一緒にね!」


「……心海、前の世界に帰りたいか?」


「突然、どうしたの?私は麻王兄とずっと一緒にいられればそれでいいよ。大切な話し? 」


麻王は心海を見ると笑顔で、

「いや、心海が来年高等部に来たら生徒会選挙や部活も大変になるなって思っただけだよ。」


「……ウソ…麻王兄は昔から大切な事はすぐにはぐらかそうとするもん。」


そう言うと心海は両手を後ろ回し浜辺の近くに行く、


海を眺めたまま心海はポツリと、

「……私が本当の妹じゃない事?」


麻王は遠くを見つめたまま、

「……とうの昔に気付いている事は分かっていたよ。」


心海は涙を零すと、

「…私の方が絶対にダマせていたと思っていたのに…やっぱりアルトメニアの英雄マオ・レューゼはダマせないね?なぜ、私が気付いたと分かったの?」


「どうしてかな。」


「……ごめんね、麻王兄。」


「何がだ?」


「……麻王兄との関係が壊れるのが怖かった…」


「今も昔もお前を全ての世界の中で一番愛しているよ。」


「……ホントに?」


「本当だよ。」


「私が麻王兄に恋をしたら?」


「……そうだなぁ、オムツを変えている事から知っているからな。」


「私が麻王兄に出逢ったのは私が2、3歳ぐらいの時だよ。それにエルシオンにはオムツなんてないよ~。……長耳じゃないけど、エルフだよね?」


「声が聞こえるのか?……そうだよ、エルフは寿命が長いからな。」


心海は涙が溢れ止まらなくなると、

「……麻王兄、その話しはヤだよ……麻王兄がいない世界なんて絶対に考えられないよ…イヤだよ。」


「ほら、こっちに来い。」


麻王は心海を抱き寄せると、


心海は麻王の胸の中で、

「……いつか私を愛せる…?」


「もう愛しているだろ?」


「そう言うんじゃないよ…それに麻王兄が死ぬなんて考えられない。麻王兄がいない世界で一人で生きたくないよ~。」



麻王は片膝を着いて泣き続ける心海の両肩を持つと、

「魂ある者の命は有限だから清く尊い。分かるか?」


「分かるけど……何で最強の麻王兄がエルシオンで最もちっぽけな人間なの!」


「それな。地球のパンダぐらいの絶滅危惧種だぞ。」


「……ちっぽけ…とかごめん。」


「俺たちは寿命も違う兄妹だけど俺は心海に出逢えた事が一番の幸せだと思っているよ。そしてそれはこれからも絶対に変わらない。」


「……麻王兄。」


「俺が人間として生を受けて最も心残りなのは先にお前を置いて行くことだよ。でもきっと心海は立派な女性になるよ。」


「……これからも私を見ていてくれる?」


「もちろん。」


「……今は妹でいい。」


心海は涙を拭うと笑顔で、

「アルトメニアのクラスB以上で妻を持っていなかったのはハリと麻王兄ぐらいだよ。ガリなんて10人以上いたね!」


心海は竜王ガリとハリ・リオンを思い出しクスッと笑う。


麻王は、

「一夫多妻はアフリカか?他に一夫多妻の国は……確かコーランでは四人までOKだったかな?」


「ほら、そういう事言って大切な話をすぐ誤魔化す~。」


麻王がポケットからアルトメニア銅貨のコインを出すと心海は笑顔で、

「懐かしい~!」


「だろ?」


「麻王兄、勝負しよ!」


「勝負?何のだ?」


心海は真剣な眼差しで麻王を見つめると、

「勝った方は好きな条件を出し、負けた側は絶対言うことを聞く事!いい?」


「まだOKとは言ってないが?」


「もう~!」


「勝敗の具体的な内容は?」


「それを言ったら意味ないよ~。」


心海、マオ・レューゼの妹シン・レューゼ、彼女は本来”ルーテ”と呼ばれる神秘のピアスで耳と瞳の色を隠しているだけで純血のハイエルフ。


麻王はやれやれと、

「心海の持つ直感と直観では俺は心海に勝てないな。」


「どっちも同じでしょ?」


「直感は大脳基底核から尾状核で起こる勘のこと。直観は大脳基底核全域から起こる閃きだよ。心海はそれがすごい。」


「分かんないよ~、それに麻王兄には相手の眼や筋の動き、空気の流れを読み取ることができるでしょ?」


そう話す、心海の心の中は、麻王が勝てばきっと今後も兄と妹の関係を大切にしたいと言うと思っている。


ポケットから板チョコを出すと麻王は、

「トランプに代えてもいいか?」


「絶対にダメ!麻王兄のトランプは早過ぎるしトリッキーだからダメ!ってそれ、板チョコ~!」


「分かったよ……表か裏か?」


心海は、

「裏!」


麻王はポケットからトランプを出すと、

「じゃあ板チョコを食べるか?」


「それ、トランプ~!ポケットにどれだけ入れてるの~!」


麻王は板チョコをかじると、

「それでいいのか?」


「うん!」



心海の返事に麻王は右手でコインをピンと上に弾き少し高い目のコイントスをする。麻王は左手でキャッチし掌を開けるとコインは、表。


