異次元を越え、地球そして東京へ
前回の二話目の投稿がUPしてなかったので再投稿をします。
●異次元を越え、地球そして東京へ 2話●
深夜
新宿 小さな公園
公園の芝生の上に倒れている妹シンを見るとマオはアルトメニア語で、
『シン、大丈夫か?』
シンが少し息苦しく、
『……う~ん、……マオ兄なの?……何処、ここは…?』
シンの身体の免疫力の低下を感じるとマオは、
『…かすり傷のみだな。後で話すから今は何も考えずにお前はしばらくそのまま休め。』
力なくシンは、
『……もう加護を与えてくれるフォルシオンはないからふつうに疲れたよ。少し休むね。傍にいてね、マオ兄…』
マオは”ああ”というと上着を脱ぎ、その上着をシンに掛けるとシンの右耳に施された”永遠の偽り ルーテ”というピアスを見つめる。
マオはシンが眠ったのを確認すると日本語で、
「…無限刃は異次元に逃げたか。それにしてもシンは完全に魔力が消失している。オレもほぼ魔力とマナがないな。まぁ、元々、ガリやミオンより魔力量は劣るけど残りはほぼないな…」
マオが気配を感じ振り返ると、ミオンがシンと同じように少し離れた芝生の上に横たわっている。
ミオンを抱きかかえるとマオはアルトメニア語で、
『ミオン!』
ミオンは目を覚ますと、
『……マオ、私は大丈夫……破れた結界に二人を追いかけて来ただけだから。ガリとハリは”そっちに行くな!”って叫んでたけど。……今頃は竜族の力でガリが結界を直してくれていると思うよ。それよりシンは?』
マオは、
『シンは魔力とマナを使い果たして少し眠っているよ。残り僅かだが魔力操作でシンの状態は確認したから…シンは大丈夫だよ、ミオン。』
マオの腕の中で夜空を見つめるとミオンは、
『……月が一つしかなくマナも少ないここは私たちの世界と違う…』
マオは、
『だな。』
ミオンは隣の芝生でスースー寝ているシンが無事と知ると、
『……いや、ちょっと、マオ。あの無限刃の力は一体何だったのよ?太古の昔に竜族を召喚した穴がまた開いちゃったじゃない!もう~、あの力は一体何なの?凄過ぎるんですけど? ふつう事前に言うよね、というか絶対に言うよね!…まぁ、あの力だからマオはクラスSなんだろうけど。』
マオは、
『愚痴は後だ。新しい世界で生きる術を見つけるぞ。』
ミオンは、
『……私の魔力があの小さなブラックホールでなくなっちゃって…またマオに迷惑を掛けるね…』
『そんな事ないよ。』
マオは何故か長刀無限刃の話を避ける。それはパーティ全員が知っていること。マオのパーティ全員からの信頼は家族や兄弟姉妹の信頼より厚い。そのマオが話す事を避けるのであれば誰もそのことに異を唱えない。そういうマオを絶対とした信頼の下にあの5人のパーティは存在していた。
ミオンは、
『今はシンが心配。人の気配が全くないけど、ほら、こちらを見ているあの男性に”リンツォ”を使ったら?』
『だな。だがオレも僅かな魔力しか残っていない。人に使うなら後4、5回ってとこだから慎重にだな。それにミオンもほとんど魔力を感じられないな。もう俺が言うまでは残りの魔法は使うなよ。』
『……私は何一つ戦えてない。マオが指示してくれたけど…私を気遣ってでしょ?』
『俺は別におまえたちパーティに戦闘能力を求めてないが?それに争いのない世界かもしれないぞ。』
いつものように優しく話すマオの言葉にミオンは、
『うん、マオやガリ、ハリの三人でも私たちのパーティーは最強と思っているよ。それにマオの指示はいつも正しいからね!早くリンツォでこの世界の情報教えて!』
スッと立ち上がるとマオは、
『少し補うか…』
ミオンは、
『えっ?』
寂しげな深夜の路上で一人のスーツ姿の男性がこちらの様子を確認しようと歩を進めた時、マオの瞳が黄色く変色した瞬間、リンツォでその男性の歩みは止まる。
