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甲子園三回戦 涼宮第一

●甲子園 1回戦第四試合 23話●


あの日の翌日から麻王の姿はない。


駿も碧も深い昏睡状態のまま今も神薙総合医大に入院中。

愛枝とリサはその駿と碧の看病で東京に残っている。白桜野球部顧問は漢文教師の細川先生が監督代行として来ている。




白桜バスケ部のインターハイが悲しい幕引きをさせられた青空、芯に顔を腫らした優也が野球部に合流し、甲子園に向かう。


優也は傷をファンデーションで隠し何も言わない。青空に連絡をしたハルトも。


攫われる際に空手有段者に10発殴られた優也はすぐに気絶し、ハルトも青空に連絡した後は強制的に青空に神薙総合医大に行かされた。

つまりあの場の真の凄惨さを知っているのは青空だけだった。




甲子園 白桜野球部の練習時間


甲子園球場のサード位置に立つ芯は、

「…………スゲーよなあ……この…………開放感と観客……」


トボトボとセンターに歩いて行く優也は、

「駿や碧にも見せてやりたかったな…」


バッターボックスでノックの用意をしている青空は、

「何を言っているんだ、優也!駿も碧も必ず三回戦以降に来るぞ?」


ショート位置につくとハルトは、

「……青空、今さらだけど、何で麻王はいないんだ?」


青空が打った硬球を鮮やかに捌くとセカンドの山形は、

「ヤメろ!今は貴重な白桜高校の練習時間だぞ!少しでも間隔を慣らせておく時間だ。」


ハルトと優也は、

「……山形先輩…」


「懸命に働く中で俺たちを甲子園まで連れて来てくれたのは麻王だぞ!」


山形の言葉に優也とハルトは下を向く。

「………でも……」


山形は続けて、

「麻王は高校生活最後の俺に甲子園に連れて行くと約束し、そして叶えてくれた……一年だぞ?すごくないか? 俺や沖田、雅、水戸の元リトル組でも信じられない奇跡をほぼ一人で叶えてくれたんだぞ?」


「……………。」


青空は、

「頭は冷えたか?練習するぞ!」



1番センター  三明優也

2番セカンド  山形大士

3番サード   牧野芯

4番ピッチャー神薙青空

5番ショート  井上ハルト

6番キャッチー上杉周

7番レフト   水戸洋


ハルトは右腕も完治し抜群の守備力と肩を見せると左投手に強いことからこの試合の相手ピッチャーも左ということもあり五番起用。


8番ライトと9番ファーストはその日の状態と実践の経験を考えて、沖田泪(るい)雅了(りょう)は交代で入ることになった。野球部顧問代行は漢文教師の細川先生。ベンチでただ黙々と本を読んでいる。


ハルトは、

「指示なしかよ…」


セカンドの山形は、

「青空がそういう先生を選んだんだよ。」


ハルトは、

「そんなにも権力あるんすか?」


バッターボックスに小走りで行く山形は、

「神薙総合財閥に買収されるのも時間の問題じゃない?青空、交替だ!」





三時間前 

新幹線内


青空は、

「今大会、超強豪校と言われているのは大阪の航空高校だ。野球部員は一年のみの新設校。エースピッチャー速水桐、右投右打ストレートMAX152、ストレートと全く同じタイミングで投げるスライダーも同等レベルの武器。Spinrate いわゆる回転数がプロトップレベルと同等。」


芯は、

「青空、甲子園常連の西東京代表の香明学園は?」


青空は、

「ま、誰もが知る香明学園は創立100年を超える伝統校であり、甲子園常連校。」


山形は、

「麻王や青空たち、おまえたちと同じ新一年で天下の香明、ショートの四番バッターの上山蒼がいる。」


芯は、

「香明でショートの四番……麻王並みのヤツですね?」


山形は、

「そう、でも、この二校、つまり速水桐と上山蒼は順当に行くと準々決勝で激突してくれる。」


優也はボソッと、

「……ラッキーじゃん。」


青空は各選手の詳細なデータも出すと、

「この絶対的二校に加えて、攻守のバランスのいい宮城あやと市立が入って来る。」


山形は、

「……士気が高いのは俺、青空、芯の三人だけか。」


「…………。」


顔を腫らした優也は、

「……しょせん、ただの球遊びじゃあないすっか…」


「そうか?バスケ素人の俺が見ても青空の完成された美しいポイントカードとしての指令塔、芯の力強く華麗なスリー、優也の観る人たちを魅了するような速さ…観る人々を魅力し、100%のバスケファンにするぞ。」


