甲子園 四回戦準々決勝 霧谷vs白桜…………少女の心
●選べ… 25話●
甲子園
四回戦準々決勝
平均155km/hを軽く超える麻王の速球がコースギリギリに走る。キャッチャーは青空。
神奈川代表の進学校の霧谷二年キャッチャーの野嶋のバットが空を切る。
審判は、
「三振バッターアウト!4対0で白桜高校勝利!」
ピッチャーマウンドの麻王とキャッチャーマスクを取った青空はハイタッチをこの甲子園で初めてする。
青空は、
「野球も中々面白いね、麻王?」
「だろ?」
山形がセカンドから走って来ると、
「冷めてるな~お前たちは~!」
麻王は、
「山形先輩のその涙を見れて十分に感動してますよ。伊藤先輩に見せたかったな。」
麻王はピッチャーマウンドを降りると白桜ベンチに歩いて行く。
山形は、
「……夏葉。」
泣き崩れる霧谷高校の野球部員を見ると青空は、
「山形先輩、伊藤先輩の事や相手チームの事を考える麻王は喜びませんよ。」
「ああ、…だから夏葉麻王は強いんだな。しかし、準々決勝、あの霧谷相手に完全試合、もうプロ確実じゃないか。」
ニコッと青空は、
「どうでしょう、麻王はマジシャンになりたいかも知れませんね。」
「それじゃあ藍はやれんな!」
「ははっ…」
甲子園初登板完全試合という華々しい甲子園デビューを麻王は果たす。
ベンチに記録員として赤瀬愛枝。監督として漢文教師の細川先生が続行。
責任教師に荒木先生。
美緒や心海も甲子園の白桜応援席に来ている。
夏服の半袖にリボン姿の心海は、
「やっぱ麻王兄はマナがなくても凄いね!樹パパは?」
美緒は、
「……うん、予備校講師って夏が最も忙しいから…きっとテレビで観てくれているよ…」
「だよね!麻王兄はメジャー行くのかな?」
「プール付きの家で暮らすの?」
「……美緒姉ってわかってないよね。」
「私たちもアメリカに行けるんだよ。凄いじゃない?」
調整のために駿と碧が途中出場して感動している。
白桜ベンチに戻って来ると碧は、
「……え?俺たち試合前の練習以外は何もしてないけど?」
駿は、
「まぁな。でもよ、27連続三振かよ~!やっぱり麻王と青空は最強だよな。準決勝の観客席はすごい人になるぞ、碧!」
ハルトは碧と駿に駆け寄ると、
「おい、300人の半グレを倒したのはやっぱり麻王か?」
碧は、
「さあ?俺たちは知らね、な、駿?」
「麻王は大切なものを守った。それでいいだろう、ハルト?」
「大切な者って俺たちの事か?」
「闘うってそれだけじゃないだろう、ハルト!整列に行くぞ!」
碧は走って行く。
「……爽やかな顔をしやがって何だ~あいつら…?」
夕方 鳴尾浜
ワイシャツ姿の麻王は一人海を見ていると碧が歩いて来る。
「麻王、二人だけで話すのは初めてか?」
海を見続けている麻王は、
「そうかもな。」
「お前には俺も妹も何回も助けてもらって感謝の言葉もないよ。俺はこの恩をどうやって返せばいいんだ?」
「もうその話はしただろ。観客席で心海と美緒が見ていた。元気になったお前たちも見れた。それでいいだろ。」
「……麻王。」
「で、何の話だ?」
「そうそう、それな!麻王は誰を選ぶんだ?」
「選ぶって何をだ?」
「いやいや、赤瀬、美緒ちゃん、リサ先生、東神子、少なくともこの4人はお前の事を真剣に愛していると思うぜ…………後、俺の妹もかな。」
碧が真剣に尋ねる。
ようやく振り返ると麻王は、
「結衣がいるのか?」
「……い、妹は関係ないだろうが!」
碧が怒ると、
「”いるのか?”って聞いたんだが、一人にしてくれないか。」
「結衣はこの後、麻王にお礼を言いたいと、もうずっと待っているんだぜ。じゃあ、俺は宿舎に戻るよ。」
結衣が兄と入れ替わって歩いて来る。
結衣は少し麻王とキョリを置くと、
「麻王先輩、この度は兄の事……本当に何てお礼を言えば。後、麻王先輩の事がずっと好きでした。」
麻王はずっと海を見ている。
「突然、すみません…………兄の事やこれまでの感情も高まって、思わず……すみません。」
麻王は振り返ると、
「以前、俺の兄さんが故郷の大阪とこの兵庫に連れて来てくれたんだ。相変わらず海がとても綺麗だな。」
そう言うと麻王はポケットからコインを一枚だす。
「………コインマジックですか?」
麻王は、
「手品は好きか?」
「えっと…はい、かなり…」
左掌の母指球筋にコインを乗せ、右手で塞ぐと麻王は、
「今からこの一枚のコインは時空を飛んで結衣の財布に行くから、よく見ておけよ。」
麻王の言葉に結衣は麻王の右の掌のコインをじっと見ていると突然、一枚のコインは掌から消える。
「結衣の財布を開けてみたら?」
結衣がポケットから財布を取り出し、開けるとコインがチャリンと財布に入る。
「空中に飛ばして~ズルですよ~!」
結衣は笑いが止まらないが上手く流されたちゃった…と思うと涙が出て来る。
「そのコインはやるよ。準決勝のピッチングを見ておいてくれないか?結衣のためだけに投げるよ。」
「はい!」
結衣は嬉しくてたまらない。
「敬語はいいって。そろそろ宿舎に戻ろうか?」
麻王は手を差し出すと、
結衣は、
「え?………う、うん…いえいえ、はい。」
結衣は照れて下を向きながら右手を差し出すと、結衣の右手からコインが地面に落ちる。
「………ウソ…? 財布に入れたのに…」
「目に見えるモノだけが真実とは限らないよ。」
「……それは麻王先輩のことですか?…あ、…いえ、…すみません…」
海を見ると麻王に結衣は、
「……よく遠くを見ますよね?いつも何を見ているんです?」
「後、何回、見れるかなって…」
「…そんなぁ…なら、私は麻王先輩にどこまでもついていきます!」
振り返ると麻王は、
「なぜ、そこまで俺にこだわる?」
「…そ、それは…好きな人に何度も何度も助けられたら…愛おしく感じます…」
涙が溢れる結衣を見ると麻王は手を差し出す。
「……えっ…麻王先輩…?」
「一つだけ、自身の目でよく見極めろ、そして選べ…” You will get the deal with our handshake?”」
「えっ…dealって取引だから…イエス、イエス!」
「…………………。」
「何で無言なんですか~!」




