九条弓①
●九条弓 19話●
放課後
白桜高校
周たちと麻王はグラウンドで練習をしていると、元東中の後輩の九条弓が麻王に手を振る。
麻王は彼女の下に駆け寄り何かを話している。
麻王がチームメイトの皆を呼ぶと、
「九条弓、東中の時の野球部の後輩。ま、俺は練習試合しか参加してなかったんだけど。彼女はスイッチヒッターだからみんなは弓にバッティングを教わって欲しい。」
ハルトは、
「中学生女子に教わることなんかねえよ。」
ハルトが突っぱねる。
麻王は、
「ハルトの手はもう良くなっているな。周、ピッチングマシーンを120km/h設定に。弓と10球勝負だ。負けたら文句言うなよ、ハルト。」
ハルトも駿も最近入ったばかりの二人だが元々の運動神経はスバ抜けていい。トップレベルの格闘技経験者ゆえに二人とも左打ちも楽にできる。
東中の紺に緑のリボンのセーラー服、身長152の弓は、
「さっきの皆さんのバッティング観てました。あ~じゃあ、どうせ私が勝つんだし先に打って決めますね?」
ハルトは、
「あ~、なんだこのアマ?」
周は、
「俺の妹は美人系だが、めちゃくちゃ可愛いな!」
碧は、
「結衣はムチムチだけどよ…この子はスレンダーだな。」
弓は麻王のヘルメットと手袋をすると、
「ありがとうございますー! 男なら行動ですよ、ね?はると先輩!」
碧は、
「ブッハハ、完全に女子中学生に舐められてやんの!」
碧の言葉にハルトは、
「東中ってヤンキーの吹き溜まりの新設高校だろう?」
麻王は、
「新宿東中高は総合的には白桜には及ばないけど、東大進学者もいる進学校だよ。」
弓は、
「麻王先輩、135km/h設定できます?」
「ああ、できるよ。」
「じゃあそれでお願いしますー!」
弓が制服のまま左バッターボックスに入る。
ハルトは、
「……135km/hって俺も碧も駿もかすりもしないぞ?」
弓は一球目からヒット性の当たりを軽く打つ。鋭いスライダーも苦も無く打つ。5球全てにヒット性の当たりを打つと、今度は右バッターボックスに入る。
ハルトは、
「…マジかよ!」
「麻王先輩~、次、140キロお願いします。」
碧、ハルト、周は、
「………………………。」
右バッターボックス、一球目のボール球をカットした後、六球目はボテボテのサードゴロに。彼女は笑っているが青空から野球の全てを教わっているメンバーは彼女のカット技術の高さに驚く。
弓は戻って来ると、
「合計七本のヒット性の当たりか……右バッターボックスはまだまだですね。」
麻王は、
「また上手くなったな、弓。」
「ヤッター!麻王先輩に褒めてもらった~!」
ハルトは、
「……ま、可愛いしな…」
「守備は高校生トップレベルだよ、ハルト?」
麻王の言葉にハルトは、
「…負けたよ…弓ちゃん、よろぴく~。」
「ヨロピコ~しるこ先輩!」
「ハルトだよ!」
碧と周は、
「……………………。」
全員が弓にバッティングのそれぞれの悪いクセを修正してもらっている。
周はキャッチャーマスクを取ると、
「麻王、たまには身体を休める意味でも彼女を送ってやれよ。俺たちはもう少し練習してから帰るから。」
「そうか?何かあってもだしな。弓、帰るぞ?」
麻王は更衣室に歩いて行く。
「は~い!」
碧は、
「愛枝が生徒会にいてよかったわ。」
「綺麗可愛いじゃね?」
周の言葉に芯は、
「何だ、それ?」
周は、
「家の妹は学校一だから妹より下だけど学年一のレベルじゃねって意味だよ。」
「それって妹の自慢じゃね?」
優也の言葉に周は、
「……真似すんな、原人優也。」
弓は代々木公園のベンチで座っていると麻王がコーヒーとサンドイッチの袋を持って来る。
クスクスと弓は、
「買い過ぎですよ~!」
弓の左横に座ると麻王は、
「コーヒー以外は全部、弓の分だから。」
「先輩、文通、楽しかったです!」
ストローでコーヒーを飲むと麻王は、
「そう言えば、コピーして送ってくれた東中三年の中間テストはよかったな。」
「はい、それもすべて先輩のお陰ですよ。」
「なら、よかったよ。食べろよ。」
スカート上にサンドイッチの紙袋を置いたままの弓は、
「……先輩、来年、白桜に転入します。もしその時先輩が誰かと付き合っていても…」
「いても?」
「あきらめません……お父さんは平凡な人だけど、麻王先輩ってお父さんにとても似てるんです。」
「……お付き合いってやつか…」
「今、ガキみたいって思いませんでした?」
「俺の個人的な考えだけど付き合っていることと諦める事に関係があるのかな?まだ高校生だろ。諦める事も大切だけど諦めるとその人を永遠に失う。でも諦めると新しい出逢いがある。」
麻王に寄り添うと弓は、
「……どういう意味です?」
「俺なら子どもを先に考えるな。」
「……子ども?」
「例えば、弓と俺の子が男の子ならどんな子か。どう、その才能を伸ばしてやろうととかな。」
「麻王先輩との子ども…きっとその子が小学生になってもふとした時に泣いちゃうなぁ…」
「奇跡だろ?そうすれば先ほどの”その人を諦められる”か”諦めきれない”かがよくわかると思わないか?」
弓はクスッと笑いながら
「……そんなのって論理的じゃないと思います。」
「そうか?」
「えっ…」
「その人が好きとその人との子が好きというのは大きいと思うけどな。」
「……お父さんは一方的にお母さんが好きで追いかけ続けた。その結果、私が生まれた…」
「弓のお母さんは弓のことが大好きだろ?」
「……はい…」
「弓のような活発で親思いの子ができた。それは素直に奇跡と受け取ればいいんじゃないか。」
「…麻王先輩…」
「白桜への編入に向けて応援しないといけないな。」
「もう十分成績は上がりましたよ…編入試験にはぜんぜんですが…」
「甲子園に行ったら新聞配達できないし、教えてやるよ。」
「辞めるんですか?」
「友人とプログラム会社を始めてな。入れ替わってくれるバイトが入ってくれたらそうするよ。」
「……本当に先輩って努力家ですね。五回戦の投球めっちゃカッコよかったですよ。」
腕時計を見ると麻王は、
「もう18時か…送るよ。」
弓は麻王の胸で泣き続ける
「……絶対に泣かないって決めて来たのに…麻王先輩と別れるのが悲しくて…」
「甲子園に行けたら一回戦は弓の為に全力投球するよ。」
「………えっ…ホントに…?」
「編入試験は甘くないぞ。」
「はい、頑張ります!」