ガッカリする心海は、

「……生まれて初めて私の勘が外れたよ…。」


心海の落胆した表情を見て麻王は心海にコインを投げる。

「ほら、よく確認しろよ。」


心海は、

「……アルトメニア銅貨の裏に薄っすらチョコレートが付いてある………え?どういうこと?」



コイントスにおいて少しでも重い方が下になる確率は80%以上とかなり高い。加えて麻王は高くコイントスをすることにより更にその確率を上げている。



麻王はマジマジとコインを視る心海にクスッと笑うと、

「俺の勝ちだな?これからは麻王兄じゃなく麻王と呼べよ。」


「……それって…」


麻王は優しい笑顔を心海にすると浜辺を後にする。心海は両手でコインをギュッと握り、嬉し涙が溢れそのまま麻王を追いかける。


「麻王はすぐにズルするんだから~!いつチョコレートを塗ったの?」


心海の中に麻王兄と呼ぶ時に敬意と同時に妹としての遠慮があった。でも今、それはもう感じない。


「トランプに代えてもいいか?と心海に尋ねた後に敢えて板チョコを出しただろ?その時に視線を誘導した。」


「……右手でコイントスして左手で取ったのは?」


「それは心海の認識を誘導するため。本当は高く上げる事に意味があったんだよ。」


「聞いてもよく意味がわかんないよ~!」


麻王に茶化された空気で麻王を後ろから強く抱きしめる。悪かったと笑う麻王。



その場に屈み、振り返ると麻王は、

「ほら、おんぶしてやる。」


呆然と心海は、

「…………覚えていたの?」


「当然。」


「ハハ……戦場で逃げる時、麻王兄は前におんぶしてくれたんだよ…」


屈んだまま麻王は、

「武将は主が負傷した時にそうしてたらしいぞ。乗らないのか?」


「……恥ずかしいよ…」


笑いながら立ち上がると麻王は、

「そうか、子ども扱いして悪かった。近いいつか心海と美緒に見せたいところがあるんだ。」


「うん…なんで私の耳はふつうなの?」


「まだ赤子の心海を託された時にルーテと呼ばれるその右耳のピアスをした。瞳の色も術者の俺にしか認識できない。」


「……ルーテ…古代神器の…フォルシオンも神器だよね、麻王兄?」


「戻っているぞ?」


「いいの!世界中で”麻王兄”と呼べるのは私だけなんだから!」


「フォルシオンは限りなく神器に近いが神器ではないよ。」


「……もしかして他にも?」


「そうだよ。いつか俺が死にすべてのフォルシオンを心海が集めた時にアルトメニア最強はシン・レューゼになるかもな。いや、マオ・レューゼとシン・レューゼの子がエルシオン最強になるかもな…」


「……それって…」


「近親相姦がダメな理由には劣性遺伝子が発現しやすいことにある。何より実の兄妹は性にも抵抗があるしな。ただ俺と心海は人間とエルフ…人種どころか種も違う。」


「…問題ないよね?」


「いつか心海はエルフ郷をつくる者になる。」


「……イヤ、そんな話は聞きたくない…」


「人にはそれぞれの役割がある。俺は俺の役割を果たす。」


「……麻王兄の役割ってなに…」


「俺はおまえたちの親代わりであるって言っただろ?父は子にその生き様を見せるものじゃないか?」


「……樹パパのお父さんみたいな?」


「だな。親子中が悪いと言っても兄さんが親や兄想いだから根っこは壊れてないんだよな。」


「パパのお兄ちゃんもカリスマ美容師で、こうチャキチャキと私や美緒姉のカットもしてくれて凄かったよ!」


「名刺はあるか?」


「ううん、住所とお店の名前しか知らないよ…マズかった?」


「後で手紙とカット代を送っておくよ。」


「あ、うん…パパのお兄ちゃんが受け取らなかったんだよ。でも、お兄ちゃんは樹パパと麻王兄を褒めていたよ。」


「俺たちの存在が兄さんの微妙な親子や兄弟関係をよくするならいい。子どもができれば今度はおまえたちがいいお姉さんになればいい。」


「…私がお姉ちゃんか…うん、頑張っていいお姉ちゃんになる!」


「そう、そうなればいつかここが心海と美緒の第二の故郷になる。」


「……麻王兄は私たちをここに連れて来てくれたんでしょう?」


再び屈むと麻王は、

「ほら、旅館までおんぶしてやる。」


「……疲れるよ?」


「小鳥のようなものだろ。美緒も心海も後、20キロは太れよ。」


「豚野郎になるよ!」



10分後

心海を背負って旅館に向かって歩き続ける麻王は、

「……意味分かんないけど?」


「私も麻王兄の認識を誘導したんだ!」


「何のこっちゃ?」


「あ、樹パパのザ・関西弁~!」


おんぶしてくれている麻王を強く抱きしめると心海は、

「……麻王兄に出逢えて私は世界中の誰よりも幸せだよ…ありがとう、麻王兄…」


「なら、よかったよ。」


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