嬉しそうに優也は、

「山形先輩、バスケ、詳しいスッね?」


キッパリと山形は、

「伊藤から聞いた!後は俺のアレンジだ。」


優也は、

「……キャーキャー言われていたのは青空と伊藤先輩だけっすよ。芯はデブ化してご覧の通りっす。」




そして現在、夏休み期間、白桜からも甲子園球場に多数の生徒たちが応援に来ている。





甲子園一回戦

白桜vs砂丘ビジネス学園


優也のヒットの直後の盗塁、山形先輩アウトの後、選球眼と体幹抜群の芯がヒットを打つと優也が余裕でホームベースに帰って来て一点、その後四番バッターの青空がホームランで二点先制。


これで勝負はついた。野球では右投右打に徹しているが、そもそも神薙青空はほぼ両利き、スポーツ全般に類稀なる才能を持つ天才である。


麻王と同様に青空もバスケと並行してバッティングとピッチングの練習も当然していた。



MAX142km/h、変化球もスライダー、チェンジアップも同一投球動作から投げることができる。

ただ甲子園常連の強豪校には分が悪い。金属バットしかも白桜の守備は他の甲子園出場校と比べればかなり見劣りする。打たせない事がこのチームの前提条件なのだ。

だが敢えて青空は打たせ白桜ナインに試合中も練習をさせる。そして自身も打つ。



神薙青空、白桜のほとんどの生徒も気軽に話せない神薙財閥の跡継ぎの彼の事を頭脳明晰だが冷淡で関わり合いたくない人物と白桜高校の生徒たちのほとんどは思っている。


その評価は正しくない。それは三条北山までの彼の話。ハルトの件も麻王に頼み自身は病院の手配も完璧にしていた。

駿の件も麻王の得点を理事長には変えさせなかった。


どちらにしても麻王は赤瀬愛枝の心を救っただろうが成績で落ち込んでいた麻王だからこそ赤瀬愛枝は青空と双璧を成す麻王に対して接しやすく入っていく事が可能だった。


冷淡には接するが彼は冷静沈着に皆のフォローに回る。



九回表の打順まで青空は四打席二打数二本塁打。


九回トップの彼は敬遠されたがすかさずに二盗、三盗。そのための対戦バッテリーの性格、心の強さ、投球のクセ。チーム全体の思考を予選からの全てのビデオを見て計算にしていた。


白桜vs砂丘ビジネス学園のクロスゲームはフォアボールで九回表に出た青空が自身で強引にホームスチールをして決勝点。


一点差の九回裏も積極的に攻めると見せかけて、際どいボール球も入れて来る。


二回戦も接戦で勝利。

だが白桜メンバーに弱音を吐く者はいない。麻王が来ない理由は誰も知らない。でも青空は間違いなく知っている。その彼が何も言わない訳がある事をチーム全員がよく知っている。