マオのリンツォは人の感覚神経の求心性を辿り大脳皮質と大脳基底部にあるその人も思い出せない深い過去の記憶まで知ることができる。それによってその人の人格、思考、言語その他全てを自らのものにできるのがリンツォである。
立ったままの男性を見つめるミオンは、
『えっ、この男性…静止しているよ?えっ、どういうこと?』
驚くミオンの隣でマオは、
『ここは銀河系の中の地球という星だな。で、国は日本だな。彼はここが首都だと思っているけど彼の深い記憶からこの国に首都という定義はないみたいだな。ここはその日本の東京という世界最大の大都市。この都市だけでアルトメニアの人口より多い…』
ミオンは、
『ふーん、ぎんが系か…全然聞いたことないよ。かなり飛ばされたようね。マオは…』
マオはミオンの話を制止させ、
『ミオン、聞きたい事は山のようにあるだろうけど、今はシンの治療が先だ。命に問題はないが身体は先の戦いでかなり疲弊している。流石にクラスCってとこだな。とにかく今は救急車を呼ぼう。』
ミオンは、
『え、キュウキュっ…何?というかマオがクラスCって言うと何か劣等感を感じるんだけど…』
マオはこの世界に来て初めて笑顔で、
『心海は神都から正式にクラスCと認められた訳ではないからな。それにミオンはこの世界のことはわからないしな。この世界において治療スキルは魔法の対価が必要ない。この男性にリンクして分かった。この男性のスマートフォンを使って連絡すれば救急車はすぐに来る。』
マオはミオンの額に人差し指でリンクするとミオンは日本語で、
「えっ、…えぇぇぇぇぇ~!………すごい!魔物もいない世界なんて信じられない!……でも人はどの世界でも…あんまり変わらないね?それにマオの魔力ももうほとんどないんでしょ。…そう、マオはソラを倒せたの?………えっ…?…えっ…私、日本語で話してる…?」
マオは夜空を見上げながら日本語で、
「”補う”って言っただろ。」
「もう、長刀無限刃もそうだけど、マオっていっぱい能力を隠してない?」
少し笑うと麻王は、
「隠してないって。ソラ・ラムエィは半獣半人。半獣の心臓が2つあるのはミオンも知っているだろ。」
「……知識はあるよ。でも、マオの動きは遠目からでも全く追えなかったよ…」
「脳と心臓にある心の臓を2つ完全に胸髄から上に貫き斬り裂いたよ。もし仮に生きていたとしてももうふつうの人間だよ。後はアルトメニアに凱旋するだけと言いたいけどオレたち三人に魔力はほぼない。この僅かな魔力を活かしてこの日本という国で生きることが先決だな。いい加減に日本語で話せよ。」
―地球そして日本へ 夏葉と出逢うー
マオは日本語で寝息と寝言を言っているシンの額に指を当て、
「シン、この世界の事が認識できるか?もうすぐ救急車が来る。誰に何を聞かれても記憶がないと行っておけばいい。とても文明的な世界だから安心して病院で身体を休めるんだ。シンにはトレースをしてあるから分からない事は俺に念話で聞けばいい。理解できたか?」
シンは日本語で”うん”と頷くと再びそのまま目を閉じる。
リンクされた男性が二人に近寄り、
「君たち何があったの?とにかく今は救急車を呼ぶよ。」
マオはシンを抱き抱えると、
「有り難うございます。救急車はもうすぐ来ます。俺たち少し訳ありで…シン…あ、妹だけお願いしても宜しいでしょうか?搬送された病院には後で行きます。」
5分後
救急車がやって来ると妹のシンとその男性は救急車に一緒に乗り込もうとした時、
スーツ姿の男性は名刺をマオに渡し、
「僕は夏・葉・樹。その名刺に書いてある予備校に勤める英語の講師だよ。」
この世界とは少し違うマオとミオンのボロボロの服装に夏葉は続けて、