三回戦は、予想通り打線は今大会では、香明学園、あやと高校に次ぐ強力打線と言われる強豪校涼宮第一高校に決まった。


甲子園まで一緒に来るはずだった駿や碧、そして麻王の分まで戦っているプレッシャーと同時に自信も次第に強くなってくる。




白桜 宿舎


軒下に座っている芯はボソッと、

「……明日は超強豪の涼宮第一か。」


風呂上がりの山形は、

「風呂、すごいぞ!それに明日は楽しみだろう、芯!」


振り返ると芯は、

「……山形先輩めちゃくちゃ燃えていますね?」


「毎年、テレビで観ているこいつらは本当に俺とは別次元なのか?って常々、疑問に思っていた。その疑問は一回戦、二回戦のセカンドのプレーで解決した!」


青空は、

「周、明日のリードはお前に全てを任せる。」


「俺が?ムリムリ、絶対に無理だって!」


「一回戦も二回戦も苦しい場面でいいキャッチングをしてくれたよ。明日はバッティングに集中したくてね。」


周は、

「……分かったよ。じゃあ俺は涼宮メンバーのクセを完全攻略するよ!」





甲子園三回戦

涼宮第一高校vs白桜高校 


1番センター  三明優也

2番セカンド  山形大士

3番サード   牧野芯

4番ピッチャー神薙青空

5番ショート  井上ハルト

6番キャッチー上杉周

7番レフト   水戸洋

8番ライト   沖田泪

9番ファースト雅了


一回表ツーアウト後、涼宮三番片瀬にファーストライナーをファースト雅がファンブル。涼宮四番不動には追い込んでからのスライダーをカットされ続ける。



たまらずタイムを取ると周はピッチャーマウンドに向かう。ピッチャーマウンドの青空は一回表から汗を拭うと、

「…今日、涼宮第一の三、四番はデータより確実に調子がいいな。」


ミットで口元を隠すと周は、

「四番だが非常にミートが上手い。青空、緩急をつけていこう。」


「向こうはカーブかチェンジアップを待ってるよ。」


「えっ…」


「麻王並みの大きなドロップカーブは僕にはムリだがスットッピングはそこそこと思う。」


「十分だよ、青空。」


「……軽く150km/h出せる麻王はあらためてすごいよ…」


「ああ、でも、ストレートとチェンジアップを同じ投球動作から投げる青空は既にプロクラスだよ。」


「…金属バットか…」


「そう、木製バットと違い、金属バットは当てるだけで飛ぶ。故にバッターの意識は…」


「空振りを狙うべきだった…か」


ニコッと周は、

「やっぱり麻王にも青空にも勝てないな。」



青空が外角いっぱい縦に割れる80km/hのカーブを投げる。


次に内角高目に青空自身最高を超える146km/hを投げた瞬間、ボールはセンター浅く飛ぶ。


ピッチャーマウンドの青空は、

「山形先輩に任せろ、ユウヤ!」


青空の指示にもこの試合に一番ムキになっている優也には聞こえず無理に突っ込む。優也との衝突するギリギリのところでセカンドの山形はボールをキャッチし、優也を避けるがボールは山形のグラブから零れ落ちる。


あっさり涼宮に一点先制される。


ナインは青空と山形先輩以外下を向いている。


青空は続く涼宮5番バッターを計算通りショートゴロに取るがハルトのバウンドのタイミングが合わず後ろに転がる。


白桜の三連続エラーでツーアウト涼宮は一三塁。青空は6番バッターを三振に取る。


ハルトは、

「……すまない、青空。」


「謝るな、ハルト。麻王なら五番バッターは打ち取っていたよ。」


「……予選リーグを観たのか?」


「荒木先生がビデオに収めてくれていたよ。それに麻王は必ず来る。」


「お、おう!」


一回裏、涼宮第一のピッチャーは一、二回戦の時のピッチャーと違う。予選では中継ぎ投手として変化球を主体に投げていた一年生左腕桜井。


一球目、桜井の豪快な速球がキャッチミットに入る。甲子園の電光掲示板に152km/hが表示される。


白桜の優也、山形、芯は三者連続三振に取られる。



白桜ベンチ

青空は一人笑う、

「騙されたな。でもこういう勝負がいい。お前たちは諦めたのか?」


青空の言葉に山形以外の全員が下を向いている。


落胆している周は、

「…予選リーグまでチェックすべきだった…任されたのに済まない、青空。」


青空は悠々と涼宮ベンチに戻る桜井を見ながら、

「麻王がバスケと並行してでもやりたがったのが、今はよくわかるよ……野球も中々面白いね。」


周は、

「……青空…」


グラブを持つと青空は、

「僕は諦めないよ。麻王に笑われるからね。」


青空のこの一言にナインは熱くなるが、


白桜ベンチから出ると青空は、

「熱くなるのはいい。でも熱くなる事と冷静さは全く別だ。優也、取ると決めたら取れ!最後まで視線を外すな!お前の足はあんなに遅かったのか?バスケで負けて俺たちは挑戦者側になったんだ。いい加減に自覚しろ!」