「そのズタボロの服装を見ただけで訳ありなのは大体分かるよ。妹さんは僕が責任を持って病院まで一緒に行く。でも後でその訳を僕にちゃんと聞かせてもらえるかな?」
マオは、
「勿論です、本当に有難うございます。妹を宜しくお願いします。でも何故、そこまで親切にしてくれるのですか?」
夏葉は少し笑うと、
「男の頼み事は無下にできないだろ。それに僕は教師という仕事に誇り持っているからね。病院の先生に妹さんの様子を聞いたらすぐに戻って来るからここで待っていて。シンちゃんの様子を病院の先生に聞いたらすぐにタクシーで戻って来るから。」
―地球そして日本へ この世界で3人で生きていくー
シンと樹を載せた救急車が走って行くとミオンは、
「……ホントに一緒に行かなくてよかったの?ちょっと夏葉さん信用し過ぎじゃない…?」
マオは笑顔で、
「夏葉さんは信じられるよ。行けばこの世界の警察という組織が来て話がややこしくなる。無用な魔力を極力使いたくないし、この世界の貨幣もない。もう少しこの世界の情報を得られるまでは多くの人間と接するのは得策じゃない。それにフォルシオンがなくてもシンはふつうの人間よりは遥かに強いよ。」
「うん、まあ、それはそうなんだけど、何か私だけ理解力のない意地悪女みたいじゃない?」
公園のベンチに座るとマオは、
「思ってないって。それにシンにはリンクとトレースをしてあるから後日の見舞いの居場所は大丈夫。シンが帰って来るまでに入院費や衣食住を確保しないとな。」
マオの隣に座るとミオンは、
「……入院費よね。お金か…何その顔。マオ、馬鹿にしないでよね。私ももうこの世界のプロよ。でもやっぱアルトメニアは大丈夫かなぁ。」
「大丈夫だよ。あれだけの兵力を俺たち5人で失ったユーラが逆に哀れだな。今頃、神都カントラパガノスが亜人大国に介入しているかもな。パーティー5人の内、三人がこの世界に来るのは予想外だったけどアルトメニアにはガリもハリいるしな。ハリの左手の神の銃を見たかったなぁ。」
ミオンはマオに寄り添うと、
「……マオは私たちのパーティーでもエルシオンでも断トツの強さ。ハリやガリも恐ろしいほどに強い…お荷物だった私は正直ホッとしているんだ……マオはパーティーで一人浮いていた私をいつも理解してくれた。」
「今の俺たちに大切な事は魔物も魔獣もいないこの世界を三人で生きていくことだよ。結果論だけど、あの血生臭い世界に二人は置いておきたくなかった。でもとにかく今はこの東京で暮らすこと。」
「麻王について行くといつも正解なんだ!……星が…空気、かなり悪くない?」
そう言うミオンは嬉しそうに空を見上げる。
微かに見えるしし座とおとめ座を見つめているマオは、
「……殺し合いはもういいよ。…前はなかったな…」
「えっ、…何?」
「もう少しで日本語を話せる効果はなくなるぞ。」
「えぇぇぇぇぇ~!」
―新しき世界でー
深夜1時
一時間後、夏葉さんが公園に帰って来た。シンは1週間程の入院で大丈夫との事だった。
入院場所は新宿区。ここも新宿東口だからすぐ近く。
そして夏葉さんの家もこのすぐ近くだった。
夏葉は、
「……ということだよ。じゃあ、先ずは二人の服でも買いに行くか。」
ミオンは、
「ホントに!?」
困った表情のマオは、
「それは…」
「ハハ、遠慮しなくていいから。それにそんなボロボロの服で歩いたら即職質だよ。その代わりに色々と聞かせてもらうからね。」
「…はい、必ず後日お返しします。」
「その足で喫茶店で食事をしながら興味深い話も聞けそうだしね。」
マオは彼個人の記憶や情報をリンクし奪ったものは全て削除した。
マオはミオンの反対とは別にこんな厄介事に巻き込みそれでも快くシンや自分たちのために動いてくれた夏葉さんには全てを話すべきだと考えていた。