こんな激を言う神薙青空を全員が初めて見る。


優也は、

「……舐めんなよ、青空。足が千切れても走ってやる…」




ピッチャーマウンドの青空は、竹のように全身をしならせながら球を走らせて二回表も抑え裏のバッターボックスに立つ。


バッターボックスに立つ神薙青空。涼宮の本格左腕桜井の三球目MAX154km/hのストレートをバックスクリーンに叩き込む。同点の1対1。


四回ツーアウト、青空はボール気味の球をライトに流し打ちヒットにするが白桜の五番ハルトはバットを叩きつける。


試合は一気に投手戦に変わる。




七回裏 白桜の攻撃

右バッターボックスの青空は敬遠気味のフォアボールで歩かされる。


白桜ベンチの山形は、

「どんなに桜井が凄いと言っても今年の三月まで中坊だぞ?そろそろバテるだろ?」


周は、

「……俺たちも麻王も中坊でしたよ?」


山形は、

「バーカ、麻王は余裕100年に一人の逸材だよ。」


優也は、

「……山形先輩もけっこう口悪いっすよね?」


芯は、

「確かにかなり強引に投げて球が走ってないな。」


山形は、

「いわゆる、”荒れ球”は回転率が悪い。つまり、打者の手元で測る終速はかなり落ちている。その割に涼宮の桜井はコントロールがいい。これは致命的な弱点だ。」


周は、

「荒れ球ってふつうはどこに来るかもわからないですからね。」


山形は、

「青空はそれを狙って打っているからな。」


「えぇぇぇぇぇ~何で言わないんですか~!」


「エースに頼るのはいいが甘えるのは違うぞ。周、さっさとネクストサークルに行けよ!」


「そうだった!」



投げては青空が即二盗、三盗された時点で涼宮の一年生エースはセットポジションになりかなり息を切らしている。涼宮の三年生の元エース薮田がマウンドに立ちピシャリと白桜メンバーを抑え青空はベンチに戻って来る。



結局、最終回を同点の1対1で迎える。




九回裏

一番三明優也は左バッターボックスに入る。甲子園出場からしか優也のデータはない。ただ塁に出すと100%の率で二盗してくる優也のデータに涼宮ベンチもピッチャー薮田もイラつく。

一球目の低めはボール。二球目少し甘く入ったボールは鋭い当たりでギリギリファールになる。三球目ファール。


四球目の甘い球をセーフティバントし、ギリギリセーフになると優也は、

「よっしゃー!」


ファーストベースで強くガッツポーズをする。


大きくリードを取る優也に薮田は何度も4球連続で投げると優也はリードを小さくする。


ハルトは、

「何やってんだ、あのバカ!」


青空は、

「次に走る。大きくリードを取ると帰塁は難しい。小さくリードすれば二塁に走る余裕ができる。涼宮もわかっているが、5球目は遅延行為になる可能性がある。そしてバッターボックスの山形先輩は打たない。」


周は、

「……涼宮の薮田と優也の勝負か?涼宮のキャッチャー越智は強肩だぞ。」


「そう、そして優也は麻王や僕と比べると数段初速度が落ちる。」


ハルトは、

「じゃあ、ムリじゃあねえか~!」


青空は、

「アウトだろうね。だが…」



二番、山形の打席の一球目に優也は二塁ベースかなり手前から砂煙を上げクロスプレーになると二盗を決める。


金属バットを持つと青空は、

「コンマ0.1秒セーフだよ。それにエッジの効いた滑り込みを審判はセーフにする…こともある…少なくとも今大会はね。」


水戸と雅は、

「……わかるんだ…プロ野球の盗塁王が言ってたよ…」


二球目から次は三盗を始めると白桜ベンチは、

「えぇぇぇぇぇ~!マジかよ~バカ優也―!!!!」


涼宮も味方の白桜ナインも驚くが三塁主審はセーフを判定する。


周は、

「……二盗もギリギリだったのに…」


「フェイクだよ。仮に人の能力を100ゲージにすると優也は運動能力に90振っているからね。」


ハルトは、

「……でも、心海には負けたぞ?」


「元々のゲージが200なら仕方ないだろ?」


周は、

「……人がゲージで決まっているなら悲しいよな…」


沖田は、

「期末考査で息抜きに夜空を見ていたんだ…麻王は一軒ダッシュしたら次の一軒まではジョグしているよ。ゲージはあるかもしれないけど、麻王は抗っている!」


芯は、

「……よっしゃ!繋ぐぜ、青空!」


ニコッと青空は、

「ああ。」



山形は粘るが最後は涼宮薮田の大きく曲がるスライダーにバットは虚しく空を切る。


三番の芯がバッターボックスに入る。白桜には何のサインもない。


三条北山時代から優也と一番気が合うのは牧野芯に違いない。


右バッターボックスの芯は、

『……一打サヨナラの優也がいるが一二塁は空いている。この同点の場面で青空と絶対に勝負したくない敵チームは今日、三打席三振の俺とは絶対に勝負を挑んで来る。つまり敬遠気味のボールは絶対ない。』


芯は突然、初球に突然スクイズをする。


芯がそうすると確信していた優也は余裕のホームインで呆気ない程のサヨナラ。


白桜高校の生徒たちは大歓声。


ネクストバッターボックスにいる青空は最後の夏が終わった対戦相手の涼宮第一の三年生を見つめていた。


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