歌舞伎町
四人テーブル椅子で黙々とステーキ定食を食べているワンピース姿のミオンは、
「……美味い、美味い!」
向かいの椅子に座っている夏葉は、
「それはよかった。じゃあ聞かせてくれるかな?」
ミオンの隣の窓際の椅子のスラックスにワイシャツ姿のマオは、
「我々の惑星エルシオンは大きな銀河系の地球のような星、惑星ローの衛星の1つです。その惑星ローと呼ばれる惑星は我々にも未知の領域です。」
興味深々に樹は、
「それは恒星じゃなく惑星なの?」
夏葉を見続けているマオは、
「鋭いですね。惑星ローは移動しているんですよ。」
「なるほどね。どんどん話して。」
「エルシオンの世界の者はダブルクラスS以上の者からしか惑星ローに行けないと言われています。」
「クラスとは?」
「クラスとは神都と各国で認められた称号、つまり物理攻防力、魔法攻防力、特殊能力の3つを総合したランクです。地球と決定的に違う事は、魔法の力によってエルシオンの世界は成り立っている事です。」
「クラスとそのLVmって?」
「クラスには主にA~Fの6つのランクがあります。LVmは簡単に言えば体術、剣術。魔術士なら詠唱の種類とその深さを加味した総合的な運動能力みたいなものです。魔法はこの世界で考えられているものよりもずっと物理現象に近いですね。故に治癒魔法や蘇生魔法は莫大な魔力対価を伴うものです。」
「ファイヤー!って言ったら飛んで行くんじゃなくて?」
「魔力で火を起こし、マナで弓を作って、空間座標 xyzを計算して投げる作業です。100M先の魔物なら物理攻撃の方がはるかに楽ということになります。」
「そんな世界にかわいい妹二人を置いておけないね。」
「仰る通りです。どんなご質問でも即答しますよ。」
夏葉はひと通りここまでの経緯を聞くと、
「君はその若さで驚くほどしっかりしているね。で、君は人を殺したことはあるの?」
「あります。」
夏葉はニコっと笑うと、
「喜々とそれを語らない君に安心したよ。」
夏葉は続けて、
「うーん、余りにも突拍子もない話で少し想像できない部分もあるけど一つ納得できた事があった。」
「…………。」
「君の眼だよ。」
「眼ですか?」
「仕事柄、数多くの人も若者も見て来た。でも数多の修羅場をくぐり抜けて来たであろう君のその落ち着き様とその話し方。そんな若者は少なくとも今の日本にはいないよ。」
「…………。」
「それにさっきも必死で聞いても理解できない事の方が多かったしね。もちろん、質問したい事は山の様にあるけどどうせ分からないしね。」
それまでの柔らかい感じから夏葉は真顔になると、
「先ず、君たちの話だと真っ先に戸籍と名前が必要だね。で、三人はかなり若いけど何歳なの?」
マオは、
「戸籍と名前ですか? 年齢は地球の公転周期だとシンは14歳ぐらいですね。ミオンと僕は15歳ぐらいだと思います。」
夏葉は少し考え込んだ後に、
「それなら突然だけど家に三人とも僕の所に来ないか?」
ステーキ定食を食べ終わったミオンは、
「ごちそうさまでした!…へ?」
マオは、
「待ってください、先ず、夏葉さんの記憶をお返しします。」
「お、それって僕しか知らないことを知っているワケだ?」
少し笑うとマオは、
「夏葉さんも動じませんね。その後でお話の続きを。コピーした記憶を探すので数秒掛かるかも知れませんが、どうぞ?」
「数秒?たったの!?…う~ん、誕生日はベタだし、そうだなぁ…中学時代に片思いだった女の子は?」
「橋本沙苗さんですね。」
「おお~!って計算、速すぎない?」
薄く両手が光るとマオは、
「ではお返しします。痛くないですからね。」
「怖いー!」
ミオンは、
「動じまくってる…」
2024 2/16 再編終了しました(^^)